会社では無能、家では妹に「ダサい社畜」と見下される俺。実は世界を熱狂させる神配信者につき。

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第1章:道化たちの狂宴

第10話:パニックの会社。「佐藤、何とかしろ!」と俺にマイクを渡す社長(※それ、告発の合図ですが?)

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「おい佐藤! いるんだろ! 開けろ! 開けてくれェ!!」

VIPルームのドアが激しく叩かれ、鬼瓦部長の悲鳴のような声が聞こえてきた。 俺はゆっくりとマスカットを飲み込み、重い腰を上げた。

「……さて、行きますか」

俺はボイスチェンジャーを『オートモード自動応答』に切り替え、PCのエンターキーを押した。 これで、会場のスクリーンには『しばらくお待ちください』というテロップと共に、俺があらかじめ録音しておいた「煽り音声」がランダムで流れるはずだ。

俺がドアを開けると、そこには汗だくで顔面蒼白になった鬼瓦部長と田中先輩が立っていた。

「さ、佐藤ぉぉ! よかった、いた……!」 「お、おい! 早く来てくれ! 社長が待ってるんだ!」

二人は俺の両脇を抱え、まるで連行するように走り出した。 普段なら「触るな汚い」と罵倒してくるくせに、今は俺だけが頼みの綱だと言わんばかりの必死の形相だ。

「あの、僕、体調不良で欠席ってことになってるんじゃ……?」 「うるさい! 今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ! いいか佐藤、ゼウス様の機嫌を直すんだ! 土下座でも靴舐めでも何でもして、コラボを再開してもらえ!」 「もし失敗したら……わかってるな!? クビどころか損害賠償請求だぞ!」

まだ脅してくるか。 俺は心の中で冷笑しながら、抵抗せず会場へ向かった。

会場は地獄絵図だった。 怒号を飛ばす株主、詰め寄るメディア、そして立ち尽くす社長。

「あ! 来た! 佐藤を連れてきましたぞォォォッ!!」

鬼瓦が叫びながら、俺をステージ上に突き飛ばした。 よろめく俺に、無数のカメラのフラッシュが焚かれる。

バシャバシャバシャッ!

強烈な光が視界を埋め尽くす。 その光の向こうには、俺を見下す美咲や、呆然としている妹の莉奈、そして保身のために俺を犠牲にしようとする社長たちの醜い顔が見えた。

(……ククッ、壮観だな)

俺は内心でほくそ笑んだ。 これだ。俺はこの景色を見るために、わざわざ面倒な下準備をしてきたのだ。 安全圏から神として裁くだけでは物足りない。 「無能な佐藤」としてステージに上がり、そこから奴らを地獄へ突き落とす。その落差こそが最大の復讐だ。

俺はとっくに覚悟を決めている。 今日、このステージで「無能な佐藤」を殺し、世界を支配する「ゼウス」として生まれ変わる。 そのための舞台装置は、完璧に整った。

権田社長が俺にマイクを押し付け、耳元で怒鳴った。

「おい佐藤! 何とかしろ! ゼウス様に呼びかけろ! 『私が来ました、機嫌を直してください』と言え!」

俺はマイクを受け取り、深く息を吐いた。 そして、ゆっくりと顔を上げ、カメラのレンズを見据えた。 怯えた社畜の目は、もうそこにはない。 あるのは、獲物を追い詰めた狩人の目だ。

(……さあ、仕上げの時間だ)

「……あー、テステス」

俺の声が会場に響く。 同時に、背後の巨大スクリーンが明滅し、再びゼウスのアバターが映し出された。

『――ほう。やっと来たか』

会場がどよめく。 俺はマイクに向かってボソボソと喋り始めた。

「も、申し訳ありません、ゼウス様。担当の佐藤です」

『遅いぞ佐藤くん。……まあいい。君に免じて、話を再開しよう』

社長たちが「おおっ!」と歓声を上げ、胸を撫で下ろす。 単純な奴らだ。この音声は、俺が手元のスマホで操作している定型文だとも気づかずに。

『だが、私はもう、この会社の経営陣とは話したくない』

「えっ?」 社長の笑顔が凍りつく。

『代わりに、佐藤くん。君が進行しなさい。今日のパーティーの「真の目的」を、君の口から発表してくれ』

「は、はい。わかりました」

俺はマイクを持ち直し、今度ははっきりとした口調で言った。

「社長。ゼウス様より、あるデータを預かっております」 「デ、データ? 新商品のPR動画か何かか? よし、すぐに流せ!」

社長は安堵し、早くしろと手で合図を送った。 俺はステージ袖のPCに接続されたタブレットを操作した。

「それでは、ゼウス様とのコラボ企画……『GDソリューションズの知られざる実態』を発表します」

「ん? 実態?」

俺がタップした瞬間。 巨大スクリーンに映し出されたのは、新商品のCMなどではなかった。

『裏帳簿_2023.xls』 『架空請求書一覧』 『未払い残業代隠蔽マニュアル』

Excelの表や、生々しいメールのキャプチャ画像が、大画面に次々とスライドショー形式で投影されていく。

「な、なんだこれは……!?」 社長が目を剥く。

「これは、我が社の過去5年間にわたる粉飾決算の証拠データです。そしてこちらは、労働基準監督署の査察逃れのために作成された、偽造出勤簿の原本ですね」

俺は淡々と、まるでプレゼンのように解説を始めた。

「な、な、なにを……!?」 「やめろ! 消せ! おい佐藤! 何をしているんだ!」

鬼瓦部長が顔色を変えて飛びかかろうとするが、俺は冷たく言い放った。

「ゼウス様の指示です。邪魔をすれば、今度こそ回線を切断すると仰っていますが?」

その言葉に、鬼瓦がピタリと止まる。 その隙に、俺は次のスライドを表示させた。

「続いては、営業部の経費についてです。……鬼瓦部長、この『会議費』として落とされている領収書ですが」

スクリーンに映ったのは、銀座の高級クラブや、温泉旅館の領収書。 そして、その横には――

「これ、高橋美咲さんとの『プライベート旅行』の日付と完全に一致していますよね?」

ドンッ! 会場が凍りついた。 客席にいた美咲が「ひっ!」と悲鳴を上げ、顔を覆う。 鬼瓦部長はパクパクと口を開閉させ、金魚のようにアップアップしている。

「えー、コメント欄も盛り上がっていますね」

俺はスマホで配信画面を確認した。 現在の同時接続数は350万人。

『うわあ真っ黒www』 『これガチの内部告発じゃん』 『社長の顔色ヤバイwww』 『不倫旅行を経費で!? 終わってんな』

「さあ、社長、部長。……ゼウス様がお聞きです。『これについての釈明はあるか』と」

俺はマイクを突きつけた。 もはや怯えた下っ端の顔ではない。 計画通りに進行するショーを楽しむ、支配者の顔で彼らを見下ろした。
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