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嘘と真実
嘘と真実
しおりを挟む本当はこんなことを、言うつもりじゃなかった。だけどリナがあの人と一緒にいたってだけで、言わずにはいられなくなった。
◆◆◆◆◆
俺と先代のダイキさん。
普段はそんな素振りも見せないダイキさんだが、あの人は俺を良いように使ってる。
そんな風になったんは、俺があの人の女と寝たことが原因。
中学1年の話。
俺が始めて女を好きになれるかもって思った、ジュンコさん。そのジュンコさんは、ダイキさんの女だった。彼女ではない、だけどダイキさんのモノだった。
学校の先輩だったジュンコさんを、俺は年下なのに守ってやりたいって思った。ダイキさんから救い出したいって。
ダイキさんにとって、ジュンコさんはただヤレりゃいいっていう存在。
だからムカついていた。
でもその時俺は、この黒龍に入ってて、総長だったダイキさんに、歯向かうことなんか出来なかった。
そんな時に、ジュンコさんが俺を誘った。
俺に煙草を教えたジュンコさんは、俺を学校から連れ出して、自分が住むアパートに入れた。
ジュンコさんの部屋は殺風景で、これが本当に女の人の部屋かと、そう思ったくらいだった。部屋の中は俺と同じ煙草の匂いが、染み付いていた。
そのジュンコさんの部屋で、俺はジュンコさんとヤった。
全てジュンコさんが教えてくれた。
煙草もキスもセックスも。
だからなのか、ダイキさんは事ある毎に、俺を睨みながら物事を言ってくる。俺が9代目に指名された時も、「お前、俺に逆らえるのか」と言った。
だから俺が9代目になった。
情けねぇけど、実力で認められたワケじゃないんだ。
◆◆◆◆◆
目の前にいるリナに、冷たい目を向けてる。リナのことを信じてないわけじゃない。だけど、俺は言っていた。
「……無理矢理乗せられたっつてもな、信じられるわけねぇだろ」
そんなことを言いたいわけじゃない。
だけどその言葉が口から出ていた。
掴んだリナの腕。
俺はリナの腕が、痣になるんじゃないかってくらいに、力を入れて掴んでいた。
リナを見下ろし冷たく言い放つ。
そんなこと思ってもねぇクセに。
「お前、ここに来るまであの人とヤったのか?」
リナの顔が、悲しみに歪むのが分かる。それでも俺は、自分を止められなかった。
涙を流したリナに対して、「ちっ」と舌打ちをして、掴んだ腕を更に力を入れていた。その痛みに耐えているのが分かる。
だけど力を緩めないのは、この手を離したら、二度と戻っては来ないんじゃないかっていう不安から。
俺はこの手を離したくない。
そう思ってるのに、俺の口から出る言葉は、冷たいものばかりで、リナを悲しませる言葉だけしか、出て来なかった。
「女はすぐに泣く」
「だからまともに相手にして来なかったんだ」
「お前も他の女と一緒だ」
確かに今までの女たちも、事ある毎に泣いていた。それがイヤだから、まともに相手なんかしなかった。
でもリナは違う。
泣いてると守ってやりてぇって思う。そのくらい大切なのに、どうしてこうも悲しませて、泣かせてしまうようなことばかり言ってしまうのだろうか。
「……なんで私の言うことを信じてくれないの?」
漸く絞り出したような声を出すリナに、俺は胸が痛んだ。
信じてないんじゃねぇ。
だけど……。
シュンイチに言われたことが、ずっと頭の中にある。
リナの幸せのこと。
あの体育祭で見たリナの笑顔。
俺といる時とは違う笑顔だった。
リナはこっちの世界にいない方がいいんじゃねぇかって思った。別れたくねぇって思ってんのに、別れた方がいいんじゃねぇかって。
だから俺が言った言葉によって、リナが泣いても仕方ねぇって思う。
「お前、俺と一緒にいねぇ方がいいじゃねぇか」
本当は言いたくない。
言いたくねぇんだ。
だけどお前の幸せを考えるなら、それしか方法が見つからねぇんだ。
「別れよう」
それを言った時、俺自身が壊れるんじゃねぇかって思った。目の前で崩れるリナを、無理矢理部屋から追い出して行く。
暫くして、タンタンタン……と階段を降りていく音が響く。
それを聞くだけで、俺はもうダメになりそうだった。
今直ぐに追いかけて掴まえて、俺の腕の中で安心させてやりてぇって思った。
でもそれが出来ない。
リナ……。
俺の大事なリナ。
なんでこんな風に別れなきゃいけねぇんだ。大事にしたいって、そう思える唯一の女。
倉庫の中にリナの気配がしなくなって、俺は耐え切れず泣いた。
男が泣くなんて、なんて情けねぇんだって思う。けど泣きたくなるくらい、俺はリナに惚れてて、自分のものにしたいってくらい、独占欲が強かった。
だけどその大事な女の本当に掴まなきゃいけねぇ幸せは、ここにはねぇから、自分だけが悪者になって苦しめばいい。
そう思った。
「別れ……たくねぇ……」
そう呟いた俺は、シュンイチがそこにいたことに気付かなかった。ソファーの上で、片膝を抱えて呟いた俺に、シュンイチがボソッと言った。
「悪かったな。ヨシキ」
その言葉が自棄に耳に残った。
そしてそのまま、シュンイチは工場を出て行った。
外でバイクの音が聞こえた。
その音は段々と遠くにいき、聞こえなくなった。
ひとりになったこの部屋で、俺は何も考えられずに、朝が来るのをじっと耐えて待っていた。
朝が来たら、全て夢だと思えるんじゃねぇかって。
……そんなことねぇのにな。
いつかリナよりも大事だって言える女が、出てくるんだろうか。
…きっと無理だろうな。
リナ。
誰よりも大切な女──……。
完
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