追放令嬢のスローライフ。辺境で美食レストランを開いたら、元婚約者が「戻ってきてくれ」と泣きついてきましたが、寡黙な騎士様と幸せなのでお断りし

緋村ルナ

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番外編3:『恵みの皿』は今日も大繁盛!

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 女王リナが、時々お忍びで厨房に立つ。それは、フロンティア国の国民の間では、公然の秘密となっていた。
 その日も、『恵みの皿』は開店と同時に満席だった。
「女王様、いや、リナシェフ!今日は新作デザート、あるかい!?」
 店のカウンター席で、ドワーフのギルが大きな声で尋ねる。
「ふふ、もちろんよ、ギルさん。今日はとっておきがあるんだから」
 エプロン姿のリナは、悪戯っぽく笑った。女王の威厳はどこへやら、彼女はここでは一人の料理人だ。

 そこへ、店の扉が勢いよく開いた。
「リナさーん!すんげぇ珍しいもん、手に入れてきたぜ!」
 獣人のモコが、怪しげな木箱を抱えて駆け込んでくる。箱の中には、南の島でしか採れないという、虹色に輝くベリーが入っていた。
「まあ、なんて綺麗なの!これは……酸味と甘みのバランスが絶妙ね。パイにしたら最高かも!」
 リナの目が、料理人としてキラキラと輝きだす。

 店の隅のテーブルでは、エルフのシルが、数種類のハーブティーをテイスティングしていた。
「うん。この虹色ベリーの香りには、ミントよりもレモンバームの方が合うだろうね。後味を爽やかにしてくれる」
「さすがシルさん!じゃあ、パイ生地に少し練り込んでみようかしら」
 リナは早速、シルやモコと新しいレシピの相談を始める。

 そんな活気あふれる店の一角を、夫となったレオンが、客に紛れて静かに見守っていた。彼は用心棒と称して、いつも妻の一番近くにいるのだ。
 常連客たちが、レオンに気さくに話しかける。
「旦那様も大変だなあ。うちのかかあも、料理に夢中になると周りが見えなくなるんだ」
「ははは。だが、あんなに楽しそうな女王様を見られるのは、俺たちの誇りですよ」
 レオンは何も言わず、ただ小さく頷いた。その口元には、優しい笑みが浮かんでいる。

 やがて、リナの新作デザート『幸せの虹色ベリーパイ』が焼き上がった。
 サクサクの生地に、甘酸っぱいベリーのクリームがとろり。一口食べれば、誰もが幸せな溜息を漏らす。
「「「うまい!!」」」
 店中に、ギルやモコ、そして客たちの歓声が響き渡った。
 その笑い声を聞きながら、リナは心から思う。
(ああ、ここが私の原点。私の、一番好きな場所)
 仲間たちの笑い声と、美味しい料理の匂いに包まれて、女王は今日も、世界で一番の幸せを噛みしめるのだった。
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