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第3章:土との対話、泥まみれの公爵令嬢
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翌日から、私の「開拓」が始まった。まず取り掛かったのは、小屋の修繕だ。アンナには村の様子を探りつつ、水汲みなどをお願いし、私は一人で小屋の周りを歩き回った。
幸い、近くの小川のほとりで良質な粘土を見つけることができた。前世の記憶を頼りに、水と刻んだ藁を混ぜて壁の隙間を埋めていく。もちろん、初めから上手くいくわけではない。手も顔も泥だらけになり、慣れない作業に体は悲鳴を上げた。
そんな私の奇妙な行動を、村人たちは遠巻きに眺めていた。時折、子供たちが近づいてきては、泥人形みたいになった私を見て笑っている。そして、あの村長代理カイも、畑仕事の合間に腕を組んで、呆れたような顔でこちらを眺めているのが分かった。
「無駄なことを」
ある日、ついに彼はそう声をかけてきた。
「そんな付け焼き刃の知識で何になる。冬になれば、そんな壁はすぐにひび割れて、結局は凍えるだけだ」
「やらないよりはましでしょう?それに、これはただの始まりに過ぎませんわ」
私は泥のついた手で汗をぬぐい、にっこりと笑い返した。カイはますます怪訝そうな顔をする。
小屋の修繕が一段落すると、私は次なる目標、すなわち「畑作り」に着手した。小屋の裏に広がる、石ころだらけの固い地面。村の誰もが「ここじゃ何も育たない」と匙を投げた土地だ。
私はまず、来る日も来る日も石を拾い続けた。集めた石は、畑の周りを囲う石垣にする。次に、スコップで固い土を掘り起こしていく。公爵令嬢がやることではない。日に日に、私の手は豆だらけになり、爪の間には土が入り込んだ。日に焼けるのも構わず、来る日も来る日も土と向き合った。
そして、肝心なのは土壌改良だ。この土地の土は、見た目と生えている雑草の種類からして、おそらく強い酸性に傾いている。これでは作物は育たない。
「何を燃やしているんだ?」
私が焚火をしているのを見て、またカイがやってきた。私の行動が気になって仕方ないらしい。
「草木灰を作っているのです。これを畑に撒けば、酸性の土を中和できますわ。アルカリ性の肥料にもなりますしね」
「そうもくばい……?」
聞いたこともない言葉に、彼は首を傾げる。この世界には、まだそういった体系的な農業知識は広まっていないようだった。
「それに、腐葉土も必要ですわね。あの森の落ち葉を集めて、発酵させれば最高の肥料になります」
私は、まるで宝の地図でも広げるかのように、目を輝かせながら語った。そんな私を見て、カイの表情から少しずつ、呆れや侮蔑の色が薄れていくのを、私は感じていた。彼は何も言わずに去っていったが、その背中には、ほんの少しだけ戸惑いが滲んでいるように見えた。
毎日、泥だらけになって働く私の姿は、村で一番の噂の的になった。初めは嘲笑していた村人たちも、私のあまりのひたむきさに、次第に見る目を変え始めている。まだ警戒は解かれていないけれど、「あのお嬢様は、何かが違う」という空気が、村に漂い始めていた。
そして、数週間後。私が愛情を込めて改良した畑に、種を蒔く日がやってきた。私が選んだのは、痩せた土地でも比較的育ちやすいと言われる根菜類。ジャガイモとカブだ。
黒々と、そしてふかふかと生まれ変わった土に、私は一粒一粒、希望を埋め込んでいく。
「どうか、無事に育って……」
それは、私の心からの祈りだった。この小さな種が、私の、そしてこの村の未来を変える一歩になることを信じて。カイが、少し離れた場所から、じっとその様子を見つめていることには、気づかないふりをした。
幸い、近くの小川のほとりで良質な粘土を見つけることができた。前世の記憶を頼りに、水と刻んだ藁を混ぜて壁の隙間を埋めていく。もちろん、初めから上手くいくわけではない。手も顔も泥だらけになり、慣れない作業に体は悲鳴を上げた。
そんな私の奇妙な行動を、村人たちは遠巻きに眺めていた。時折、子供たちが近づいてきては、泥人形みたいになった私を見て笑っている。そして、あの村長代理カイも、畑仕事の合間に腕を組んで、呆れたような顔でこちらを眺めているのが分かった。
「無駄なことを」
ある日、ついに彼はそう声をかけてきた。
「そんな付け焼き刃の知識で何になる。冬になれば、そんな壁はすぐにひび割れて、結局は凍えるだけだ」
「やらないよりはましでしょう?それに、これはただの始まりに過ぎませんわ」
私は泥のついた手で汗をぬぐい、にっこりと笑い返した。カイはますます怪訝そうな顔をする。
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私はまず、来る日も来る日も石を拾い続けた。集めた石は、畑の周りを囲う石垣にする。次に、スコップで固い土を掘り起こしていく。公爵令嬢がやることではない。日に日に、私の手は豆だらけになり、爪の間には土が入り込んだ。日に焼けるのも構わず、来る日も来る日も土と向き合った。
そして、肝心なのは土壌改良だ。この土地の土は、見た目と生えている雑草の種類からして、おそらく強い酸性に傾いている。これでは作物は育たない。
「何を燃やしているんだ?」
私が焚火をしているのを見て、またカイがやってきた。私の行動が気になって仕方ないらしい。
「草木灰を作っているのです。これを畑に撒けば、酸性の土を中和できますわ。アルカリ性の肥料にもなりますしね」
「そうもくばい……?」
聞いたこともない言葉に、彼は首を傾げる。この世界には、まだそういった体系的な農業知識は広まっていないようだった。
「それに、腐葉土も必要ですわね。あの森の落ち葉を集めて、発酵させれば最高の肥料になります」
私は、まるで宝の地図でも広げるかのように、目を輝かせながら語った。そんな私を見て、カイの表情から少しずつ、呆れや侮蔑の色が薄れていくのを、私は感じていた。彼は何も言わずに去っていったが、その背中には、ほんの少しだけ戸惑いが滲んでいるように見えた。
毎日、泥だらけになって働く私の姿は、村で一番の噂の的になった。初めは嘲笑していた村人たちも、私のあまりのひたむきさに、次第に見る目を変え始めている。まだ警戒は解かれていないけれど、「あのお嬢様は、何かが違う」という空気が、村に漂い始めていた。
そして、数週間後。私が愛情を込めて改良した畑に、種を蒔く日がやってきた。私が選んだのは、痩せた土地でも比較的育ちやすいと言われる根菜類。ジャガイモとカブだ。
黒々と、そしてふかふかと生まれ変わった土に、私は一粒一粒、希望を埋め込んでいく。
「どうか、無事に育って……」
それは、私の心からの祈りだった。この小さな種が、私の、そしてこの村の未来を変える一歩になることを信じて。カイが、少し離れた場所から、じっとその様子を見つめていることには、気づかないふりをした。
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