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第2章:辺境へ、そして無骨な村長代理
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王都を出発して三週間。豪華絢爛な装飾の貴族馬車とは似ても似つかない、質素で揺れの激しい護送用の馬車に揺られ、私はついにヴァルム辺境伯領へと到着した。
馬車の窓から見える景色は、噂に違わぬものだった。ごつごつとした岩肌が剥き出しの山々、まばらに生える背の低い木々、そしてどこまでも広がる灰褐色の荒れ地。時折見える家々は小さく、どこか活気がない。生命力に満ち溢れていた王都とは、何もかもが正反対の世界だった。
村の中心らしき広場で馬車が止まると、待ち構えていた数人の村人が、遠巻きにこちらを窺っているのが見えた。その視線は好奇心よりも、あからさまな警戒心と冷たさが勝っている。まあ、そうだろう。突然、王都から厄介者が送り込まれてきたのだから。
「こちらが、イザベラ様だ」
護送の騎士が事務的に告げると、村人たちの中から一人の青年が進み出た。私よりいくつか年上だろうか。日に焼けた肌に、鍛え上げられた逞しい体つき。短く刈った黒髪に、鋭い眼光の持ち主だった。その佇まいは、農民というより戦士に近い。
「俺はカイ。ここの村長代理だ。話は聞いている」
カイと名乗った彼は、私を値踏みするように上から下まで眺め、ふんと鼻を鳴らした。
「元貴族のお嬢様に、この村で何ができるってんだ。足手まといにならんよう、せいぜい大人しくしているこったな」
なんとも手厳しい歓迎だ。だが、彼の言い分もわかる。私のような、ひらひらのドレスを着て日傘を差しているのが当たり前だった女が、この厳しい土地で生きていけるとは到底思えないだろう。
「ご忠告、痛み入ります。カイ、村長代理殿。足手まといにはならぬよう、努めますわ」
私が貴族然とした口調で、しかしにこやかに返すと、カイは少し面食らったような顔をした。すぐに元の無愛想な表情に戻ったけれど。
彼に案内されたのは、村の外れにある一軒の粗末な小屋だった。石と木で雑に組まれた壁には隙間があり、屋根もところどころ傷んでいる。中には粗末なベッドと机、椅子が一つずつ。あとは空っぽの暖炉があるだけ。これが、公爵令嬢に与えられた新しい住まいらしかった。
「食料は当面、村から最低限のものを支給する。だが、それもいつまで続くかは分からん。自分で何とかする術を見つけるんだな」
そう言い捨て、カイはさっさと去っていった。一人残された私は、改めて小屋の中を見渡す。隙間風がひゅう、と音を立てて吹き込んできた。
普通なら、絶望するところなのだろう。事実、付き人として同行を許された侍女のアンナは、隣で顔を真っ青にしている。けれど、私の心は不思議と穏やかだった。
むしろ、この何もない状況が、私の眠っていた魂を呼び覚ますようだった。前世の、あの「ないなら作ればいい」というDIY精神と、「まずは土台から」という農家の知恵が、むくむくと湧き上がってくる。
「さて、アンナ。まずは大掃除から始めましょうか。それから、この隙間をどうにかしないと夜は冷えるわね。近くに粘土質の土があればいいのだけれど」
「え……お、お嬢様?」
呆然とするアンナをよそに、私は早速スカートの裾をたくし上げた。
絶望するには、まだ早い。私にとっては、ここがスタート地点。貴族のイザベラは死んだ。ここからは、ただのイザベラとして生きていくのだ。目の前に広がる荒れ地と、与えられたボロ小屋。それらは私にとって、絶望の象徴ではなく、無限の可能性を秘めたキャンバスのように見えていた。
馬車の窓から見える景色は、噂に違わぬものだった。ごつごつとした岩肌が剥き出しの山々、まばらに生える背の低い木々、そしてどこまでも広がる灰褐色の荒れ地。時折見える家々は小さく、どこか活気がない。生命力に満ち溢れていた王都とは、何もかもが正反対の世界だった。
村の中心らしき広場で馬車が止まると、待ち構えていた数人の村人が、遠巻きにこちらを窺っているのが見えた。その視線は好奇心よりも、あからさまな警戒心と冷たさが勝っている。まあ、そうだろう。突然、王都から厄介者が送り込まれてきたのだから。
「こちらが、イザベラ様だ」
護送の騎士が事務的に告げると、村人たちの中から一人の青年が進み出た。私よりいくつか年上だろうか。日に焼けた肌に、鍛え上げられた逞しい体つき。短く刈った黒髪に、鋭い眼光の持ち主だった。その佇まいは、農民というより戦士に近い。
「俺はカイ。ここの村長代理だ。話は聞いている」
カイと名乗った彼は、私を値踏みするように上から下まで眺め、ふんと鼻を鳴らした。
「元貴族のお嬢様に、この村で何ができるってんだ。足手まといにならんよう、せいぜい大人しくしているこったな」
なんとも手厳しい歓迎だ。だが、彼の言い分もわかる。私のような、ひらひらのドレスを着て日傘を差しているのが当たり前だった女が、この厳しい土地で生きていけるとは到底思えないだろう。
「ご忠告、痛み入ります。カイ、村長代理殿。足手まといにはならぬよう、努めますわ」
私が貴族然とした口調で、しかしにこやかに返すと、カイは少し面食らったような顔をした。すぐに元の無愛想な表情に戻ったけれど。
彼に案内されたのは、村の外れにある一軒の粗末な小屋だった。石と木で雑に組まれた壁には隙間があり、屋根もところどころ傷んでいる。中には粗末なベッドと机、椅子が一つずつ。あとは空っぽの暖炉があるだけ。これが、公爵令嬢に与えられた新しい住まいらしかった。
「食料は当面、村から最低限のものを支給する。だが、それもいつまで続くかは分からん。自分で何とかする術を見つけるんだな」
そう言い捨て、カイはさっさと去っていった。一人残された私は、改めて小屋の中を見渡す。隙間風がひゅう、と音を立てて吹き込んできた。
普通なら、絶望するところなのだろう。事実、付き人として同行を許された侍女のアンナは、隣で顔を真っ青にしている。けれど、私の心は不思議と穏やかだった。
むしろ、この何もない状況が、私の眠っていた魂を呼び覚ますようだった。前世の、あの「ないなら作ればいい」というDIY精神と、「まずは土台から」という農家の知恵が、むくむくと湧き上がってくる。
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