名前を棄てた賞金首

天樹 一翔

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第5話 不覚

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 朝を迎え、窓から太陽の光が差し込む。セシリアは体を起こし、しばらくボーっとすると、宿に借りていた寝巻きを脱ぎ、自分の服に着替える。デスクの上に置いていたダイアモンドの首飾りを手に取り、力強く握り締めたあと今日も宜しくと一言。首にかけ、ホルスターにはレミントンを突っ込む。

「今日こそ見つけてやる!」

 セシリアは頬を両手ではたき、この宿から出て行った。今日は昨日聞きこんでいなかった町民に尋ねていく。とは言っても、聞いていない人は四分の三も残っていた。地味ではあるが仕方のないことだ。

 まずは、この町の朝で一番賑やかな場所でもある市場に向う。豚肉はもちろん、ウサギに雷鳥、鴨、七面鳥などの肉類。豆、カボチャ、とうもろこし、カブ、ジャガイモなどの野菜まで。様々なものが置かれている。食べ物だけでなく、ミネラルウォーターや改造された銃器なども。中には、壺や金の器といったものを高額な値段で販売しているところも。本物のお宝なのかどうか怪しい。

 セシリアはまず、改造された銃器を販売している中年男性に話しかける。

「カーリー保安官が水の供給以外にしている事があるならば、是非それを教えてほしいのですが」

「知らないね。でもここだけの話、カーリー保安官にみんな困っているんだ」

「どういうことですか?」

「多額の税金を要求してくるんだよ。お金に困っていないはずなのに酷い話だよ。保安官補佐のバレットさんはそんなことないんだけどね」

「優しいという意味ですか?」

「ああそうさ。彼は明るく喋るタイプではないけど、みんなの事をよく考えてくれている。過去になにがあったのか知らないけど、騒がれていたときとの印象とは全く違う」

「騒がれていた?」

 商人の意味深な発言に、思わず下に敷いている布の上にある銃器を踏みそうになってしまった。商人はしまったと言わんばかりに口を両手で塞ぐ。

「今のは聞かなかったことにしてくれ」

 そう言ってセシリアは追い払われた。他に当たっても言われることは同じ。政府の情報は確かなのかを思い始める。そして、バレットが過去に騒がれていたというのも引っかかる。

 はあと溜め息をついてトボトボ歩いていると、処刑場のある広場に着く。木造の土台、そこに吊るされている縄。首吊りの刑罰を受けるところで、ここは昨夜、ウォーカーが酒場に向かう時に通った場所である。

 すると、枯草が風に吹かれて転がり、砂の中に混じって銀色に輝く場所がある。

「あの光っているのは何かしら」

 屈んで砂をできだけ払っていく。するとそこにあったのは――。

「鉄? 一体なんでこんなところに」

 バッグから、手袋を取り出して砂を素早く払っていくと、取っ手のような物を発見。

「扉になっているのかしら?」

 取っ手を引っ張ると、乗っている砂はサラサラと落ちていく。大人二人分くらいの大きさの鉄の扉は、予想をしていたよりも軽く簡単に開くことができた。

「行ってみよう」

 梯子が掛かっているものの、そこは真っ暗で何も見えない。バッグからライトを取り出して中の様子を確認。どうやら十メートルほど進めば、足場があるようだ。

 ゆっくり降り、足が地面に着くと、ライトを照らして辺りを見渡す。向って後ろ側に鉄で出来た床がある一本の道。
 
 床が少し傾いていて地下へ進んでいるようだ。地下に来ている事もあり少し寒い。足音がよく反響する。

 この道は五分ほど歩いたのだろうか? 同じ風景でただ真っ直ぐなだけの道で、実際よりも長く感じてしまった。そして、今、目の前には鉄の扉と下矢印がついているボタン。

「何コレ? 見たことがないわ」

 下矢印のボタンをとりあえず押してみる。すると、鉄の扉が開き、何もない白い空間がセシリアを出迎えた。それに乗ってみるが何も起こらない。

「えっとコレかしら?」

 その部屋の中にあったOPENとCLOSE。そのCLOSEボタンを押すと、二秒ほど経ってから、この鉄のリフトはゆっくりと下に向って動き始めた。

「えっ、何よこれ」

 そう言いながらドアを叩くが、完全に閉じ込められている。数秒間、戸惑っていると鉄のリフトが静止した。

「よかった」

 扉が開いたのでそこから出ると、黒い三段の物置に、大量の木箱が置かれている倉庫のような場所だった。広さは朝通った市場くらいの大きさでとても広い。セシリアはその木箱の一つを開けてみる。

 しかし、入っていたのは梱包された鉄の板。何のために使うのか分からない。元の位置に戻し他も開けてみるがそれもまた同じもの。

 この数を一つずつ開けて確認するのはかなりの時間がかかる。セシリアは数十メートル先の奥に見える扉に向うのだった。

 先程の倉庫を出るとそこは驚くべき光景で、地下にこれほど広い空間があったのかと驚愕する。

 円状のこの空間の隅には手すりつきの鉄網の通路が十メートル間隔であり、それが合計で五つ。彼女は下から数えて一つ目の通路にいた。ここにいては見つかってしまうと思ったセシリアは、左の方向に見える鉄のトンネルのような薄暗い場所に入り、そこから少し顔を覗かせて下の様子を伺う。

 動く様子のない鋼鉄のサソリの傍で、スキンヘッドの男と話しているカーリーを発見。後ろにある扉を発見し、開けようと試みるも、鍵がかかって入る事ができない。
そう悩んでいるところ、鼻歌を歌いながらセシリアに近付いていく男性研究者がいた。彼はセシリアには全く気付かず、扉を開けて通路に入っていく。

 そのあとを、足音を立てずに後ろについていくセシリア。そして、近付くと黒い棒を背中に当てると、体に電気が走り、研究員は気絶する。

 ロッカーに気絶している研究者を入れて閉じ込める。セシリアはコートを羽織った後、この部屋を出る。

 その次の部屋には、下に繋がる階段を見つけた。螺旋状の階段になっていて、そこを抜けると新たな部屋に辿り着く。

 右側の長方形のデスクの上には、ショーケースに入ったサソリが。一方、左側のデスクにはムカデが保管されている。鋼鉄生物で一番メジャーな二種類の生物である。

「やっぱりカーリーが」

「その通りだよ。あまちょろ娘」

 セシリアは声の聞こえる右へ視線を移す。そこには不敵な笑みを浮かべるカーリー保安官の姿があった。
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