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初日最後のオリエンテーションⅠ
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「皆出ているから、マンバの組織については後で話す事にはなったけど、エリーには先に伝えておこうか。その上でこの演習場でエリーの実力がみたい。体調が悪いなら今日のところは帰す予定だ」
今の演習場は草原フィールドに設定している。ここが一番環境のなかで優しいからな。しかし優しいからと言って精神的には優しくない。ここで憎しみの感情が出るのか。トラウマが甦り体調が悪くなるのか。悲しみの感情が爆発するのか――果たして。
「体調が悪くなるんですか?」
「ああ。俺は話を兄貴から聞いているからな。勿論エリーの重たい過去も知っているんだ。だから覚悟して聞いてくれ」
俺がそう言うとエリーは固唾を飲みこんだ。
「マンバがいる組織のボスは、オリュンポスの情報ではかつて世界を恐怖に陥れた政府反対組織のリーダーだったヘラクレス・ヴァイナーだ。君が十歳の時、君のご両親を奪った張本人だ」
俺はエリーの瞳を真っすぐ見ながらそう告げた。いきなり辛い情報を与えたかもしれないけど、一人前の戦安官になるには、これくらいの事は乗り越えてもらわないといけない。
「え……」
エリーはそう声を漏らして呆然とした様子を見せた。当然の反応だ。
「ヘラクレス・ヴァイナーは、死んだ筈ではなかったのですか――?」
エリーは声を震わせながらそう呟いた。
「史上最高のオリュンポスの執行官だったストラーフ・ガウェイン元大将が殺した筈だった。しかし、理由は不明だけど生きていたようだな。詳しい事情は分からないが、ヘラクレス・ヴァイナーが生きていたというのは事実だろう。マンバのような手練れの男を従えているのも頷ける」
「ストラーフ・ガウェイン元大将。世界最強と呼ばれているランスロット所長の唯一の好敵手と聞きます。ランスロット所長が世界最高の戦安官なら、ストラーフ・ガウェイン元大将は世界最高の執行官とも言われているくらいですね」
「そして俺の兄の殺しの師匠だ。そんな人がフェロー村の戦火のなか殺し損ねるとは到底思えないけど、今掴んでいる情報ではそういう事だ」
俺がそう伝えるとエリーは意外な反応を見せた。
「その情報は誰かが仕組んだ偽の可能性はありませんか?」
「いや、あるのはあるけど」
「そうですよね」
エリーはそう言ってブツブツと呟きながら考え始めた。正直この反応は驚いた。至って冷静だ。本当に執行官みたいだな。今の執行官の司令官のケイ司令官みたいだな。俺やストラーフさんでももうちょっと動揺するんだけど。
「何だ? ヘラクレス・ヴァイナーが生きているって聞いて、執行できなかったオリュンポスに恨みはないのか?」
俺がそう問いかけるとエリーは「う~ん」と唸った。
「確かに何で執行できていなかったのか分からないですけど、私はヘラクレス・ヴァイナーがずっと憎かったんですよ。あの事件の時、私は十歳ですからその時は恐怖しかなかったですけど、もしあの凶悪なテロリストを自分の手で牢屋に入れることができるなら、両親も少しは報われるかなと思うんですよ」
と――エリーは言ったけどこの時のエリーには違和感しかなかった。虚ろな瞳をしていたんだ。
「本当は何を考えているんだ?」
俺がそう問いかけると、エリーは「この手で捕まえたいと思っていますよ」と返答がきた。
「分かった。相手はヘラクレス・ヴァイナーが従えるテロリスト組織だ。エリーの動きを確認するのと、修行も兼ねて一戦交えよう。俺は銃は撃たない。まあ銃で弾丸はガードするけどな」
「はい! 宜しくお願いします!」
エリーはそう言って一礼をしてきた。
「いつでも来い」
俺がそう言うとエリーはセレネを構えて俺の出方を見ている。エリーはオリュンポス養成学校を主席で卒業している事もあり、武氣はなかなかのものだ。しかし本人にも伝えている通り、武氣の抑制がまだまだ甘い。これでは無駄なエネルギーを使いすぎて直ぐにバテてしまう。
そう思っている時だった。エリーのセレネから一発の弾丸が放たれた。タイミングとしてはバッチリだな。俺が別の事を考えている時に撃ってきたところを見ると、タイミングを計る事は出来るらしい。しかし――。
「タイミングとしては当たっていたな」
愛銃メラーキを狙われていた腹部辺りに置き、エリーの弾丸を受け止めた。
「エリー。遠慮はいらない。俺の顔面を狙ってこい」
「で――でも」
「大丈夫だ。今のエリーの攻撃なら顔に切り傷が付くくらいで済む」
「ほ……本当ですか? そんな事を言って大怪我とかすると――」
と、エリーは俺の事を気に掛けてくれているようだ。
「仕方ない。エリーは今の俺の実力がどれくらいあるのか分からないから、躊躇っているんだよな?」
「まあ――そんなところです。武氣を感じないので、私が武氣を全力で込めたセレネの弾丸が、リストキー副所長の顔に当たってしまった時の事を考えると――」
「いいぜ。久しぶりに武氣を開放してやる」
するとエリーは嬉々とした表情を浮かべていた。期待に胸を膨らませるようだ。
俺は深呼吸をした後、体に眠る武氣を呼び覚ました。武氣は常に動き続けている。これは人間の血や心臓などと同じだ。生まれた時から俺達を生かすために動き続けてくれている大変有り難い機能だ。普通の人間で例えるなら休みなく働くサラリーマンってところだ。それを考えると感謝しかない。
武氣を0にするというのは、人間で言うところの武氣を眠らせておくような感覚だ。俺がメラーキを放つときも、武氣を少し起こしてその後すぐに武氣を寝かしつけるような感覚。それを今から起こすだけ。
「ハア――!」
俺がそう言って武氣を開放するとエリーは開いた口が塞がらない状態になっていた。
「そ――それがリストキー副所長の武氣の量ですか――?」
「まあ八割くらいだな」
「す――凄い。昔見たヘラクレス・ヴァイナーと同じくらいの武氣ですよ。本気を出せばマンバに勝てますよ絶対に!」
エリーはそう言って俺の方に駆け寄って来た。めちゃ目をキラキラさせている。
「これで分かっただろ?」
「はい。私の銃弾で怪我を全然しない事は分かりました」
「じゃあ全力で来い。全部を使って俺に傷を負わせてみるんだな」
俺がそう挑発を行うとエリーは殴りかかってきた。
今の演習場は草原フィールドに設定している。ここが一番環境のなかで優しいからな。しかし優しいからと言って精神的には優しくない。ここで憎しみの感情が出るのか。トラウマが甦り体調が悪くなるのか。悲しみの感情が爆発するのか――果たして。
「体調が悪くなるんですか?」
「ああ。俺は話を兄貴から聞いているからな。勿論エリーの重たい過去も知っているんだ。だから覚悟して聞いてくれ」
俺がそう言うとエリーは固唾を飲みこんだ。
「マンバがいる組織のボスは、オリュンポスの情報ではかつて世界を恐怖に陥れた政府反対組織のリーダーだったヘラクレス・ヴァイナーだ。君が十歳の時、君のご両親を奪った張本人だ」
俺はエリーの瞳を真っすぐ見ながらそう告げた。いきなり辛い情報を与えたかもしれないけど、一人前の戦安官になるには、これくらいの事は乗り越えてもらわないといけない。
「え……」
エリーはそう声を漏らして呆然とした様子を見せた。当然の反応だ。
「ヘラクレス・ヴァイナーは、死んだ筈ではなかったのですか――?」
エリーは声を震わせながらそう呟いた。
「史上最高のオリュンポスの執行官だったストラーフ・ガウェイン元大将が殺した筈だった。しかし、理由は不明だけど生きていたようだな。詳しい事情は分からないが、ヘラクレス・ヴァイナーが生きていたというのは事実だろう。マンバのような手練れの男を従えているのも頷ける」
「ストラーフ・ガウェイン元大将。世界最強と呼ばれているランスロット所長の唯一の好敵手と聞きます。ランスロット所長が世界最高の戦安官なら、ストラーフ・ガウェイン元大将は世界最高の執行官とも言われているくらいですね」
「そして俺の兄の殺しの師匠だ。そんな人がフェロー村の戦火のなか殺し損ねるとは到底思えないけど、今掴んでいる情報ではそういう事だ」
俺がそう伝えるとエリーは意外な反応を見せた。
「その情報は誰かが仕組んだ偽の可能性はありませんか?」
「いや、あるのはあるけど」
「そうですよね」
エリーはそう言ってブツブツと呟きながら考え始めた。正直この反応は驚いた。至って冷静だ。本当に執行官みたいだな。今の執行官の司令官のケイ司令官みたいだな。俺やストラーフさんでももうちょっと動揺するんだけど。
「何だ? ヘラクレス・ヴァイナーが生きているって聞いて、執行できなかったオリュンポスに恨みはないのか?」
俺がそう問いかけるとエリーは「う~ん」と唸った。
「確かに何で執行できていなかったのか分からないですけど、私はヘラクレス・ヴァイナーがずっと憎かったんですよ。あの事件の時、私は十歳ですからその時は恐怖しかなかったですけど、もしあの凶悪なテロリストを自分の手で牢屋に入れることができるなら、両親も少しは報われるかなと思うんですよ」
と――エリーは言ったけどこの時のエリーには違和感しかなかった。虚ろな瞳をしていたんだ。
「本当は何を考えているんだ?」
俺がそう問いかけると、エリーは「この手で捕まえたいと思っていますよ」と返答がきた。
「分かった。相手はヘラクレス・ヴァイナーが従えるテロリスト組織だ。エリーの動きを確認するのと、修行も兼ねて一戦交えよう。俺は銃は撃たない。まあ銃で弾丸はガードするけどな」
「はい! 宜しくお願いします!」
エリーはそう言って一礼をしてきた。
「いつでも来い」
俺がそう言うとエリーはセレネを構えて俺の出方を見ている。エリーはオリュンポス養成学校を主席で卒業している事もあり、武氣はなかなかのものだ。しかし本人にも伝えている通り、武氣の抑制がまだまだ甘い。これでは無駄なエネルギーを使いすぎて直ぐにバテてしまう。
そう思っている時だった。エリーのセレネから一発の弾丸が放たれた。タイミングとしてはバッチリだな。俺が別の事を考えている時に撃ってきたところを見ると、タイミングを計る事は出来るらしい。しかし――。
「タイミングとしては当たっていたな」
愛銃メラーキを狙われていた腹部辺りに置き、エリーの弾丸を受け止めた。
「エリー。遠慮はいらない。俺の顔面を狙ってこい」
「で――でも」
「大丈夫だ。今のエリーの攻撃なら顔に切り傷が付くくらいで済む」
「ほ……本当ですか? そんな事を言って大怪我とかすると――」
と、エリーは俺の事を気に掛けてくれているようだ。
「仕方ない。エリーは今の俺の実力がどれくらいあるのか分からないから、躊躇っているんだよな?」
「まあ――そんなところです。武氣を感じないので、私が武氣を全力で込めたセレネの弾丸が、リストキー副所長の顔に当たってしまった時の事を考えると――」
「いいぜ。久しぶりに武氣を開放してやる」
するとエリーは嬉々とした表情を浮かべていた。期待に胸を膨らませるようだ。
俺は深呼吸をした後、体に眠る武氣を呼び覚ました。武氣は常に動き続けている。これは人間の血や心臓などと同じだ。生まれた時から俺達を生かすために動き続けてくれている大変有り難い機能だ。普通の人間で例えるなら休みなく働くサラリーマンってところだ。それを考えると感謝しかない。
武氣を0にするというのは、人間で言うところの武氣を眠らせておくような感覚だ。俺がメラーキを放つときも、武氣を少し起こしてその後すぐに武氣を寝かしつけるような感覚。それを今から起こすだけ。
「ハア――!」
俺がそう言って武氣を開放するとエリーは開いた口が塞がらない状態になっていた。
「そ――それがリストキー副所長の武氣の量ですか――?」
「まあ八割くらいだな」
「す――凄い。昔見たヘラクレス・ヴァイナーと同じくらいの武氣ですよ。本気を出せばマンバに勝てますよ絶対に!」
エリーはそう言って俺の方に駆け寄って来た。めちゃ目をキラキラさせている。
「これで分かっただろ?」
「はい。私の銃弾で怪我を全然しない事は分かりました」
「じゃあ全力で来い。全部を使って俺に傷を負わせてみるんだな」
俺がそう挑発を行うとエリーは殴りかかってきた。
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