虹瞳〜落ちているモノを拾って食べてはいけません〜

詩悠

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1 . 襲撃と討伐

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「ねぇ、類君。避難所まで戻ったほうがよくない?」

 青木類は不安気な幼なじみに服の裾を引っ張られた。

「大丈夫だって! 小河内公民館からニkmは離れてるし、ここだって避難所のひとつだろ!」

「でも……。」

 いつでも言いたいことの半分も言えなさそうな幼なじみはオレの返事に不満げだが、いつも通り、対して反論もせずにモジモジしている。

「不安なら、一人で先に戻っててもいいぞ?」

「ひとりはちょっと……類君がここにいるなら、一緒にいるよ。」

「ふぅん。」

 オレは乱暴だとか、自己中だとか言われたりするが、この内気すぎる幼なじみに無理強いしたことはない。つもりだ。いつだって、朝陽がオレについてくる。一緒にいたら、巻き添えで怒られたことだってあるのに、もの好きなこの幼なじみはオレの後をついてまわりたがる。だから、ついカッとなりやすいオレだが、この幼なじみには優しくしようと努力してるんだ。今だって、なるべく乱暴に聞こえないように優しく返したつもりだ。


 オレたちは生涯学習交流館と名付けられた公共の建物……まぁ、図書館と公民館が一緒になったやつだな……に来ていた。
 せっかく、背負子で大量のスプレー缶を運んだのに、運んで、ダンボールを開けただけで早々に帰された。
 危ないからということらしいが、じゃぁ、残ったやつらは危なくないのかって話で、年寄りより、若い自分たちの方が足も早いし、最後までいても逃げれるんじゃないかって思う。
 でも、あの場はなんか無言の圧力がすごくて反論なんか許さない!って、雰囲気で、言われた通り帰ってきたけど、そんな自分が嫌で中途半端なとこで留まってる。
 ここは小河内地区の隣りの自治区の公民館で、鬼の襲撃があった所から二・三kmしか離れていないから、ここに昨日から避難してる人は誰もいない。直線距離ならもっと近いだろうしな。
 川が蛇行している地域だから、小河内公民館は直接見えないし、山も川に沿って出っ張ってる。
 だから、いくら鬼がいるほうを気にして見てても、今回の作戦が上手くいったかどうかなんてここから見えはしない。
 それでも、最初の避難所までおめおめと戻るのはしゃくだから、ここで見届けてやるんだ。オレだって、今回の作戦に自分から参加したんだから。


 ドン!!!!


 まるで飛行機でも堕ちたのかと思うようなスゴい音が響いてきた。山々に反響して爆発した音がいつまでも響いている。
 思わず、爆発した場所は知っているのに、反響する音にキョロキョロとまわりを見てしまった。すっごいドキドキした。
 オレがきょどっている間に朝陽が何かを拾いあげ眺めている。

「なんだソレ? ガラスの破片? ダイヤ?」

 朝陽の横から覗きこむと握りしめて隠された。

「なんだよ。取らないって!」

 オレはジャイアンじゃない。
 隠されたことにムッとして、オレは朝陽が拾いあげたモノには興味がない、というポーズに、朝陽より数歩前に出て、小河内公民館のほうを見ていた。
 朝陽はソレがよっぽど気に入ったようで、うっとりといつまでも眺めている。
 オレから見れば、確かにいろんな色が石の中に見えて面白かったけど、なんだか禍々まがまがしく感じる石だ。
 隠されて拗ねてるわけじゃない。



 しばらくすると、黒い煙が立ち始め、その後、公民館の方角が赤くなっていくのがみえた。
 火が出たのだ。
 同じ場所に留まっていた、樹や愛叶それに森山も山が影になる場所ギリギリまで出て、公民館のほうを注視している。
 
 そう間をおかずに、翔が新田を自転車の後ろに乗せて樹たちのところまで戻ってきた。

「新田さんを降ろしてくれ。」

 樹たちの側に来るなり、翔が慌てて言う。

「新田さんケガされたんですか⁉︎」

「大したケガじゃないと思うんだけどねぇ。なんか飛んできたみたいで……刺さっちゃったのよ。」

 森山が急いで自転車の後部にまわると、新田の背中にはガラスの破片が刺さり、血が流れていた。
 急いで、生涯学習交流館に入り、新田のケガの応急処置をする。処置は実業団にいたこともあった翔が手慣れたもので破片の除去に消毒、ガーゼで保護と次々と進めていく。

「浅いのばかりで幸いでした。」

 処置をしながら、翔がそう新田に声をかける。

「ホントだね。 この程度ですんだのは、翔が建物の影になるように走ってくれたおかげだね。」

「いえ、避難が間に合わずに申し訳ありません。」

「いやいや、充分だよ。その筋肉は見掛け倒しじゃなかったって実感できたよ。」

 恐縮する翔に新田はうつ伏せに寝たまま返す。森山はじめ樹たちは浅いとはいえ、自分たちのしようとしていた結果の一部を見せつけられて言葉を失っていた。
 新田と翔はヘルメットをしていたが、あの場にヘルメットは二つしかなく、だからこそ、森山以下の五人はダンボールを運んだ後、早々に帰されたのだと、やっと気づいたのだ。


 新田の手当てが一段落した頃、急に空が暗くなり、激しい雨が降りだした。それはゲリラ豪雨と呼んでもいいほどの激しさだった。

 破れた服を脱ぎ、タオルを肩にかけただけの新田が窓辺により、空から打ちつけられた雨が激しさのあまり、地面から跳ね返り、白く煙っているのを眺めながら

「これで火が他に燃え移るのを防げるといいんだけど……」
 
 と、つぶやく。

「延焼のことまで考えてませんでしたね。考えが足りませんでした。」

 翔がそれに応える。

「この雨で火は消えるだろ。」

 愛叶は楽観的だ。

「まぁ、消えるだろうけど。 林さんや畑中さんたちがスプレー缶を使うのは一回だけ!みたいな雰囲気だったのは延焼の可能性を分かってたからだろうな。」

 森山も自分の考えの足りなさに気づいた。

「鬼は討てたんですか?」

「あれだけの爆発だ。確認しないとだが、大丈夫だろう。」
 
「畑中さんは……?」

「確認しないと、なんとも言えない。」

 誰もが想像できること、想像したくないことを翔は言葉を濁すことで、場の雰囲気ごとごまかす。誰もがそれを分かっていて、自分たちも進んでごまかされる。
 鬼の討伐は成功したとしても、後味の悪さがそれぞれの中に沈み込んだ。



 一時間ほど続いたゲリラ豪雨があがった後、怪我をした新田に最年少の類と朝陽を付き添わせて、避難所にしている消防団の詰所まで戻し、残りの者たちで、小河内公民館まで戻った。
 公民館は跡形もなく、焼けており、そこに鬼も畑中の服も何も確認することはできなかった。そこに鬼や人がいた形跡は何も残ってはいなかった。

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