15 / 17
番外編2:寡黙な騎士の独白
しおりを挟む
俺、レオンは、あの日、リナ・アーシェットという女と初めて会った時のことを、今でも鮮明に覚えている。
王都から追放されてきたという、世間知らずのお姫様。痩せた土地と、俺の無愛想な態度を前に、すぐに泣き出すか、絶望するかだと思っていた。
だが、彼女は違った。
次の日には、高価だったであろうドレスの裾をまくり上げ、泥だらけになって地面に這いつくばっていた。その姿を見た時、俺は正直、正気を疑った。
俺は、王都に嫌気が差していた。
王国最強の騎士団長。そう呼ばれてはいたが、俺が見ていたのは、権力に固執する王族と、私利私欲に走る貴族たちの醜い争いばかり。正義など、そこにはなかった。
全てに絶望した俺は、死んだことにして騎士団を抜け、この誰にも忘れられた谷で、静かに余生を過ごすつもりだった。
そんな俺の前に、彼女は現れた。
最初は、ただの気まぐれだと思っていた。だが、彼女は来る日も来る日も、土と格闘し続けた。その小さな手は豆だらけになり、日に焼けた顔は土で汚れていた。それでも、彼女の瞳の光は、決して消えなかった。
いつからだろう。彼女の姿から目が離せなくなったのは。
彼女が初めて育てたジャガイモでポタージュを作ってくれた夜。その一口を食べた瞬間、冷え切っていた俺の心に、温かい何かが流れ込んできた。それは、ただのスープの味ではなかった。希望の味がした。
彼女がレストランを開き、楽しそうに働く姿。
谷の子供たちに囲まれて、優しく笑う姿。
俺の無骨な手に、そっと薬草の軟膏を塗ってくれた時の、真剣な横顔。
その一つ一つが、俺の世界を彩っていった。
彼女こそが、俺がずっと探し求めていた、守るべきものなのだと気づいた時、俺の心は決まっていた。
俺は、腐った王国のために剣を振るうのをやめた。だが、彼女のためなら、彼女が作るこの温かい世界のためなら、もう一度、剣を取ることができる。いや、取りたい。
あの日、丘の上で彼女に愛を告げた時、心臓が口から飛び出しそうだったことを、彼女は知らないだろう。
女王となった彼女の隣に立つことは、今でも少しだけ気恥ずかしい。
だが、彼女が「レオン」と俺の名前を呼んで、花のように笑う時、俺は世界で一番の幸せ者だと思うのだ。
リナ。俺の女王。俺の、たった一人の太陽。
お前がこの大地を愛し続ける限り、俺は、お前という光を守る、揺るぎない影でいよう。
そう、心に誓う。
王都から追放されてきたという、世間知らずのお姫様。痩せた土地と、俺の無愛想な態度を前に、すぐに泣き出すか、絶望するかだと思っていた。
だが、彼女は違った。
次の日には、高価だったであろうドレスの裾をまくり上げ、泥だらけになって地面に這いつくばっていた。その姿を見た時、俺は正直、正気を疑った。
俺は、王都に嫌気が差していた。
王国最強の騎士団長。そう呼ばれてはいたが、俺が見ていたのは、権力に固執する王族と、私利私欲に走る貴族たちの醜い争いばかり。正義など、そこにはなかった。
全てに絶望した俺は、死んだことにして騎士団を抜け、この誰にも忘れられた谷で、静かに余生を過ごすつもりだった。
そんな俺の前に、彼女は現れた。
最初は、ただの気まぐれだと思っていた。だが、彼女は来る日も来る日も、土と格闘し続けた。その小さな手は豆だらけになり、日に焼けた顔は土で汚れていた。それでも、彼女の瞳の光は、決して消えなかった。
いつからだろう。彼女の姿から目が離せなくなったのは。
彼女が初めて育てたジャガイモでポタージュを作ってくれた夜。その一口を食べた瞬間、冷え切っていた俺の心に、温かい何かが流れ込んできた。それは、ただのスープの味ではなかった。希望の味がした。
彼女がレストランを開き、楽しそうに働く姿。
谷の子供たちに囲まれて、優しく笑う姿。
俺の無骨な手に、そっと薬草の軟膏を塗ってくれた時の、真剣な横顔。
その一つ一つが、俺の世界を彩っていった。
彼女こそが、俺がずっと探し求めていた、守るべきものなのだと気づいた時、俺の心は決まっていた。
俺は、腐った王国のために剣を振るうのをやめた。だが、彼女のためなら、彼女が作るこの温かい世界のためなら、もう一度、剣を取ることができる。いや、取りたい。
あの日、丘の上で彼女に愛を告げた時、心臓が口から飛び出しそうだったことを、彼女は知らないだろう。
女王となった彼女の隣に立つことは、今でも少しだけ気恥ずかしい。
だが、彼女が「レオン」と俺の名前を呼んで、花のように笑う時、俺は世界で一番の幸せ者だと思うのだ。
リナ。俺の女王。俺の、たった一人の太陽。
お前がこの大地を愛し続ける限り、俺は、お前という光を守る、揺るぎない影でいよう。
そう、心に誓う。
349
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ
鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。
平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」
婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。
彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。
二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。
……はずなのに。
邸内で起きる不可解な襲撃。
操られた侍女が放つ言葉。
浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。
「白の娘よ。いずれ迎えに行く」
影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。
守るために剣を握る公爵。
守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。
契約から始まったはずの二人の関係は、
いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。
「君を奪わせはしない」
「わたくしも……あなたを守りたいのです」
これは――
白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、
覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。
---
追放聖女ですが、辺境で愛されすぎて国ごと救ってしまいました』
鍛高譚
恋愛
婚約者である王太子から
「お前の力は不安定で使えない」と切り捨てられ、
聖女アニスは王都から追放された。
行き場を失った彼女を迎えたのは、
寡黙で誠実な辺境伯レオニール。
「ここでは、君の意思が最優先だ」
その一言に救われ、
アニスは初めて“自分のために生きる”日々を知っていく。
──だがその頃、王都では魔力が暴走し、魔物が溢れ出す最悪の事態に。
「アニスさえ戻れば国は救われる!」
手のひらを返した王太子と新聖女リリィは土下座で懇願するが……
「私はあなたがたの所有物ではありません」
アニスは冷静に突き放し、
自らの意思で国を救うために立ち上がる。
そして儀式の中で“真の聖女”として覚醒したアニスは、
暴走する魔力を鎮め、魔物を浄化し、国中に奇跡をもたらす。
暴走の原因を隠蔽していた王太子は失脚。
リリィは国外追放。
民衆はアニスを真の守護者として称える。
しかしアニスが選んだのは――
王都ではなく、静かで温かい辺境の地。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
婚約破棄された悪役令嬢の私、前世の記憶を頼りに辺境で農業始めます。~美味しい野菜で国を救ったら聖女と呼ばれました~
黒崎隼人
ファンタジー
王太子アルベルトから「悪役令嬢」の濡れ衣を着せられ、辺境へ追放された公爵令嬢エリザベート。しかし彼女は動じない。なぜなら彼女には、前世で日本の農業研究者だった記憶があったから!
痩せた土地、疲弊した人々――「ならば私が、この地を楽園に変えてみせる!」
持ち前の知識と行動力で、次々と農業改革を成功させていくエリザベート。やがて彼女の噂は王都にも届き、離婚を告げたはずの王太子が、後悔と疑問を胸に辺境を訪れる。
「離婚した元夫婦」が、王国を揺るがす大きな運命の歯車を回し始める――。これは、復縁しない二人が、最高のパートナーとして未来を築く、新しい関係の物語。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる