紅い薔薇 蒼い瞳

星河琉嘩

文字の大きさ
93 / 182
第4章

20

しおりを挟む
 倉庫からバイクで走らせてここまで来る間、駿壱の表情は暗かった。余程百合を守れなかったことを、悔やまれるんだろう。
 キッと唇を噛み締めたままだった。

 大熊を倉庫に置いて、理菜を見てろって言うのは何度目だろうと、良樹は思っていた。そうでもしないと、自分も行くと言って利かないだろう。

 真美が理菜を狙っていたのは、だいぶ前から知ってた。真美が、ジンたちと繋がったのは知ってた。
 それが確信に変わったのは、青薔薇の下っ端たちが捕まった時。
 その中に亜紀がいた。
 だからこそ、理菜を関わらせるわけにはいかなかった。亜紀の為なら、自分のことなんかどうでもいいって考えている。
 理菜から目を離すと、確実にJ・Fのところへ行ってしまう。そんな思いから、大熊を倉庫に置いて見張らせた。


 不安は尽きない。
 亜紀と浩介の姿も見えない。


 亜紀はもしかしたら、他の青薔薇と一緒かもしれない。だが浩介は、いつも駿壱の周りをウロチョロしてる筈なのに、この日に限っていなかった。
 それが理菜に知られたら、自分の所為だとして勝手な行動を取ってしまうだろう。

 良樹は他の面子に、浩介を探すように命令した。今頃、下っ端達は街中を探し回ってる。

 BTの溜まり場であるこの工場を見るのは何度目だろう。ここに真美が百合を捕らえているのは分かってる。駿壱を見ると、本気マジな目で工場を見ていた。
 工場の周りには、良樹たちよりも早く着いていた暴走連合の面子が勢ぞろいしている。


「ヨシキ」
 アキラとヒデが俺のところに来て、工場を見る。
「ユリさん、なんで?」
「……俺が、俺のミスだ」
 俺の隣で力なく言う駿壱。
 ふたりが駿壱を見ると、何も言えなくなっていた。
「俺が、マミに油断したんだ」
 真美は駿壱が初めに惚れた女だ。どうにもならないくらいに惚れていた女だ。
 だから真美の裏切りを許せなかった。
 なのに、そんな真美の行動に油断したと言う。

「許せなかった。でも……」
 唇を噛んだ駿壱が、今でも真美のことを信じてるんだって感じた。


「行くぞ」
 良樹がそう言うと、工場の中へ入って行った。



     ◆◆◆◆◆



 ガシャンッと音をたてて扉を開くと、大勢の男達がその扉から工場の中へと入って行く。そしてそこには、マサシと一緒にいる真美の姿があった。


「やっぱり来た」
 甘い声で話す真美。
 真っ直ぐに良樹のところへ歩いて来る。そして良樹に抱きつく。
 その真美に不快な思いを顔を出す。


「ヨシキ。あたしを迎えにきてくれたんだ」
 その言葉に、良樹は虫酸むしずが走る。


 ──なんでこの女と付き合っていたりしたんだろう。
 ──こんな自分のことしか考えていないような女と。



 そう思うと自分に腹が立った。
「離れろ」
 良樹はそう言うと、自分に抱きつく真美を引き剥がした。
「マミ。ユリはどこだ」
 隣にいた駿壱が真美をじっと見てる。その駿壱に視線を移すと、ふっと笑った。


「あんたのユリは、他の男の手に落ちたよ」
 そう言ってマサシのところに戻っていく。


「あんたの妹がいけねぇんだ。このマミの男を取るからなぁ」
 マサシがそう言うと立ち上がる。そして真美を抱きしめキスをする。
 マサシを受け入れていた、真美の行動が読めない。


 ガサッと隣で動く音がした。
 振り返ると駿壱が、真美に向かって歩いているのが見えた。
「マミ……ッ!」
 真美の髪を掴んでマサシから引き剥がすと、顔を近づけ威嚇する。
「リナは関係ねぇだろ……ッ!俺のユリを返せッ」
 大声が響く。そしてゆっくりと良樹は動いた。




 マサシに向かって歩く。





「マサシ……。俺の姉貴を返してもらう」
 ボキボキと手の指を鳴らして近付いてく。マサシも戦闘態勢に入る。





 そして俺とマサシの殴り合いを合図に、喧嘩が始まった。
 後ろでBTの面子と暴走連合の面子が殴り合いをしている。
 鈍い音が響く。
 そんな中、俺とマサシは睨み合い殴ったり蹴ったりを繰り返していた。そして駿壱は、真美の髪を掴んだまま動かない。じっと真美を睨み付けていた。真美も駿壱を睨み付けていた。


「シュンくん」
 真美が駿壱の名前を呼んだ。
「昔の女に手、出すんだ。サイテーだね」
 それでも駿壱は何も言わない。髪を掴んだまま何もしない。
 それが駿壱の優しさ故の行動だ。
 本気で惚れていた女なだけに、何も出来ない。
 それが痛い程、伝わってくる。


「シュン!」
 一樹の声が響く。
 その声にはっとした駿壱は、真美の髪を離した。


「ユリを……返せ」
 漸く出た言葉は低く冷たい。


「今はお前よりもユリが大事だ。そして妹が何よりも大事だ」
 ゆっくりと低い声が、喧嘩の音に紛れて聞こえてくる。


「知ってるよな。俺が本気出したら女でも許さねぇ……」
 真美に一歩近付いた。その駿壱の迫力に負けて、真美は後ずさりする。


 前、理菜が襲われた時。
 駿壱は後輩達を呼んだ。
 そして良樹が、後輩達に真美を好きにしていいと命令した。
 あの後、真美は女に飢えた後輩たちにヤられた。その話を駿壱は後輩達から黙って聞いていた。


「あの時よりも酷いこと、されてぇか」
 駿壱の声が、真美に向けられる。
 息を飲む真美を、駿壱は冷たい表情で見ていた。


「おい」
 マサシが良樹に向かって拳を振り上げる。それをかわした良樹は、ニヤッとマサシに視線を向ける。




「いい加減に姉貴を返してくんねぇかな」




 ドカッと蹴りを入れマサシが、冷たいコンクリートの上に転がった。そのマサシを見下ろし、腹を蹴る。
「うっ」と呻き声を上げるマサシを見たBTの面子。
 BTの面子は、オドオドと逃げていくのを確認した。



「マミ。今後一切、俺らに関わるな」
 ギロッと真美を見ると怖々と頷いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...