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第2章
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冬休みは家族で過ごした沙樹は、初詣も家族と一緒だった。だけどその中には輝はいなかった。輝が年末年始に帰って来られるのは、今までなかった。
一度、零士が休んでる間に1日だけ帰って来れた。その他は帰って来ない。
『明けましておめでとう』
輝から電話があったのは、明日から新学期だという日の夜だった。
「もうっ。ずいぶんと遅いよー」
『あははっ』
「また紗智おばちゃんにあちこち連れ回されたんだけど」
沙樹が紗智を嫌がるのはこれも原因だったりする。愛人の子だからといって差別はしない。だが、紗智も由紀子も娘を産んでないから、初めての女の子が可愛くて仕方ないのだ。いつも会うと着せ替え人形のようになってしまう。
手土産に洋服やらアクセサリーやら持ってくる。今回はそれに加えてコスメも持ってきたくらいだった。
「もう大変だったんだからー」
それを聞いた輝は爆笑していた。
「今度いつ帰ってくるの?」
それに「う~ん……」と唸る輝は、申し訳なさそうに答える。
「またアメリカ行くんだよ」
「えー……」
「母さんたちに悪いって言っておいて」
「自分で言えばいいのに」
「悪い」
輝がそれを言わないのは、由紀子が寂しそうな声を出すから。寂しそうな顔をしているのが想像出来るから。
(タカちゃんもアメリカに行っちゃうんだね)
沙樹もまたそれを聞いて寂しい思いでいっぱいだった。
◇◇◇◇◇
「いつ行くの?」
輝と電話を切った後、すぐに崇弘に電話をかけた。崇弘が電話に出るなりそう聞いた沙樹に、崇弘は驚いた。だがすぐにアメリカ行きのことだと理解する。
『輝か』
「ん……」
『来週だな』
「行く前に会えないの?」
『難しいな。仕事が入ってる』
それはいつもことだった。いつもレコーディングの為にアメリカに行くが、その前に他の仕事が詰まっていたりする。
「そっか……」
寂しい思いはいつもしてる。それはBRがデビューしてからずっとだった。それまでは会おうと思えばいつでも会える距離だった。
(でも今は──……)
黙ってしまった沙樹に、崇弘はポツリと呟いた。
「会いてぇな……」
それは心からの言葉だった。
第2章 終
一度、零士が休んでる間に1日だけ帰って来れた。その他は帰って来ない。
『明けましておめでとう』
輝から電話があったのは、明日から新学期だという日の夜だった。
「もうっ。ずいぶんと遅いよー」
『あははっ』
「また紗智おばちゃんにあちこち連れ回されたんだけど」
沙樹が紗智を嫌がるのはこれも原因だったりする。愛人の子だからといって差別はしない。だが、紗智も由紀子も娘を産んでないから、初めての女の子が可愛くて仕方ないのだ。いつも会うと着せ替え人形のようになってしまう。
手土産に洋服やらアクセサリーやら持ってくる。今回はそれに加えてコスメも持ってきたくらいだった。
「もう大変だったんだからー」
それを聞いた輝は爆笑していた。
「今度いつ帰ってくるの?」
それに「う~ん……」と唸る輝は、申し訳なさそうに答える。
「またアメリカ行くんだよ」
「えー……」
「母さんたちに悪いって言っておいて」
「自分で言えばいいのに」
「悪い」
輝がそれを言わないのは、由紀子が寂しそうな声を出すから。寂しそうな顔をしているのが想像出来るから。
(タカちゃんもアメリカに行っちゃうんだね)
沙樹もまたそれを聞いて寂しい思いでいっぱいだった。
◇◇◇◇◇
「いつ行くの?」
輝と電話を切った後、すぐに崇弘に電話をかけた。崇弘が電話に出るなりそう聞いた沙樹に、崇弘は驚いた。だがすぐにアメリカ行きのことだと理解する。
『輝か』
「ん……」
『来週だな』
「行く前に会えないの?」
『難しいな。仕事が入ってる』
それはいつもことだった。いつもレコーディングの為にアメリカに行くが、その前に他の仕事が詰まっていたりする。
「そっか……」
寂しい思いはいつもしてる。それはBRがデビューしてからずっとだった。それまでは会おうと思えばいつでも会える距離だった。
(でも今は──……)
黙ってしまった沙樹に、崇弘はポツリと呟いた。
「会いてぇな……」
それは心からの言葉だった。
第2章 終
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