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権力系ホモ★グリス王国編

このおっちゃん、実は超絶天才

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「み、み、みみみみ味噌汁だぁ…!!!」
「ミソシル? コージ、これを知っているのか?」

カイルの質問に笑顔で頷いて、懐かしい香りを目一杯吸い込む。
あー鼻腔が幸せ。

「むぅ! 見たことがないな!!」
「そらそーだ! だってこれ俺の母国の料理だもん! この世界じゃ日の国の料理じゃないかな」

日本=日の国みたいだしな。つーか味噌…、あったんだ。
いや、ワーナーさんは知らなかったし、一般には流通していないのかな。
ま、いっか! あるって事が分かったんだし、堪能致しましょう!!

「全ての食物に感謝と祝福を! いっただっきまぁーす!」

誰よりも早く味噌汁に手を取って、まずは香りを楽しもう!
スンスン…スンスンスン。うーん、天才。
慣れた家のものと匂いが違う気がするのは味噌の違いか…。なんか、色んな種類があるんだよね? お母さんに任せっぱなしだったから分からないけど。

ではでは、いただきます。
ズビビ…ゴクゴク……

「あ゛~~~~~…」

泣いた。べしょべしょに泣いた。
ディフォルメみたいな涙がボトボト溢れて、一口飲んでは泣いて一口飲んでは泣いた。

これはあまりにも日本…。

「懐かしすぎる…。作った人に金貨握らせたい…」
「呼び出しましょうか?」
「忙しいようでしたら大丈夫ですけど、余裕があるならお願いします…」

なんで味噌汁があるのか気になるし、個人的にお礼を言いたい。金貨もあげたい…。
………あらっ、味噌汁もう無くなっちゃった。
夢中で食べたからなぁ。でも、懐かしかったし美味しかった。
チーズブレッドをパクパクして味噌汁の余韻に浸っていると、正面の席に座るオウが自分の味噌汁に手を伸ばしているのが見えた。
他のみんなの様子を伺うと、味噌汁はそんなに人気が無いようだ。不味いとかではなく、未知の食べ物にどう手を出せば良いか迷っている感じ?
外国の人にとって味噌汁ってどう思われてるのかな…。俺は美味しいって思うけど、同じく俺の好きな緑茶も、欧米の人からしたら苦い飲み物、って認識らしいし…。
納豆が嫌われてるのは結構有名だよな。美味しいのに。

と、オウがおそるおそる味噌汁のお椀を覗き込み、ソッと口を付けた。

「………うん、意外とイケるね」
「だろ!? 俺のいた国じゃ定番の料理だったんだぜ! 味噌汁があれば日本食って思えるし!」
「へぇ…。コージは母国のご飯が大好きなんだねぇ」
「うん! 大好き!」

俺がそう答えると、ご飯を食べていたみんなが『ウッ…可愛い…』とか抜かしやがるが、日本食ラブな俺はそんなこと気にしない。

「いつかまた食べれると良いね」
「…うん。でも…、ここの地域の料理と日本食って、ほぼ真反対なんだよな。日本食って魚と野菜とお米がメインだし」

やっぱり、お米が恋しい。タイ米とかではなく、ジャポニカ種のうるち米…。
と、そんな事を思っていると、セバスさんが1人の男の人を連れて来た。
えっと、ベリーショートって言うのかな。短髪で無精髭。ちょっと目付きが悪くて、ガッシリしてる。多分40くらいかな?
でも騎士とかそういう系のお仕事じゃないっぽい。
だって、コックの服を着てる。

「んで、そのコージ・アヤマってのは…、おぉあの坊主か。確かにえらくべっぴんだなぁ」
「ロドリゲス料理長。口調には気を付けなさいとあれほど」
「細けェこたぁ良いんだよ。おう坊主。俺を呼んだって?」

……お、お、おっちゃんだぁ~~~!!!!
粉うことなき気さくなおっちゃんだぁ~!!!
生前に通ってたラーメン屋のおっちゃんくらいおっちゃんだぁ!!!
敬語使われるよりは何倍も嬉しい…! おっちゃーん!
と抱き付きたい所だが、初対面でそれは流石に失礼なので、味噌汁のお礼とどうやって知ったのかをお聞きしたいと思います。

「あのっ、あのっ! 味噌汁、とっても美味しかったです!!」
「あったり前だろォ? 平凡なモン作って王室料理長が務まるかよ」

王室料理長!!
つまりつまり…、王様達の料理を作ってて、ワーナーさんが憧れてる人!!

「味噌汁、俺の母国の料理なんです! どこでこれを知ったんですか?」
「ん? あぁ、忘れてた忘れてた。おい坊主、あーん」
「? あーん」

おっちゃんが太い指に四角いキューブを挟んで、差し出してきた。よく分からないけど害は無いっぽいから、口を開けてパクッとな。
後ろのルークさん達の雰囲気が変わった気がしたけど、放っておいてキューブの味を堪能する。
ぺろぺろ。ころころ。もちゃもちゃ。
……すごい! 中華風だ! このキューブ、中華料理の味がする!!
それに…、それに…!!

「うんまぁ~~~…!」
「そうかそうか! んじゃ、金貨50枚な!」
「!?」
「ぶはははは!! 冗談だって! 良い反応するなぁ!」

ひでぇ。
このキューブ1個でかなり満足のお味だし、この人が作ったんならマジ凄いけど、ビックリしたぁ。
…キューブ、口の中で完全に溶けちゃった。……物足りないけど、美味しかったなぁ。
なんでくれたんだろ。

「おう、食ったか。じゃあ次はこれだ。あーん」
「!! あーん!」

嬉しいお知らせ!
キューブ第2段に嬉々として口をぽっかり開けると、今度はおっちゃんの指まで口に入ってきちゃった。
やべって思って慌てて顔を引き、おっちゃんの指を口から出すも、おっちゃんの指は既にべとべと。
謝ろうと顔を上げたが、おっちゃんは全然気にしていない様子だ。
……いや、むしろ…。

ベロォ

…舐めた。俺の唾液でべとべとんな指を、自分でも舐めた。
そんで俺に向かってニヤッと笑った。

……あれ、もしかして今、セクハラされた?

う、うん、でも40代50代のオッサンが変態なのは世の常識だし、まぁ……。スキンシップだと思えば…。
後ろのヤンデレ達が本当に怖いけど、振り返らずにやり過ごそう。

んー、このキューブ、ちょっと辛いな。……いやだいぶ辛いな。
……かなり辛い! つかもはや痛い!!
いててっ! 水をくれぇーーーッ!!!

「からっ! いたっ! あちち…!」
「ん? これじゃなかったか…」
「おい何を…!」
「有害なモンじゃねーよ。坊主、水だ」
「んぐ…んぐっんぐっ」

カイルがおっちゃんを睨んで問いただそうとしたが、おっちゃんは気にせず、俺にコップを渡してきた。
ごきゅごきゅを渡された水を流し込み、ぷはーっと息を吐き出した俺。

いやぁ辛かった…。まだ舌がピリピリしてるぜ。
そもそもこのキューブ、何だ? 肉でも魚でも野菜でもないし、穀物でもないよな。

「次はこれな」
「まだあるの…!?」
「まぁまぁ。もう辛いのはねェから!」
「俺苦いのも苦手なんですケド…」
「あー…、大丈夫だろ」
「不安!!!」

うー…、また美味いものでありますように! と目をぎゅっと瞑ってぱくりんちょ。
…ぺろぺろ。もちゃもちゃ。
おやおや? 美味い。海鮮風味。エビのお味がする…。

「うまうま」
「お、その味は好きか。なら最後はこれだ」
「あーん」

もはや、あーんされる事が普通になってる。
まぁおっちゃんだし、別に良いかー!
はむ。ぺろもちゃぁ…。

むむっ!? こ、これは…!!


「砂糖醤油みりん!! 煮物の味!」


素晴らしき日本調味料の黄金比! 日本人が長い時間をかけて生み出したサイコーの調味料!!
うめー!! 天才だーーー!!!
ほっぺが落ちないように両手で押さえて、煮物味のキューブを堪能する。
噛まずにぺろぺろ。懐かしい味をちょっとでも長持ちさせようと、舐めて溶かすんだ。

「お、という事は坊主はやっぱりニホンジンか! ふふん、ニホンジンは料理にうるさいからな! 味噌汁だって、ニホンジンの女が残していったモンなんだぜ?」
「他にも日本人が…!?」
「何十年も前だがな。勇者召喚に巻き込まれて来ちまったようでよ。先代の王室料理長だったんだわ。15年前に退職して、4年前に死んだ。味噌汁は死ぬ前に俺にくれたレシピの1つなんだよ。『もしも私と同じ、日本から来て寂しい思いをしている人がいれば、振る舞ってあげて』って頼まれたんだ」
「……その人のお名前、分かりますか?」
「ショーコ・エグチ。俺らの世界じゃ有名だぜー?」
「江口翔子さんかぁ…。感謝しないと」

もう転生しちゃってるかなぁ。でも、感謝は伝えないとな。
味噌汁、ありがとうございました!! 美味しかったです!

「…ところであのキューブ、何だったんですか?」
「んーちょっとしたテストだよ。合格だから気にすんな」
「えー!?」

誤魔化されて俺が不満の声を上げると、おっちゃんはまた笑って俺の頭をワシャワシャした。
ガサツな感じがワーナーさんと似ている…。料理人の人は頭の撫で方まで似るのだろうか…。

「ぅおっと、名乗り忘れてたな! 俺はディアドラ・ロドリゲス。親しい奴はディアって呼ぶし、そうじゃない奴は料理長と呼ぶ! 坊主はどっちだ?」
「む。俺、坊主じゃなくてコージって言います!」

名乗られたんだから、名乗らなきゃな。
そして坊主呼びは止めて貰おう。
よくチャーシューと卵をサービスしてくれた、あのラーメン屋のおっちゃんと重なっちゃうからな。
おっちゃん、元気にしてるかなぁ。常連のおじちゃん達もすごく優しくて、大好きだったんだ。あのラーメン屋。

「坊主でもコージでもどっちでも良いよ変わんねー変わんねー!」

俺が濃厚豚骨スープに思いを馳せていると、おっちゃんが聞き捨てならない事を言った。

そりゃあ呼び名なんて、相手と周囲に伝わればそれで良いと思うけどさ、『コージ』って名前は、ちょっとアレンジしてるとは言え、お母さんとお父さんがくれた大事な名前なんだから、どっちでも変わんないとか言われるとムッとしちゃうよな。
だから俺も頬を膨らませて反論だ!

「…じゃあ、俺はおっちゃんって呼びますからね! 敬語も使いませんからね!」
「…! どぅはははははははは!!!! 良いな、サイッコーだぜ!!」
「ロドリゲス料理長…」
「堅いこと言うなよ執事長! 良いじゃねェか! 『坊主』と『おっちゃん』だろ? 気に入った!! 坊主、これからはおっちゃんって呼べよ!!」
「…あれ?」
「敬語もいらねェからな!!」

坊主呼びを止めて貰おうと思っておっちゃん呼びしたのに、何故か気に入られてしまった…。
おっちゃんの感性、よく分からん。
でもま、許可貰ったんだし、おっちゃん呼びはしますけど。

「おっちゃん、その江口さんって人、他に日本食を作ってなかった?」
「ミソとショーユを編み出してからは、かなり気合い入って作ってたぜ? えーと、ダシマキタマゴに、サバミソだろ? ニクジャガ、チクゼンニ、オデン……他にもあったんだがな。ありすぎて忘れちまった。あ、そうそう。コメが欲しいって毎日のように言ってたなぁ」
「サバ味噌に肉じゃがにおでん…!! 米が欲しいのは分かるなぁ~! やっぱ米ってここら辺にはまったく無いんだ…」
「ニホンジンはみーんなコメが大好きなんだな! どこの文献でもそう書かれてんぜ」
「なんたって主食だったから!」

ほかほかお米が恋しいこの頃。味噌汁なんて飲んじゃったら、もうたまりません。
肉じゃがもおでんも、サバ味噌も食べたぁ~い!
米と一緒にもちゃもちゃしたぁ~い!! 米ぇ~こめこめおこめめめ…。おこめ~~~!!!







待って? 魔法で出せるんじゃね???








********************



ー帝国某所ー



「おぉ、ようこそおいでくださいました勇者様方!! どうか我らを、古龍を従えし邪悪なる国からお救いください!!」

「は? えなに? どこ?」
「え、つか誰?w」
「ちょっ…!! 確定申告の途中だったんですけど!?」
「ねぇ何これ。映画の撮影?」
「まさか…! 召喚された!? 俺TUEEEEEEEキターーーーーーーッ!!!!!」

「今現在、我が帝国は危機に瀕しております! 遥か昔から争いの絶えぬ隣国が、謂れのない罪を我が帝国に被せ、世界序列に名を連ねる3体の古龍を従えて侵略しようと企んでいるのです! あなた方は神のお導きにより選ばれし、6人の勇者!! 邪悪なるグリス王国を討ち滅ぼした暁には、莫大な富と名誉を約束致しましょう!!」

「あのー、富も名誉もいらないんで条件あるんスけど」

「おぉ! これは珍しい白髪の勇者様!! 勿論、我々は勇者様のサポートに尽力する所存でございます!! して、条件とは?」
「捜して欲しい奴が1人。こっちの世界にいるはずなんで」
「…その方のお名前は?」







「阿山康治郎。こっちじゃコージ・アヤマって名乗ってるらしくて。…俺の大親友で、未来の恋人なんです」










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