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第4章 冬
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私の心は寂しさでいっぱいだった。
どんなに先輩が隣にいても、寂しくて仕方なかった。
いつになく真剣な顔をしている、柊冶先輩に不安になっていた。
「瑠璃」
耳元で聞こえる声がくすぐったくて、思わず目を閉じた。
そんな私に気付いたのか、柊冶先輩は「ふっ」と笑い、私を抱きしめる手に力を入れた。
「先輩……」
「……先輩はもうよせ」
その言葉に私は黙ってしまった。
先輩とはもう呼ぶなってこと?
分かってるけど、柊冶先輩は柊冶先輩で。それ以外の呼び方なんて知らない。
それ以外の呼び方が出来ない。
「柊冶って言えよ」
その声にちょっと力が入ってて。
機嫌が悪いわけじゃない。
悲しい声。
私の身体を離そうとしない、柊冶先輩はじっと私を見たままで……。
「先輩……」
そう呼んだら睨まれてしまった。
先輩がそんな目をするのを、初めて見た。だから、私は俯いてしまった。
「瑠璃。名前で呼べ」
そう言った先輩の顔は真剣で、柊冶と呼ばなかったら、どうなるのか分からなかった。
「瑠璃」
もう一度呼ばれて、顔を上げる。
その目はやっぱり寂しそうで、悲しそうで、ちゃんと呼んであげないとダメなんだって思った。
だけど私は、名前で呼ぶということが出来なかった。恥ずかしさでいっぱいになってて、顔が真っ赤になっていた。
「恥ずかしがることじゃ、ねーだろ」
先輩は目を離さずに、こっちを見ていて「ふっ」と笑い、有無を言わさずにキスをしてきた。
先輩と初めてしたキス。
私は頭の中が真っ白になっていた。どうしたらいいのか分からなくて、頭の中が真っ白だった。
「……んっ」
微かに洩れた私の声に、先輩は唇を離してまた笑った。笑われた意味が分からないままでいる私は、また俯いていた。
「瑠璃」
ぎゅと抱き寄せていた手は、更に私を抱き寄せていた。私は先輩に身体全て預けるようにしていて、優しい手で頭を撫でられていた。
人の体温ってあったかいんだって思った。
抱きしめられてる手が、私の背中に当たる先輩の身体が、私の耳元に聞こえる先輩の息遣いが、とてもあったかいって思った。
「瑠璃。名前……呼んで…………」
またせつないような悲しいような寂しいような、そんな声を出した先輩。そんな先輩の顔を見ないまま、私はゆっくりと口を開いた。
「……しゅ……う……じ」
ようやく出た声は、微かに聞こえるくらい小さなもので。それでも先輩は嬉しかったのか、ぎゅっと私を抱く手に力を入れた。
暫くそうしていた私と柊冶。
いつのまにか私は、ウトウトと眠りについていたらしい。気付くと私はソファーに寝かされて、そして毛布をかけられていた。
🧤 🧤 🧤 🧤 🧤
「起きた?」
声がした方を見ると、先輩は笑っていて。ソファーの傍に座っていた先輩は、コーヒーを飲んでいた。
「……柊冶」
「ん?」
呼んだのはいいけど、用があって呼んだのではなくて。
ただ、呼びたくなっただけ。毛布を頭まで被り、照れた自分を隠した。
そんな私に気付いているのか、クスクスと笑い声が聞こえた。
「瑠璃」
毛布を被っている私に、柊冶が言った。
「お前この時期になると、気持ちが落ちてるんだろ?」
その言葉に私は固まった。
なんで知ってるんだろう。
誰も知らない筈なのに。
なんで知ってるんだろう。
「誉が言ってた」
柊冶の言葉に、毛布から少し顔を出した。
「……お兄ちゃんが……?」
なんで、お兄ちゃんは知ってるんだろう。
なんでお兄ちゃんは、それを柊冶に言ったんだろう。
不思議だ。
なぜかお兄ちゃんと柊冶は仲良くなっていたんだけど、それはいいんだけど。
だからってお兄ちゃんは、柊冶に何を話しているんだろう。
「瑠璃」
声が私に降りかかるように、呼びかけられる。テーブルにカップを置いて、私に目線を移した。
「お前、誰も気付いてないって思っていたのか」
その言葉に私は起き上がった。
「ちゃんとお前の兄ちゃんは見てるよ。お前が落ちゃってる理由も知ってる」
「……んで?」
「お前を大切だからだろ」
笑った顔に安心して、思わず涙が出た。
その私を落ち着かせるように、私の隣に来て抱きしめて、背中を擦ってくれていた。
暫く抱き合っていた私たち。
何も言葉を交わすことなく、だたそうしていた。
それだけでも十分過ぎる程、幸せなのに。
私の中は不安で仕方ない。
ひとりにはなりたくない。
ぎゅっと、柊冶の背中に手を回して抱きしめた。
そんな私に優しく頭を撫でる。
(心地良い……)
柊冶の手は魔法のようだった。
優しくてあったかくて。
ほっと出来る。
お兄ちゃんとはまた違う安心感が、得られる。
この手を離したくないって思う。
ずっとこのままでいて欲しいと思う。
これからも隣にいて欲しいって思う。
柊冶も同じ気持ちでいてくれたら、どんなに幸せだろうって。
でも。
私は知らなかった。
この時、柊冶が隠していたあること。
柊冶の心にはもう、決心していたあることがあったこと。
私は知らなかった……。
どんなに先輩が隣にいても、寂しくて仕方なかった。
いつになく真剣な顔をしている、柊冶先輩に不安になっていた。
「瑠璃」
耳元で聞こえる声がくすぐったくて、思わず目を閉じた。
そんな私に気付いたのか、柊冶先輩は「ふっ」と笑い、私を抱きしめる手に力を入れた。
「先輩……」
「……先輩はもうよせ」
その言葉に私は黙ってしまった。
先輩とはもう呼ぶなってこと?
分かってるけど、柊冶先輩は柊冶先輩で。それ以外の呼び方なんて知らない。
それ以外の呼び方が出来ない。
「柊冶って言えよ」
その声にちょっと力が入ってて。
機嫌が悪いわけじゃない。
悲しい声。
私の身体を離そうとしない、柊冶先輩はじっと私を見たままで……。
「先輩……」
そう呼んだら睨まれてしまった。
先輩がそんな目をするのを、初めて見た。だから、私は俯いてしまった。
「瑠璃。名前で呼べ」
そう言った先輩の顔は真剣で、柊冶と呼ばなかったら、どうなるのか分からなかった。
「瑠璃」
もう一度呼ばれて、顔を上げる。
その目はやっぱり寂しそうで、悲しそうで、ちゃんと呼んであげないとダメなんだって思った。
だけど私は、名前で呼ぶということが出来なかった。恥ずかしさでいっぱいになってて、顔が真っ赤になっていた。
「恥ずかしがることじゃ、ねーだろ」
先輩は目を離さずに、こっちを見ていて「ふっ」と笑い、有無を言わさずにキスをしてきた。
先輩と初めてしたキス。
私は頭の中が真っ白になっていた。どうしたらいいのか分からなくて、頭の中が真っ白だった。
「……んっ」
微かに洩れた私の声に、先輩は唇を離してまた笑った。笑われた意味が分からないままでいる私は、また俯いていた。
「瑠璃」
ぎゅと抱き寄せていた手は、更に私を抱き寄せていた。私は先輩に身体全て預けるようにしていて、優しい手で頭を撫でられていた。
人の体温ってあったかいんだって思った。
抱きしめられてる手が、私の背中に当たる先輩の身体が、私の耳元に聞こえる先輩の息遣いが、とてもあったかいって思った。
「瑠璃。名前……呼んで…………」
またせつないような悲しいような寂しいような、そんな声を出した先輩。そんな先輩の顔を見ないまま、私はゆっくりと口を開いた。
「……しゅ……う……じ」
ようやく出た声は、微かに聞こえるくらい小さなもので。それでも先輩は嬉しかったのか、ぎゅっと私を抱く手に力を入れた。
暫くそうしていた私と柊冶。
いつのまにか私は、ウトウトと眠りについていたらしい。気付くと私はソファーに寝かされて、そして毛布をかけられていた。
🧤 🧤 🧤 🧤 🧤
「起きた?」
声がした方を見ると、先輩は笑っていて。ソファーの傍に座っていた先輩は、コーヒーを飲んでいた。
「……柊冶」
「ん?」
呼んだのはいいけど、用があって呼んだのではなくて。
ただ、呼びたくなっただけ。毛布を頭まで被り、照れた自分を隠した。
そんな私に気付いているのか、クスクスと笑い声が聞こえた。
「瑠璃」
毛布を被っている私に、柊冶が言った。
「お前この時期になると、気持ちが落ちてるんだろ?」
その言葉に私は固まった。
なんで知ってるんだろう。
誰も知らない筈なのに。
なんで知ってるんだろう。
「誉が言ってた」
柊冶の言葉に、毛布から少し顔を出した。
「……お兄ちゃんが……?」
なんで、お兄ちゃんは知ってるんだろう。
なんでお兄ちゃんは、それを柊冶に言ったんだろう。
不思議だ。
なぜかお兄ちゃんと柊冶は仲良くなっていたんだけど、それはいいんだけど。
だからってお兄ちゃんは、柊冶に何を話しているんだろう。
「瑠璃」
声が私に降りかかるように、呼びかけられる。テーブルにカップを置いて、私に目線を移した。
「お前、誰も気付いてないって思っていたのか」
その言葉に私は起き上がった。
「ちゃんとお前の兄ちゃんは見てるよ。お前が落ちゃってる理由も知ってる」
「……んで?」
「お前を大切だからだろ」
笑った顔に安心して、思わず涙が出た。
その私を落ち着かせるように、私の隣に来て抱きしめて、背中を擦ってくれていた。
暫く抱き合っていた私たち。
何も言葉を交わすことなく、だたそうしていた。
それだけでも十分過ぎる程、幸せなのに。
私の中は不安で仕方ない。
ひとりにはなりたくない。
ぎゅっと、柊冶の背中に手を回して抱きしめた。
そんな私に優しく頭を撫でる。
(心地良い……)
柊冶の手は魔法のようだった。
優しくてあったかくて。
ほっと出来る。
お兄ちゃんとはまた違う安心感が、得られる。
この手を離したくないって思う。
ずっとこのままでいて欲しいと思う。
これからも隣にいて欲しいって思う。
柊冶も同じ気持ちでいてくれたら、どんなに幸せだろうって。
でも。
私は知らなかった。
この時、柊冶が隠していたあること。
柊冶の心にはもう、決心していたあることがあったこと。
私は知らなかった……。
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