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第4章:小さな芽吹きと、じゃがいもの魔法
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種を蒔いてから、二週間が経った。私は毎日、祈るような気持ちで畑へ通った。水をやり、雑草を抜き、土の様子を確かめる。村人たちは相変わらず遠巻きに眺めているだけだったが、その視線には明らかに変化があった。嘲笑は消え、固唾を飲んで見守るような、そんな雰囲気が漂っている。
そして、その日は突然やってきた。
「……あっ!」
いつものように畑へ向かった私の目に、信じられない光景が飛び込んできたのだ。黒い土の表面を突き破って、いくつもの小さな、しかし力強い緑色の芽が顔を出している。ジャガイモの芽だ。隣の畝では、カブの双葉が可愛らしく並んでいる。
「芽が出た……!」
思わず、その場に膝をついた。嬉しくて、涙が滲む。この荒れ地で、この見捨てられた土地で、新しい命が生まれた。私の努力が、報われた瞬間だった。
そのニュースは、あっという間に村中に広まった。「あの元貴族様の畑から、芽が出たぞ!」「まさか、本当に育つなんて!」と、村人たちが次々と私の畑へ見物にやってきた。彼らは皆、驚きと信じられないといった表情で、小さな緑の芽を見つめている。
「……本当に、やり遂げたのか」
カイも、畑の前に立っていた。彼の鋭い目が見開かれ、その声には隠しきれない驚愕が滲んでいる。
「ええ。言ったでしょう?これは始まりに過ぎないと」
私は誇らしげに胸を張り、にっこりと笑った。カイは気まずそうに視線をそらし、「……ふん」とだけ言って、足早に去っていった。でも、彼の横顔が少しだけ赤らんでいるように見えたのは、きっと西日のせいではないだろう。
それから数か月。芽はぐんぐんと育ち、ジャガイモは青々とした葉を茂らせ、カブは土の中から丸い頭を覗かせるようになった。そして、いよいよ収穫の時が来た。掘り起こした土の中から、ごろんごろんと、大きくて形の良いジャガイモが出てきた時の感動は、今でも忘れられない。
収穫できたのは、まだ少量だった。村全体の食糧事情を改善するには、程遠い。それでも、これは大きな一歩だった。
私は収穫したばかりのジャガイモを使い、早速腕を振るうことにした。まずは、ふかしたジャガイモの皮を熱いうちに剥き、潰して、塩と酢、そして村で手に入れた酸味のある木の実のクリームで和える。刻んだ玉ねぎも少し加えて……前世で慣れ親しんだ「ポテトサラダ」の完成だ。
それから、もう一品。小さなジャガイモをよく洗い、皮ごとふかして、十字に切れ込みを入れる。そこに、村で作られている塩気の強いバターを乗せれば、「じゃがバター」のできあがり。
私は出来上がった二つの料理を大きなお皿に乗せ、いつも遠巻きに私を見ていた子供たちの元へ持っていった。
「さあ、お食べなさい。私が作った畑でとれた、お芋さんですわよ」
子供たちは、おそるおそる手を伸ばす。そして、初めて口にするポテトサラダの味に、目を丸くした。
「……おいしい!」
「なんだこれ!ふわふわで、ちょっとすっぱくて、おいしい!」
じゃがバターを頬張った子も、「あちち!でも、うめぇ!」と歓声を上げる。その笑顔を見た瞬間、私の心は温かいもので満たされた。
大人たちも、最初は遠慮していたが、子供たちのあまりの喜びように、少しずつ集まってくる。そして、一口食べた途端、その表情が変わった。
「こりゃあ……美味いな……」
「ジャガイモが、こんな味になるなんて……」
凍てついていた村人たちの心が、ほんの少し、解けていくのが分かった。温かい料理は、人の心を温める魔法だ。前世の母がよく言っていた言葉を、私はこの辺境の地で、改めて実感していた。
そして、その日は突然やってきた。
「……あっ!」
いつものように畑へ向かった私の目に、信じられない光景が飛び込んできたのだ。黒い土の表面を突き破って、いくつもの小さな、しかし力強い緑色の芽が顔を出している。ジャガイモの芽だ。隣の畝では、カブの双葉が可愛らしく並んでいる。
「芽が出た……!」
思わず、その場に膝をついた。嬉しくて、涙が滲む。この荒れ地で、この見捨てられた土地で、新しい命が生まれた。私の努力が、報われた瞬間だった。
そのニュースは、あっという間に村中に広まった。「あの元貴族様の畑から、芽が出たぞ!」「まさか、本当に育つなんて!」と、村人たちが次々と私の畑へ見物にやってきた。彼らは皆、驚きと信じられないといった表情で、小さな緑の芽を見つめている。
「……本当に、やり遂げたのか」
カイも、畑の前に立っていた。彼の鋭い目が見開かれ、その声には隠しきれない驚愕が滲んでいる。
「ええ。言ったでしょう?これは始まりに過ぎないと」
私は誇らしげに胸を張り、にっこりと笑った。カイは気まずそうに視線をそらし、「……ふん」とだけ言って、足早に去っていった。でも、彼の横顔が少しだけ赤らんでいるように見えたのは、きっと西日のせいではないだろう。
それから数か月。芽はぐんぐんと育ち、ジャガイモは青々とした葉を茂らせ、カブは土の中から丸い頭を覗かせるようになった。そして、いよいよ収穫の時が来た。掘り起こした土の中から、ごろんごろんと、大きくて形の良いジャガイモが出てきた時の感動は、今でも忘れられない。
収穫できたのは、まだ少量だった。村全体の食糧事情を改善するには、程遠い。それでも、これは大きな一歩だった。
私は収穫したばかりのジャガイモを使い、早速腕を振るうことにした。まずは、ふかしたジャガイモの皮を熱いうちに剥き、潰して、塩と酢、そして村で手に入れた酸味のある木の実のクリームで和える。刻んだ玉ねぎも少し加えて……前世で慣れ親しんだ「ポテトサラダ」の完成だ。
それから、もう一品。小さなジャガイモをよく洗い、皮ごとふかして、十字に切れ込みを入れる。そこに、村で作られている塩気の強いバターを乗せれば、「じゃがバター」のできあがり。
私は出来上がった二つの料理を大きなお皿に乗せ、いつも遠巻きに私を見ていた子供たちの元へ持っていった。
「さあ、お食べなさい。私が作った畑でとれた、お芋さんですわよ」
子供たちは、おそるおそる手を伸ばす。そして、初めて口にするポテトサラダの味に、目を丸くした。
「……おいしい!」
「なんだこれ!ふわふわで、ちょっとすっぱくて、おいしい!」
じゃがバターを頬張った子も、「あちち!でも、うめぇ!」と歓声を上げる。その笑顔を見た瞬間、私の心は温かいもので満たされた。
大人たちも、最初は遠慮していたが、子供たちのあまりの喜びように、少しずつ集まってくる。そして、一口食べた途端、その表情が変わった。
「こりゃあ……美味いな……」
「ジャガイモが、こんな味になるなんて……」
凍てついていた村人たちの心が、ほんの少し、解けていくのが分かった。温かい料理は、人の心を温める魔法だ。前世の母がよく言っていた言葉を、私はこの辺境の地で、改めて実感していた。
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