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「ふぅ~疲れたぜ~」
と言いながら地面に寝転がるアベルの姿に苦笑しながら、食事の準備を始めるためにテントから少し離れた場所に移動すると、
そこではアリアとルナフが何やら話し合っているようだった。何を話しているのか気になったので耳を傾けてみると……
どうやら料理当番を決める際の話をしているらしかった。
「えっと、今日のご飯は何にしようかな?」
そう呟きながら考えている様子のアリアに対し、ルナフは少し悩んだ後こう切り出した。
「じゃあ、私が作るから、待ってて」
そう言って立ち上がりかけた彼女に対して、アリアは慌てて止めに入ったんだ。
「えっ!? いいよ、私やるから!」
と言って引き止めようとするが、それを振り切って立ち上がった彼女はキッチンへと向かったようだ。
そんな様子を眺めながらどうしたものかと考えていると不意に声をかけられたので振り向くとそこにはもう一人の仲間が立っていた。
その相手は言うまでもなくアベルだったのだが、彼の表情からは疲労の色が見て取れたため声をかけるのを躊躇ってしまったんだ。
すると彼はそのまま俺の隣に腰を下ろすと深いため息をついて言ったんだ。
それを聞いた俺は一瞬戸惑ったもののすぐに返事をすることができたんだ。
それから少しの間他愛もない話をしていたのだが、やがて会話が途切れてしまい気まずい雰囲気になってしまったので
話題を変えようとしたところでふと思い出したことがあったので聞いてみることにしたんだ。
実はここに来るまでに何度か戦闘を行ったんだけど、その際に敵の動きがやたらと速いように感じたんだよね。
そのことを二人に伝えると意外な答えが返ってきたんだ。
どうやら二人が相手取る敵の速さはそれほどでもないらしいんだが、それでも十分に脅威となり得るレベルだと言っていたんだ。
それを聞いて納得したところで一旦休憩を挟むことになった。
その後はしばらく休んだ後で再び移動を開始したんだが、今度は先ほどと違って順調に進むことができたんだ。
その理由はと言うと……
(どうしてこうなったんだろう……?)
という疑問が俺の脳内を埋め尽くしていたからだ。
というのも今現在進行形で俺に抱きつきながら眠っている少女がいたからである。
しかもそれはどう見ても美少女にしか見えなかったことから驚きを禁じ得なかったのだが、
それ以上に動揺していたこともあり何もできずにいると不意に声が聞こえてきたのでそちらの方を向くとそこには見覚えのある顔があったんだが、
その瞬間に全てを思い出したんだ。
それと同時に冷や汗が流れ出てくるのを感じた。
なぜなら目の前にいる人物こそが自分をこの世界に召喚した張本人であり、同時に俺を魔族領に送り込むきっかけを作った張本人でもあるからだ。
そんなことを考えている間に彼女が目を覚ましてしまったらしくこちらを見て微笑んできたのを見てドキッとしたね。
何せ目の前に現れた少女の顔がとても可愛かったからなんだよな……まぁそれはさておき話を戻すとしよう。
とりあえず自己紹介をすることになったんだが、名前を聞かれた時に一瞬戸惑ってしまったせいで怪しまれてしまったようなんだが幸いにも
それ以上の追及はなかったことでホッと胸を撫で下ろしたんだ。
「ふーん、そうなんだぁ……」
と呟いた彼女の視線が俺の顔ではなく胸に向いていることに気付いた俺は慌てて隠すような仕草をしたのだが遅かったようだ。
それを見た彼女の顔がニヤけていることに気づいた時には手遅れだった。
それからしばらくの間からかわれ続けた結果、すっかり疲れ切ってしまった俺はこれ以上付き合ってられないと思いその場を離れることにしたんだが、
その時になってふとあることを思い出したので聞いてみたところ予想外の答えが返ってきたことで驚いたな。
というのも彼女の正体について聞いた時の事なんだが、まさかあの有名な魔王様だとは思わなかったからさ。
だけど今はそれよりも重要なことがあることを思い出していたこともあってスルーすることにしたんだよ。
というわけで、早速本題に入ることにした俺は彼女に相談を持ちかけることにしたんだ。
「ちょっと相談があるんですけどいいですか?」
と尋ねると不思議そうな顔をされたんだが構わず話を続けることにしたんだ。
その内容というのは俺がこれからどうすべきかについてなんだけれど、
まず第一にやらなければならないことは戦力を整えることだと思っているんだ。
その為にはどうすればいいのかという話になった時のことだった。
そこで俺は思い切って彼女に相談してみることにしたんだ。
俺の悩みを聞いた彼女はしばらく考え込んでいたようだが、やがて何かを思いついたらしく顔を上げるとこんなことを言ってきたんだ。
「御父様がクロード様なのですか?」
「そうだよ」
「大魔王、クロードのご子息?」
「うん」
「なるほど……それなら納得できます」
俺はルナフの説明を聞いて納得したんだ。
確かに言われてみればその通りかもしれないと思ったからだ。
「お父様に会いたいです」
そう言うなり抱きついてくる彼女を受け止めつつ頭を撫でていると次第に落ち着きを取り戻していったようで大人しくなったのでホッとしたよ。
しばらくして落ち着いた頃合いを見計らって改めて話を聞くことにしたんだ。
その結果わかったことは大きく分けて三つあった。
一つ目は彼女の名前についてだが、ルナフというのが本名のようだ。
二つ目は家族構成についてなのだが、これは父親である魔王の他に兄弟姉妹はいないということであった。
ただし、彼女には腹違いの妹がいることが分かったんだ。
名前はリザリィと言い、現在16歳なのだそうだ。
ちなみに外見年齢は10代前半くらいに見えるんだが実際はもう少し上らしいぞ?
最後に三つ目なんだが……それは俺が人間であることを伝えると驚かれてしまったということだ。
「魔王様の子なのですよね」
「俺は大魔王クロードと聖女との間に生まれた子でハーフなんだよ」
その言葉に目を丸くするルナフだったが、しばらくすると納得がいったような表情をしていた。
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