12 / 16
第12話:組織のガンは補給局にあり
しおりを挟む
アパートの前に積み上げられた、錆びたナイフのコンテナ。その横で、アルティナ様が今にも泣き出しそうな顔で立ち尽くしていた。
「……嘘。一億アビスの予算が、全部これなの? プロテインは賞味期限切れだし、ナイフは刃こぼれしてる……。これじゃ、みんなのご飯も買えないわ」
彼女の嘆きは正しい。本部から「支給」されたのは、名目上は一億アビス相当の物資だが、その実態は補給局が長年抱えていた、廃棄にすら金がかかる「不良在庫」の押し付けだ。
「イーッ! イイィィッ!(閣下、ご安心ください! 秘書……ではなく、戦闘員の私に考えがございますッ!)」
俺は過剰に揉み手をしながら、アルティナ様にだけ聞こえる低い声で付け加えた。
「(……アルティナ様。ゴミは、適切な場所に持っていけば『資源』になります。ドラクマがこれをゴミとして送りつけたのなら、俺たちはこれを『最新兵器の原材料』として売り飛ばして、現金化《ロンダリング》するまでです)」
俺は即座に、懐柔済みのモルク査察官に連絡を入れた。通信を繋ぐまでの数分、俺は本部から送られてきた「物資送り状」の不審な点を見抜いていた。品名は「最新鋭侵略兵器」となっているが、経理上の分類コードが「廃棄損」扱いに設定されている。
(……見つけたぜ。ドラクマ、あんた「廃棄費用」を本部から計上させておきながら、その実物は俺たちに押し付けて、浮いた『処分予算』を自分の懐に入れようとしてるな?)
秘書時代、天下り先の特殊法人でよく見かけた古典的な手口だ。俺は通信がつながるなり、地声で切り出した。
「(モルク様。ドラクマ局長が、第7支部に廃棄品を押し付け、『処分費用』の二重取りを画策している形跡を確認しました。これ、査察官のあんたが調査報告書として上げれば、あの強欲な局長も、今夜は枕を高くして寝られませんよね?)」
『……貴様。そんな瑣末な横領、査察部が動くほどのことではない』
「(ええ。ですが、俺が帳簿をいじって、これが『組織の根幹に関わる重大な備品紛失』にすり替わったらどうします? ドラマクが必死に揉み消そうとする、その『隠蔽工作費』……、俺が協力して、あんたと山分けにしましょうよ)」
俺は敢えて、モルクに具体的な「分け前」の誘惑を投げた。
「(局長から引き出す口止め料の、実に**『五割』**を、あんたの隠し口座に流し込む。……あんたにとっても、ドラクマの犬でいるより、俺と組んでドラクマを『金蔓』にする方が、よほど刺激的な生活が送れるはずだ)」
通信の向こうで、モルクが喉を鳴らす音が聞こえた。
『……三十分だ。三十分以内に、こちらで手続きできる『修正帳簿』を送りつけろ』
交渉成立だ。俺の推測通り、モルクもドラクマの下っ端扱いに不満を抱えていたのだろう。一度甘い汁を吸わせれば、こいつはもう俺の共犯者だ。
数時間後。俺は第7支部の三人の戦闘員を叩き起こした。
「イーッ! イイーッ!(先輩方! この一万本のナイフ、今すぐ地元の『産業廃棄物買取業者』へ運びますッ! ただし、表向きは『侵略用秘密基地の建設資材』としてログを残せ!)」
「イー、イイーッ!?(……おい、本当に大丈夫かよ、1024号)」
「(……カツ丼どころか、来週は焼肉を腹一杯食わせてやる。……嫌なら本部に、あんたたちが脱獄スマホで掲示板を見てた証拠を提出してもいいんだぜ?)」
俺の「飴と鞭」に、ゾンビのようだった戦闘員たちがキビキビと動き出す。
ゴミ同然のナイフは、俺の交渉術と町内会での「善良な業者」というコネクションにより、驚くべき高値の「鉄くず」として現金化された。さらに、ドラクマからは「不祥事の隠蔽工作費」という名目で、モルク経由でさらなる裏金が流れ込んでくる。
その日の晩。ボロアパートのテーブルには、安物のカップラーメンではなく、近所の肉屋で買った本物の霜降り肉が並んでいた。
「おいしい……。クロウ、あなた本当に魔法使いみたいね」
頬を緩めるアルティナ様を見ながら、俺はヘルメットの下で冷徹に計算機を叩く。
「(……アルティナ様。これは魔法ではなく、単なる『予算の適切な還流』ですよ。ドラクマがゴミを押し付けて俺たちを黙らせたつもりなら、その傲慢さを利用してやるまでです)」
ドラクマは「ゴミ」を押し付けて俺たちを黙らせたつもりだろうが、残念だったな。あんたが吐き出した「隠蔽費」が、そのまま俺たちの『軍資金』だ。
組織のガンである補給局。そこから少しずつ血を吸い上げ、第7支部をアビス内部の「独立採算特区」に作り替える。影の宰相としての快感に、俺は思わず「イーッ!」と、腹の底から満足げな叫びを上げた。
「……嘘。一億アビスの予算が、全部これなの? プロテインは賞味期限切れだし、ナイフは刃こぼれしてる……。これじゃ、みんなのご飯も買えないわ」
彼女の嘆きは正しい。本部から「支給」されたのは、名目上は一億アビス相当の物資だが、その実態は補給局が長年抱えていた、廃棄にすら金がかかる「不良在庫」の押し付けだ。
「イーッ! イイィィッ!(閣下、ご安心ください! 秘書……ではなく、戦闘員の私に考えがございますッ!)」
俺は過剰に揉み手をしながら、アルティナ様にだけ聞こえる低い声で付け加えた。
「(……アルティナ様。ゴミは、適切な場所に持っていけば『資源』になります。ドラクマがこれをゴミとして送りつけたのなら、俺たちはこれを『最新兵器の原材料』として売り飛ばして、現金化《ロンダリング》するまでです)」
俺は即座に、懐柔済みのモルク査察官に連絡を入れた。通信を繋ぐまでの数分、俺は本部から送られてきた「物資送り状」の不審な点を見抜いていた。品名は「最新鋭侵略兵器」となっているが、経理上の分類コードが「廃棄損」扱いに設定されている。
(……見つけたぜ。ドラクマ、あんた「廃棄費用」を本部から計上させておきながら、その実物は俺たちに押し付けて、浮いた『処分予算』を自分の懐に入れようとしてるな?)
秘書時代、天下り先の特殊法人でよく見かけた古典的な手口だ。俺は通信がつながるなり、地声で切り出した。
「(モルク様。ドラクマ局長が、第7支部に廃棄品を押し付け、『処分費用』の二重取りを画策している形跡を確認しました。これ、査察官のあんたが調査報告書として上げれば、あの強欲な局長も、今夜は枕を高くして寝られませんよね?)」
『……貴様。そんな瑣末な横領、査察部が動くほどのことではない』
「(ええ。ですが、俺が帳簿をいじって、これが『組織の根幹に関わる重大な備品紛失』にすり替わったらどうします? ドラマクが必死に揉み消そうとする、その『隠蔽工作費』……、俺が協力して、あんたと山分けにしましょうよ)」
俺は敢えて、モルクに具体的な「分け前」の誘惑を投げた。
「(局長から引き出す口止め料の、実に**『五割』**を、あんたの隠し口座に流し込む。……あんたにとっても、ドラクマの犬でいるより、俺と組んでドラクマを『金蔓』にする方が、よほど刺激的な生活が送れるはずだ)」
通信の向こうで、モルクが喉を鳴らす音が聞こえた。
『……三十分だ。三十分以内に、こちらで手続きできる『修正帳簿』を送りつけろ』
交渉成立だ。俺の推測通り、モルクもドラクマの下っ端扱いに不満を抱えていたのだろう。一度甘い汁を吸わせれば、こいつはもう俺の共犯者だ。
数時間後。俺は第7支部の三人の戦闘員を叩き起こした。
「イーッ! イイーッ!(先輩方! この一万本のナイフ、今すぐ地元の『産業廃棄物買取業者』へ運びますッ! ただし、表向きは『侵略用秘密基地の建設資材』としてログを残せ!)」
「イー、イイーッ!?(……おい、本当に大丈夫かよ、1024号)」
「(……カツ丼どころか、来週は焼肉を腹一杯食わせてやる。……嫌なら本部に、あんたたちが脱獄スマホで掲示板を見てた証拠を提出してもいいんだぜ?)」
俺の「飴と鞭」に、ゾンビのようだった戦闘員たちがキビキビと動き出す。
ゴミ同然のナイフは、俺の交渉術と町内会での「善良な業者」というコネクションにより、驚くべき高値の「鉄くず」として現金化された。さらに、ドラクマからは「不祥事の隠蔽工作費」という名目で、モルク経由でさらなる裏金が流れ込んでくる。
その日の晩。ボロアパートのテーブルには、安物のカップラーメンではなく、近所の肉屋で買った本物の霜降り肉が並んでいた。
「おいしい……。クロウ、あなた本当に魔法使いみたいね」
頬を緩めるアルティナ様を見ながら、俺はヘルメットの下で冷徹に計算機を叩く。
「(……アルティナ様。これは魔法ではなく、単なる『予算の適切な還流』ですよ。ドラクマがゴミを押し付けて俺たちを黙らせたつもりなら、その傲慢さを利用してやるまでです)」
ドラクマは「ゴミ」を押し付けて俺たちを黙らせたつもりだろうが、残念だったな。あんたが吐き出した「隠蔽費」が、そのまま俺たちの『軍資金』だ。
組織のガンである補給局。そこから少しずつ血を吸い上げ、第7支部をアビス内部の「独立採算特区」に作り替える。影の宰相としての快感に、俺は思わず「イーッ!」と、腹の底から満足げな叫びを上げた。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる