短編集 【雨降る日に……】

星河琉嘩

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君の隣

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 新島まゆ。
 これがあたしの名前。
 あたしには1年の時から思ってる人がいた。


 長澤匠。
 それが彼の名前。


 1年生の時、生徒会長である如月凛子先輩の名前を、恥ずかしいくらいに叫んでいたことがあった。
 それが彼を初めて見た時だった。
 如月先輩はとてもキレイな先輩だった。
 近寄りがたいタイプ。
 外見的にそうだ。
 けど、如月先輩の周りにはたくさんの人が集まる。
 マジメに生きている人も、そうでない人も同じように対応するからだと思う。


 ふたりが付き合い出した時、誰しもが驚いた。
 あの如月先輩が年下のちょっとヤンチャなヤツに……って。


 でもすぐにその考えは改められた。
 如月先輩の隣にいるのが当たり前ってくらいに、ふたりの姿はお似合いだった。
 そんなふたりの姿を見てるから、あたしは自分の気持ちを押し殺した。
 言わないつもりでいた。
 

 でも。
 2年になってその考えは覆した。


 同じクラスになったあたし。
 偶然にも席も隣同士。
 話すことが出来なかった状況から、話すことが出来る状況に変化した。
 毎日が楽しかった。
 嬉しかった。



 だからあたしは言った。
 自分の気持ちを。
 言わなきゃいけないって思った。
 こんなチャンスないって。


 てっきり断れると思ったのに、彼の口から出た言葉は、あたしを有頂天にさせた。
「新島。オレ、まだ凛子を忘れられてねぇんだ。それでもいいなら付き合おう」
 それでもいい。
 初めはそう思っていた。
 それでもいいからこの人と一緒にいたい。
 隣にいたいって。



     ◇◇◇◇◇



「まゆ」
 って呼び方からへと変わって1ヶ月。
 夏休みに入っていた。


「待ったか」
 待ち合わせの駅前でが言う。
「匠くん」
「んなとこで本なんか読んでるなよ」
 手にしている本を指差し呆れた声を出す。
「いいじゃないの」
「ほんとにマジメなヤツだなぁ」
 本をバッグに仕舞うあたしを見て笑う匠くんは、ポンとあたしの頭に手を置いた。
「行くぞ。夏樹たち待ってる」
 改札を通り抜けて前を歩く匠くんの後姿を追う。
 夏休みだからか、駅周辺には学生が多かった。
 匠くんと付き合うようになってから、あたしの周りが様変わりした。
 学校では匠くんと匠くんの親友の夏樹くんと常に一緒だった。
 そしてその夏樹くんの彼女とも一緒に遊んだりもした。


「今度の夏樹くんの彼女ってどんな子?」
 あたしが知ってる限り、今回の彼女は3人目。
 タイプも全く違う。
「前回の子はマジメな子だったよなぁ」
 匠くんはあたしを見て言った。
「マジメはマジメでもまゆとは違うよな」
 目を細めて言う匠くん。
 そんな匠くんを見てはいつも思ってる。
 いつも聞きたい思いを押し殺してる。


 如月凛子先輩のこと──………。






 聞きたいのに聞けないのは告白した時に言われた言葉の所為。

 

 それがあたしを踏み留ませている。



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