水の廻廊

詩悠

文字の大きさ
2 / 10

2

しおりを挟む

「美結ちゃん!」

 到着ゲートを潜ると、ロビーで祖母が手を振っている。隣にはいつもにこにこしている祖父がいる。今日も祖父はにこにこしているし、祖母も笑顔だ。祖父母と言っても、2人ともまだ60代、祖母はまだ、年金も貰う前だから、テレビや絵本に出てくるようなおじいちゃん、おばあちゃん像からはほど遠い。祖父は白髪が増えて、髪が薄くなり、頭皮が見えているけれど、祖母は黒々とした量の多い髪を綺麗にセットしている。

「車ば取りに行くけん、待っとかんね ね。」

 空港のビルを出た所で、祖母がそう言い、祖父が駐車場に車を取りに行く。祖母と二人、空港のロータリーで祖父の運転する車を待つ。
 外は凄く暑くて、とても眩しい。同じ日本のはずなのに、空の青さが違う気がする。別の国に迷い込んでしまったかのよう。いつも見ている空の色と違う、鮮やかな青い空と輝くような白い雲、それに周りで聞こえてくる方言でそんな気分になるのかも知れなかった。

 祖父母の家は空港から車で1時間とちょっとの所にある。国道から脇道に入り、50mほど登った場所に家はあるが、周りをぐるっと小さな山に囲まれて、山と畑以外は見えないような場所。家の周りの山は全て祖父名義の山で、その内の一座を水源として水も湧き出ている。小さな湧泉の隣には小さな溜池があり、それが国道の脇を流れる2級河川へと流れ込んでいる。溜池にはたまに川から魚も登ってくるらしい。
 敷地内には以前は棚田が5枚あったが、今はすべて畑になり、さらにその上の土地が自宅、倉庫、庭になり、山に続いている。畑には時期の野菜が自家用に栽培され、敷地内のあちこちに果樹が植えてある。
 母の小さな頃の好きな果物はバナナとりんごだったらしい。それらは買わないと食べられないからという理由で、他の果物は大抵、家の敷地内にあったし、マスクメロンやスイカは販売用に栽培していたから、おやつに一人、ひと玉づつあり、見飽きていたと言う。苺やみかんは親戚や知り合いが栽培しており、お裾分けで頂く事も多く、珍しい物ではなかったそう。
「みかんとかスイカとかメロンとか、果物って、あんまり買う気がしないわよね。貰って食べる物って感じよね。」
 と母は言うが、そんなのは農家の人たちだけだと思う。

 祖父母宅につき、仏壇に挨拶をすませて、畳の居間にごろんと転がる。家だと母に
「居間は寝転がる場所じゃない!」
 と足蹴にされるところだが、ここは祖父母宅。母もいない。
 
 祖母が

「遠くから、大変やったね。アイスのあるよ。食べるね。」

と、声をかけてくれる。

「食べる!」

 寝転がったまま返事をすると、祖母がアイスを出してくれる。両親も優しいが、祖父母はひたすら甘いと思う。
 アイスバーを咥えたまま、DVDプレーヤーを操作し、テレビをつける。つけてから

「映画観ていい?」

と、尋ねる。ダメと言われることもなく、言われるとも思っていないが、DVDをさっさと再生する。

「好きだね、そのアニメ。もう覚えたやろう。」
「んー、覚えるほど観たけど、飽きはしないかなぁ。」
「そがんね。」
「そがんです。」

 ちょっとおかしな方言で返事を返し、祖父母とアイスを食べながら、お気に入りのアニメを再生する。
 このアニメのDVDは自宅にも、祖父母宅にもいつ来ても観れるように置いてある。父方の祖父母宅に行く時にはDVDを持って行っている。
 何度も観てるから、セリフやサントラを聞いただけで、そのシーンが浮かぶほど覚えている。
 特に好きなシーンは城上部の庭園にある池を覗き込んだ時に見える街並み。水の中に見える街に凄く惹かれる。あのシーンを観たいがために何度も観てるようなもの。
 後はヒロインの

「民が一人も居ないのに、王だけ居るなんて滑稽だわ」

 と言うセリフ。
 何故だか凄く切なくなる。切なくなるようなシーンじゃないはずだけど、私はこのセリフでなんだか悲しくなってしまうんだ。

 短い一人旅を終え、お気に入りのアニメを観ながら明日から何をしようかなと考えていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...