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第2章

4 騎馬隊のアッシュ

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 久しぶりにエレンの元へ人が訪ねてきた。騎馬隊のアッシュ。商人上がりの軍人だ。
 ブラウンの髪と目をしていて気が強そうな青年。


「望みのものは?」
 エレンはアッシュにそう告げるとアッシュは睨みながら言った。
「力が欲しい!勝ち抜く為の力が!」
 力強く叫んだアッシュは、戦争へと駆り出されるようだった。
「俺が死んだら街の両親が酷く悲しむ。だから勝ち抜く為の力が欲しい!」
 軍人らしく胸を張って言う。
 だが勝ち抜く為の力とは……。

「お前は弱いのか?」
 エレンの後ろで木の椅子に座っていたホエールがアッシュに面倒くさそうに言った。
「は!?そんなんじゃないやい!」
 と、ホエールに掴みかかる。それをエレンが止める。
「やめろ、ホエール」
 間に入るエレンはため息を吐く。
「とにかく座ってくれ」
 アッシュにもそう言うと、仕方なくふたり共おとなしく座った。
 ふたりが座るのを待って、エレンはもう一度アッシュをじっと見ていた。

「どうして力が必要?魔法の力で強くなりたいの?」
 アッシュはギュッと拳を握った。
「婚約者がいるんです」
 親の為だけじゃない。婚約者の為に生きて帰りたいし、実績を残したいということらしい。
「だけど俺の力じゃまだ不十分で生きて帰れるか分からない」
(自分の力がまだまだってことは分かっているんだな)
 エレンは立ち上がり、棚を漁る。
「強くすることは出来ないが、加護を与えることは出来る」
 棚の中にあるひとつの腕輪ブレスレット。太めで魔力を秘めたグリーンの石がついている。

「これを」
 テーブルに置くとそれをアッシュはじっと見る。
「これは……」
「私の魔力が込められている。それがお前を守るだろう」
 それを聞いたアッシュは不思議そうだった。
「魔女が加護を……?」
「加護を与えるのは聖女だけって思ってるだろ。私はいつの間にか加護を与えることが出来る魔女になっていたんだ」
 それはきっと人間との間に産まれたからかもしれない。本来の魔女とはちょっと違うのはそれがあるからだと、エレンは冷静に考えていたのだった。

「そうか。ではこれを頂く」
 と、腕輪を手にはめると、立ち上がった。
「代金は」
「還ってきたら、その時もう一度来い。その時に記憶をもらう。それが代金だ」
 エレンはそう言ってアッシュを見送った。



     ◇◇◇◇◇



 アッシュが還って来たとしらせが来たのは一年後だった。
 森がアッシュが来てることを教えてくれていた。

「ホエール。戻る」
 ハーブの手入れをしていたエレンはそう言って小屋へと向かう。その途中でアッシュの姿が確認出来た。
 籠には摘んだハーブを入れてアッシュが来るのをそこで待っていた。

「久しぶり」
 近くまで来た時、そうエレンは言った。
 アッシュは初めて見た時よりも逞しくなっていて、顔や腕に傷を追っていた。
 アッシュを小屋に入れるところをホエールは不機嫌な顔で見ていたが、その後を追って小屋に入っていく。
 木のソファーに座るように促して、エレンは炊事場へ行く。籠を置いて薬缶やかんで湯を沸かす。
 乾燥させたハーブの葉をティーポットに入れ、湯が沸いたらその中に入れる。
 いつも客人が来るとやっている行動。ホエールには気に入らない。
 炊事場の戸棚からは、ついこの前ジェニファーが遊びに来たときに土産としてもらったクッキーを出した。

「ホエール」
 ホエールに声をかけると、これを持って行けと言う。
 それも不機嫌になる要素だった。
「そんな顔してんじゃない。客人だぞ」
 そう言うと渋々持って行く。
 エレンはカップと湯をティーポットを持って行く。
 カップにハーブティーを注ぐと、ハーブの香りが充満した。

「無事に還ってこれたんだね」
 エレンはそう言うと「ああ」と返事がくる。
「これ……」
 アッシュに渡した腕輪。それをテーブルに置いた。
「ありがとう。これを俺に渡してくれて」
「あなたを守ってくれたかしら」
「あの後、婚約者に話をしたら怒られた」
 聞くところによると、婚約者は『道具に頼って自分の力で還って来ようとしない』ということに引っ掛かったらしい。
「そんなつもりはなかったんだが……」
 ポツリと呟く。
「だから、戦いに赴くギリギリまで、鍛練を繰り返していたんだ」
 結局、この腕輪は家に置いて自分の力で還って来たのだと言う。
(やれば出来るじゃない)
 感心したエレンはにっこりと悪った。

「あ、それで代金のことなんだけど……。記憶って言ってたよな。なんだい?」
「お前の記憶の複製コピーだよ」
「記憶の複製……」
「どれ。お前が頑張ってる記憶でももらおうか」
 そう言うと額に指を当てた。
 ポワ~ンと光の玉が出てきてエレンの持つ小瓶の中に入って行った。


「では、また何かあれば」
 エレンはアッシュにそう言うとアッシュは頭を下げて小屋を後にする。
 その姿を見てほっとするエレン。魔力に頼ってばかりだと本当の意味では強くならないのを知っていたから。


「さて。さっき摘んできたハーブを乾燥させようかな」
 小屋に戻るエレンはウキウキとした顔をしていた、
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