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そして、口を開く。
「だって、私は魔王の妻になるんだもの」
そう言われてしまっては何も言えなかった。
だが、このまま別れるのは嫌だったので、せめて連絡先だけでも教えてもらおうとしたのだが、それも断られてしまった。
結局、俺は何もできないまま、その場を後にするしかなかった。
魔王城に戻ると、俺は早速ニーナについて調べる事にした。
そして、その結果、ある事実が発覚したのである。
まず、ニーナの正体は人間ではなく魔族であること。
そして、魔王の娘であることが判明した。
更に調べてみると、魔王との子供を産んだ後、育児放棄されていたようだ。
ニーナは生まれてから数年間、ずっと放置されており、物心ついた時には既に一人ぼっちだった。
それでも何とか生き延びていたが、ある時、人間に見つかってしまい攫われてしまった。
「魔王リュート様」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはアリアが立っていた。
その姿を見て思わずドキッとする。
(うわ……可愛いなぁ……)
思わず見惚れていると、彼女が不思議そうに見つめてくる。
その視線に気付いて慌てて平静を装うと、用件を尋ねた。
「どうした?」
すると、彼女は少し恥ずかしそうにしながら答えてくれた。
「実はお願いがありまして……」
「彼女の事なら俺の所の話じゃないぞ」
そう言うと彼女は驚きつつも嬉しそうにしていた。
俺は彼女に質問してみることにする。
まずは何を目的にしているのか聞いてみることにした。
意外な答えが返ってきた。
何でも俺に弟子入りしたいのだという。
俺には人に教えるような技術など無いため丁重にお断りした。
だが、なかなか引き下がろうとしない。
それどころか強引に迫ってきたのだ。
仕方なく了承することにしたのだが、正直不安しかない。
(大丈夫かな……)
とりあえず魔法の基礎を教えてみることにしてみた。
最初は全く理解していなかったようだが、根気よく教えていくうちに少しずつだが覚えてきたようだった。
(これなら何とかなりそうだな)
そう思った矢先の事だった。
突然目眩に襲われたかと思うと、次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。
(どこだここ?)
辺りを見回すと一面真っ白で何もない空間が広がっているようだった。
戸惑っていると背後から声をかけられた。
振り向くとそこには見覚えのある人物が立っていた。
その人物とは他でもないニーナ本人であった。
彼女は微笑みながら話しかけてくる。
「ようこそおいで下さいました、魔王様」
突然の事に驚いていると彼女は言った。
「驚かせてしまって申し訳ありません、ですが貴方様をお呼びしたのは私です」
そこまで言うと深々と頭を下げた。
(一体何なんだ?)
状況が理解できないまま立ち尽くしていると、不意に声を掛けられる。
そちらに目を向けると、いつの間にかもう一人女性が立っているのが目に入った。
その女性は美しい顔立ちをしており、どことなく雰囲気が似ている気がしたので聞いてみたところ、やはり母親だということが分かった。
(何でこんな所にいるんだ?)
疑問に思っていると母親が話しかけてきた。
その内容を聞いて納得する。
どうやら娘の様子が気になったらしく様子を見に来たついでに俺の事も気になって来たらしい。
(ふーん……)
特に興味もなかったので適当に聞き流していたら急に腕を掴まれて引っ張られてしまう。
慌てて振り解こうとするがびくともしない。
(嘘だろ……!?)
必死で抵抗するが無駄に終わった。
そのまま連行されて連れて行かれたのは寝室だった。
ベッドの上に放り投げられる。
起き上がろうとしたがその前に覆い被さってきた母親に押さえつけられてしまう。
抵抗しようとしたが力が強くて押し返せない。
そんな俺の様子を楽しむかのように見つめていた母親はニヤリと笑うと耳元で囁いた。
その瞬間、全身に電流が流れたような感覚に襲われ、ビクンッと体が跳ねる。
その様子を楽しそうに眺めていた彼女はさらに追い打ちをかけるように囁きかけてきた。
その声に反応するように全身が熱くなっていく。
やがて耐えきれなくなった俺はついに限界を迎えて意識を失ってしまったのだった。
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。
(夢だったのか……)
ホッと胸を撫で下ろす。
(それにしてもリアルな夢だったな……)
そんな事を考えていると、ふと違和感を覚えた。
(あれ? そういえばどうやって帰ってきたんだっけ?)
必死に思い出そうとしていると、部屋の扉が開いてアリアが入ってきた。
彼女は心配そうにこちらを見つめてくる。
俺は安心させる為に笑顔を見せると、彼女も安心したのか微笑んでくれた。
それを見て嬉しくなる。
(やっぱり彼女には笑顔が似合うよな)
そんなことを考えていると、ふいに話しかけられた。
「どうかしましたか?」
その言葉に我に返る。
どうやら考え事をしているうちにぼーっとしてしまっていたらしい。
慌てて取り繕うとすると、何故か笑われてしまった。
どうやら変な顔をしていたようだ。
恥ずかしくなって俯いていると、優しく頭を撫でられてしまう。
顔を上げると目が合った。
お互いに微笑み合う。
幸せな時間だと思った。
(ずっとこうしていたいなぁ……)
そう思いつつ目を閉じると、そのまま眠りに落ちていったのだった。
翌朝目を覚ますと隣にアリアがいた。
(そうだ、昨日泊まったんだったな)
寝ぼけたままボーっとしていると、彼女が目を覚ました。
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