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変貌を遂げた黒龍Ⅰ

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「させるか!」

 そう言って青龍リオさんが黒龍ニゲル・クティオストルーデに斬りかかった。

 ガキン!

 視認できる黒龍ニゲル・クティオストルーデの身体から吹き出ている蒸気のようなものに、青龍リオさんの青龍偃月刀が弾かれた。

「マズいな」

 ダメ元で俺も黒紅煉刀くろべにれんとうを振りかざしてみる。

 勿論駄目だった。

 次は烈冥斬れつめいざんを放ってみる。

 直径約1km程の巨大な赤黒い斬撃はそのまま黒龍ニゲル・クティオストルーデに直撃。

「流石だナリユキ殿!」

「ナイス!」

 青龍リオさんとミクちゃんがそう喜んでいたものの、俺は直感的に多分効いていないと感じていた。

 烈冥斬れつめいざんを放ったと同時に、蒸気が逆流して黒龍ニゲル・クティオストルーデを包み込んでいた為、どうなっていたかを確認するのほんの数秒かかった。

 そして現れ出て来た黒龍ニゲル・クティオストルーデは、深紅の髪色に変化していた。さらに黒と赤の雷が入り混じって不気味さ全開になっている。もはや、戦闘中にこう何度も変化されると、スーパーサイ〇人の類のソレ。

 負けず嫌いがそうさせているのか。怒りがそうさせているのか定かではないが、何度も限界突破をして俺達の前に立ちはだかる最強の敵という事は認めよう。

「ちょっと待って。これマズくない!?」

 そう焦り全開で俺に問いかけてきたミクちゃん。

「マズいよ。またさらに強くなってやがる」

「ミク殿の祈禱きとうはどれくらいの恩恵があった?」

「戦闘値ベースだと、御二人共3,000くらいは上がっています」

「え? 3,000!? じゃあ俺今11,500あるの!?」

「余は11,000か――黒龍ニゲルに負ける気がしなかった訳だ」

「そうです。けど今の黒龍ニゲル・クティオストルーデはそれ以上――」

 確かにそうかも――。いやでもここは開き直って戦うしかない。どれだけ強くなったか知らんが一泡ふかせてやる。

「もういいか? 今の俺様は貴様等など相手にならん」

 そう不敵な笑みを浮かべた黒龍ニゲル・クティオストルーデ。何だかんだ黒龍コイツのこの表情は何度も見ている。が――。今までに無い程自信に満ち溢れたこの表情。何より――。

「荒々しさの中に妙な冷静さがある。どういう事だ――?」

 そう青龍リオさんが呟いた通り、どこか今までと違う黒龍ニゲル・クティオストルーデを見ているみたいだった。勿論、強さが段違いになっているので別人であるには変わりはない。しかしそれとはまた違う何かが秘められていた。

「いくぞ」

 その言葉と同時に俺は首に強烈な痛みを覚えた。苦しい。息ができない。それに強烈な寒さも感じる。まるで台風の強風に煽られているようだ。

 そう感じた2秒後くらいには頭と背中に強烈な痛みを覚えた。息が苦しく頭が重い。何なら「ゴホゴホ」と咳き込む。

 身体全身に駆け巡る強烈な痛み。頭が割れそうなくらいの痛み。ここまでの大ダメージを負ったのは久しぶりな気がする。何より背中が熱い。流血しているのは間違いなかった。

 ゆっくりと目を開けた。周りには瓦礫だらけでトンネルの先には太陽と、俺を見下ろす黒龍ニゲル・クティオストルーデの姿があった。首の痛みと強烈な風を感じてさらにはこの状況。簡単だ。ただ首を掴まれてそのまま地面に叩きつけられたのだ。天眼を持っていても見えないどころか、何が起きたか分からないという謎現象。

「その程度で死なないだろう?」

 一筋の黒い光が俺の腹部を貫通した。そのまま俺は黒龍ニゲル・クティオストルーデに引き寄せられた。

「どうだ? 今の気分は?」

「どうもねえよ……」

「そうか」

 黒龍ニゲル・クティオストルーデはそう言って俺の顔面を殴打した。この世界に来て何度も戦っているけど、痛みを感じる戦闘は数えるほどしか無かっただけに、苦しいと感じる戦いはぶっちゃけ好きじゃない。まあそれはそれである意味楽をしてきたって意味に捉えられるかもしれない。けど、これこそが漫画やアニメに出てくるキャラ達が感じている当たり前の事なんだ。なので、黒龍ニゲル・クティオストルーデの問いかけに「どうもない」と答えることにより、自身を奮い立たせた。

 スピリチュアルな本で度々目にする魂レベルについて。輪廻転生を繰り返す中で我々には魂レベルというものが存在する。そして性格によって魂レベルが異なってくるわけだが、その人の魂レベルによって、与えられる苦難や試練が違ってくるというものだ。

 またしてや、俺は二度目の人生だから、こんなややこしい事ばかりに巻き込まれる。ぶっちゃけ嫌だなとか感じることもある。特に今回の黒龍ニゲル・クティオストルーデがそうだ。俺がこの世界で数少ないZ級の存在だからこそ課せられている試練。

 今のこの辛い痛みも。尊い命を守る責任も。この状況全て――。

「起こる事は全て最善――」

 俺はそう声を出して言った。こう唱えると流れに身を任すことができ、どんな困難な状況であっても前向きに捉えるができる魔法のコトバだ。

「何を言っている?」

 黒龍ニゲル・クティオストルーデはそう首を傾げて俺に怪訝な表情を浮かべていた。

「いや、何でもない。なんかちょっとワクワクしてきてな」

「ほう」

 今までの黒龍ニゲル・クティオストルーデなら俺の言葉に笑い転げていたかもしれないし、頭がおかしくなったと揶揄されていたかもしれない。はたまた、舐めた人間だと激昂していたかもしれない。ただ目の前にいる黒龍ニゲル・クティオストルーデは、どこか俺という存在を認めているかのような眼差しだった。

「俺様の一撃で沈んでしまったここにいる龍とは訳が違うようだな」

 黒龍ニゲル・クティオストルーデはそう言って、俺が出て来た穴とは違う方の穴を指していた。俺と同時に青龍リオさんも飛ばされたようだ。今は気絶している青龍リオさんに、ミクちゃんが決死の治癒ヒールを行っている。

「ミクちゃん達を攻撃しないのか?」

 今までの黒龍ニゲル・クティオストルーデなら、迷わずミクちゃん達にトドメをさしていた筈だからこその疑問だ。

「単純な話だ。確かに俺様は強くなったが、どうも貴様から目を離してはいけないような気がしてな。この絶望的な状況において、目を輝かせいている貴様からな」

「それはどうも」

 そうかやっと分かったぞ。今の黒龍ニゲル・クティオストルーデには、弱者に対しても油断をしないという冷静さがある。その冷静さがあるからこそ、直感的にさらに戦いづらくなったと感じたのだ。

「面白い」

 俺は自然とそう呟いていた。
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