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尾行Ⅲ

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「来た」

 数十分ほどここのカフェでコーヒーを飲みながら待機していると、どうやらさっきの帝国兵達が戻ってきたようだ。

「俺は無罪だ。何もしていない。嘘だな。じゃあ何で逃げたんだって言っているよ」

「成程。まあ窃盗か何かしたのかな?」

「違うって言っているから違うんじゃない?」

「いや。それは安直すぎるよ。だからアリスちゃんちょっと視てもらえる?」

「了解ですお姉様」

 アリスちゃんはそう言って、振り向いていて窓ガラスの方を覗き込んで、基地の前で縄に縛られて馬に引きずられている人を視た。

「止めてくれ。俺は無実だって言っているね」

「どう? アリスちゃん」

 さっきの言葉で、何の無実かは分からないけれど、無実というセリフに反応してアリスちゃんの裏切者を見つけし神官ジューダス・プリーストは反応する。

「無実ですね。あの人は他者に罪を被せられたか、帝国兵に適当な理由をつけられて捕まってしまった感じですね」

「う~ん。状況が分からないから下手に動くことできないな。ノア君、結局何の罪を被せられているの?」

「そうだね。薬物を売り捌いていたらしい。ぶろーかー? って言っているよ。鞄の中に入っていたんだって」

「成程。罪を擦り付けられたのね」

「そうみたいだね。どうするのミク?」

「証拠がない以上、下手に動いても意味がないからね」

「証拠ならアリスのスキルが証拠じゃん」

「物的証拠のことだよ。あっちからすれば、何とでも言えるハッタリ野郎ってことになるからね」

「ちょっ! 静かにして!」

 ノア君はいきなりそう言って耳を澄ませていた。一体何があったのだろう。

「薬物をあの男の人の鞄に入れたのは、帝国兵らしいよ。帝国兵内部では日常的に使われているらしいんだけど、最近薬物が違法でやりとりされているって第5騎士団が捜査していたらしいんだ。とうとう捕まったのかって町の人達は言っているね」

「真犯人はどこにいるの?」

「基地の前で待っているあの男の人だね」

 ノア君はそう言って基地の前で、大きな態度を取りながら、犯人に仕立て上げられた体が痣だらけの男を見下している男性を眺めていた。

「どうやら真犯人も兵長らしいね」

「行くしかないね」

 私がそう言うと、2人は全て飲み干して席を立った。2人が先に行くと、私も銀貨を店員に渡して店を出る。

「コイツが最近アードルハイムを脅かしていた違法薬物の 仲立人ブローカーだ。最近、違法薬物を所有している者が婦女暴行などの事件に関与していることが多い。その元凶だ!」

 その発言に町民達は、何の罪もない跪いている被害者の中年男性に物や、飲み物やゴミなどを投げている。何の証拠も無いのに何故――。そもそも犯人は彼では無い。犯人は今、町民達を騙しているあの男だ。

「この国に来てからイライラすること本当に多くなった。不快だ」

 ノア君はそう言って殺意剥き出しであの男を睨めつけていた。

「ちょっ――。ノア君?」

 ノア君は私の言うことなど全く聞いていない。ただ見据えているのは、町民達に誤情報を流している彼だけだった。

「ノア様。お止め下さい」

 アリスちゃんの声も届くことなく、ノア君は聞く耳を持たず石を拾い上げるなり。

「嫌だ」

 そうするとその石ころを重量操作ウェイト・カラーで10kgにして、火事場の馬鹿力フル・パワーを発動した。

「アリスちゃん仮面を!」

「はい!」

 ノア君が投げた石ころは、石ころとは思えない轟音を立てながら、跪く被害者の頭上を過ぎ去り、帝国兵の鎧をいとも簡単に貫き、そのまま帝国軍の支部基地の入り口を破壊した。

 さ――さすが人造人間。ただの石ころがスキルで凄まじい威力。

「きゃああああああ!」

 突如腹部に孔を空けてゆっくりと前に倒れこんだ帝国兵を見た女性達は悲鳴を上げた。当然辺りはパニックになりこの場を立ち去る人間が大半。腰を抜かして立てない人々もいる。

「な! 何者だ貴様!」

「うるさい。黙れ」

 ノア君はそう言いながら石ころを再び拾い上げて、石ころを投げた。

「ノア君!」

「あれ?」

 私は咄嗟に石ころを投げられた帝国兵の顔から数センチのところに光の防衛スキルを発動して、ノア君の石ころ攻撃を防いだ。

「何するのさ!」

 ノア君は振り向くなりそう言っていた。

「無暗に人を殺さないで! 今、顔面吹き飛ばす気だったでしょ!」

「そうだよ!」

「このガキなにしやがる!」

 そう言って襲い掛かってきたもう一人の帝国兵。石ころを投げられた帝国兵の隣にいた男性だ。

「ノア様!」

 アリスちゃんはそう心配しているが、ノア君にそんな心配は無用。

 帝国兵は剣を振りかざすとそのままノア君は攻撃を受けた。避けないノア君を仕留めたと思ったのだろう。ニヤリとしたり顔を浮かべていた。

 キーンという金属音が鳴り響いた。剣が折れて帝国兵は唖然としている。

「そんなオモチャでボクに勝てる訳ないでしょ」

 ノア君はそう吐き捨てた後、軽く跳んで帝国兵の顔面を思いっきり殴打した。

 これもまた帝国軍の支部基地の入り口の方に飛んでいくなり、扉を完全に破壊していた。中から「なんだ! なんだ!」とゾロゾロと帝国兵がこちらの様子を見に来たのだった。

「やってくれたねノア君」

「まだまだ不完全燃焼だよ。聖女様も怒っていないじゃないか」

 ノア君は私が仮面を被っていてもどういう表情をしているのか分かっているようだった。

 そう私は迷っていたのだ。町民の信頼を獲得しつつ、帝国軍に粛清しつつ、反乱軍のスパイを見つけようと考えていた


 別にいいじゃないか。町民に一切の手を加えないという大前提を守りつつ悪人になろう。反乱軍が少しでも動きやすいようにとことん潰していていこうよ。

「2人共、暴れることを許可します。但し死体の山を見たいわけじゃない。恐怖を植え付けてやるのよ。死んでなければ私が全員治してあげるから」

「おう」

「分かりました。お姉様」

 なりゆき君ごめんね。約束初日で破っちゃった。

 
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