9 / 136
第1章
6
その日から結子は沙樹の傍にいた。移動教室の時も休み時間も、お弁当を食べる時も。
(なぜだか気に入られてる?)
その状態に沙樹は不思議に思っていた。
「高幡」
昼休み。教室にはいたくない沙樹は、結子と一緒に空き教室へと向かった。
「愛人の子って話、聞いてごめんね」
誰もいない空き教室で、結子はそう言った。
そのことに驚いた沙樹は目を丸くする。
「なに」
「いや……、悪いと思ってくれてたの?」
そのことが沙樹にとって新鮮でならなかった。今までその話を聞いてきては、軽蔑の目しか向けられなかった沙樹。結子の言動に心底驚いた。
「当たり前じゃん!」
結子の笑顔は、沙樹の中に入り込んでいた。
(不思議な子。なんで私なんかを……)
それが沙樹には理解出来ないことだった。
◇◇◇◇◇
結子との関係が、沙樹の周りを変えていくなんて思ってもいなかった。
放課後。結子に誘われて連れ出された。
「どこ行くの?」
「私の先輩のとこ!」
グイグイと腕を引っ張られ向かった先は、3年生の教室。3年生の教室がある階には行ったことはなかったから、なんだかドキドキしてしまった。1年生の教室の階とは雰囲気がまるで違っているからかもしれない。
「先輩!」
3年3組の教室に入った結子は、勢いよく叫んだ。そこには結子と同じようなギャルがひとりと、優等生だろうという男子が話していた。
「結子」
ふたりは結子に笑いかけ、そして沙樹に目線を移した。
「最近仲良くしてる子なんです」
ニコニコと笑いながら、沙樹をふたりの前に連れ出す。
「君は……」
男子生徒は沙樹を見てにっこりと笑った。
「高幡の一人娘」
「え」
「だろ?」
「はい……。なんで知って……」
「母親が日本舞踊やってるからよく利用してる」
「ああ……、お客様」
「間宮貴裕だ。よろしく」
名前を聞いてドキッとした。
(タカちゃんと同じ名前……)
貴裕は優しい笑顔で沙樹を見る。
「貴裕は知ってたんだ?」
「ん。子供の頃、母親に連れられて高幡に行ったことあったんだ。一度見たことあったかもしれないけど、本当にまだ子供だったからなぁ」
貴裕はそう言って女子生徒に笑った。
「あ、私は朝霧凪。結子の中学の先輩よ。なのにこの子ってば私を先輩と思ってないのよ」
「えー!思ってますよー」
そう言い合うふたりは、とても仲が良さそうで羨ましかった。
「どうした?」
貴裕が沙樹にそう聞いた。結子と凪の関係が羨ましくて、取り残された気持ちになっていた沙樹に気付いたのだ。
「ん?」
「いや……、なんでもない……です」
そう言うのが精一杯。人と深く関わってきたことのない沙樹だったから、どうすればいいのか分からないことだらけだった。
その日の放課後。この3人に囲まれながら過ごした。沙樹にそんな日が来るとは思ってもいなかった。
いつも放課後はひとりでいたから、この時間が不思議で新鮮でむずがゆくなる。
「よし、じゃ沙樹。また明日ここに結子とおいでー」
凪はそう言うと沙樹に笑った。家族とBRのメンバーの他に、沙樹を名前で呼ぶ人はいない。凪に名前で呼ばれてドキドキしてしまっていた。
結子とふたりで教室を出た沙樹は、結子の顔色を窺った。
「……ねぇ」
「ん?」
「なんで、先輩たちのところへ?」
「私の大好きなふたりに、私の新しい友達を紹介したかったの」
結子の言葉にほわっと胸の奥が温かくなった気がした。
「先輩たち、楽しいでしょ」
「うん……」
「また明日も先輩たちとおしゃべりしよっ」
「いい……の?」
「当たり前じゃんー」
結子はそう言って沙樹の腕を組んで歩いた。
「じゃ、私こっちだからー」
沙樹が乗るバスとは反対のバス停に向かう結子の後ろ姿を見て手を振る。
(いて……いいんだ。私にも、友達がいてもいいんだ……)
自分にそう言い聞かせると、ギュッと手を握りしめた。
(なぜだか気に入られてる?)
その状態に沙樹は不思議に思っていた。
「高幡」
昼休み。教室にはいたくない沙樹は、結子と一緒に空き教室へと向かった。
「愛人の子って話、聞いてごめんね」
誰もいない空き教室で、結子はそう言った。
そのことに驚いた沙樹は目を丸くする。
「なに」
「いや……、悪いと思ってくれてたの?」
そのことが沙樹にとって新鮮でならなかった。今までその話を聞いてきては、軽蔑の目しか向けられなかった沙樹。結子の言動に心底驚いた。
「当たり前じゃん!」
結子の笑顔は、沙樹の中に入り込んでいた。
(不思議な子。なんで私なんかを……)
それが沙樹には理解出来ないことだった。
◇◇◇◇◇
結子との関係が、沙樹の周りを変えていくなんて思ってもいなかった。
放課後。結子に誘われて連れ出された。
「どこ行くの?」
「私の先輩のとこ!」
グイグイと腕を引っ張られ向かった先は、3年生の教室。3年生の教室がある階には行ったことはなかったから、なんだかドキドキしてしまった。1年生の教室の階とは雰囲気がまるで違っているからかもしれない。
「先輩!」
3年3組の教室に入った結子は、勢いよく叫んだ。そこには結子と同じようなギャルがひとりと、優等生だろうという男子が話していた。
「結子」
ふたりは結子に笑いかけ、そして沙樹に目線を移した。
「最近仲良くしてる子なんです」
ニコニコと笑いながら、沙樹をふたりの前に連れ出す。
「君は……」
男子生徒は沙樹を見てにっこりと笑った。
「高幡の一人娘」
「え」
「だろ?」
「はい……。なんで知って……」
「母親が日本舞踊やってるからよく利用してる」
「ああ……、お客様」
「間宮貴裕だ。よろしく」
名前を聞いてドキッとした。
(タカちゃんと同じ名前……)
貴裕は優しい笑顔で沙樹を見る。
「貴裕は知ってたんだ?」
「ん。子供の頃、母親に連れられて高幡に行ったことあったんだ。一度見たことあったかもしれないけど、本当にまだ子供だったからなぁ」
貴裕はそう言って女子生徒に笑った。
「あ、私は朝霧凪。結子の中学の先輩よ。なのにこの子ってば私を先輩と思ってないのよ」
「えー!思ってますよー」
そう言い合うふたりは、とても仲が良さそうで羨ましかった。
「どうした?」
貴裕が沙樹にそう聞いた。結子と凪の関係が羨ましくて、取り残された気持ちになっていた沙樹に気付いたのだ。
「ん?」
「いや……、なんでもない……です」
そう言うのが精一杯。人と深く関わってきたことのない沙樹だったから、どうすればいいのか分からないことだらけだった。
その日の放課後。この3人に囲まれながら過ごした。沙樹にそんな日が来るとは思ってもいなかった。
いつも放課後はひとりでいたから、この時間が不思議で新鮮でむずがゆくなる。
「よし、じゃ沙樹。また明日ここに結子とおいでー」
凪はそう言うと沙樹に笑った。家族とBRのメンバーの他に、沙樹を名前で呼ぶ人はいない。凪に名前で呼ばれてドキドキしてしまっていた。
結子とふたりで教室を出た沙樹は、結子の顔色を窺った。
「……ねぇ」
「ん?」
「なんで、先輩たちのところへ?」
「私の大好きなふたりに、私の新しい友達を紹介したかったの」
結子の言葉にほわっと胸の奥が温かくなった気がした。
「先輩たち、楽しいでしょ」
「うん……」
「また明日も先輩たちとおしゃべりしよっ」
「いい……の?」
「当たり前じゃんー」
結子はそう言って沙樹の腕を組んで歩いた。
「じゃ、私こっちだからー」
沙樹が乗るバスとは反対のバス停に向かう結子の後ろ姿を見て手を振る。
(いて……いいんだ。私にも、友達がいてもいいんだ……)
自分にそう言い聞かせると、ギュッと手を握りしめた。
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。