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第1章:偽りの断罪、真実の夜明け
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「レティシア・アルディナ・グレイス! 貴様との婚約を、これより破棄する!」
キン、と張り詰めた空気を切り裂くように、王太子クラヴィス殿下の声が、王城の大広間に響き渡った。きらびやかなシャンデリアの光が、磨き上げられた大理石の床を照らし、集った貴族たちの豪奢な衣装を浮き彫りにしている。年に一度の建国記念の舞踏会。その華やかな舞台の中心で、私は断罪されていた。
私の隣では、クラヴィス殿下に庇われるようにして、可憐な平民の少女がすすり泣いている。その腕には痛々しい痣。……私が、彼女に暴力を振るったのだという。
「言い訳はあるか、レティシア」
冷たい声で問いかける殿下の瞳には、かつての愛情など微塵も残っていない。ただ、軽蔑と怒りだけが燃えている。私はゆっくりと周囲を見回した。同情する者はいない。誰もが私を「嫉妬に狂った悪役令嬢」として見ている。特に、王妃――殿下の義母にあたる方の口元には、かすかな笑みさえ浮かんでいた。
ああ、そう。これが、彼女たちの描いた筋書き。私がこの国の王太子妃になることを快く思わない義母が、野心家の男爵家と手を組み、あの平民の少女を駒として使った茶番劇。全ては、私を公の場で貶め、王家から引き離すための陰謀。
くだらない。あまりにも、くだらない。
私はこの日のために、血の滲むような努力を重ねてきた。王妃教育、帝王学、外交術。全ては、この国の未来をクラヴィス殿下と共に支えるため。その全てが、こんな陳腐な罠によって水泡に帰す。悔しくない、と言えば嘘になる。悲しくない、と言えば偽りになる。
でも、それ以上に、心の奥底から湧き上がってくる感情があった。
――解放感だ。
「……何か言うことはないのか!」
苛立ちを隠しもせずに叫ぶ殿下に、私は静かに頭を下げた。そして、顔を上げ、この日一番の、淑女然とした完璧な笑みを浮かべてみせる。
「いいえ、ございません。殿下のご決断に従いますわ」
「なっ……! 反省の色も見せんとは、やはり貴様は……!」
殿下はさらに何かを言おうとしたが、それを国王陛下が厳かな声で制した。
「静まれ、クラヴィス。……レティシア・グレイス。王家への反逆と見なせる今回の所業、断じて許されるものではない。よって、そなたに三つの罰を申し渡す。一つ、クラヴィスとの離婚を正式に認める。一つ、グレイス公爵家は爵位を剥奪し、平民に落とす。そして一つ、そなたを王国から追放する!」
離婚、爵位剥奪、国外追放。これ以上ないほどの厳罰。貴族令嬢としての私の人生は、完全に終わった。父様や母様には申し訳ないけれど、これでいい。腐敗しきった王宮のしがらみ、陰謀渦巻く貴族社会、そして、私の努力を何一つ理解しようとしなかった愚かな婚約者。その全てから、私はようやく自由になれるのだ。
「謹んで、お受けいたします」
私はもう一度、深く頭を下げた。そして、踵を返し、誰にも振り返ることなく、大広間を去る。冷たい視線が背中に突き刺さるが、もう気にならない。一歩、また一歩と進むたびに、重い枷が外れていくような気がした。
扉の前で一瞬だけ足を止め、私は小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
「良かった。これで、ようやく自由ですね」
その声は、自分でも驚くほど晴れやかだった。扉の外に広がる暗い廊下の先には、絶望ではなく、未知なる未来が広がっているように思えた。
レティシア・アルディナ・グレイスとしての人生は、今、終わった。
そして、新しい私の人生が、この瞬間から始まるのだ。
キン、と張り詰めた空気を切り裂くように、王太子クラヴィス殿下の声が、王城の大広間に響き渡った。きらびやかなシャンデリアの光が、磨き上げられた大理石の床を照らし、集った貴族たちの豪奢な衣装を浮き彫りにしている。年に一度の建国記念の舞踏会。その華やかな舞台の中心で、私は断罪されていた。
私の隣では、クラヴィス殿下に庇われるようにして、可憐な平民の少女がすすり泣いている。その腕には痛々しい痣。……私が、彼女に暴力を振るったのだという。
「言い訳はあるか、レティシア」
冷たい声で問いかける殿下の瞳には、かつての愛情など微塵も残っていない。ただ、軽蔑と怒りだけが燃えている。私はゆっくりと周囲を見回した。同情する者はいない。誰もが私を「嫉妬に狂った悪役令嬢」として見ている。特に、王妃――殿下の義母にあたる方の口元には、かすかな笑みさえ浮かんでいた。
ああ、そう。これが、彼女たちの描いた筋書き。私がこの国の王太子妃になることを快く思わない義母が、野心家の男爵家と手を組み、あの平民の少女を駒として使った茶番劇。全ては、私を公の場で貶め、王家から引き離すための陰謀。
くだらない。あまりにも、くだらない。
私はこの日のために、血の滲むような努力を重ねてきた。王妃教育、帝王学、外交術。全ては、この国の未来をクラヴィス殿下と共に支えるため。その全てが、こんな陳腐な罠によって水泡に帰す。悔しくない、と言えば嘘になる。悲しくない、と言えば偽りになる。
でも、それ以上に、心の奥底から湧き上がってくる感情があった。
――解放感だ。
「……何か言うことはないのか!」
苛立ちを隠しもせずに叫ぶ殿下に、私は静かに頭を下げた。そして、顔を上げ、この日一番の、淑女然とした完璧な笑みを浮かべてみせる。
「いいえ、ございません。殿下のご決断に従いますわ」
「なっ……! 反省の色も見せんとは、やはり貴様は……!」
殿下はさらに何かを言おうとしたが、それを国王陛下が厳かな声で制した。
「静まれ、クラヴィス。……レティシア・グレイス。王家への反逆と見なせる今回の所業、断じて許されるものではない。よって、そなたに三つの罰を申し渡す。一つ、クラヴィスとの離婚を正式に認める。一つ、グレイス公爵家は爵位を剥奪し、平民に落とす。そして一つ、そなたを王国から追放する!」
離婚、爵位剥奪、国外追放。これ以上ないほどの厳罰。貴族令嬢としての私の人生は、完全に終わった。父様や母様には申し訳ないけれど、これでいい。腐敗しきった王宮のしがらみ、陰謀渦巻く貴族社会、そして、私の努力を何一つ理解しようとしなかった愚かな婚約者。その全てから、私はようやく自由になれるのだ。
「謹んで、お受けいたします」
私はもう一度、深く頭を下げた。そして、踵を返し、誰にも振り返ることなく、大広間を去る。冷たい視線が背中に突き刺さるが、もう気にならない。一歩、また一歩と進むたびに、重い枷が外れていくような気がした。
扉の前で一瞬だけ足を止め、私は小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
「良かった。これで、ようやく自由ですね」
その声は、自分でも驚くほど晴れやかだった。扉の外に広がる暗い廊下の先には、絶望ではなく、未知なる未来が広がっているように思えた。
レティシア・アルディナ・グレイスとしての人生は、今、終わった。
そして、新しい私の人生が、この瞬間から始まるのだ。
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