4 / 11
4
しおりを挟む
「……では、最後に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?殿下はどのような経緯でわたくしとの婚約が決まったかご存知でいらっしゃいますか?」
「フン、知らんな。どうせ欲に染まった前侯爵が王位を平和的に簒奪しようとでもしたのだろう?残念だったな。俺は貴様らの穴だらけの策略には嵌まらん」
パキン……と、セレネの心の奥底で何かが壊れる音がした。穴だらけの策略で嵌めようとしたのは彼らの方ではないか。
「わたくしのことのみでしたら我慢も出来ますが、亡き父への侮辱は見過ごすことは出来ません。理由については承服出来かねますが、婚約破棄、了承いたしました。ただし……」
「ただし?なんだ?」
「わたくしと殿下との婚約は、『魔導契約』に基づいております」
「!? なんだと!?」
「ですので、こちらを解除しないことには、新たにそちらの令嬢と婚約をすることは出来ませんわ。……それも御存知ないのですね」
通常『魔導契約』とは絶対に破ってはいけない決め事を交わすときに行う契約である。書類を必要としないのでいつでも締結・破棄は可能だが、破棄した場合のペナルティは通常の契約よりも遥かに重いとされている上に、破棄した瞬間自動的に発動される。今回の場合王子から言い出したことにより、ペナルティがあるならば王子が受けることになる筈だが……
「ご心配せずともわたくし達の婚約に関しては、『罰則』は設けておりませんわ」
「お前の言う事だ。今一つ信じられん。しかも貴様には魔力が無いではないか!」
「信じる信じないは殿下のご自由です。契約そのものは亡き我が父と陛下の間で交わされたもの。ですので当然陛下も御存知ですが、確認されてからでは間違いなく破棄することは不可となるでしょうね」
国王は王太子が婚約破棄しようとしているなどと知れば、間違いなく反対するだろう。イーサンは以前から何度も国王に婚約の破棄を申し出ていたが叶わなかった。しかも理由をはっきりと教えて貰えない。これはもしやなにか前侯爵に弱みを握られているのでは?と常々思っていた。しかし、それは国王の事。自分には関係ない筈だ。そう勝手に考え、今回の宣言をしたわけだが。
魔導契約は先程述べた通り絶対に破ってはいけないもの。故に一度破棄してしまったら二度と同じ契約は結べない。
「契約に関しては王家側のみに撤回、破棄の権限をもつと決められております。故に破棄に私の魔力は必要ありません。殿下が宣言をし、私が受諾するのみとなります」
「……本当に罰則は無いのだな?」
「『罰則』は御座いません。『罰則』は、です。ただひとつ契約に明言されているのは、……『契約の破棄後は破棄前の状態に戻る』、……のみですわ」
「? ……まあ、よかろう。どうすればいい?」
破棄すれば破棄前の状態に戻るなど当たり前だ。それをわざわざ明文化するなどどういう意味だ?
一瞬そう考えたが、ぐずぐずしていてはこの後国王が祝辞を述べる為にホールにやって来る。もしかしたらこの騒動を見て、使用人の誰がが呼びに行っている可能性もある。
イーサンは良く考えるべきだったのだ。何故二人が生まれてすぐに契約が結ばれたのか。何故王家のみに権限があったのか。何故未来の王妃の座にしがみついていた筈のセレネがあっさりと破棄を受け入れたのか……
「フン、知らんな。どうせ欲に染まった前侯爵が王位を平和的に簒奪しようとでもしたのだろう?残念だったな。俺は貴様らの穴だらけの策略には嵌まらん」
パキン……と、セレネの心の奥底で何かが壊れる音がした。穴だらけの策略で嵌めようとしたのは彼らの方ではないか。
「わたくしのことのみでしたら我慢も出来ますが、亡き父への侮辱は見過ごすことは出来ません。理由については承服出来かねますが、婚約破棄、了承いたしました。ただし……」
「ただし?なんだ?」
「わたくしと殿下との婚約は、『魔導契約』に基づいております」
「!? なんだと!?」
「ですので、こちらを解除しないことには、新たにそちらの令嬢と婚約をすることは出来ませんわ。……それも御存知ないのですね」
通常『魔導契約』とは絶対に破ってはいけない決め事を交わすときに行う契約である。書類を必要としないのでいつでも締結・破棄は可能だが、破棄した場合のペナルティは通常の契約よりも遥かに重いとされている上に、破棄した瞬間自動的に発動される。今回の場合王子から言い出したことにより、ペナルティがあるならば王子が受けることになる筈だが……
「ご心配せずともわたくし達の婚約に関しては、『罰則』は設けておりませんわ」
「お前の言う事だ。今一つ信じられん。しかも貴様には魔力が無いではないか!」
「信じる信じないは殿下のご自由です。契約そのものは亡き我が父と陛下の間で交わされたもの。ですので当然陛下も御存知ですが、確認されてからでは間違いなく破棄することは不可となるでしょうね」
国王は王太子が婚約破棄しようとしているなどと知れば、間違いなく反対するだろう。イーサンは以前から何度も国王に婚約の破棄を申し出ていたが叶わなかった。しかも理由をはっきりと教えて貰えない。これはもしやなにか前侯爵に弱みを握られているのでは?と常々思っていた。しかし、それは国王の事。自分には関係ない筈だ。そう勝手に考え、今回の宣言をしたわけだが。
魔導契約は先程述べた通り絶対に破ってはいけないもの。故に一度破棄してしまったら二度と同じ契約は結べない。
「契約に関しては王家側のみに撤回、破棄の権限をもつと決められております。故に破棄に私の魔力は必要ありません。殿下が宣言をし、私が受諾するのみとなります」
「……本当に罰則は無いのだな?」
「『罰則』は御座いません。『罰則』は、です。ただひとつ契約に明言されているのは、……『契約の破棄後は破棄前の状態に戻る』、……のみですわ」
「? ……まあ、よかろう。どうすればいい?」
破棄すれば破棄前の状態に戻るなど当たり前だ。それをわざわざ明文化するなどどういう意味だ?
一瞬そう考えたが、ぐずぐずしていてはこの後国王が祝辞を述べる為にホールにやって来る。もしかしたらこの騒動を見て、使用人の誰がが呼びに行っている可能性もある。
イーサンは良く考えるべきだったのだ。何故二人が生まれてすぐに契約が結ばれたのか。何故王家のみに権限があったのか。何故未来の王妃の座にしがみついていた筈のセレネがあっさりと破棄を受け入れたのか……
302
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)
その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる