追放された元聖女はSSS級冒険者と旅にでることにしました

三好野

文字の大きさ
3 / 17

十一歳、出会いと悲しみの冬 2

しおりを挟む
 夕食後、グレースたちは各々に与えられた寝所に戻った。
 聖女候補にはそれぞれ狭いながら寝所として部屋が用意されている。
 机と椅子がそれぞれ一脚ずつ、ベッドが一台と簡素なものだが人目を気にしなくてよいのは有難い。
  
 部屋に戻ったグレースには日課がある。
 それは、書庫から借りてきた御伽話を読むことだ。
 
 勇敢な王子が世界を冒険する話しで、ページを進めるごとにグレースの疲れた心を癒してくれた。
 今日もベッドの上で毛布に包まりページを捲る。
 
 燃えるように赤い湖に雲の高原、魔石で出来た洞窟。
 本の中の王子が旅する場所はいつも夢で溢れている。
 
 この時だけは自分が聖女候補であることを忘れ、自由を謳歌する旅人になれた。

 私もいつかこんな冒険に出てみたい――― 
  
 そんな淡い期待を寄せながら、グレースは物語に集中した。


 ◆◆◆


 夜も更けてきて、遠くでゴーンっと鐘の鳴る音が聞こえる。
 これは消灯を知らせる合図で、鐘が鳴らされたら部屋の明かりを落とす決まりだ。
 
 グレースは栞を本に挟み、机の上に置く。
 そして、ローソクの火を消してベッドに戻ろうとした時だった。
 
 コンコン。
 小さく扉を叩く音が聞こえた。

 「どなた……」
 「グレース、あたしよ。アイラよ」
 
 扉の向こうで聞こえた声は心なしか怯えているようだ。
 グレースは燭台を手にそっと扉を開けた。
 
 「どうしたの、何かあった?」
 「……えっと、その…お手洗いに…」
 
 恥ずかしそうにもじもじするアイラの様子と“お手洗い”という言葉で理解する。
 アイラは今だにトイレに一人でいけない時があり、その時はいつもグレースを訪ねてくるのだ。
 
 「怖い夢でも見たの?」
 「ううん、今日は一人で行こうとしたの。だけど途中で中庭で物音がして…」

 なるほど。
 グレースは納得した。
 
 寝所からトイレまでは中庭にある吹き抜の廊下を通らなければならない。
 冬の中庭は緑がなく、木々も裸のものが多く寂しい景色だ。
 そして夜になると寂しさに闇の不気味さが追加される。
 
 僅かな緑も闇色に染まり、木々の輪郭だけが暗闇の中に佇んでていて、魔物の陰のように思うだろう。
 加えて今日は風が強いみたいで、窓ガラスが揺れる音が聞こえる。
 風が吹けば茂みがざわつく。
 そのざわつきにアイラは恐怖を覚えたのかもしれない。
 
 アイラを怯えさせる要素は十分にある。
 そう認識したグレースは優しく微笑んで彼女の頭を撫でて言った。
 
 「大丈夫、私が一緒に行ってあげる」
 
 アイラは安心したように息を吐き、グレースは燭台を持って廊下に出た。 
 そしてアイラと中庭まで歩みを進めた。
 
 吹き抜けの廊下は冬の冷えた空気に満ちており、思わず身震いするほどだ。
 雲がかかっているのか、月もでておらず中庭は闇そのものだった。
 風に揺られて茂みがざわつき、びゅうびゅう聞こえる風の音は魔物の唸り声のようで気味が悪い。

 アイラが恐がるはずだ。
 自分でさえ、足が竦んでしまいそうだ。
 
 グレースは息を大きく吸い込み、手をかざし複数の小さな光の玉を出現させた。
 
 「ほら、これで恐くない」
 
 ぽぅっと灯った光の玉はシャボン玉のようにふわふわと浮遊し、辺りを照らす。
 
 「わぁ、これ可愛い! 妖精みたい。あたしにもやってみよっと!」
 
 アイラは白い息を吐きながらはしゃぎ、グレースを真似て小さな光の玉を手をかざして飛ばす。
 二人が出した光の玉は不気味な中庭をライトアップし幻想的な場所へと変貌させた。
 
 「すごい、すごく綺麗ね! 魔法がこんなに楽しいなんて思わなった」
 
 光の玉の中を楽しそうにくるくる回るアイラの言葉にグレースは、ハッとした。

 私もだ、私も魔法がこんなに楽しいなんて思わなかった。
 毎日の鍛錬で疲れ果てるまで使い続ける魔法は苦痛そのもので、魔力なんてなければいいのにとさえ思ったこともある。

 「ええ、そうね。私も楽しいなんて思ったことなかったわ」
 「じゃあ、グレースも楽しいのね? あたしも今、すっごく楽しい!」

 アイラの正直で真っ直ぐな性格をグレースはたまに羨ましく思う。
 楽しいことは楽しい、嫌なことは嫌。
 グレースにはいつだって、そう言えるだけの自信がない。
  
 「ねぇ、アイラ」
 「なぁに、グレース」
 
 無邪気なアイラにグレースは控えめに語りかけた。
 
 「もし聖女になれなかったら、どうする……?」
 「聖女に? うぅん、そうねぇ」
 
 少し考えるような素振りをみせたアイラは笑顔で答える。
 
 「あたしは嬉しいかも。お父様にお母様、それにお兄様たちとまた一緒に暮らせるものぉ」
 
 やっぱり。
 アイラには待ってくれている人がいるけど、グレースにはいない。
 アイラには帰る場所があり、グレースにはない。
 
 グレースは心の中に黒い何かが燻るのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・
恋愛
平民孤児であるセレスティアルは、守護獣シィに力を捧げる【聖女】の一人。しかし他の聖女たちとは違い、儀式後に疲れ果ててしまうため「虚弱すぎる」と、本当に聖女なのか神殿内で疑われていた。 育ての親である神官長が拘束され、味方と居場所を失った彼女は、他の聖女たちにこき使われる日々を過ごす。そしてとうとう、平民が聖女であることを許せなかった王太子オズベルトによって、聖女を騙った罪で追放されてしまった。 命からがら隣国に辿り着いたセレスティアルは、そこで衰弱した白き獣――守護獣ラメンテと、彼と共に国を守ってきた国王レイと出会う。祖国とは違い、守護獣ラメンテに力を捧げても一切疲れず、セレスティアルは本来の力を発揮し、滅びかけていた隣国を再生していく。 「いやいや! レイ、僕の方がセレスティアルのこと、大好きだしっ!!」 「いーーや! 俺の方が大好きだ!!」 モフモフ守護獣と馬鹿正直ヒーローに全力で愛されながら―― ※頭からっぽで

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな
恋愛
 学校帰りにいきなり眩い光に包まれて連れて来られたのは異世界でした。  王子はこんなちんちくりんは聖女ではないと言い放ち、私を王宮から追い出しました。  元の世界に帰る方法は、魔王の持つ帰還の指輪が必要と言われ、途方にくれた私の前に現れたのは、美形の魔王でした。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...