紅い薔薇 蒼い瞳

星河琉嘩

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第6章

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 そのビルには良樹はいなかった。
 

「一度来たみてぇだな」
 足元を見た駿壱は、ふぅとため息を洩らす。その視線に理菜も目を向けると、マールボロの吸殻と、1本も吸ってないマールボロがそのまま置いてあった。
「これ……」
 呟いた理菜に、駿壱は吸殻と煙草を手にした。
「弔い……だな」
「え」
「ジュンコさんが吸っていた煙草なんだよ、これ」
 百合は不良ではなかったと言った。でも煙草を吸っていたことは、充分に不良に値すると、理菜は思った。
「俺らが煙草覚えたのは、ジュンコさんの所為せい。ジュンコさんがヨシキにこれを与えた。俺も屋上に行くようになってから、煙草を吸うようになった」
 懐かしむかのように話す駿壱の目は、どこか寂しそうだった。
「戻ろう。ここにはもう来ないよ」
 理菜の手を引いて、来た道を戻り停めてあるバイクのところまで戻って来た。
 そこまで来ると、突風が理菜たちを襲った。


「きゃっ」
 そう声を上げた理菜を守るかのように、駿壱は肩を抱く。
 そして空を見上げた駿壱が、「ジュンコさん……」と呟いた。



     ◆◆◆◆◆



 死の街から離れた理菜たちは、繁華街へとやって来た。
 死の街の静寂が嘘のように、繁華街は賑わっていた。ここはあの場所とは、正反対の場所だった。そう思うと悲しくなった。


「ユリ。マキさんとこ、行ってくる」
 スマホを耳にして、百合に電話をしていた駿壱は、理菜に向き直った。
「これから青薔薇の先代総長に会いに行く」
「先代?」
「ジュンコさんを可愛がってた人」
 そう言って理菜をもう一度バイクに乗せると、エンジンをかけ走らせた。

 繁華街から離れて走る。
 静かな住宅街へと入る。
 理菜たちが住んでる場所とは違う住宅街。静かな場所だった。細い道を走って、一棟のアパートの前にバイクを停めた。そのアパートは古い映画にでも出てきそうな、そんな作りをしたアパートだった。


 カンカンカン……!
 アパートの階段を上ると、そんな音が住宅街に響く。階段を上って、一番奥まで歩いて行く。一番奥の部屋の前まで来ると、駿壱は立ち止まった。
 表札には【山崎真樹子】と書かれていた。


 ドンドンドンッ!
 力任せに叩く駿壱に、ハラハラした。時間が時間なだけに、もう少し静かに叩いたらいいんじゃないかって思った。でもそんなことは考えもしないで叩く。何度も何度も叩いていた。
「誰~?」
 何度目かのノックに、嫌そうな声が中から聞こえて来た。その声を聞いて、駿壱が「シュンイチだけど」と告げる。

 ガチャッ。
 そう音を立てて開くドアから現れた人は、茶色の髪をした小柄な女の人だった。この人が青薔薇の総長だったと思うと、びっくりする。
 そういえば百合も小さい。以前会ったことある、美容師してる2代目も小柄な人だった。

 ──青薔薇の総長って小柄な人がやるの???


「久しぶりじゃん」
 マキという人は、そう言うと駿壱に笑う。軽く言うマキは、相当遊んでいそうな感じだった。
「こっちの子は何」
 理菜に気付いたマキは、駿壱に向かって言う。
「妹」
「ああ。これが例の子ね」
 なんてことを言いながら、アパートの中に入って行く。その後を駿壱も追うように入って行って、理菜はどうしたらいいのか分からなかった。
 そんな理菜に気付いたのか、マキは「入んなよ」と言った。
 そう言われた理菜は、遠慮がちに部屋の中に入って行く。マキの部屋は、物があまり置いてなかった。
「そのヘンに座りなよ」
 理菜にそう言うマキに促されて、駿壱の隣に座った。
「お兄ちゃんっ子なんだね」
 なんて言うマキの笑顔は優しかった。

「で、どうしたの?」
 駿壱に目を向けると、言うマキは全て分かってるかのように、それでも駿壱から話を聞こうとしているように笑った。その笑顔を見て、駿壱も微かに笑い、そしてゆっくりと話し出した。


 良樹がいなくなったことを……。


「今までこんなことなかった……」
 とそう言う駿壱の声に、マキは耳を傾ける。
「大事な暴走の前に、んなことをするヤツじゃねぇ……」
 黙って聞いていたマキは、煙草を吸っていた。良樹と同じマールボロ。ジュンコが吸っていたというマールボロ。そのマールボロを、じっと見つめてしまう。
「どうした?」
 それに気付いたマキは、理菜にそう声をかける。だけど理菜は、ただ目を伏せるだけで何も言えない。
「ほんとにシュンイチの妹?」
 なんて笑うマキ。
 ケラケラと笑うマキ。

「あのビルに……」
 駿壱がそう呟くように言った。
「行ったんだ。あのビル」
 マキは煙草を灰皿に押し付けて消した。そして駿壱の顔を見て、悲しそうな顔をした。
「今日、ジュンコの墓に行った。誰も来てなかったみたいだ。母親すらも」
 ふぅ……と大きくため息を吐くと、今にも泣き出しそうな目でこっちを見ている。
「あの子には生きてて欲しかった」
 その言葉の重みが、理菜には分からなかった。だけどマキは、相当ジュンコを可愛がっていたらしく、悲しい目を向けてくる。

「ヨシキは、あの子の墓の場所って知ってたっけ?」
 駿壱にそう聞くと、「分からねぇ」と呟いた。
「そっか。あたしも少し前に知ったんだよね。あの子の母親が教えてくれなかったから」
 ジュンコはどういう人だったんだろう。このマキがそんな顔をしてしまうくらい、何かあったんだとは思う。そこまでジュンコは、誰にも愛されては来なかったのか。

「ねぇ」
 理菜に目を向けるマキは、優しい目をしていた。
「あんたはヨシキを好きなんだよね。ヨシキを守ってくれるんだよね」
 そんな言葉を口にしたマキを、じっとと見てしまった理菜は、ただ頷くしかなかった。
「それ聞いて安心した」
 笑った顔が印象的だった。

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