辺境レストラン「太陽の恵み」へようこそ!追放令嬢がバイキング形式で巻き起こす、お腹いっぱい幸せいっぱい大逆転劇!

緋村ルナ

文字の大きさ
5 / 20

第4章:小さな芽吹きと、じゃがいもの魔法

しおりを挟む
 種を蒔いてから、二週間が経った。私は毎日、祈るような気持ちで畑へ通った。水をやり、雑草を抜き、土の様子を確かめる。村人たちは相変わらず遠巻きに眺めているだけだったが、その視線には明らかに変化があった。嘲笑は消え、固唾を飲んで見守るような、そんな雰囲気が漂っている。

 そして、その日は突然やってきた。

「……あっ!」

 いつものように畑へ向かった私の目に、信じられない光景が飛び込んできたのだ。黒い土の表面を突き破って、いくつもの小さな、しかし力強い緑色の芽が顔を出している。ジャガイモの芽だ。隣の畝では、カブの双葉が可愛らしく並んでいる。

「芽が出た……!」

 思わず、その場に膝をついた。嬉しくて、涙が滲む。この荒れ地で、この見捨てられた土地で、新しい命が生まれた。私の努力が、報われた瞬間だった。

 そのニュースは、あっという間に村中に広まった。「あの元貴族様の畑から、芽が出たぞ!」「まさか、本当に育つなんて!」と、村人たちが次々と私の畑へ見物にやってきた。彼らは皆、驚きと信じられないといった表情で、小さな緑の芽を見つめている。

「……本当に、やり遂げたのか」

 カイも、畑の前に立っていた。彼の鋭い目が見開かれ、その声には隠しきれない驚愕が滲んでいる。

「ええ。言ったでしょう?これは始まりに過ぎないと」

 私は誇らしげに胸を張り、にっこりと笑った。カイは気まずそうに視線をそらし、「……ふん」とだけ言って、足早に去っていった。でも、彼の横顔が少しだけ赤らんでいるように見えたのは、きっと西日のせいではないだろう。

 それから数か月。芽はぐんぐんと育ち、ジャガイモは青々とした葉を茂らせ、カブは土の中から丸い頭を覗かせるようになった。そして、いよいよ収穫の時が来た。掘り起こした土の中から、ごろんごろんと、大きくて形の良いジャガイモが出てきた時の感動は、今でも忘れられない。

 収穫できたのは、まだ少量だった。村全体の食糧事情を改善するには、程遠い。それでも、これは大きな一歩だった。

 私は収穫したばかりのジャガイモを使い、早速腕を振るうことにした。まずは、ふかしたジャガイモの皮を熱いうちに剥き、潰して、塩と酢、そして村で手に入れた酸味のある木の実のクリームで和える。刻んだ玉ねぎも少し加えて……前世で慣れ親しんだ「ポテトサラダ」の完成だ。

 それから、もう一品。小さなジャガイモをよく洗い、皮ごとふかして、十字に切れ込みを入れる。そこに、村で作られている塩気の強いバターを乗せれば、「じゃがバター」のできあがり。

 私は出来上がった二つの料理を大きなお皿に乗せ、いつも遠巻きに私を見ていた子供たちの元へ持っていった。

「さあ、お食べなさい。私が作った畑でとれた、お芋さんですわよ」

 子供たちは、おそるおそる手を伸ばす。そして、初めて口にするポテトサラダの味に、目を丸くした。

「……おいしい!」
「なんだこれ!ふわふわで、ちょっとすっぱくて、おいしい!」

 じゃがバターを頬張った子も、「あちち!でも、うめぇ!」と歓声を上げる。その笑顔を見た瞬間、私の心は温かいもので満たされた。

 大人たちも、最初は遠慮していたが、子供たちのあまりの喜びように、少しずつ集まってくる。そして、一口食べた途端、その表情が変わった。

「こりゃあ……美味いな……」
「ジャガイモが、こんな味になるなんて……」

 凍てついていた村人たちの心が、ほんの少し、解けていくのが分かった。温かい料理は、人の心を温める魔法だ。前世の母がよく言っていた言葉を、私はこの辺境の地で、改めて実感していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で追放された悪役令嬢、前世の便利屋スキルで辺境開拓はじめました~王太子が後悔してももう遅い。私は私のやり方で幸せになります~

黒崎隼人
ファンタジー
名門公爵令嬢クラリスは、王太子の身勝手な断罪により“悪役令嬢”の濡れ衣を着せられ、すべてを失い辺境へ追放された。 ――だが、彼女は絶望しなかった。 なぜなら彼女には、前世で「何でも屋」として培った万能スキルと不屈の心があったから! 「王妃にはなれなかったけど、便利屋にはなれるわ」 これは、一人の追放令嬢が、その手腕ひとつで人々の信頼を勝ち取り、仲間と出会い、やがて国さえも動かしていく、痛快で心温まる逆転お仕事ファンタジー。 さあ、便利屋クラリスの最初の依頼は、一体なんだろうか?

追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く

橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける―― 十二年間、大聖堂で祈り続けた。 病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。 その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。 献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。 荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。 たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。 看板は小枝の炭で手作り。 焼き菓子は四度目でようやく成功。 常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。 そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。 もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。 やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。 ※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!

追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リーゼリット・フォン・アウグストは、婚約者であるエドワード王子と、彼に媚びるヒロイン・リリアーナの策略により、無実の罪で断罪される。「君を辺境の地『緑の谷』へ追放する!」――全てを失い、絶望の淵に立たされたリーゼリット。しかし、荒れ果てたその土地は、彼女に眠る真の力を目覚めさせる場所だった。 幼い頃から得意だった土と水の魔法を農業に応用し、無口で優しい猟師カイルや、谷の仲間たちと共に、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。やがて、その成功は私欲にまみれた王国を揺るがすほどの大きなうねりとなり……。 これは、絶望から立ち上がり、農業で成り上がり、やがては一国を築き上げるに至る、一人の令嬢の壮大な逆転物語。爽快なざまぁと、心温まるスローライフ、そして運命の恋の行方は――?

婚約破棄&追放コンボを決められた悪役令嬢ですが、前世の園芸知識と植物魔法で辺境を開拓したら、領地経営が楽しすぎる!

黒崎隼人
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王太子から婚約破棄と追放を告げられた公爵令嬢イザベラ。 身に覚えのない罪を着せられ、送られた先は「枯れ谷」と呼ばれる痩せ果てた辺境の地だった。 絶望の淵で彼女が思い出したのは、「園芸」を愛した前世の記憶。 その瞬間、あらゆる植物を意のままに操る【植物魔法】が覚醒する。 前世の知識と魔法の融合。 それは、不毛の大地を緑豊かな楽園へと変える奇跡の始まりだった。 堆肥作りから始まり、水脈を発見し、見たこともない作物を育てる。 彼女の起こす奇跡は、生きる希望を失っていた領民たちの心に光を灯し、やがて「枯れ谷の聖女」という噂が国中に広まっていく。 一方、イザベラを追放した王国は、天候不順、食糧難、そして謎の疫病に蝕まれ、崩壊の一途を辿っていた。 偽りの聖女は何の力も発揮せず、無能な王太子はただ狼狽えるばかり。 そんな彼らが最後に希望を託したのは、かつて自分たちが罪を着せて追放した、一人の「悪役令嬢」だった――。 これは、絶望から這い上がり、大切な場所と人々を見つけ、幸せを掴み取る少女の、痛快な逆転譚。

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

婚約破棄された元OL悪役令嬢、コンサル知識で潰れかけのギルドを王国一に再建します

黒崎隼人
ファンタジー
エルムガンド王国の第一王子から、卒業パーティーの最中に婚約破棄を宣告された公爵令嬢イザベラ。 断罪のショックで、彼女は自分が現代日本で経営コンサルタントとして働いていた前世の記憶を取り戻す。 ここは乙女ゲームの世界。このままでは爵位剥奪、領地没収の破滅ルートが待っている! 「冗談じゃない。そんな未来、絶対に受け入れてなるものか」 イザベラは破滅フラグを回避するため、父の道楽である赤字続きの冒険者ギルド「白銀の獅子」の運営を引き継ぐことを宣言。 前世で培った現状分析、プロジェクト管理、成果報酬制度などのビジネススキルを駆使し、潰れかけのギルドの改革に乗り出す。 クエストの可視化、新人教育、そしてエルフの賢者や獣人ギルドのマスターとの異種族間連携。 最初は彼女を馬鹿にしていた荒くれ者の冒険者たちも、その圧倒的な手腕とカリスマ性に惹かれ、いつしか彼女の頼もしい仲間となっていく。 やがて彼女のギルドは王都最大の組織へと成長し、彼女を陥れた敵の陰謀すらも打ち砕く! 恋愛よりも仕事! 最高の仲間たちと共に、すべての種族が笑って暮らせる未来を創り上げる、元悪役令嬢の痛快お仕事ファンタジー、開幕!

悪役令嬢は辺境で農業革命を起こす~追放された私が知識チートで会社を作り、気づけば国ごと豊かにしちゃいました~

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リリアーナは、完璧な悪役令嬢を演じきり、計画通りに婚約者である第一王子から婚約破棄と辺境への追放を言い渡される。貴族社会のしがらみから解放され、心の中で快哉を叫ぶ彼女には秘密があった。それは、現代日本で生きた前世の記憶。 追放先の荒れ果てた土地は、彼女にとって絶望ではなく、無限の可能性を秘めた新天地だった。前世の農業知識と経営スキルを武器に、リリアーナはたった一人で荒れ地の開墾を始める。 頑固だが腕は確かな老農夫、商才に長けた若き商人。新たな仲間との出会いを経て、彼女の小さな畑は村を潤し、やがて国を救う一大企業へと成長していく。 これは、自らの知恵と努力で運命を切り開き、自由と幸せ、そして最高の仲間たちを手に入れる、一人の令嬢の爽快成り上がり物語。私を捨てた王子様、今さら後悔しても知りませんから!

追放された悪役令嬢ですが、前世の知識で辺境を最強の農業特区にしてみせます!〜毒で人間不信の王子を美味しい野菜で餌付け中〜

黒崎隼人
恋愛
前世で農学部だった記憶を持つ侯爵令嬢ルシアナ。 彼女は王太子からいわれのない罪で婚約破棄され、辺境の地へと追放されてしまいます。 しかし、ドレスを汚すことを禁じられていた彼女にとって、自由に土いじりができる辺境はまさに夢のような天国でした! 前世の知識を活かして荒れ地を開墾し、美味しい野菜を次々と育てていくルシアナ。 ある日、彼女の自慢の畑の前で、一人の美しい青年が行き倒れていました。 彼の名はアルト。隣国の王子でありながら、政争で毒を盛られたトラウマから食事ができなくなっていたのです。 ルシアナが差し出したもぎたての甘酸っぱいトマトが、彼の凍りついた心を優しく溶かしていき……。 王都の食糧難もなんのその、最強の農業特区を作り上げるルシアナと、彼女を溺愛する王子が織りなす、温かくて美味しいスローライフ・ラブストーリー、ここに開幕です!

処理中です...