心の音

星河琉嘩

文字の大きさ
4 / 6

心の音

しおりを挟む
 その時には私はもう、悲鳴をあげていたんだと思う。


 何かがあると、自分で自分の手を傷つけていた。
 爪を立てて、血が出るくらいに手や腕に爪痕をつける。
 それだけじゃ気分は晴れないから、思いっきり噛み付く。
 痣が付くくらいに噛み付く。


 そうする行為が頻繁になっていた。
 いつからそうしていたのか分からない。
 気付いたらそうしてた。


 仕事が終わり和と一緒に義実家に行った時も、知らないうちに手や腕に爪痕をつけていた。


 場所や時間は関係なく、そういった行為が行われていた。
 まだ切るという行為に至ってないから、軽い方なのかもしれない。
 いや、それよりも知らずのうちに防衛本能が働いたのかもしれない。


 だけど、そのという行為も自傷行為だと思ってる。


 毎日、奇声を上げてた。
 毎日、相川さんに訴えた。
 毎日、自分の腕に噛み付き行き場のない感情の処理をしていた。
 どうすればいいのか分からなくなっていた。


「相川さん!」
 相川さんのいる部屋のドアを開けて、軽く叫んだ私を見た相川さんは「またか」という顔をこっちに向けた。
「またか」と思われても仕様がない。
 毎日のように相川さんのとこに私は行っていた。
 話すことは勿論、島村のことだった。毎日同じことを繰り返す。
 相川さんと私のやり取りを回りはどう見たのか……。
 そんなこと、誰にも聞けない。



「相川さんッ!彼をなんとかしてくれませんか?」
 私が言う言葉は、何度繰り返されたことだろうか。

「もう少し様子を見て」
 相川さんが言う言葉も、何度繰り返されたんだろう。


 この日だってそうだ。
 相川さんは露骨な溜め息を吐き、「もう少し様子を見て。病気なんだから」と答える。



 じゃ、その為に私が犠牲になってもいいわけ?
 私の中でそういう思いが沸き上がった。
 だからと言ってそれを言えるわけなかった。


「長い目でみてやってよ」
「ですけど、同じことを何度も言っても覚えてくれないんですよ」
 拳を握り締めて、怒りを抑えてることを相川さんは知らない。
「だけどね、で1年休んでたんだから」
 何かと言えばそれを言われる。


「だからと言って、仕事を覚えてくれないのは困ります。無断で会社を休んだり、休憩後に戻ってくるのが遅かったりするんです。そういうの、一番困ります」
 第一、態度が一番気に入らない。
 言葉遣いが気に入らない。


 別にタメ口でもいい。
 タメ口でもいいんだけど、言い方にムカつく。


 なんて言うんだろ。
 的な言い方。
 的な言い方。
 的な言い方。


 どう説明すればいいのか分からないけど、そんな感じ。
「小林さん。下を使えないようならリーダーになれないよ」
 相川さんから言われた。



 何?
 それは一体何?



 島村のことはそういう問題になるわけ?
 別問題じゃないわけ?


 相川さんの言葉にムカついて、私はトイレに向かった。
 もう耐えられなくて、トイレの個室に篭って声を押し殺して泣いた。


「小林さん」
 自転車通勤だった私は、妊娠したと同時に通勤手段をバスと電車に変えていた。
 まさかもう必要なくなるなんて思わなかった。
 会社の方針で残業はなしになっていたので、帰りには同じ部署の女の子とバスに乗ることになる。


 その子は私に色々と聞いてきていた。
 手術のこと。


 その子は悪気はないんだろうけど、一番聞かれたくないことだった。


「どんな感じだったんですか?」
 屈託のない笑顔で聞くその子に、胸をえぐられたような感じがして、それをバレないように笑顔を向けた。


「お腹の中を掻き出されてる感覚がしたよ」
「そんなの、分かるんですか?」
 質問攻めにされても、笑顔を崩さないようにいるのは結構辛かった。


「途中で頭が覚醒したから」
「頭?」
「うん。身体は寝てるんだと思う。目は開いてないから。でも頭は覚醒してて、何されたかとか先生たちの会話とかが聞こえて来て。お腹の中が凄い違和感あったし。痛みもあった」
 そんな話をどうして聞きたいのか、私には分からなかった。
「私、早く子供欲しいんです」
 彼女はそう言う。
「小林さんは次、作らないんですか」
 その言葉に涙を堪えて笑う。
「私はもういい。あんな思い、したくないし」
 どんな顔だったのか、どんな声だったのか自分でもはっきりと分からない。


 彼女は単なる興味本位で、聞いて来たんだと分かってる。
 だけど、やっぱり聞かれたくないことだった。


 私はもう、子供はいらないと思ってた。
 あんな思いは二度と嫌だと思う。



 彼女はそんな私の気持ちは知らずに、質問攻めしてくる。
 駅で彼女と別れるまで、質問は続いていた。



 心が壊れてゆく。




 そう感じながらも、私は毎日を耐えていた。





 会社でのこと。
 子供のこと。


 和に対してももう訳なくて。
 自分が情けなくなる。
 それでも、必死でそれを悟られないようにしてた。



 いや、気付いてる人はいたと思う。
 毎日声を荒げてるし、気付くと自分を手を爪で傷付けてる。
 気付かない人はいないんじゃないかってくらい。
 だけど、誰も何も言ってこないし、何もしてこない。
 それが当たり前だってくらいに過ごしてた。



 ある日。
 和は病院を探してきた。


「明日、病院に行くぞ」
 そう言われて「なんで?」ってなった。
「駅んとこにあったから行くぞ」
 言われるがままってな感じに次の日、会社を休んで心療内科の病院に連れて行かれた。
 心療内科の先生は、モゴモゴと喋るおじさんだった。
 はっきり言って、どんな診察をしたのか分からない。
 ほんとにそんな感じの診察だった。


 心療内科ってそういうもんなのか分からないけど、ほんとに分からない。
 話をするだけ。
 そして薬を出された。
 なんかの薬が2種類と睡眠薬。


 夜、眠れない日が続いてるって話したらくれた。



 薬は忘れずに飲むこと。
 アルコールは摂取しないこと。
 他の市販の薬を飲む場合は相談すること。



 などを言われた。
 まさか自分がこんな立場になるなんて思わなかった。


 3種類の薬を欠かさず飲まなきゃいけない。
 その所為で昼間は睡魔が襲う。
 夜は相変わらず眠れない日が続くから睡眠薬を飲む。
 飲まないと寝れなくなった。



 そして……、その日は来た。



 きっかけはなんだったのだろうか。
 もう覚えてない。

 だけどやっぱり島村の態度にキレたんだと思う。


「うッ……、う……ッ!」
 歯を食い縛りながらトイレで泣いてた。
 もうどうにもならない思いを抱えて、泣いてた。
 だけどずっとそうしてるわけにもいかずに、トイレから出る。
 そのあたりはまだ、理性ってもんがあったんだと思う。
 じゃなきゃ「仕事に戻んなきゃ」って思わないで泣いてる。


 でも、そう思ってトイレから出ても苦しさは残ってて涙が流れてる。
 もうわけの分かんない声が「う゛~」だか、「ぐ~」だか文字にし難い声が出てるのが分かる。
 ノロノロと階段を降りながら左手は壁を叩いてた。


 ドタッ……!


 その音と共に私は階段を踏み外し落ちた。
 落下した所為で、ますます情けなくなり惨めになり自分の気持ちが抑えられなくなっていた。
 階段から落ちたことで、その場にいた人たちはこっちを見てるのが分かった。
 それでも恥ずかしいとかそういう思いはなくて、ただただ自分の中にある行き場のない思いを吐き出したいだけだった。


 奇声を発しながら壁を殴り、終いには柱に自分の頭を叩きつけていた。
 さすがにそんな私の様子に気付いてか、常務と相川さんが飛んできた。
 必死で私を止めるけど、それを払いのけようとする。
 それでも私を止めようとする常務と相川さん。
 事の重大さを今になって気付いたのか気付いてないのか分からないけど、「今日は帰りなさい」と常務に言われた。


 だけど……。


「まだ仕事終わってない!」
 私は叫んでた。
「大丈夫だから」
「無理!みんなだって他に仕事持ってるのにッ!」
「なんとかなる」
「島村くんにやって貰ってる仕事も確認しなきゃッ!」
「後でいいから」
「だけど……ッ!」
「大丈夫だから、今日は帰って休みなさい」
「でもッ!雅さん!」
 常務の名前を呼んだ私は常務の顔を見た。
 常務は常務であって常務ではない。
 常務になる前から私はと呼び、雅さんも私をと呼ぶ。

「志保ちゃん。家まで送って行くから」
 有無を言わさない言葉で諭されて、私は雅さんの車に押し込まれた。


 私とほぼ同時期に入社した仲のいい同僚が、常務と一緒に車に乗り込んだ。
 彼女の手には、私の荷物が持たれていた。


「自転車……」
 通勤手段を自転車に戻していた時の事だったから、そう呟いていた。
 ポツリ呟いた私の声に「大丈夫」と指を指した。
 その先には会社の運搬用のバンに、私の自転車を乗せてる相川さんの姿があった。


「後ろから相川さんが着いて来るから」
 笑った雅さんは、笑ってるのに笑ってなかった。家の中に入り、私は何をするでもなくゴロゴロとしていた。


 ここまで雅さんと、同僚と相川さんに送られて、その時に何か言われた気がしたけど覚えてない。
 ただ、呆然と車が去るのを見てた気がする。



 家の中で考えるのは仕事の事。
 同じ部署のコたちにちゃんと「お願いね」と言わないで帰って来た。
 島村君のことも頼まないで帰って来た。

 私の他のみんなはまだ入って1年くらいしか経たない人ばかりで、今は出てないけどたまに注文が来る製品もあったりで、それを知らない人ばかりだ。
 だからもしかしたら、過去に出したものが来るかもしるないとか、新しいものが来たりしてどうすればいいのか分からなかったりするんじゃないかって、不安になった。


 家にいることが落ち着かなかった。
 家でひとりでいると、考えなくてもいいことまで考えてしまう。


 産まれてくることが出来なかった赤ちゃんのこととか、会社では私はもう役立たずでいらないんじゃないかって、そんなことまで考えた。


 帰って来た和にまで呆れられるんじゃないかって不安になる。


 絶対、怒られると思った。
 会社で狂って雅さん達に送られて来たってことに怒られるって思った。
 そのくらい、私の心はボロボロになっていた。


『志保の会社に寄ってから帰る』


 そう電話があったのは17時を過ぎた頃。
 雅さんと和は何度か会ったことがある
 飲んでいた雅さんに呼び出され、和と一緒に行ったことがある。
 その時に和と雅さんは、電話番号を教え合っていた。
 だからあの後、私を家まで送り届けた後、雅さんは和に電話を入れたんだと思う。
 電話をして、忙しい雅さんは和に会社に来てもらうことにしたんだと思う。


 ふたりがどんな話をするのか、それを考えると不安になる。
 クビを切られるんじゃないかって不安になった。


 けど、話の結論はだった。



「明日から……?え?なんで?」
 そんな言葉しか出て来なかった私は、和の顔を見るしかなかった。
 和はそんな私に苦笑いのような笑みを浮かべて、「疲れが出たんだよ。少し休みなよ」と言った。


 疲れ?
 そんなの、仕事してりゃ誰だって出るじゃん。
 私だけじゃないし。
 なのになんで休まなきゃいけないの?


 そんなことを感じていた。


 なんでそんなことになったのか、理解出来ない。
 なんでこんな事態になったのか、分からない。



 だけど、会社からと言われたような気がした。
 私はもう必要ないって境界線を引かれたような、なんとも言えない喪失感を味わった。



 次の日から私は家に籠もるようになった。
 何をしてすごしたのか、よく覚えてない。
 ただ、毎週火曜日は心療内科に通っていた。
 それだけは覚えてる。
 あとは何をして過ごしていたんだろうか。
 薬の所為で記憶力が低下していた。


 仕事を休んでる間、会社が立て替えてる税金の一部を支払わなきゃいけなかった。
 仕事をしてないから、給料明細はマイナス。
 そのマイナス分を、会社に返すということをしていた。

 貯金を崩して会社に支払い、病院代も貯金から支払った。
 傷病手当も出てはいたけど、すぐになくなる。


 仕事をしなきゃ生きてはいけない。


 ちょうどその頃、私の妹が子供ふたり連れて帰って来ていた。
 離婚する為、調停に入っていた。
 実家の母親とは不仲なので、実家には頼れず我が家に来ていたのだ。
 だからうちの家計は火の車の如く、色々ときつかった。和の給料だけで、大人3人子供2人の生活費を賄わなければいけなかった。


 だから休んでられないと思っていたのに、休まなきゃいけなくなった。
 それが酷く悔しい。


 そして、そんな自分に腹が立った。
 なんでこうなったんだろう。
 なんでこうなったんだろう。


 同じことを自分に何度も問い質す。
 答えなんか一向に出ないのに、何度も自分に聞いていた。


 なんでなんだろうって。


 自分の中に起きたことを、受け入れられなかったのが原因かもしれない。
 こうなったのも自分の責任。
 仕事に行くことが出来なくなり、薬を飲まなきゃいけないのは、やっばり自分の責任なんだ。


 だからといって、どうすればいいのかも分かってなかった。


 仕事をしなきゃ生活は苦しい。
 和の稼ぎだけじゃこの人数は無理。
 妹も仕事を探してるけど、なかなか定着しない。
 それに調停の為に、千葉にまで行かなきゃいけない。
 そんな暮らしを数ヶ月してた。


 結局、その決断をしたのは、会社から休みなさいと言われてから4ヶ月経っていた。



「辞める……」
 そう和に言った。
 会社に支払う金額もバカにならない。
 はっきり言ってかなりキツい。
 だからという決断を下した。

 迷わなかったわけない。


 初めて会社勤めしたのはこの会社だし、12年という長い期間をこの会社で過ごしたんだ。


 だけどこのままいても会社に迷惑かけるだけだし、うちも金銭的にキツイのと、どんな顔して会社に出て行けばいいのか分からないってのがあった。


 こうなった原因のひとつは少なからずとも島村にもあるわけで、それをどうにかしてくれなかった相川さんとは、顔も合わせたくなかった。

 雅さんや社長には申し訳ないけど、私はもうやっていける自信はなかった。


 もう暫くゆっくりしたいと思ってしまった。


 そうは思ってるのに、会社を辞めることに寂しくも感じた。


 寂しく感じるのにはわけがあった。
 今まで退社した人たちには送別会やら餞別品やらを渡してきていた。


 けど、急な退社の為か私にはそれすらない。
 それに送別会をやるにも私は薬の所為で飲み会には参加出来ない。


 になった所為で、ひとりで電車に乗ることも出来なくなっていたくらい、私は疲れていた。



 そんな私を送別会と称した飲み会に誘うなんてことは、出来なかったんだとは思う。


 だけどやっぱり寂しく感じた。


 辞めると決めて荷物を纏める為に会社に行った日。
 同僚達が私を見て「戻って来たの!?」と嬉そうな声を出す。


「違うの。今日でおしまい」
 そう言うと寂しそうな顔をした。
「みんなにこれ以上迷惑かけられないから」
 そう言う私は心のどこかで期待してたのかもしれない。


「辞めないで」って言われることを期待していたのかもしれない。
 最後の日。


 あの島村と相川さんの姿はそこになかった。


 ガラガラと岩が崩れていくように、私の数ヶ月は変わった。
 幸せな時間を過ごせる筈だったものが、手の隙間から消えてなくなり、当たり前だった場所が消えていく。


 誰の所為でもない。
 それは分かってる。
 だけど、そう思ってしまうくらいに私の心は悲鳴をあげていたんだね。



 だからあの日から1年ちょい経って、久しぶりに後輩(派遣の子)からの連絡があった。


 悪い子じゃないんだけど、ちょっと自分勝手でガンコなとこがある子。
 そんな子に少し嫌気がさして暫く連絡を控えていた。


 その子から和に連絡が入ったのは今年に入ってから。
 なんで和に連絡をするのかが分からなかった。
 そのことに関してハラがたつ。


 そんな些細なことでもハラがたつくらい、私の性格は悪くなってるらしい。


 1年も経てば、忘れられると思ってた。
 いろんなことがあったこと。
 赤ちゃんのこと。


 もう病院にも行かなくなっていたし。
 ……てか、病院の先生にムカついて行かなくなっただけだけど。


 だけど、その子から来た話がムカついて仕様がなかった。
「昼、から連絡来たよ」
 会社から帰って来た和はそう言った。
 とは後輩のあだ名のようなもの。
 和が勝手にそう呼んでる。
 そしてその後輩は和のことをと呼ぶ。
 そのことにもムカついている。


「ふ~ん」
 気のない返事をしてみる。
 でもなんで和に連絡がいったのか、どんな話なのかが気になった私は「なんだって?」と聞いた。

「うん。まる、子供出来たから結婚するって」
 何も気にしない和は、さらっとそう言ってのけた。
 だけど私はその話を聞いてムカついた。


 和にじゃない。
 後輩にだ。


 そりゃおめでたいことだとは思うよ?

 でも素直になんて言えなくて、代わりに脳裏に過った言葉はだった。


 なんであの子が?
 私は子供を産めなかったのに、なんで?って。


 そう思う自分が嫌。
 そう思うんだけど、それ以上にやっぱり後輩に子供が出来たことが悔しかった。


 だから暫く考えて後輩にメールをした。


 って。


 私が使う筈だったもの。
 エコー写真を入れておくアルバム。
 妊婦前のパンツやスカートが穿けるようにする為のバンド。
 そのふたつを私は箪笥の置くから引っ張り出した。
「取っとけばいいのに。使うかもしれないじゃん」
 和は言うけど、私にはそんなつもりはもうなかった。


 あんな思いはもうしたくない。
 その思いが強かった。



 会う当日。
 ひとりで行くのに勇気がいった。
 だから和にも来てもらった。


「あ!かじゅも一緒だったんだ」

 相変わらずと呼ぶ後輩。
 その言葉にまたムカッとした。


「はい。もう使わないから」
 和の前で後輩に渡した。
「ありがとう」
 彼女は私の嫌味を、嫌味だとは受け取らずそう言った。



 そう。
 私があのふたつを渡したのはだった。




 
 使って。

 そういうメッセージを込めて。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...