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(俺は何をしていたんだ? 確か……)
そう思いながら記憶を辿っていくとある事実に気づいてしまったのである。
それは自分が今全裸であること、さらに隣で眠っている少女もまた一糸まとわぬ姿でいるという事実であった。
つまりこの状況を見れば何があったかなど一目瞭然であろうと思われた。
その事実を理解した途端一気に体温が上がるのを感じた。
心臓の音がバクバクと音を立てているのが聞こえるくらい緊張していたが
何とか平静を装って声をかける事にした。
恐る恐る手を伸ばすとその肩に触れる寸前で手を止めると深呼吸をしてから改めて声をかけた。
すると少女はゆっくりと目を開けるとこちらを向いて微笑んだ後こう言った。
「おはようございます!」
と元気よく挨拶されて一瞬戸惑ってしまったもののどうにか挨拶を返すことができた。
それからしばらくの間他愛もない話をしていたのだが、
ふとある疑問が浮かんだので聞いてみることにした。
「ところで、君はどこから来たんだい?」
そう尋ねると、彼女は不思議そうな顔をして首を傾げたあとこう答えた。
「どこって言われても……わからないです」
と答えたきり黙り込んでしまったのを見てどうしたものかと考え込んでいると、
突然彼女が立ち上がって叫んだ。
「あっ、思い出した!!」
そう言うなり走り出そうとしたので慌てて呼び止めると、
彼女はハッとした様子で立ち止まった後で恥ずかしそうに俯いた後で小さな声で呟いた。
「ごめんなさい、私ったらつい興奮してしまって……」
そう言いながら顔を赤らめている姿がとても可愛らしく思えた俺は自然と笑みがこぼれていた。
それを見て彼女もまた笑顔を見せてくれる。
そんな彼女を見ていると心が安らいでいくような気がしたため、思い切って話しかけてみることにした。
しかし、何を話せばいいのかわからず困っていると、彼女の方から話しかけてくれた。
「あの、もしよかったら一緒にお話ししませんか?」
その言葉に頷くと、俺達は並んで歩き出した。
最初は緊張してうまく話せなかったが、次第に慣れてきたのか普通に話せるようになっていった。
そうして歩いているうちにいつの間にか目的地に到着していたようで、目の前には大きな屋敷が見えた。
ここが今日から住むことになる家なのだと思うと感慨深いものがあったが、
いつまでも眺めているわけにもいかないので中に入ることにした。
「うわぁ……」
中に入った瞬間、感嘆の声が漏れる。外観も立派だったが、中も想像以上に広く綺麗だった。
まるで貴族にでもなったような気分だった。
「すごいですね」
俺が呟くように言うと、隣にいたアリアが頷いた後に言った。
「そうですね」
そんなやり取りをしている内に玄関まで辿り着いたのだが、ここで一つ問題が発生した。
それはどうやって入ればいいのか分からないという事である。
まさか正面から堂々と入るわけにはいかないだろうし、かといって裏口があるわけでもないだろうと考えた結果、
結局正面突破することに決めたのだった。
というわけで早速行動に移すことにする。
まず最初に目についたドアを開けてみることにする。
そこは食堂のような場所になっていて沢山のテーブルが置かれていたことから恐らくリビングルームのようなものだろうと推測できた。
次に隣のドアを開けてみると寝室のようだったのでスルーして次のドアに手をかけようとしたところで
後ろから声をかけられたので振り返るとそこにはメイド服を着た女性が立っていた。
年齢は20代前半といったところだろうか?
「何か御用でしょうか? お客様」
女性は丁寧な口調で話しかけてくる。どうやらこの家で働いている人のようだ。
(なるほど、この人は使用人という設定なのか)
心の中で納得しながら質問に答えることにする。
「いえ、実は道に迷ってしまって困ってるんです」
そう言うと、彼女はニッコリと笑って答える。
「あら、そうだったんですね。それではご案内いたします」
彼女はそう言うと歩き出そうとするが、すぐに立ち止まると振り返り、もう一度俺に声をかけてきた。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はティナと申します。以後お見知りおきを」
そう言うと丁寧にお辞儀をするのだった。
それに合わせて俺も名乗ることにする。
「俺はリュートと言います、よろしくお願いします」
お互いに挨拶をすると、そのまま部屋を出て行くことにしたのだった。
そしてしばらく歩いた後で別の部屋に入るとそこにあったのは見覚えのあるものだった。
というのもこの部屋は以前訪れたことのある彼女の部屋だったからだ。
そこで待っていた人物を見て思わず驚いてしまう。
そこにいたのはなんとルミナスさんだったのだ。
彼女は笑顔で迎え入れてくれたのでお礼を言ってから椅子に腰掛けることにする。
だが、座った瞬間に違和感を覚えて周囲を見回してみると、そこにアリアの姿がないことに気が付いた。
おかしいと思って立ち上がろうとするが、何故か身体が動かないことに気付くと同時に視界が暗くなっていったのだった。
薄れゆく意識の中で最後に見た光景は微笑みながら手を振っている彼女達の姿だった。
「おやすみなさいませ」
という言葉を最後に俺の意識は闇へと落ちていった。
その直前で俺は思ったのだ。
「ああ、これは夢なんだ。だってこんなこと現実にあるはずがないんだから」
しかし、次の瞬間には目の前が真っ暗になり何も考えられなくなった。
そして、意識が完全に途切れる前に聞こえてきた言葉は誰の声だったのか俺には分からなかった。
あれからどれだけの時間が経過したのだろう?
いや、もしかしたら数分しか経っていないのかもしれない。
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