もう一度会いたい……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

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第6章

20

「タカがいなくなってから、ずっとああなんだ」
 さっきの状態が続いているのかと思うと、沙樹は苦しくなった。ファンの子たちも、今もまだ泣いている。TAKAに会いたいと願っているのだ。

(私も……。会いたい……)
 誰よりも崇弘に会いたいと願ってるのは、沙樹。だけどそれは口に出さない。周りのみんなに、気を遣わせてしまうから、決して言葉しないのだ。
「本当にあのままあのマンションに住むのか?」
 マンションの名義は、崇弘から沙樹へと変更されている。崇弘の両親が、その辺りの手続きや相続などのすべてを終えてくれていた。
 沙樹はなにもいらない。あのマンションだけあればと、そう告げていた。だからマンションだけを受け継いだのだ。
「あのマンションがいいの。タカちゃんと過ごしたあのマンションが……」
 ぽんと頭に手を置くと、仕方ないなぁという顔を沙樹に向ける。今の沙樹に何を言っても無駄なのは、重々承知だ。輝のマンションで弘樹をあやす沙樹は、とても強く見えた。だがそれは、無理にそうしているようにも思えてならなかった。



     ◇◇◇◇◇



 夜。崇弘のマンションに戻ると、ファンの姿はなかった。地下駐車場へ滑り込み車を停めると、輝は荷物を下ろした。
「弘樹、寝てる?」
「うん」
 抱っこして車から下りると、エレベーターの方へ3人で向かった。時間が時間なだけに、誰かに会うことはなかった。
 ガシャン…と、金属音を鳴らしてドアを開ける。1ヶ月ぶりに入るこの部屋に、張り詰めた空気が漂う。いつもは柔らかな空気を感じていたが、主がいないだけで空気が変わっていた。空気だけではない。匂いも変わっていた。
(タカちゃんの匂いがない……)
 リビングに入ると、優樹菜が綺麗にしてくれていたのか、キチンと片付けられていた。
「優樹菜さんがやってくれたの?」
「赤ん坊連れて帰るから、危なさそうなもん、片付けてくれた」
「そっか……」
 そう言うとリビングを見渡す。そしてリビングの隅に、ベビーベッドが置かれていることに気付いた。
「これ……」
「零士んとこの。借りてきた。あった方がいいだろ。寝室がいいのか、ここがいいのか分からなかったから、ここに置いた」
「……ありがとう」
 用意されたベビーベッドに、弘樹を下ろす。スヤスヤと眠る弘樹は、なんとも幸せそうだ。
「大丈夫か?」
「なに」
「今日、兄ちゃん泊まろうか?」
 沙樹が不安そうにしていることに気付いてか、輝はそう声かける。だけど沙樹は首を横に振る。
「大丈夫」
「けど……」
 この先、ひとりでなんでもやらなきゃいけない。だから甘えてられない…と、強く思った。
「大丈夫だって!」
 輝にそう言うと、さっさと追い出そうとする。
「本当かよ」
「本当だって!」
「けどさ、風呂ん時とかどうすんだよ」
「どうにかなる!」
 まさかそんな心配までされてるとは思わなかった。
(いつまでも甘えてられない)
 そう思い、輝を玄関に追いやった。



「オギャア……っ、オギャアっ」
 夜中。弘樹は泣いて起きる。その声に疲れた顔をした沙樹が、弘樹を抱き上げる。
「どうした?」
 そう声をかけながら、長い夜を過ごす。
 やっと寝ては起きて、起きては寝ての繰り返し。沙樹が充分な睡眠をとれる筈もなかった。
(分かっていても、キツイ……)
 こんな時、崇弘がいれば違ったのかなと、思う。そんなことを思ってみても、仕方ないことだと、分かっている。それでも姿のない、崇弘を求めてしまう。そんな自分に、嫌気がさしてしまう。


「タカちゃん……」
 弘樹を抱きながら、崇弘の名前を呼んでいた。その声は、部屋の中に響くだけだった。



 第6章   終
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