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番外編*天使の足元

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 伸びきった髪はくすみ、布切れ同然の服も自身のように傷んでいる。骨が浮き出た身体を丸める少年は物心ついた時から冷えきった凸凹の地面と腐臭漂う薄暗い路地裏にひとりでいた。

 自分という存在を考えるが、親など知らず、知り得ても目もくれない人々のようにいらない子だったのだろうと諦めた。すさんだ路地裏の住人が口々に漏らす声で言葉を覚えても披露する相手もいない。むしろ事切れるのが先だ。
 絶えたら世界を創ったと云われる神は自分を迎えてくれるのか。否、神などいない。いれば空腹や寒さ、孤独など与えはしない──。

「……し? 大丈夫?」

 落ちかけた意識と共に少年の顔が上がる。
 僅かに射しこむ光が魅せるのは年若い修道服に身を包んだ赤毛の女性。安堵の表情に変わったのは、小バエが群がる死体が無造作に転がっているせいか。視線を合わせるように屈んだ女性はゆっくりと両手を広げると、青葉の瞳を少年に合わせた。

「よかったら家族になりませんか? 天使様」

 真っ直ぐと自身を捉え微笑む女性に、前髪から覗く黄金の瞳が大きく開かれる。次第に大粒の涙が落ち、覚束ない身体を起こすと渇いた唇を必死に開いた。

「は……ぃっ……!」

 死臭も痛々しい身体も構わず抱きしめてくれることに自分も『人間』なのだと理解した少年は生まれてはじめて声をかけられ応えた。

 女性の名は、リリー。
 シスター見習いとして派遣されたばかりで、少年もまた『ルイセ』という名と共に教会へと迎えられた。雨水ではないお風呂、切り揃えられた髪、隙間風が吹いても寒くない室内、暖かい食事とベッド。新鮮な暮らしと心優しい神父、同じ境遇の子供たち。なによりリリーと過ごす日々がルイセにとって至福──だった。

「神父様。ぼく……おかしい」
「え?」

 ある夜。神父のもとを訪れたルイセは戸惑った様子で語りだす。

「リ……ある女の人といるとドキドキして、身体中が熱くなる。それに……尿しーじゃない、白いの止まらなくて……ぼく、どこか悪い?」

 小さな両手で自身の服を握る彼の告白に神父は悩む。だが、触れている部分に気付くと苦笑を零した。

「それはまたお早いですね」
「えっ!?」

 自分ではわからなかった謎をいとも簡単に解いた節の神父にルイセはたいそう驚く。同時に悪いことを想像してしまったのか顔を青褪めるが、視線を合わせるように屈んだ神父は優しく頭を撫でた。

「大丈夫、それはいつか訪れる生理現象です。病気ではありません」
「せーりげんしょー?」

 きょとんとするルイセに神父は少し困った顔をするも、言葉を選ぶように諭した。

「恋心からくる興奮。ルイセはその女性が大好き……本当の家族になりたいという証拠ですよ」
「本当の……家族?」
「ええ。鼓動が速く、全身が熱く震えるほど恋焦がれる相手と両想い……想い合えた時、生涯を共にする『本当の家族』になれるのです」

 首を傾げるルイセに微笑む神父は『そこから先のことはもう少し大人になってから話しましょう』と小さな肩を叩く。そして、内緒話をするように小声で付け加えた。

「ひとまず、出さない方が身体に悪いので気にせず出しなさい。ただし──隠れてね?」

 人差し指を口元に寄せた神父の最後の一言はルイセの身体を、下腹部をよりいっそう熱くさせた。

 それからというもの、人気のない場所や自室で尿とは異なる白濁を出すのがルイセの日課となった。リリーのことを考えれば考えるほど見れば見るほど話せば話すほど量は増え、手で擦ればさらに気持ち良くなると知った肉棒は痛々しいほど真っ赤になっている。だが、痛みよりも高揚感が勝っていた。

「はぁはぁ……リリー……リリー……っ」
『~~♪』

 うわ言は、ひとりでお風呂を楽しむリリーの鼻歌と湯音に掻き消される。
 明るい浴室とは反対。薄暗い脱衣場に潜むルイセの手にはリリーの修道服があり、嗅ぎながらスカートの裾で覆った肉棒を擦っている。見て聞くだけでは足りず、ついに彼女の匂いが詰まった服で自慰をはじめたのだ。

(ああ……ごめんなさい、リリー、神様、神父様。でも、リリーのこと考えながらするほど気持ち良くて止まらないんだ)

 悪いことだと理解しているのに、ルイセの顔は綻ぶばかり。
 小さな口で修道服を咥えれば涎が滲み、肉棒を擦る手が速くなると床にリリーの影が映った。瞬間、お腹の奥から沸き上がった気持ちが形となって放出される。

「……っ!!!」

 声も汗も修道服で抑えたルイセの頭は真っ白になる。ボヤけた思考と視界。だが、両手と同じ体液と匂いをはっきり捉えると口元が自然と弧を描いた。

「ねえ、私の服しらない?」

 パジャマに着替えたリリーが脱衣所から廊下に顔を出す。歩いていた子供たちは互いを見合うが、修道服と付け足せば笑顔で頷いた。

「それならルイセが洗濯に出しとくって」
「あら。あとで御礼を言わなきゃ」
「あいつ、リリー姉ちゃん大好きだもんな」

 笑い合う三人を背に歩きだすルイセが持つ籠には件の修道服。まるで神を穢すような白い体液が散っているが、もはや罪悪感の欠片も見せない笑みを浮かべているのはの気持ちと白濁が恋。リリーが好きで本当の家族になりたい証だと気付いたからだ。

「そういえば、リリーもいってた……」

 足を止めたルイセは白濁に染まった服を見ながらリリーとの出会いを思い出し興奮した。彼女は確かに言っていた──『“家族”になりませんか?』──と。
 それこそ神父が言っていた『両想い』だと解釈したルイセは心の底から歓喜した。

「両想いなら本当の家族になっていいんだ……なりたい……なりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたいなりたい──リリーと家族ひとつに」

 再び熱くなる下腹部と共にドス黒い欲望が膨れ上がる。
 ただひとつの願い、自分だけの家族という名の“神”を手に入れるため、五歳にも満たない悪魔の計画がはじまった──。






「──あ。ごめんね、リリー。リリーを好きになった時を思い出したらまたシたくなりました」
「ンン゛ン゛ン゛ン゛ン゛っ!!!」

 懐かしき過去から現実へと思考が戻ったルイセは長く野太く成長した肉棒を愛らしい唇へ捻じこむと、愛液が零れる秘部を指で弄る。目隠しされたリリーは悶えるが、両脚で頭を固定され、為す術なく頭上から抜き挿しされる肉棒を受け入れた。
 地下部屋に響き渡る悲鳴も鎖音も讃美歌のように思えるルイセは破顔になる。

「っはぁ……新しい子の誕生と感謝のつもりが次の家族を作る準備になってしまいますね」

 膨らみがなくなったお腹を撫でていた手がパンパンに張った乳房に移る。解すように揉めば乳頭から甘い香りを含んだ母乳が零れ、両手で搾りあげれば宙まで噴き出した。

「ンン゛ン゛~っ!!!」
「ああ、もったいない。あとで全部舐めますね」

 産後なのもあり、止まらない母乳が愛液と共にシーツや床を濡らす。それらを一瞥したルイセは宙で乳汁を受け止めるとリリーの腰を勢いよく抱え上げた。突然逆さまになったリリーは声にならない悲鳴を出すが、拡げた彼女の両脚を自身の肩に乗せたルイセは構うことなく目前の秘部にしゃぶりつく。

「~~~~っ!!!」
「それもこれも、んっ、はぁ……んくっ、リリーのことが好きで好きで堪らない証っ……なんです」

 御馳走を堪能するように愛液と秘芽をしゃぶっては吸い上げる。身動ぐリリーの身体は逞しい腕と脚にホールドされ、硬い肉棒が容赦なく喉奥に押しこまれた瞬間、大量の潮が噴きだした。

 頭から被ったルイセは恍惚とした様子で舌舐めずりし、力を失ったリリーを仰向けに寝かす。肩で息をする彼女の汗ばんだ髪や頬を撫でながら顎を持ち上げると、白濁や唾液、反吐が混ざった唇に口付けた。
 普段は舌を噛まないよう猿轡を嵌めているため、息も絶え絶えの今がチャンスとばかりに貪るルイセはこれ以上なく幸せだ。

 『恋』を知ってからリリーに近付くすべてに嫉妬し、数え切れないほどの罪を犯したが、それは“リリー”を手に入れるために必要な犠牲であり、自分への褒美。キスしたい、身体に触れたい、繋がりたい。罪を犯す度に知った淫らな褒美はルイセに多大な昂ぶりを抱かせた。

「んくっ、んっ……あぁ、リリー。好き、大好き……愛してる。これからもずっとずっとずっとずっと一緒だよ」

 宿望を遂げ、手に入れた“神”に我慢は不要。
 愛らしい顔を涎と白濁まみれにし、全身を舐め回しては所有の証を付けると、膨張した肉棒を愛液が止まらない秘部に挿入した。

「ひああぁああっんンン゛ン゛っ!」
「んっ、はあぁ……リリーの声を聞いただけで出る……ああ、もう次の子を孕んでくれるんですか……うれしい、あぁリリー……」

 掠れ声でもルイセにとっては御馳走。すぐさま唇で塞ぐと腰を振る。
 響き渡る蜜音、スプリング、喘ぎと呻き、放出される愛液。消えることのない愛を伝えるように腰を打ち付けるルイセは痙攣するリリーに、ほくそ笑んだ。


「これからも家族みんな、幸せに暮らしましょうね──僕の神様」


 端目は美しい天使の足元には大きな悪意と悪行を重ねた血の海が広がる。それらを目にすることはない“リリー”は今日も特別な牢獄で愛を受け、家族を宿す。終わりのない償いとまやかしの平和のために────。





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