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第15章:それぞれの未来へ
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エレオノーラがもたらした野菜と農法によって、アストリア王国は奇跡的な回復を遂げた。恵みの谷から運ばれた種は王国の各地に蒔かれ、彼女の指導を受けた農民たちの手によって、大地は再び緑と生命力を取り戻していった。人々はエレオノーラを「枯渇病」から国を救った「救国の聖女」と呼び、心から称賛した。
王宮では、アルベルト王子が、国民と貴族たちの前で自らの過ちを公に告白し、謝罪した。
「私は、真実を見極める目を曇らせ、私欲のために、王国にとって最も大切な宝であるエレオノーラ・フォン・ヴァイス嬢を不当に追放した。この罪は、万死に値する」
彼は深々と頭を下げ、自ら王位継承権を辞退することを宣言した。その姿には、かつての傲慢さはなく、自らの罪と向き合う一人の人間としての覚悟があった。
一方、力を完全に失ったリリアは、これ以上王宮にいることはできないと自ら身を引いた。彼女は騒動の後、人知れず王都の修道院の門を叩いたという。誰かの注目を浴びるための「聖女」ではなく、ただ静かに神に仕える一人のシスターとして、本当の心の安らぎを見つけるために。
国王は、回復した体で改めて私を王宮に召し出した。そして、これまでの非礼を詫びると共に、ヴァイス公爵家への復帰と、爵位の継承、さらには国庫の半分にもなんなんとする莫大な褒賞を提示した。
「エレオノーラ嬢。君は、この国の英雄だ。好きなだけの富と名誉を、君に与えよう。どうか、王都に戻り、これからもこの国を導いてはくれぬか」
それは、誰にとっても破格の、そして魅惑的な提案だった。
しかし、私は穏やかに微笑んで、首を横に振った。
「陛下、そのお言葉だけで十分でございます。ですが、私は、すべてをお断りさせていただきます」
「な、なぜだ……!」
「私の居場所は、王都にはございません。私の幸福は、あの『恵みの谷』にありますから」
富も、名誉も、今の私には必要のないものだった。私が本当に欲しいものは、すべてあの谷にある。
国王は私の固い決意を理解すると、寂しそうに、しかし深く頷いた。「君がそう言うのなら、止めはすまい。だが、王国は君への感謝を永遠に忘れないだろう」
すべての騒動が終わり、私は仲間たちと共に、愛する谷へと帰ってきた。
村人たちは、私たちを英雄として温かく迎え入れてくれた。
その日の夕暮れ。私は、黄金色に染まる畑の中に一人で立っていた。豊かな土の匂いと、風にそよぐ葉の音が、心地良い。
「……エレオノーラ」
背後から、優しい声がした。振り返ると、そこにはカイが立っていた。
「おかえり。大変だったな」
「ただいま、カイ。あなたもね」
私たちは、しばらく黙って夕日を眺めていた。沈黙が、少しも苦にならない。
やがて、カイがおもむろに口を開いた。
「ノラ。俺は、元騎士だ。騎士団の腐敗に絶望し、何も信じられなくなって、この谷に逃げてきた。もう二度と、誰かのために剣を振るうことはないと思っていた」
「……」
「だが、お前に出会って、変わった。泥だらけになりながら、必死に畑を耕すお前の姿に、俺が忘れていた光を見た。ひたむきさ、強さ、そして優しさ。俺は、もう一度誰かを、お前を守りたいと思ったんだ」
彼は一歩、私に近づくと、私の泥のついた手を、その大きな手でそっと握った。
「俺は、お前が好きだ。この谷が好きだ。これからも、あなたの隣で、この土と共に生きていきたい。……俺と、結婚してくれないか」
彼の真っ直ぐな瞳が、私を射抜く。
涙が、ぽろりと頬を伝って、豊かな大地に吸い込まれていった。それは、喜びと幸福に満ちた、温かい涙だった。
「……はい。喜んで」
私は、満面の笑みで頷いた。
かつてすべてを失ったこの場所で、私は、何物にも代えがたい、最高の宝物を見つけたのだ。
王宮では、アルベルト王子が、国民と貴族たちの前で自らの過ちを公に告白し、謝罪した。
「私は、真実を見極める目を曇らせ、私欲のために、王国にとって最も大切な宝であるエレオノーラ・フォン・ヴァイス嬢を不当に追放した。この罪は、万死に値する」
彼は深々と頭を下げ、自ら王位継承権を辞退することを宣言した。その姿には、かつての傲慢さはなく、自らの罪と向き合う一人の人間としての覚悟があった。
一方、力を完全に失ったリリアは、これ以上王宮にいることはできないと自ら身を引いた。彼女は騒動の後、人知れず王都の修道院の門を叩いたという。誰かの注目を浴びるための「聖女」ではなく、ただ静かに神に仕える一人のシスターとして、本当の心の安らぎを見つけるために。
国王は、回復した体で改めて私を王宮に召し出した。そして、これまでの非礼を詫びると共に、ヴァイス公爵家への復帰と、爵位の継承、さらには国庫の半分にもなんなんとする莫大な褒賞を提示した。
「エレオノーラ嬢。君は、この国の英雄だ。好きなだけの富と名誉を、君に与えよう。どうか、王都に戻り、これからもこの国を導いてはくれぬか」
それは、誰にとっても破格の、そして魅惑的な提案だった。
しかし、私は穏やかに微笑んで、首を横に振った。
「陛下、そのお言葉だけで十分でございます。ですが、私は、すべてをお断りさせていただきます」
「な、なぜだ……!」
「私の居場所は、王都にはございません。私の幸福は、あの『恵みの谷』にありますから」
富も、名誉も、今の私には必要のないものだった。私が本当に欲しいものは、すべてあの谷にある。
国王は私の固い決意を理解すると、寂しそうに、しかし深く頷いた。「君がそう言うのなら、止めはすまい。だが、王国は君への感謝を永遠に忘れないだろう」
すべての騒動が終わり、私は仲間たちと共に、愛する谷へと帰ってきた。
村人たちは、私たちを英雄として温かく迎え入れてくれた。
その日の夕暮れ。私は、黄金色に染まる畑の中に一人で立っていた。豊かな土の匂いと、風にそよぐ葉の音が、心地良い。
「……エレオノーラ」
背後から、優しい声がした。振り返ると、そこにはカイが立っていた。
「おかえり。大変だったな」
「ただいま、カイ。あなたもね」
私たちは、しばらく黙って夕日を眺めていた。沈黙が、少しも苦にならない。
やがて、カイがおもむろに口を開いた。
「ノラ。俺は、元騎士だ。騎士団の腐敗に絶望し、何も信じられなくなって、この谷に逃げてきた。もう二度と、誰かのために剣を振るうことはないと思っていた」
「……」
「だが、お前に出会って、変わった。泥だらけになりながら、必死に畑を耕すお前の姿に、俺が忘れていた光を見た。ひたむきさ、強さ、そして優しさ。俺は、もう一度誰かを、お前を守りたいと思ったんだ」
彼は一歩、私に近づくと、私の泥のついた手を、その大きな手でそっと握った。
「俺は、お前が好きだ。この谷が好きだ。これからも、あなたの隣で、この土と共に生きていきたい。……俺と、結婚してくれないか」
彼の真っ直ぐな瞳が、私を射抜く。
涙が、ぽろりと頬を伝って、豊かな大地に吸い込まれていった。それは、喜びと幸福に満ちた、温かい涙だった。
「……はい。喜んで」
私は、満面の笑みで頷いた。
かつてすべてを失ったこの場所で、私は、何物にも代えがたい、最高の宝物を見つけたのだ。
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