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エリーの初陣Ⅱ
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ユーロ大聖堂に到着するとそれはもう大騒ぎになっていた。救急車が数台停まっていて医師達による懸命な医療措置を行われているけど――。
「思ったより酷いな」
リストキー副所長はそう呑気に言っているけど、私からすれば死傷者がたくさんいるこの状況で、リストキー副所長のように冷静ではいられない。中には顔を吹き飛ばされて命を落としていた制服を着た保安局の人間もいる。見ているだけで吐き気がする。こんなの耐えられない。
「顔色が悪いな。まあ初陣だし無理ないか」
リストキー副所長はそう言って倒れている人々を眺めていた。
「さっきソフィアが言ったていたろ? どんな時でも困難に立ち向かえる勇気ある言葉を伝授してやるよ」
「勇気ある言葉ですか――?」
アンソルスランさんが言っていた言葉――? なんだけっけ?
「自分の愛銃を倒したい相手に向けてこう言うんだ」
リストキー副所長はそう言ってユーロ大聖堂に銃を向けた。
「正義執行――ってな」
か――格好いい。リストキー副所長の瞳には闇を穿つ信念のようなものが宿っていた。早速、私もこの乱れた心に落ち着きを取り戻す為に私も――。
「正義執行」
と、言ってみたセレネを構えて言ってみた。恥ずかしい気持ちはあるけれど確かに犯罪者を取り締まらないといけないから、こんな所で躓いている暇は無いと思える。何より自分を鼓舞する事ができる魔法の言葉だ。
「お。いい瞳だ。行くぞ」
「はい!」
吐き気は収まった。少し怖かったけど恐怖も無くなっていた。これで戦える。
私達が駆け寄ると、ユーロ大聖堂の付近にいる保安局の人間が駆け寄って来た。
「ご多忙のところ申し訳ございません。リストキーさん」
そう言って敬礼をしてリストキー副所長に挨拶を行って来たのは、四十代半ばの中年男性だった。他の保安局の人間は青い制服を着ているのに対して、この人は黒い制服を着ていた。恐らくこの現場を取り仕切る保安局の責任者だ。
「ご苦労様。状況はどうなっている?」
「聖堂の中で政府反対運動を行っていた20人の集団と保安局の人間が交戦中です。中にはまだ100人程の一般市民が取り残されている状況です」
「ひゃ――100人ですか!?」
私がそう驚くと保安局の人間が「ええ」と苦い表情を浮かべて頷いた。これだけ死傷者が出ているのにまだ犠牲者を出そうしているの? ざっと見ただけで30人程の犠牲者は出ているんだけど――。
「じゃあ早速行くか」
「え!? 状況を詳しく聞かないんですか?」
私がそう問いかけると、リストキー副所長は右人差し指を左右に小さく振った。
「いらねえよ。相手がどれだけ強かろうが俺の前では赤ちゃんも同然。今のオリュンポスのナンバーズの大半だって俺には勝てやしない」
「ど――どこからその自信が――」
「大丈夫だって。ユーロ大聖堂を制圧すればいいんだろ?」
リストキー副所長はそう言ってユーロ大聖堂の中へ入ってしまった。私も保安局の人も置いてけぼり。
「は――話には聞いていましたが相当な自信と破天荒さですね」
「私も今日初めての任務なので――失礼します!」
私もリストキー副所長に着いて行く事にした。まずは壁際に背中をくっつけて中の状況を確認した。するとマシンガンを撃っている音や、ハンドガンを撃っている音。アサルトライフルを撃っている音など、様々な銃の音が聞こえた。
キューン!
と音が鳴ったと同時に、私が背中をつけている壁の向こう側に火花が散った。
「あ――危ない」
中の様子を探ってみると、私が狙われたのでは無く、流れ弾が飛んできたようだった。
「よし」
私は銃を構えてクリアリングをした後、前方3m前にある支柱に身を潜めた。
「ぐあああ!」
「何だコイツ!」
このように慌てている声が二階から聞こえた。一体上で何が起きているのだろう。
「前線を上げろ!」
と一人の保安局の人間が言うと、50m程先にいる6人の20代前半から40代前半くらいの銃を持った男達は、焦りを感じながら保安局の人間と銃撃戦を繰り広げていた。
対して保安局の人間は聖堂の柱や長椅子や、持ってきている武装の防護盾を駆使しながらジリジリと詰め寄っていく。
「リストキー副所長はどこに?」
前方で交戦している保安局の中には混じっていない――。
ダーン。
というリストキー副所長が射撃訓練場にいたときと同じ銃声が上から聞こえた。間違いない。さっきから上で暴れている人間はリストキー副所長だ。
階段はどこに?
辺りを見渡すと左右に二階へ上がることができる階段があった。さっきから銃声が鳴っているのは左側から。
「よし」
私は柱を駆使しながら右側の階段から駆け上がる事にした。二階へ上がると右肩や左肩を押さえながら地面に転がり込みながら痛みと戦っている敵勢力の人間がいた。その人数は3名。
他には5名保安局の人間が地面に倒れこんでいたけど、全員目を瞑り顔が青白くなっている事から、死亡している可能性が高い。この保安局の人間の生死を確認して外に出して救急車のところまで運ぶのは、障害物が少ないこのストレートの通路じゃ困難。
突き当りが一階と同じ50m。10m先以上にはまだ7人程の勢力がいた。それらの勢力は全員、左側で銃撃戦を繰り広げているリストキー副所長を狙っていた。
これらの状況を考えるとこんな仮説を立てることができる。リストキー副所長が入る前は入り口付近で保安局の人間達は立ち往生していた。それは二階の勢力もいたから下手に動くことができなかったからだろう。しかし、リストキー副所長が二階へ駆け上がると何名かの敵勢力を制圧。それにより、リストキー副所長に敵の意識が集中した為、一階の保安局の人間達が前線を押し上げる事に成功した。
という風に予測できる。私も前線を押し上げたいところだけど、生憎二階はストレートで見通しがものすごくいい。銃弾を防げるのは、今私がいる階段の壁くらい。
「こっちにするの止めておいた方が良かった――」
リストキー副所長のいる左側は一階のような構造になっており、椅子やら柱やらが沢山あるけど私はとりあえずここから撃つしか無さそうね。
「よしっ。やるぞ」
「思ったより酷いな」
リストキー副所長はそう呑気に言っているけど、私からすれば死傷者がたくさんいるこの状況で、リストキー副所長のように冷静ではいられない。中には顔を吹き飛ばされて命を落としていた制服を着た保安局の人間もいる。見ているだけで吐き気がする。こんなの耐えられない。
「顔色が悪いな。まあ初陣だし無理ないか」
リストキー副所長はそう言って倒れている人々を眺めていた。
「さっきソフィアが言ったていたろ? どんな時でも困難に立ち向かえる勇気ある言葉を伝授してやるよ」
「勇気ある言葉ですか――?」
アンソルスランさんが言っていた言葉――? なんだけっけ?
「自分の愛銃を倒したい相手に向けてこう言うんだ」
リストキー副所長はそう言ってユーロ大聖堂に銃を向けた。
「正義執行――ってな」
か――格好いい。リストキー副所長の瞳には闇を穿つ信念のようなものが宿っていた。早速、私もこの乱れた心に落ち着きを取り戻す為に私も――。
「正義執行」
と、言ってみたセレネを構えて言ってみた。恥ずかしい気持ちはあるけれど確かに犯罪者を取り締まらないといけないから、こんな所で躓いている暇は無いと思える。何より自分を鼓舞する事ができる魔法の言葉だ。
「お。いい瞳だ。行くぞ」
「はい!」
吐き気は収まった。少し怖かったけど恐怖も無くなっていた。これで戦える。
私達が駆け寄ると、ユーロ大聖堂の付近にいる保安局の人間が駆け寄って来た。
「ご多忙のところ申し訳ございません。リストキーさん」
そう言って敬礼をしてリストキー副所長に挨拶を行って来たのは、四十代半ばの中年男性だった。他の保安局の人間は青い制服を着ているのに対して、この人は黒い制服を着ていた。恐らくこの現場を取り仕切る保安局の責任者だ。
「ご苦労様。状況はどうなっている?」
「聖堂の中で政府反対運動を行っていた20人の集団と保安局の人間が交戦中です。中にはまだ100人程の一般市民が取り残されている状況です」
「ひゃ――100人ですか!?」
私がそう驚くと保安局の人間が「ええ」と苦い表情を浮かべて頷いた。これだけ死傷者が出ているのにまだ犠牲者を出そうしているの? ざっと見ただけで30人程の犠牲者は出ているんだけど――。
「じゃあ早速行くか」
「え!? 状況を詳しく聞かないんですか?」
私がそう問いかけると、リストキー副所長は右人差し指を左右に小さく振った。
「いらねえよ。相手がどれだけ強かろうが俺の前では赤ちゃんも同然。今のオリュンポスのナンバーズの大半だって俺には勝てやしない」
「ど――どこからその自信が――」
「大丈夫だって。ユーロ大聖堂を制圧すればいいんだろ?」
リストキー副所長はそう言ってユーロ大聖堂の中へ入ってしまった。私も保安局の人も置いてけぼり。
「は――話には聞いていましたが相当な自信と破天荒さですね」
「私も今日初めての任務なので――失礼します!」
私もリストキー副所長に着いて行く事にした。まずは壁際に背中をくっつけて中の状況を確認した。するとマシンガンを撃っている音や、ハンドガンを撃っている音。アサルトライフルを撃っている音など、様々な銃の音が聞こえた。
キューン!
と音が鳴ったと同時に、私が背中をつけている壁の向こう側に火花が散った。
「あ――危ない」
中の様子を探ってみると、私が狙われたのでは無く、流れ弾が飛んできたようだった。
「よし」
私は銃を構えてクリアリングをした後、前方3m前にある支柱に身を潜めた。
「ぐあああ!」
「何だコイツ!」
このように慌てている声が二階から聞こえた。一体上で何が起きているのだろう。
「前線を上げろ!」
と一人の保安局の人間が言うと、50m程先にいる6人の20代前半から40代前半くらいの銃を持った男達は、焦りを感じながら保安局の人間と銃撃戦を繰り広げていた。
対して保安局の人間は聖堂の柱や長椅子や、持ってきている武装の防護盾を駆使しながらジリジリと詰め寄っていく。
「リストキー副所長はどこに?」
前方で交戦している保安局の中には混じっていない――。
ダーン。
というリストキー副所長が射撃訓練場にいたときと同じ銃声が上から聞こえた。間違いない。さっきから上で暴れている人間はリストキー副所長だ。
階段はどこに?
辺りを見渡すと左右に二階へ上がることができる階段があった。さっきから銃声が鳴っているのは左側から。
「よし」
私は柱を駆使しながら右側の階段から駆け上がる事にした。二階へ上がると右肩や左肩を押さえながら地面に転がり込みながら痛みと戦っている敵勢力の人間がいた。その人数は3名。
他には5名保安局の人間が地面に倒れこんでいたけど、全員目を瞑り顔が青白くなっている事から、死亡している可能性が高い。この保安局の人間の生死を確認して外に出して救急車のところまで運ぶのは、障害物が少ないこのストレートの通路じゃ困難。
突き当りが一階と同じ50m。10m先以上にはまだ7人程の勢力がいた。それらの勢力は全員、左側で銃撃戦を繰り広げているリストキー副所長を狙っていた。
これらの状況を考えるとこんな仮説を立てることができる。リストキー副所長が入る前は入り口付近で保安局の人間達は立ち往生していた。それは二階の勢力もいたから下手に動くことができなかったからだろう。しかし、リストキー副所長が二階へ駆け上がると何名かの敵勢力を制圧。それにより、リストキー副所長に敵の意識が集中した為、一階の保安局の人間達が前線を押し上げる事に成功した。
という風に予測できる。私も前線を押し上げたいところだけど、生憎二階はストレートで見通しがものすごくいい。銃弾を防げるのは、今私がいる階段の壁くらい。
「こっちにするの止めておいた方が良かった――」
リストキー副所長のいる左側は一階のような構造になっており、椅子やら柱やらが沢山あるけど私はとりあえずここから撃つしか無さそうね。
「よしっ。やるぞ」
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