世界樹の下で

瀬織董李

文字の大きさ
3 / 51

転生前①

しおりを挟む
 唐突だが私は所謂転生者だ。きっかけはゴルフボールだ。なんだそりゃと言われるかもしれないが、私だってそう思う。

 あの日、私はとにかく急いでいた。まあ、ぶっちゃけるなら寝坊して遅刻しそうだったのだ。電車を一本乗り過ごしたらアウトのギリギリスレスレ~なラインを精一杯駆け抜けていた。そんな時。

「っ!!!」

 後頭部に言葉では言い表せない衝撃を感じて脳内が真っ白になる。

「……きょ…ゅうり…び…だっ……のに」

 倒れながら呟いた末期の言葉は我ながら悲しい台詞だった。

 ただ、原因はわからずとも、なんとなく自分は死んだんだなー、とは思ったけど、まさか次に気がついたら応接室のソファに寝ていたなんて誰が想像つくか。

「こ、こ、こここどこ?」

 別に鶏になったわけじゃありません。応接室というよりは社長室の方があっているのかもしれないが、ぺーぺーもぺーぺー、未だにお茶汲みとコピー取りを押し付けられるレベルの新入社員だった私は、社長室には一度も入ったことがないのでテレビとかで見た印象しかないのだ。

 部屋には私が寝ているソファとローテーブル、テーブルを挟んでもう一個ソファ、そしてごっついデスク、ドアと窓。取り敢えずぐるっと周りを見渡したけど、人は誰も居ない。……ん?

 窓に近寄って外を見る。……真っ白だ。窓に何か塗ってあるとかじゃなくて、真っ白。霧で前何にも見えない感じ?でも暗くはなくて…えー、どう言ったらいいんだろう。ていうか、ホントにここ何処?

「おや、起きましたね」

「ひゃっ!?」

 窓にぺったり貼り付いて、外?を見ていたら、突然声をかけられた。慌てて振り向くと、ドアの所にたぶん男の人?が立っていた。スーツを着た長い金の髪の……外国人かな?美形だけど正直服が似合ってない。どっちかっていうと、ギリシャ神話とかの神様みたいなズルズルの服の方が似合いそう。その彼?はわたわたする私の様子にも構わずソファへと腰を掛けた。

「似合わなくて悪かったですね。これでも貴女方の世界に合わせたんですが。この部屋も面談をする時の部屋を模したものですし」

「ふ、ふぇっ!?」
 
 え、今もしかして心の中読まれた!?

「まあ、そうですね。取り敢えず掛けてください」

 なんだかよくわからないけど、このまま窓に貼り付いててもしょうがない。ひとまず彼に勧められるまま、恐る恐る向かいのソファに腰を据える。すると彼が指をパチン、と鳴らした瞬間、テーブルにポット、それとお盆に乗った茶筒と急須と湯呑みが現れた。

「うわっ!!」

「話が長くなると思うので飲み物を用意しました。ちなみにセルフでお願いします」

 え、こんなワケわかんない場所に来てまでお茶汲みですか。まあいいや。
 茶筒から茶っ葉を急須に入れ、ポットの湯を注ぐ。ホントは湯呑みにお湯を先に入れて温めたいけど、お湯捨てるとこ無いしね。
 ちょっと蒸らしてから、湯呑みにお茶を注ぐと、ふわりと凄く良い香りがした。高い茶っ葉かしらん。お茶菓子も欲しいなあ。

「意外と図太いですね。まあ、いいでしょう。話を始めますね。まず、手っ取り早く言うと、貴女は死にました」

「ド直球っ」

「遠回しに言っても、事実に変わりはないので」

  まあ、確かにね。そっかー。やっぱり私あの時死んじゃったのね。

「そうです。死因は脳挫傷というやつですね。後頭部に『コレ』が直撃したので」

 そう言って彼がテーブルの上に置いたのは、何処からかどう見てもゴルフボールにしか見えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

召喚聖女の結論

こうやさい
ファンタジー
 あたしは異世界に聖女として召喚された。  ある日、王子様の婚約者を見た途端――。  分かりづらい。説明しても理解される気がしない(おい)。  殿下が婚約破棄して結構なざまぁを受けてるのに描写かない。婚約破棄しなくても無事かどうかは謎だけど。  続きは冒頭の需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/96929)で。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/937590458

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

処理中です...