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エピローグ
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窓辺に立ち、そっと玻璃の入った窓を開ける。微かに風にのって届く潮の香りを新鮮な思いで吸い込むと、ドアをノックする音が耳に届いた。
「どうぞ」
ドアの方へ振り向き答えると、軽い軋み音と共にドアが開かれ、一人の男が姿を現した。
「気分はどうだい?」
「ふふ。悪くないわね」
男が窓辺に近づき、セレネの手を取りソファへと導く。座った瞬間を見計らったかの様に再びドアがノックされ、しずしずとメイドがワゴンを押しながら入室してきた。メイドは無言でお茶の用意をすると一礼し、静かに出ていく。
セレネが卒業パーティの会場から姿を消してから三ヶ月後。彼女は故国より数ヵ国離れた異国へとやって来ていた。セレネをこの国へ導いたのは故国の隣国ランセールのラネル公爵。商会を通じ知り合い、セレネの境遇を知り、セレネが王家の出方次第で故国を離れるつもりだと知ると、セレネの逃亡先としてこの邸を用意してくれたのだ。共にやってきたのはラネル公爵の次男ジェイド。商会で出会ったセレネに一目惚れをしていた彼は、セレネの婚約破棄が成った暁には結婚を申し込むつもりだった。
「アドリアードのその後がどうなったか、連絡が入ったよ」
セレネにとって捨ててきた故国。どうなろうと最早構わないのだが、気を利かせてくれたのだろう。お茶を一口飲むと静かにジェイドは語りだした。
「貴族院の議会が随分と紛糾したようだ。君は当時魔力が無かったとはいえ、王太子殿下の婚約者として公務に携わっていただろう。いくつかの有益な政策を提言していたそうだね。それほどの人材を魔力の有無だけで判断し、国から去らせた罪は償わねばならないと王家に突きつけたらしい」
よく言う、とセレネは議員達の顔を思い浮かべながら小さく呟く。議会でセレネが発言する度彼らの顔に浮かんでいたのが『女の癖に』『能無しの癖に』。王太子の婚約者だからといって調子に乗りすぎだ、と面と向かって言われたこともある。自分達の存在もセレネを国から去らせた原因だとは微塵も思っていないのだろう。
「最終的に王太子イーサンは廃嫡、新たに現王の妹君が降嫁された侯爵家の嫡男が王太子として立太子することになったようだ。イーサンは伯爵位を貰い王領のひとつを下賜されてそこに封じられるそうだ」
封じられる、……か。セレネはイーサンが今どんな顔をしているのか想像しながら思う。傲慢な男だった。魔力の大きさでしか他人を判断せず、王太子としての公務もセレネに押し付け、その癖少しでも失敗すれば論う。そんな男が絶対と信じていた魔力を失い、果たして領主としてやっていけるのだろうか。
「無理だろう。優秀なブレーンでもいれば別だが、彼の側近だった者達は皆王太子を諌めるどころか腰巾着に成り下がっていただろう?軒並みそれぞれの家に連れ戻されて肩身の狭い思いをしているそうだ」
ましてイーサンのあの性格だ。領主の仕事など何一つわからない彼を指導しようとしても、恐らく素直に言うことを聞いたりしないだろう。実務はからきしなのに、プライドだけは人一倍高いのだから。
「そうだな。彼は今、『全てはセレネが私をちゃんと支えなかったのが悪い』と言って当たり散らしているそうだよ」
典型的な似た者親子だったなと思う。息子に魔力が無かったのなら、魔力が無い者でも不自由無く生きていける国作りを行えば良かったのだ。アドリアードの周辺諸国では、魔力偏重の風潮から魔力以外も含めての能力重視へと変わってきているのだから。現に今セレネが居るこの国では、魔力があるからといって実務が出来ない人間は要職に付くことが出来ない。安易に他人の持ち物に手を出した結果が今になっていることを認められないのだろう。
「ああそれと、君を出し抜いて王妃の座に付こうとしていた身の程知らずの小娘は、男爵家から追い出され行方不明だそうだ」
セレネに階段から突き落とされた、など少し調べればすぐにバレる様な嘘で罪を着せようとしたのだ。王家が混乱している間、男爵家で謹慎を言い渡されていたのだが、父である男爵が勝手に縁を切り、追い出したそうだ。聞けば元々男爵の実子では無く、領地の下町で魔力の多いと評判だった娘を政略に使うために養子にしていたらしい。
「今頃どうしているかまでは調べなかったが、元々庶民なら何処かで逞しく生きてるんじゃないか」
学園での手管を見る限り、イーサンよりもよっぽど世渡りが上手いだろう。今後自分に関わることが無ければ、どうでもいい。そう、お茶を飲みながらセレネは思う。
「新しい王太子がどの程度の人物なのかはまだ不明だが、今回の騒動を教訓に生かせる王になれるかどうかで国の存続が決まるだろうな」
「いずれにせよもう私には関係ない事ですわ。もうこの先ずっとこの国で貴方と生きていくつもりですもの」
セレネは近日、この国に新たに進出したラネル商会の支部長に就任したジェイドの妻として、お披露目することになっている。きっとその美しさは衆目を集めるだろう。誰よりも幸せそうに微笑むセレネを他人の目に晒すのは業腹だが。
二十年後ーー
『魔力至上主義』から舵を切り、『能力主義』へと転換していたアドリアード国だったが、急転換への反発による小競り合いが絶えず、やがて国力を落とし隣国ランセールへと吸収される形で地図上から消えた。
--------------------------------
これにて完結です。
読んでいただきありがとうございました。
別で連載中の【世界樹の下で】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/980225952/639415594
#アルファポリス
もよかったら読んでいただけると嬉しいです(._.)ペコリ
「どうぞ」
ドアの方へ振り向き答えると、軽い軋み音と共にドアが開かれ、一人の男が姿を現した。
「気分はどうだい?」
「ふふ。悪くないわね」
男が窓辺に近づき、セレネの手を取りソファへと導く。座った瞬間を見計らったかの様に再びドアがノックされ、しずしずとメイドがワゴンを押しながら入室してきた。メイドは無言でお茶の用意をすると一礼し、静かに出ていく。
セレネが卒業パーティの会場から姿を消してから三ヶ月後。彼女は故国より数ヵ国離れた異国へとやって来ていた。セレネをこの国へ導いたのは故国の隣国ランセールのラネル公爵。商会を通じ知り合い、セレネの境遇を知り、セレネが王家の出方次第で故国を離れるつもりだと知ると、セレネの逃亡先としてこの邸を用意してくれたのだ。共にやってきたのはラネル公爵の次男ジェイド。商会で出会ったセレネに一目惚れをしていた彼は、セレネの婚約破棄が成った暁には結婚を申し込むつもりだった。
「アドリアードのその後がどうなったか、連絡が入ったよ」
セレネにとって捨ててきた故国。どうなろうと最早構わないのだが、気を利かせてくれたのだろう。お茶を一口飲むと静かにジェイドは語りだした。
「貴族院の議会が随分と紛糾したようだ。君は当時魔力が無かったとはいえ、王太子殿下の婚約者として公務に携わっていただろう。いくつかの有益な政策を提言していたそうだね。それほどの人材を魔力の有無だけで判断し、国から去らせた罪は償わねばならないと王家に突きつけたらしい」
よく言う、とセレネは議員達の顔を思い浮かべながら小さく呟く。議会でセレネが発言する度彼らの顔に浮かんでいたのが『女の癖に』『能無しの癖に』。王太子の婚約者だからといって調子に乗りすぎだ、と面と向かって言われたこともある。自分達の存在もセレネを国から去らせた原因だとは微塵も思っていないのだろう。
「最終的に王太子イーサンは廃嫡、新たに現王の妹君が降嫁された侯爵家の嫡男が王太子として立太子することになったようだ。イーサンは伯爵位を貰い王領のひとつを下賜されてそこに封じられるそうだ」
封じられる、……か。セレネはイーサンが今どんな顔をしているのか想像しながら思う。傲慢な男だった。魔力の大きさでしか他人を判断せず、王太子としての公務もセレネに押し付け、その癖少しでも失敗すれば論う。そんな男が絶対と信じていた魔力を失い、果たして領主としてやっていけるのだろうか。
「無理だろう。優秀なブレーンでもいれば別だが、彼の側近だった者達は皆王太子を諌めるどころか腰巾着に成り下がっていただろう?軒並みそれぞれの家に連れ戻されて肩身の狭い思いをしているそうだ」
ましてイーサンのあの性格だ。領主の仕事など何一つわからない彼を指導しようとしても、恐らく素直に言うことを聞いたりしないだろう。実務はからきしなのに、プライドだけは人一倍高いのだから。
「そうだな。彼は今、『全てはセレネが私をちゃんと支えなかったのが悪い』と言って当たり散らしているそうだよ」
典型的な似た者親子だったなと思う。息子に魔力が無かったのなら、魔力が無い者でも不自由無く生きていける国作りを行えば良かったのだ。アドリアードの周辺諸国では、魔力偏重の風潮から魔力以外も含めての能力重視へと変わってきているのだから。現に今セレネが居るこの国では、魔力があるからといって実務が出来ない人間は要職に付くことが出来ない。安易に他人の持ち物に手を出した結果が今になっていることを認められないのだろう。
「ああそれと、君を出し抜いて王妃の座に付こうとしていた身の程知らずの小娘は、男爵家から追い出され行方不明だそうだ」
セレネに階段から突き落とされた、など少し調べればすぐにバレる様な嘘で罪を着せようとしたのだ。王家が混乱している間、男爵家で謹慎を言い渡されていたのだが、父である男爵が勝手に縁を切り、追い出したそうだ。聞けば元々男爵の実子では無く、領地の下町で魔力の多いと評判だった娘を政略に使うために養子にしていたらしい。
「今頃どうしているかまでは調べなかったが、元々庶民なら何処かで逞しく生きてるんじゃないか」
学園での手管を見る限り、イーサンよりもよっぽど世渡りが上手いだろう。今後自分に関わることが無ければ、どうでもいい。そう、お茶を飲みながらセレネは思う。
「新しい王太子がどの程度の人物なのかはまだ不明だが、今回の騒動を教訓に生かせる王になれるかどうかで国の存続が決まるだろうな」
「いずれにせよもう私には関係ない事ですわ。もうこの先ずっとこの国で貴方と生きていくつもりですもの」
セレネは近日、この国に新たに進出したラネル商会の支部長に就任したジェイドの妻として、お披露目することになっている。きっとその美しさは衆目を集めるだろう。誰よりも幸せそうに微笑むセレネを他人の目に晒すのは業腹だが。
二十年後ーー
『魔力至上主義』から舵を切り、『能力主義』へと転換していたアドリアード国だったが、急転換への反発による小競り合いが絶えず、やがて国力を落とし隣国ランセールへと吸収される形で地図上から消えた。
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これにて完結です。
読んでいただきありがとうございました。
別で連載中の【世界樹の下で】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/980225952/639415594
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