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210.

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「お前が魔王だったとは、見損なったぞ! まさか私の娘がお前のような卑劣な奴の手に落ちることになるとは思いもしなかったわ!」
と叫ぶや否や、腰に携えていた剣を抜き放つと問答無用とばかりに斬りかかってきたのだが咄嗟に躱すことには成功したものの、
そのせいでバランスを崩してしまい尻餅をつく格好になってしまったせいで身動きが取れなくなってしまったんだ。
それでもどうにか立ち上がろうとしたところで再び襲いかかろうとしてきたので身構えようとしたその時だった、
不意に誰かが割り込んできたかと思えば目にも止まらぬ速さで蹴り飛ばしてしまったものだから驚いてしまったよ。
その直後に聞こえてきた声で誰なのか分かったんだけどね。
その人物というのは言うまでもなくアリアだったわけだが、彼女は俺の方を振り返るとニッコリと笑ってみせた後でこう言ったんだ。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
心配そうに顔を覗き込んでくる彼女の姿を見た瞬間にドキッとしたね。
それと同時に胸が高鳴るのを感じたんだ。
(うわ~可愛いなぁ♡)
などと心の中で叫びながら見惚れていると突然声をかけられた事で我に返ったところで顔を上げるとそこにはルナフの姿があったんだ。
どうやら助けてくれたのは彼女だったようだなと思いつつ礼を言うことにしたんだ。
それから暫くの間三人で話をしていたんだが、ふとあることを思い出したので二人に尋ねることにしたんだ。
それは、ここに来る前にルナフが言っていたことだ。
そういえば何か言いかけていたことがあったと思うんだけど何だったっけ?
そのことを思い出せずにいると、それを察したのか彼女が口を開いたんだ。
「そう言えばまだ伝えてなかったよね」
そう言いながら一枚の紙を差し出してきた。
受け取って見てみるとそこには文字が書かれていたんだが、その内容を見て思わず目を見開いてしまったよ。
なぜならそこに書かれていた内容が信じられないようなものだったからだ。
というのもその内容というのが……
『勇者としての役目を放棄し、魔族の娘を庇った罪であなたを除名処分とする』
というものだったからだ。
あまりにも衝撃的すぎて頭が真っ白になってしまったのだが、そんな中でも一つだけ理解できたことがあるとすれば自分はもうここには
いられないということだ。
そう悟った瞬間、自然と涙が溢れてきた。
それを見た二人は慌てふためいていたが、それでも構わず泣き続けたことでやがて落ち着きを取り戻すことができたので、
改めて自分の置かれている状況について考えてみることにしたんだ。
「まず一つ目だが、ここは間違いなく魔界だと考えられるだろう」
と結論付けた上で次の議題に移ることにしたんだ。
二つ目はこれからどうするかということである。
選択肢としては三つあるのだが、まずはこの中から選ぶことにすることにしようと思っている。
一つ目の案はこのまま帰るというものだが、これには問題があると考えた為却下することにした。
二つめの案については論外だと思っている。
何故ならその場合二度とルナフに会うことが出来なくなる可能性が高いからだ。
そうなると必然的に三つめしか残っていないということになるんだが、それを選ぶことに躊躇いを感じている自分がいることもまた事実であった。
何しろ今までずっと頼りにしていた存在を失うということを意味しているのだから無理もない話であろうと思う。
俺は心の内で戸惑いながらも、慎重に考える時間を取ることにした。
俺が勇者としての役目を放棄し、除名処分とされた理由を思い返すと、
魔族の娘を庇ったことが原因だった。
魔族の娘を守る行為が罪とされ、それによって俺が追放されることになったのだ。
しかし、俺自身が勇者であることを自覚し、正義感に溢れる行動をしてきた。
それが裏目に出てしまったとしても、俺の信念を曲げることはできなかった。
考え込んだ末、俺にとって最善の選択を見つけるために、ルナフとの意見交換が必要だと感じた。
彼女は俺を助け、ここまで連れてきてくれた存在だ。
彼女の助力がなければ、今の俺はこの魔界で孤独に立ち向かうことになっていただろう。
「ルナフ、この状況について考えてみたけど、俺はあなたの力を頼りにしてきたし、それが今回の問題につながった。だから、一緒にこの問題を解決する方法を見つけたいんだ。」
ルナフはしばらく考え込んだ後、穏やかな笑顔を浮かべて答えた。
「ありがとう、リュート、私も同じように思っていたの。 あなたと一緒にこの問題を乗り越えたい。」
俺はルナフの言葉に胸を熱くした。
彼女と協力し、困難に立ち向かっていく覚悟を決めたのだ。
「では、次にするべきことは何か考えてみよう。俺達が魔界に取り残された以上、勇者としての役目を果たすことは難しいかもしれない。 しかし、私たちはこの魔界で何かできるはずだ。 魔族の娘を守るために、この世界で新たな使命を見つけるのだ。」
俺の言葉にルナフがうなずき、二人は固い絆で結ばれた。
そして、新たな旅の始まりを感じながら、俺とルナフは
一歩を踏み出したのだった。
一方その頃、勇者一行である俺たちも魔界に到着していたようで、辺り一面を見渡せど全く人の気配がなく、
魔物の姿さえ見当たらなかったことから不安に駆られることになったのだが、ここで立ち止まるわけにはいかなかったのでとりあえず街を目指すことにしたんだ。
とはいえ、目的地に到着するまでの道程は決して楽なものとは言えず、険しい山道を越えなければならなかった上に途中で何度も
野宿する羽目になったから体力的にも精神的にもかなり追い詰められてしまっており、皆かなり疲れ切っていたんだ。
それでも何とかして歩き続けているうちに日が暮れてきたため、今日はこの辺りで野営することに決めて準備に取り掛かることにしたんだ。
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