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十一歳、出会いと悲しみの冬 6
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「スノウ様、お怪我をなさっています」
「ああ、これはただの掠り傷だ。気にするな」
「いいえ。そういう訳には参りません。魔法で治療しますので、腕を出してください」
グレースの真剣な眼差しにスノウも黙って傷がある方の腕を出す。
彼は掠り傷だと言ったが、皮膚の裂け具合から言って相当痛そうだ。
目を背けたくなるのを我慢して、傷に向けて手をかざす。
「癒しよ……」
小さな光が手から放出され、傷口がみるみる塞がっていく。
よかった、上手くいって。
実践魔法の成績はいい方なので自信はある。
しかし、実際に傷を治すのは初めてだったので多少は心配になっていた。
やがてスノウの腕から傷は完全に消え、グレースは小さく息を吐く。
「へぇ、さすがは聖女候補。俺、魔法は苦手だから感心するよ。ありがとうな」
自分の腕を興味深そうに眺めながら、嬉しそうなスノウ。
グレースは魔法を使ってお礼を言われたことなんてなかったので、くすぐったいような気分になる。
「……いいえ、傷が治って良かったです。スノウ様」
「あー、そのスノウ様っての、やめないか? 俺もグレースって呼ぶし、お前もスノウって呼んでくれ。その方が仲良くなれる」
スノウは屈託のない笑顔を見せてくる。
対してグレースは内心で驚いていた。
“その方が仲良くなれる”
今まで魔石殿の中で聖女候補以外の人々はグレースの黒い髪と瞳の色を忌み嫌い、仲良くなりたいなどと言う者はいなかった。
だから、不安にもなる。
グレースはその不安を口に出してみることにした。
「あなたは私の髪と目を見ても、何も思わないのですか……」
「お前の髪と目? もしかして、悪魔の色を気にしてるのか」
俯きがちにコックリとグレースは頷く。
「俺はそんなこと気にしてないから、安心していい。寧ろ、グレースの髪は絹のように艶があって綺麗だと思う」
「き、綺麗だなんて…」
恥ずかしくなってもごもごとグレースは口ごもる。
そんな言葉、死んだ両親以外は誰も言ってくれなかった。
魔石殿に来てから、氷のように冷え切っていた心が溶けていく気がする。
ひょっとしたら、スノウは魔法が使えて聖女候補である自分のことを珍しがっているのかもしれない。
それでもグレースは構わないと思う。
出会いは良いとは言い難いが、スノウは赤くなって泣いたグレースを笑わなかった。
回復魔法を褒めてくれて、仲良くなりたいと言ってくれた。
皆が忌み嫌う髪と目に色を気にしていない、綺麗だと……
そう言ってくれたのだ。
嬉しい、私もこの人と仲良くなりたい。
「……ありがとう、スノウ」
グレースの口から自然と言葉が紡がれる。
僅かにスノウが驚いて、その後すぐに微笑んだ。
「グレースはその方がいい」
「……? その方がいいって??」
言っている意味が分からなくて、聞き返してみる。
スノウは何故か困ったみたいに頬を掻き、前を向いてしまう。
「……スノウ?」
心配になって声を掛けてみたら、思わぬ答えが返ってきた。
「……笑った方が可愛いって意味だよ…」
スノウの頬はほんのり赤い。
しかし、グレースの方が熟れたリンゴのように真っ赤な顔をしている。
起床の鐘が澄んだ冬の空気に鳴り響く。
緑の少ない中庭の地面に白い雪がふんわり落ちて、薄っすらと消える。
二人が出会ったのは、そんな儚い季節だった。
「ああ、これはただの掠り傷だ。気にするな」
「いいえ。そういう訳には参りません。魔法で治療しますので、腕を出してください」
グレースの真剣な眼差しにスノウも黙って傷がある方の腕を出す。
彼は掠り傷だと言ったが、皮膚の裂け具合から言って相当痛そうだ。
目を背けたくなるのを我慢して、傷に向けて手をかざす。
「癒しよ……」
小さな光が手から放出され、傷口がみるみる塞がっていく。
よかった、上手くいって。
実践魔法の成績はいい方なので自信はある。
しかし、実際に傷を治すのは初めてだったので多少は心配になっていた。
やがてスノウの腕から傷は完全に消え、グレースは小さく息を吐く。
「へぇ、さすがは聖女候補。俺、魔法は苦手だから感心するよ。ありがとうな」
自分の腕を興味深そうに眺めながら、嬉しそうなスノウ。
グレースは魔法を使ってお礼を言われたことなんてなかったので、くすぐったいような気分になる。
「……いいえ、傷が治って良かったです。スノウ様」
「あー、そのスノウ様っての、やめないか? 俺もグレースって呼ぶし、お前もスノウって呼んでくれ。その方が仲良くなれる」
スノウは屈託のない笑顔を見せてくる。
対してグレースは内心で驚いていた。
“その方が仲良くなれる”
今まで魔石殿の中で聖女候補以外の人々はグレースの黒い髪と瞳の色を忌み嫌い、仲良くなりたいなどと言う者はいなかった。
だから、不安にもなる。
グレースはその不安を口に出してみることにした。
「あなたは私の髪と目を見ても、何も思わないのですか……」
「お前の髪と目? もしかして、悪魔の色を気にしてるのか」
俯きがちにコックリとグレースは頷く。
「俺はそんなこと気にしてないから、安心していい。寧ろ、グレースの髪は絹のように艶があって綺麗だと思う」
「き、綺麗だなんて…」
恥ずかしくなってもごもごとグレースは口ごもる。
そんな言葉、死んだ両親以外は誰も言ってくれなかった。
魔石殿に来てから、氷のように冷え切っていた心が溶けていく気がする。
ひょっとしたら、スノウは魔法が使えて聖女候補である自分のことを珍しがっているのかもしれない。
それでもグレースは構わないと思う。
出会いは良いとは言い難いが、スノウは赤くなって泣いたグレースを笑わなかった。
回復魔法を褒めてくれて、仲良くなりたいと言ってくれた。
皆が忌み嫌う髪と目に色を気にしていない、綺麗だと……
そう言ってくれたのだ。
嬉しい、私もこの人と仲良くなりたい。
「……ありがとう、スノウ」
グレースの口から自然と言葉が紡がれる。
僅かにスノウが驚いて、その後すぐに微笑んだ。
「グレースはその方がいい」
「……? その方がいいって??」
言っている意味が分からなくて、聞き返してみる。
スノウは何故か困ったみたいに頬を掻き、前を向いてしまう。
「……スノウ?」
心配になって声を掛けてみたら、思わぬ答えが返ってきた。
「……笑った方が可愛いって意味だよ…」
スノウの頬はほんのり赤い。
しかし、グレースの方が熟れたリンゴのように真っ赤な顔をしている。
起床の鐘が澄んだ冬の空気に鳴り響く。
緑の少ない中庭の地面に白い雪がふんわり落ちて、薄っすらと消える。
二人が出会ったのは、そんな儚い季節だった。
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