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「あなたのお名前は?」
その問いに答えたのはレオンという名であった。
その名前を聞いて私はどこか聞き覚えがあるように感じる。
けれどそれは一体どこで聞いたのかを思い出すことはできなかった。
そのため少しだけ首を傾げてから考える。
そうしているうちにレオンが不安そうにしているのに気が付いてしまう。
私は大丈夫ですと答えると質問を続ける。
まずは自分がどういう状況なのかについてだ。
その回答はやはり私の考えていたとおりで、あの時見た光景は私が閉じ込められていた塔の内部だったのだと知ったのである。
そして私の身に何が起きたのかについてもおおよそ察しがついた。
おそらくは何者かによって殺されかけたのであろう。
その際に偶然が重なって奇跡的に助かったのだろうが、本来であれば私は命を落としていてもおかしくはなかったのである。
結果としてこうして生きてはいられるのはあの時の行動が間違っていなかったのだと確信する。
私の命を救ってくれた人物こそがこの目の前にいる男性であり私に恋心を抱く者でもあったのだ。
そのおかげで私達はお互いに好き合う関係となった。
そのせいで他の人達から嫉妬されているような気もしたがそれでも構わないと思っている。
むしろその程度の事で私達の関係が壊されたりはしないと信じる事が出来るようになった。
だからこそ私はこれからもこの人のそばに寄り添っていこうと決めたのである。
たとえ何が待ち受けていようともそれからしばらくして私達が結婚するまでそれほど時間はかからなかった。
それからさらに数年が経ったある日の事、私はいつものように夫の帰りを待っていたのだが一向に帰って来る気配はなかった。
いくら何でも遅すぎると思い始めた頃にようやく戻ってきた。
その姿を見て絶句してしまう。
全身が血まみれになっており怪我をしていることは明らかだったがその量が尋常ではなかったからである。
それだけではない、まるで何かに襲われたかのような姿に戸惑いを隠せなかったのである。
私はすぐさま駆け寄るとその身を案じた。
けれど当の本人は心配はいらないと言いながら笑顔を浮かべてみせる。
私はその言葉を信じることしかできなかった。
それからしばらく経過すると夫は疲れたと言って眠ってしまったので私は彼をベッドまで運ぶとそっとしておくことにする。
その間に水浴びをしようと考える。
服を脱ごうとすると袖に汚れがついているのに気が付いた。
どうやら血のようである。
まさかと思った私は慌てて洗面所へ行って鏡を覗き込むとそこには酷い有様になっている自分の顔が見えたのである。
そして同時に理解した。
夫が負っていた大量の出血の原因は私の方にあったのだと
私は慌てて着替えるとすぐに家を出て医者を呼びに行くことにした。
だがそこでもとんでもないことが起きてしまう。
なんと夫から告げられた診断結果は私が予想していたものとは違い心臓の病気によるものだという事が判明したのである。
その原因となったのは私だった。
それを知った私は動揺を抑えられずにいたが何とかして冷静さを取り戻すと再び夫と話をしようとした。
私が声をかけるより早く目を覚ましたらしく、慌てて駆けつけてきたのでその場から離れるしかなかった。
どうやら彼は自分の身体の異変にいち早く気付いたようで原因となる物を探ろうとしておりその姿に頼もしさを覚えると同時に恐怖心を覚えてしまっていたのである。
というのももしこのまま治療を続けても治らなければいずれ死んでしまう可能性があったからだ。
その問いに答えたのはレオンという名であった。
その名前を聞いて私はどこか聞き覚えがあるように感じる。
けれどそれは一体どこで聞いたのかを思い出すことはできなかった。
そのため少しだけ首を傾げてから考える。
そうしているうちにレオンが不安そうにしているのに気が付いてしまう。
私は大丈夫ですと答えると質問を続ける。
まずは自分がどういう状況なのかについてだ。
その回答はやはり私の考えていたとおりで、あの時見た光景は私が閉じ込められていた塔の内部だったのだと知ったのである。
そして私の身に何が起きたのかについてもおおよそ察しがついた。
おそらくは何者かによって殺されかけたのであろう。
その際に偶然が重なって奇跡的に助かったのだろうが、本来であれば私は命を落としていてもおかしくはなかったのである。
結果としてこうして生きてはいられるのはあの時の行動が間違っていなかったのだと確信する。
私の命を救ってくれた人物こそがこの目の前にいる男性であり私に恋心を抱く者でもあったのだ。
そのおかげで私達はお互いに好き合う関係となった。
そのせいで他の人達から嫉妬されているような気もしたがそれでも構わないと思っている。
むしろその程度の事で私達の関係が壊されたりはしないと信じる事が出来るようになった。
だからこそ私はこれからもこの人のそばに寄り添っていこうと決めたのである。
たとえ何が待ち受けていようともそれからしばらくして私達が結婚するまでそれほど時間はかからなかった。
それからさらに数年が経ったある日の事、私はいつものように夫の帰りを待っていたのだが一向に帰って来る気配はなかった。
いくら何でも遅すぎると思い始めた頃にようやく戻ってきた。
その姿を見て絶句してしまう。
全身が血まみれになっており怪我をしていることは明らかだったがその量が尋常ではなかったからである。
それだけではない、まるで何かに襲われたかのような姿に戸惑いを隠せなかったのである。
私はすぐさま駆け寄るとその身を案じた。
けれど当の本人は心配はいらないと言いながら笑顔を浮かべてみせる。
私はその言葉を信じることしかできなかった。
それからしばらく経過すると夫は疲れたと言って眠ってしまったので私は彼をベッドまで運ぶとそっとしておくことにする。
その間に水浴びをしようと考える。
服を脱ごうとすると袖に汚れがついているのに気が付いた。
どうやら血のようである。
まさかと思った私は慌てて洗面所へ行って鏡を覗き込むとそこには酷い有様になっている自分の顔が見えたのである。
そして同時に理解した。
夫が負っていた大量の出血の原因は私の方にあったのだと
私は慌てて着替えるとすぐに家を出て医者を呼びに行くことにした。
だがそこでもとんでもないことが起きてしまう。
なんと夫から告げられた診断結果は私が予想していたものとは違い心臓の病気によるものだという事が判明したのである。
その原因となったのは私だった。
それを知った私は動揺を抑えられずにいたが何とかして冷静さを取り戻すと再び夫と話をしようとした。
私が声をかけるより早く目を覚ましたらしく、慌てて駆けつけてきたのでその場から離れるしかなかった。
どうやら彼は自分の身体の異変にいち早く気付いたようで原因となる物を探ろうとしておりその姿に頼もしさを覚えると同時に恐怖心を覚えてしまっていたのである。
というのももしこのまま治療を続けても治らなければいずれ死んでしまう可能性があったからだ。
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