女子大生の同居人

天樹 一翔

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出会いは突然 1

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 優司は重い足取りでビルを出て駅へと向かった。 

 まるで心の中がカラッポになったようだった。

 しかし、まだ確認していないことがあった。一縷の望みをかけてスマホを取り出してLINEのスタンプが送れるかをチェックしてみた。すると、望はこのスタンプを持っているためプレゼントできません。と表示されていた。

 終わった。もう望と連絡する手段が完全に途絶えてしまった――。

「歩くのってこんなにしんどかったっけ」

 そう呟いて歩く優司には、その重すぎる足取りが気になり、怪訝な表情で優司を見る人が点在していた。

 ただ優司はそんなことは気にも止めず、シャンパンゴールドのイルミネーションが施されている木が立ち並ぶ歩道を抜けて行く。

 そしてすれ違う人々もまた、そのイルミネーションに負けないくらいの輝きを放っていた。一着十万円は下らないであろうスーツを着た男性達と、エルメスやプラダの鞄を持った華やかな女性達――。

 今の優司から放たれているオーラは、その行き交う人々とは真逆のオーラだった。

 しばらく歩くと高層のビル群が点在している中、オレンジ色にライトアップされた東京駅が見えてきた。丸の内南口の中に入ると、西洋風のエントランスホールが駅の利用客を迎える。

「やけに眩しく見えるな」

 優司がそう力無く呟きながら、ICカードをチャージするために券売機に向かったところだった。券売機の横に何やら見覚えがある十代後半~二十代前半の黒髪の女性が、横にキャリーバッグを置いて佇んでいる。その綺麗であろう茶色の瞳には何かの負の感情が宿っていた。青白い肌に傷んでいるセミロングの黒髪。

どこで見たことあるのだろう。そう考えていると、優司はあることを思い出す。

 おもむろにスマホを取り出してLINEを開く。そして過去のメッセージを遡り、うりちゃんという黒い女の子の髪をしたイラストのトークルームを覗き、過去のメッセージを遡る。

 LINEのメッセージのやりとりは今から約一年程前だ。この時は一日に数十回程LINEのやりとりをしていて、Twitterのゲームアカウントでも頻繁にリプなどでやりとりをしていた。

「あった」

 送られてきていた画像をタップし、数メートル先で佇んでいる女の子と照らし合わせる。

「やっぱりうりちゃんだ。なんでこんなところに。出身地は富山だったはず」

 優司は疑問でしかなかった。一体こんなところで何をしているのだろう?  と考えていたが、うりちゃんとの今までのやりとりを考えると、何かしらの事情があるには違いなかった。

 当時はうりちゃんがまだ17歳のときに、ゲームのフレンドとして優司は知り合った。そこから何度か一緒にゲームをプレイするうちに、うりちゃんから優司に相談するようになっていた。恋愛だったり家族関係といったことだ。特に恋愛に関しては酷く悩んでいた。付き合っていた人からDVを受けたり、無理やり性行為を求められたり、暴言を言われたりなどの類いだ。結局、優司の助言で別れることになり、それからさらに交流が深まり毎日SNSでの絡みをしていた。そんな関係だったからこそ、LINEも知っているし互いに顔写真は交換していた。苗字は流石に知らないが名前は知っていた。彼女の本名は優菜だ。

 だが、一つだけ懸念点がある。それは、LINEがブロックされてしまっていたことだ。それこそ一年程前で優司達の時間は止まっていた。

 数秒考えた結果、優司は声をかけることを決意した。

「うりちゃんだよね?」

 優司の問いかけにビクッと体を震わせて、俯いている顔をゆっくり上げた。

「俺だよ。ふぁいだよ」

 その言葉に淀んでいた瞳に少しだけ明るさを取り戻した。

「ふぁいさん……?」

「覚えてくれている?」

「うん勿論だよ。お世話になった人の名前と声を忘れるわけないよ」

 そう言っている優菜の表情は凄く柔らかいものだった。しかし、笑顔を見せたが元気一杯の笑顔というより、精一杯の笑顔だった。優司からすれば、先程の暗い雰囲気から自分の名前と声を発するだけで、ほんの少しでも明るさを取り戻してくれたので優司としては嬉しくて、安堵の表情が自然に浮かんでいた。

「そう言ってくれるのは嬉しいな。実家は富山だっただろ? 何でまた東京にいるの?」

「その前にまず謝罪しないといけないことがある」

 優司は怪訝な表情を浮かべつつもゆっくりと待つ。

「LINEをブロックしてTwitterからも何も言わずに消えてしまってごめんなさい」

 優菜はそう言って頭を下げた。

「いいよ別に」

 優菜は優司のあっさりした対応に一瞬驚いたが、精一杯の感謝を述べた。

「ありがとうございます」

「で、どうしたの?」

 優司の質問に一瞬口ごもったが――。

「一年前に消えた理由はLINEをブロックしてTwitterからも消えた理由と関係があるの。それは東京にいる彼氏とその時期くらいから遠距離で付き合い始めて、その半年後にはこっちで一緒に暮らしていたんだ」

 優司は一瞬驚いたが、優菜の複雑な家庭事情を考えると何ら不思議ではなかった。それに優菜自身が寂しがり屋で、遠距離だと不安に押し潰されて、皆が寝ている時間帯に起きており、朝になると寝るという悪習慣だ。厄介なのはそのせいでホルモンバランスに乱れが生じて、情緒不安定になるという負のサイクル。それを考えると、夜型人間ということではない。

「そんな中、最近彼氏に家を追い出されて……」

突如泣き始める優菜。優司には、優菜が何を言おうとしているのか察することができた。優菜もまた自分と同じ可哀想な人間なんだと――。

優司は必死に考えた挙句――。

「うりちゃん一つだけ訊いていい?」

「なに……?」

「住むところ無いのか?」

「な……い……」

 優菜が力無く答えると、優司は「やっぱり――」と溜め息をつく。東京駅にいたのは、実家に帰ろうか迷っていたのだろうと推測できた。しかし、優菜が実家に帰ると、両親は常に喧嘩をしており、その巻き沿いを喰らい邪険にされ、心無い言葉を毎日言われる――。そんな毎日がまた続くのだ。戻るか戻らないかで迷うのは至極当然のことだ。

「俺の家で泊まるか? それともしばらく一緒に暮らすか? 家を出ていくタイミングはいつでもかまわない」

 優司はそう優しく問いかけてみた。しかしながら、そうは言ったもののやりとりは確かに長い事していたが、実際に会うのは今日が初めてだ。気持ち悪い以外の何者でもない――。優司は言った後に後悔した――。

 すると優菜は涙をハンカチで拭いた。

「へ? いいの……? 私何もできないよ?」

 優菜は顔を上げて優司の顔をじっと見た。

「放っておけないだけだ。お節介かもしれないけど、今は特に――」

 振られて悲しい気持ちになっているからこそ、同じ境遇の優菜を見過ごすことができなかった。

「本当に?」

「ああ本当だ」

 すると、優菜の表情が一気に明るくなった。

「うりって名前じゃなくて、優菜って呼んでほしい」

「分かった優菜って呼ぶよ。優菜は俺の事を優司って呼んでくれ」

「うん。覚えていたよ。優司君って呼ぶね?」

「ああ」

 優司は改札口の方を見て微笑んだ。

「さて、家に帰ろうか」

「うん。ありがとう」

 優菜は優司に笑顔を向けた。気付けば、優司は振られたことを忘れたかのように、明るい優菜に戻ってくれるだろうか? という想いで頭がいっぱいになっていた。

 止まっていた時間が再び動き始めた瞬間だった。
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