15 / 17
十二歳、夏至祭と波乱の夏 8
しおりを挟む
齢十四歳になるエイデンの妃の座を狙う女は後を絶たない。
王城で繰り広げられる夜会では数多の貴族の娘が日夜、ドレスを着飾り美貌を磨く。
それもこれも、良縁に巡り合うためだ。
それが権力があり気位の高い貴族の娘となれば、至極当然に未来の王である王子の花嫁を目指す。
娘が王妃になった暁には一族郎党までにその家の権力は増し、孫子の代まで栄えることが確約される。
よって、年頃の婚約者もいない王子の心を射止めるべく、娘の教育にどの家も余念がなく躍起になっているのだ。
無論、ミルフィーユの家だって例外ではない。
ミルフィーユ・メリリース。
父は有名貴族、メリリース家の当主であり、この国の宰相。
母の実家は王族の遠縁にあたる血縁者だ。
血筋、家柄ともに申し分のないミルフィーユは、類まれない光属性の魔力に加え美貌にまで恵まれた。
王妃になるべくして生まれたと言われて育ち、本人もそれを疑わない。
両親も一人娘の彼女を幼い頃から甘やかし、傲慢で我儘に育とうがお構いなしで、年頃になれば金と権力を駆使して王子の婚約者にねじ込めばいいと考えていた。
しかし、その夢は突如として打ち砕かれることとなる。
ミルフィーユが九歳の頃、聖女候補として魔石殿に下るよに聖女からお達しがあった。
栄華を極めてきたメリリース家と言えど、未だかつて聖女はおろか候補者すら出したことがない。
父も母も大変栄誉なことだと喜んだ。
ミルフィーユも自分が特別な存在なのだと自負していたため、最初のうちこそ快くお思っていたが―――
魔石殿での厳しい規則を知って絶望した。
毎日の鍛錬は厳しく苦しいし、好きな時にお茶やお菓子を食べられない。
当てが割れた部屋だって、ミルフィーユにとっては部屋というにはおこがましい狭い物置同然だった。
衣装だって決まった物以外は着られない。
おまけに専属の使用人すら付かないのだ。
上記だけならば、どうやって生きていけばいいの! と、嘆くだけで済んだかもしれない。
さらに致命的だったのは、聖女候補が魔石殿から出ることをを禁じる規則だ。
十歳の誕生日には盛大な宴を催して、エイデン王子と引き合わせる。
そう父は約束した。
約束の日からミルフィーユの準備に抜かりはない。
一年も前から虎視眈々と計画を進め、準備は万全。
エイデンの性格、好み、趣向……徹底的に情報を精査し、彼の理想に限りなく近い可憐で淑やかな美少女として生活を送って来た。
計画ではこの日にエイデンと出会い、確実に恋に落ちる予定だった。
それが聖女候補になったせいで水の泡と消えたのだ。
誕生日は次の週だったに。
計画の実行が不可能と分かり、すぐに抗議の手紙を父に送る。
けれど、返って来たのは期待外れの返事だった。
聖女候補を辞退することは許されない。
その一文だけが手紙に記載されおり、ミルフィーユは怒り狂った。
今まで自分の思い通りにならなかったことはない。
あの時だけは、ヒステリックな悲鳴を上げ備え付けのクッションを殴りまくりまくった。
ひとしきり怒りを発散せた後、どうにもならい現実に思いつく。
そうよ。
この立場を利用すればいい。
他の娘よりも聖女候補として魔石殿に務めるわたくしは特別に見えるはず。
魔石殿でわたくしの評判を上げれば、いずれ王子の耳に届く。
いいえ、届かせるのよ。
絶対にっ!
ミルフィーユは信念に燃えた。
聖女候補として生活を送る一方で、常に根回しを行った。
魔石殿にこれまでにないはど、美しい聖女候補がいる。
定期的に父に噂を広めるように手紙を送り続け、エイデンに対しての情報収集も怠ったことはない。
途中の聖女候補試験だって事前に情報を仕入れた上で、メリリース家の権力と財力を最大限に活用して魔力を増強させる新薬を手に入れ完璧に突破してやった。
他の聖女候補なんて眼中にない。
八つ当たりのおもちゃ程度に考えておけばそれでいい。
王妃になるのは、このわたくしに決まっているの。
もちろん、聖女になるのもね。
ミルフィーユは澄ました顔で魔石殿の大人たちには愛想を振りまき、裏ではずる賢く暗躍した。
こうして、実に三年の月日が経過したが、作戦は成功して噂を聞きつけたエイデンがミルフィーユに会いにくる。
エイデンは自分以上に傲慢で我儘、頭の悪い男だったが、見目だけは麗しかった。
期待通りの美貌に振舞いを見せたミルフィーユにエイデンは直ぐに夢中になって魔石殿に通ってくる。
可愛そうで何も知らないおまけの二人にもしっかり自慢してやることは忘れない。
物心ついた時からの目的が達成されていく感覚が面白くて、ひたすらエイデンとの安い恋愛を楽しんだ。
王城で繰り広げられる夜会では数多の貴族の娘が日夜、ドレスを着飾り美貌を磨く。
それもこれも、良縁に巡り合うためだ。
それが権力があり気位の高い貴族の娘となれば、至極当然に未来の王である王子の花嫁を目指す。
娘が王妃になった暁には一族郎党までにその家の権力は増し、孫子の代まで栄えることが確約される。
よって、年頃の婚約者もいない王子の心を射止めるべく、娘の教育にどの家も余念がなく躍起になっているのだ。
無論、ミルフィーユの家だって例外ではない。
ミルフィーユ・メリリース。
父は有名貴族、メリリース家の当主であり、この国の宰相。
母の実家は王族の遠縁にあたる血縁者だ。
血筋、家柄ともに申し分のないミルフィーユは、類まれない光属性の魔力に加え美貌にまで恵まれた。
王妃になるべくして生まれたと言われて育ち、本人もそれを疑わない。
両親も一人娘の彼女を幼い頃から甘やかし、傲慢で我儘に育とうがお構いなしで、年頃になれば金と権力を駆使して王子の婚約者にねじ込めばいいと考えていた。
しかし、その夢は突如として打ち砕かれることとなる。
ミルフィーユが九歳の頃、聖女候補として魔石殿に下るよに聖女からお達しがあった。
栄華を極めてきたメリリース家と言えど、未だかつて聖女はおろか候補者すら出したことがない。
父も母も大変栄誉なことだと喜んだ。
ミルフィーユも自分が特別な存在なのだと自負していたため、最初のうちこそ快くお思っていたが―――
魔石殿での厳しい規則を知って絶望した。
毎日の鍛錬は厳しく苦しいし、好きな時にお茶やお菓子を食べられない。
当てが割れた部屋だって、ミルフィーユにとっては部屋というにはおこがましい狭い物置同然だった。
衣装だって決まった物以外は着られない。
おまけに専属の使用人すら付かないのだ。
上記だけならば、どうやって生きていけばいいの! と、嘆くだけで済んだかもしれない。
さらに致命的だったのは、聖女候補が魔石殿から出ることをを禁じる規則だ。
十歳の誕生日には盛大な宴を催して、エイデン王子と引き合わせる。
そう父は約束した。
約束の日からミルフィーユの準備に抜かりはない。
一年も前から虎視眈々と計画を進め、準備は万全。
エイデンの性格、好み、趣向……徹底的に情報を精査し、彼の理想に限りなく近い可憐で淑やかな美少女として生活を送って来た。
計画ではこの日にエイデンと出会い、確実に恋に落ちる予定だった。
それが聖女候補になったせいで水の泡と消えたのだ。
誕生日は次の週だったに。
計画の実行が不可能と分かり、すぐに抗議の手紙を父に送る。
けれど、返って来たのは期待外れの返事だった。
聖女候補を辞退することは許されない。
その一文だけが手紙に記載されおり、ミルフィーユは怒り狂った。
今まで自分の思い通りにならなかったことはない。
あの時だけは、ヒステリックな悲鳴を上げ備え付けのクッションを殴りまくりまくった。
ひとしきり怒りを発散せた後、どうにもならい現実に思いつく。
そうよ。
この立場を利用すればいい。
他の娘よりも聖女候補として魔石殿に務めるわたくしは特別に見えるはず。
魔石殿でわたくしの評判を上げれば、いずれ王子の耳に届く。
いいえ、届かせるのよ。
絶対にっ!
ミルフィーユは信念に燃えた。
聖女候補として生活を送る一方で、常に根回しを行った。
魔石殿にこれまでにないはど、美しい聖女候補がいる。
定期的に父に噂を広めるように手紙を送り続け、エイデンに対しての情報収集も怠ったことはない。
途中の聖女候補試験だって事前に情報を仕入れた上で、メリリース家の権力と財力を最大限に活用して魔力を増強させる新薬を手に入れ完璧に突破してやった。
他の聖女候補なんて眼中にない。
八つ当たりのおもちゃ程度に考えておけばそれでいい。
王妃になるのは、このわたくしに決まっているの。
もちろん、聖女になるのもね。
ミルフィーユは澄ました顔で魔石殿の大人たちには愛想を振りまき、裏ではずる賢く暗躍した。
こうして、実に三年の月日が経過したが、作戦は成功して噂を聞きつけたエイデンがミルフィーユに会いにくる。
エイデンは自分以上に傲慢で我儘、頭の悪い男だったが、見目だけは麗しかった。
期待通りの美貌に振舞いを見せたミルフィーユにエイデンは直ぐに夢中になって魔石殿に通ってくる。
可愛そうで何も知らないおまけの二人にもしっかり自慢してやることは忘れない。
物心ついた時からの目的が達成されていく感覚が面白くて、ひたすらエイデンとの安い恋愛を楽しんだ。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします
紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド
どこにでも居る普通の令嬢レージュ。
冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。
風魔法を使えば、山が吹っ飛び。
水魔法を使えば大洪水。
レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。
聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。
一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。
「その命。要らないなら俺にくれないか?」
彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。
もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!
ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。
レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。
一方、レージュを追放した帝国は……。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる