生徒会執行部の剣姫

生獣屋 芽怠

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第八話 夏休みが始まる 前編

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 窓から俯瞰する世界、太陽が眩しく光放ち、温度を上げて夏が来た事を知らせる。
 良い天気だと学校の教室からボクは眺めていた。

「ぽかぽかの天気ですね」

「せいってばまた妙な事を言ってるな?」

 席の右隣りから女子生徒が話しかけて来た、この人の名前は坂本鈴(さかもとすず)、ボクの一番のお友達だ。髪がすごく短くて活発な女の子、切れ長の目、高い鼻、そして白い肌でとても美人。
 いつもボクを助けてくれる優しい人。

「妙ですか? だって、お外はぽかぽかしてますよ?」

「ぽかぽかって言うより、ジリジリがあってると思うけど。それより外ばかり見てないでさっさと弁当食べなよ、全然減ってないじゃん。あたしはもう食べ終わったよ」

「ふぇ! ボク置いて行かれたんですか! 大変です!」

 今は昼休みで今日は一学期の最後、明日から夏休みだ。
 頑張ってお弁当を食べ、鞄から水筒を出して飲む、中身は緑茶やはりご飯の後はお茶が一番。

「食べ終わったね、せい夏休みになったら何か予定はある?」

「予定ですか? ん~まだ分かりません。生徒会の関係で、何かあるかも知れませんから」

「そうだったね、せいは生徒会だったもんね。もし何もなかったら……」

「柳刃誠十郎!」

 鈴ちゃんが何かを言いかけたたけど別の声に遮られた。誰かがボクを呼んでいる、誰だろう?
 声の方角へ視線をやると女子生徒がボクに近付いて来る姿を目撃する。
 髪が栗色をしていてツインテールの背が高い人。大きな瞳、桜色に染まる頬はとても可愛らしい。
 名前は川上春菜(かわかみはるな)、同じクラスメイトだ。

「柳刃誠十郎、弟達から話を聞いた、世話になったわね」

「春菜さん、それはそれはご丁寧にありがとうございます。でも、大した事はしてませんよ」

「あくまで弟達がお礼を言ってくれって頼まれたから言ってるんだからね! 柳刃誠十郎、貴女は春菜のライバル、それだけは忘れないで!」

「ライバルですか? 一体何のライバルなのでしょう?」

「なっにぃ! 忘れたとは言わせない! 去年の剣道の試合、接戦の中貴女が勝った。あれ以来柳刃誠十郎は春菜の永遠のライバルと決めたんだから!」

「そうだったんですか、それはありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げた。すると、春菜さんもつられて頭を下げた。

「いえいえどう致しまして……じゃない! なんで春菜が貴女なんかに頭を下げなきゃならないの!」

「自分がつられたからだろ? すぐにせいにつっ掛かって来て、あんたはせいのストーカーか!」

「坂本鈴、外野は引っ込んでろ! 春菜は柳刃誠十郎と話してるの!」

 二人が口喧嘩を初めてしまった、止めないと。

「あの、喧嘩は駄目です!」

「ん? あはは違うよせい、こいつをからかってるだけだから。大体春菜、あなた接戦って言ったけど始まって十秒で面取られたじゃない、素人のあたしにも分かる見事な負けっぷりだったよ!」

「な! ち、ちちち違うわよ! 接戦なんだから! 春菜が接戦って言ったら接戦なの!」

「むちゃくちゃだなこいつ、せい、こんなのにかかわっちゃダメだよ?」

「待ちなさいよ! 春菜に向かってこんなのって何よ! ……ふぅ、まぁいいわ、今日は他にも用事があって来たんだから」

 そう言ってスカートのポケットから何やら白い封筒を出してボクに手渡した。
 なんでしょう? 封筒には『はたしじょう』と書かれていた。

「春菜、あなたこれくらい漢字で書けよ」

「う、うるさいわね! 柳刃誠十郎、春菜と剣の勝負よ!」

「ほぇ? ボクはどうして春菜さんと戦わなければいけないんですか?」

 疑問を口にした途端春菜さんは顔を真っ赤にして怒り始めた。何か悪い事を言ってしまったのだろうか?

「春菜を馬鹿にして、もう怒った!」

 感情の噴火した刹那、机の上に置いていたデザートに食べようと取っておいた苺大福を取られた。

「ああ! 苺大福さんが!」

「お~っほほほ! どう? これを返して欲しかったら春菜と戦え!」

「……小さい仕返しだな。って言うか春菜早く返せ! せいから苺大福取ったら大変な事になるんだぞ!」

「大変なこと? ふん、そんなの信じる訳が……」

「大好きな苺大福さんをボクから奪う族は敵です。倒すべき敵です! 苺大福さんを返しなさい! ボク、おつむに来ちゃいました! ……柳刃流剣術奥義、五月雨」

「……へ?」

 彼女の間抜けな声、今の現状を理解していない様子だった。でも手加減するつもりはなかった。苺大福を取り返すために非情徹するのみ!
 そして技が発動、素早い閃光となった木刀は春菜さんを気絶させ、苺大福さを取り返す。

「はぅ~! 苺大福さんです! 無事です!」

「だから言ったのに」





 あれから放課後、授業も終わりボクは生徒会室に向かう事にしました。
 明日から夏休み、生徒会は何かをするのだろうか。
 教室を出ると誰かに呼び止められた。それは川上春菜さんだった。

「柳刃誠十郎、生徒会室に行くんでしょう? 春菜も行くわ!」

「何か用事ですか?」

「秋人……あ、弟がね、会長にお世話になったからお礼を言いたいのよ、だからついて行くわ」

「そうですか、なら一緒に行きましょう!」

 と快く了承した、のだけど春菜さんはボクを睨んでいた。

「あの、ボク何か悪いことしましたか?」

「別に……ただ柳刃誠十郎と一緒に歩きたくないだけよ」

 ちょっと悲しいと悲観が増大しそうになった頃にボクたちの話を聞いていたらしい鈴ちゃんが現れた。

「ちょっと待った! あたしも行くよ、じゃないとまたせいを困らせる気でしょ春菜!」

 鈴ちゃんがついて来てくれる事になったけど、またこの二人が喧嘩を始めるじゃないかと心配だ。
 生徒会室までなんとか喧嘩もせずに来れた、扉を開けようとドアノブに手を伸ばす勝手に開く。
 中からかなめさんが姿を見せた。

「あ、かなめさん、こんにちはです」

「うん、こんにちは。姫ちゃんも今来たんだね」

「こら後藤! 立ち話して無いでさっさとジュース買って来い!」

 室内から会長さんが叫ぶとかなめさんは分かりましたよと、めんどくさそうに言った。

「たく、俺はパシりじゃ無いんだぞ」

「何か言ったか後藤?」

「何も言ってません!」

 いつもの生徒会の様子に平和だなと思いながら眺めていた。すると突然ボクの肩を叩き春菜さんが呼ぶ。

「美しい殿方……や、柳刃誠十郎、あの、その、今の人は?」

「ほぇ? ああ、かなめさんの事ですね、後藤かなめさん。生徒会の仲間です」

「後藤……かなめ……様」

 あれ? 春菜さんの顔が赤いような?

「あれ? そっちの人達は姫ちゃんの友達?」

「はいそうです、こっちが坂本鈴ちゃんで、こっちが……」

「春菜です! 春……“わたし”、川上春菜って言います! や、柳刃誠十郎がお世話になってます!」

「ちょっと待て春菜、喋り方がいつもと違うしなんか怪しいぞ」

 鈴ちゃんが言うとおり春菜さんは自分の事を春菜と言うのに。それに顔が真っ赤だ。
 風邪かな?

「う、うううるさいわね! あの、良かったら“わたし”とも、仲良くしてください、かなめ様!」

「かなめ様? ……まぁいっか、分かったよ、よろしくね」

「はい!」

 仲良しになって良かったな。かなめさんと春菜さんの様子を見ていた鈴ちゃんが何かに気付いたらしく、ニヤリと笑った。

「なるほどね~、春菜、あなたこの人の事を……むぐ!」

 春菜さんが鈴ちゃんの口を両手で塞ぎ顔を真っ赤にしていた。

「な、ななななんでもないわよ! 坂本鈴、あんたは喋るな! 息するな! 心臓を止めろ~!」

「は、春菜さん! 心臓止めたら死んじゃいます!」

「……なんの騒ぎなんだ?」

 かなめさんは訳が分からないようでぼーっと立ち尽くしていた。そんな彼を睨む人が一人、生徒会室から出現する。

「後藤、無駄話してないでさっさと行って来い!」

 かなめさんのお尻に会長さんがローキックを叩き込む、彼は悲鳴をあげながら走り去った。
 凄く痛そう。

「まったく、ん? なんだお前達は? 依頼者か?」

「会長さん、こっちの二人はボクのお友達です、春菜さんが会長さんにご用があるそうです」

「誰が友達よ! えっと、春菜の名前は川上春菜です。弟の秋人を助けていただいて、ありがとうございました」

「ほぅ、お前が川上秋人の姉か、礼なんかいらん。それより、二人とも元気か?」

 元気だと伝えるとそうかとつぶやいて会長さんはとても嬉しそうだった。
 鈴ちゃんと春菜さんは挨拶を終えると帰って行った。それと同時にかなめさんも戻り、生徒会の時間が始まる。
 会長さんが席に着き、みんなが揃っているかを確認して話始めた。

「明日から夏休みだ。だが、わたくしも休みに入る事になるが、やる事はたくさんだ。休み中の校舎のパトロール、これは当番制にする。後は……まだいろいろやる事はあるが、今日話したい本題に入る。わたくしがお前達を旅行に連れて行ってやろう! どうだ?」

「旅行? 一体どこに連れて行く気ですか?」

 皆川先輩の疑問にはボクも同意だ。

「ここから電車で二時間ほど行ったところに、宝条院家の別荘があってな、田舎なのだが空気はうまいし綺麗な川がある。良い場所だ」

 別荘、会長さんはやっぱりすごいな、ボク別荘なんて行った事ない。楽しみだと思ったけど皆川先輩があまり乗り気ではないような表情だ。

「確かに良い所だとは思いますけど、それって強制ですか?」

「皆川、なんだその嫌そうな顔は? わたくしは生徒会の皆との交流を深めようとして企画したんだぞ? 何か用事でもあるのか?」

「はい! 私、彼氏とデートです!」

 そう言い放った瞬間、会長さんの顔が鬼のように歪む。嫌な予感。

「デートだと? そんなものはいつでも出来るだろうが! 皆川、わたくしの細やかなプレゼントと彼氏を天秤にかけてどっちを取るつもりだ!」

「彼氏に決まってますよ! 私、あと二回しか夏休み無いんですよ! 愛しの人と一緒にいて何が悪いんですか!」

 言い争う二人、このままじゃ嫌な予感が的中してここが地獄になってしまうと考えたボクは隣りにいたかなめさんに助けを求めた。

「かなめさん、なんとかしてください!」

「え! 俺!? えっと二人とも喧嘩は良くない……」

「「テメェは黙ってろ!」」

「は、はい!」

 会長さんと先輩が息ぴったりに叫んだ、仲が良いのやら悪いのか。
 怖いです二人とも。
 ボクがあたふたしていると副会長さんが二人を止めに入った。

「ならこうしたらどうですか? 皆川くんの恋人も参加させては? もちろん、生徒会のみんなで楽しむ時は参加してもらいますが、二人きりの時間も取ります。どうです?」

「本当ですか! 私、それならいいや!」

「……まったく、仕方の無い奴だ。ただ、わたくし達の前ではあまりベタベタするなよ? イライラするから」

「え~、……まぁ努力します。あ、そうだ! 今から旅行の詳しい話をするならしゅーも呼んでこなくちゃ! 行って来ます!」

 あっという間な部屋を飛び出した。会長さんが呼び止めたのに聞こえなかったらしい。

「あの馬鹿め! 恋人の事になると問題児だな!」

「……でも、あんなに堂々と好きだなんて言えてある意味尊敬しますよ」

 かなめさんがそう言うと会長さんは限度と言うものがあると豪語していた。
 しばらく時間が経過してようやく先輩が帰還した。

「ほらしゅー入って入って!」

「まずいんじゃないかな? 絶対迷惑だって」

「気にしない、気にしない!」

「「お前が言うな!」」

 息ぴったりに生徒会全員が叫んだ。

「まったく……それで皆川の恋人、名前はなんと言う?」

「俺は佐波峻だ。取りあえず、まこちゃんがご迷惑かけてすいません」

「ほぅ、皆川と違って、ちゃんと場をわきまえている様だな。佐波か……なかなかいい男だ」

 会長さんの言葉に皆川先輩が反応して佐波先輩の腕にしがみつく。

「しゅーは私の彼氏なんだからね! いくら会長でも渡さない!」

「何を勘違いしているんだ。最近は非常識な奴が多い、佐波はお前と違って常識がある。だからいい男と言ったんだ。だいたい佐波はわたくしのタイプではない」

「じゃあ、どんなタイプがいいんですか? もしかして副会長ですかぁ~?」

 ニヤリと嫌らしく笑いながら皆川先輩が喋る。会長さんは顔を赤くしながら「何でそうなるんだ!」と同時に叫んでいた。

「だって、いつも一緒にいるし」

「それは生徒会関係の仕事をしているからだ」

「じゃあ質問、会長はどうして副会長だけ下の名前で呼ぶんですか?」

 皆川先輩の発言に会長さんはぴたりと動きが止まる。
 そう言えば会長さんは副会長さんを政史と呼んでいたな。

「会長、黙ってたら分かりませんよ~?」

「……これって絶対会長への復讐だな」

 かなめさんがそう呟く。
 どうなんですかと皆川先輩が追究、その時会長はボクの方に視線を合わせて来た。

「……柳刃、皆川を拘束しろ」

「ふぇ? えっと、分かりました!」

 迅速に皆川先輩を後ろから羽交い締めにし動きを封じる。

「きゃあ! やっ、柳刃さん放して!」

「皆川先輩ごめんなさいです。会長さんの命令です」

「……柳刃、隣りの部屋に連れて来い」

 ボク達は隣りの部屋に入りドアを閉めました。

「あ、あの、調子に乗ってごめんなさい、あの……許し……ああ、駄目! そこは! やめ……きゃああああああああああ!」

 先輩の悲鳴が学校中に木霊した。
 数分後お仕置が終わり部屋から出ると、よろよろになった先輩は佐波先輩に駆け寄りわんわんと泣く。

「ふぅ、すっきりした。まったく、皆川のせいで話が脱線してしまった。話を続けるぞ、出発は明後日、駅前に八時集合だ。旅行期間は二泊三日だ」

「……明後日って、また急だな」

 かなめさんがそう呟くと会長さんが聞いていたらしく睨みを利かせ怒号が飛ぶ。

「聞こえてるぞ後藤! ……あ、そうだった、お前の妹も連れて来い、夏休みになったらどこかに連れて行くと約束していたんだ」

「いつの間に! マジですか? まぁ、連れて来るのは良いんですけど、問題は姉貴ですよ! 絶対ついて来るって、だだをこねますよ!」

「なら連れて来い、別荘は広いから問題ないぞ?」

 かなめさんのお姉さんと妹さんも来るのか、なんだか大勢の旅行にボクは楽しみで仕方が無かった。

 
 



 瞬く間に時が経ち、いよいよ出発を向かえる事に。昨日の夜から楽しみで眠れなかった。
 昔、小学校の遠足も楽しみで眠れずそのせいで遅刻した事があったけど今回は大丈夫!
 駅前には会長さんがもう先に来ていた。ボクを見つけるなりこっちだと言って手招き。

「おはようございます!」

「ああ、おはよう。柳刃が一番か、偉いぞ」

「えへへ、ありがとうございます」

 しばらくして副会長さんも到着。

「おはようございます。会長、柳刃くん」

「おはようございます」

「政史も来たな、あとは皆川達と後藤達だな」

 かなめさんは妹さんを連れて来るっていってたし、皆川先輩は佐波先輩と。
 本当ににぎやかで楽しい旅行になりそうだ。
 皆川先輩と佐波先輩がやって来た。けれどもう一人誰かいて記憶に該当する人は一人、確か皆川先輩の弟さんだ。

「会長、おはようございます」

「すいません、今日はお世話になります」

「二人ともよく来た。ん? 皆川、そこにいるのは……確かお前の弟だったな」

 なんでも弟の心さんはどうしてもついて行くとだだをこねたと先輩が説明する。

「あの一緒に良いですか? だって私の弟なんですよ! ほ~らこんなに可愛いし、心は本当に可愛いよ~、えへへ~」

「まことやめろ~! ぼく子供じゃないもん!」

 ほっぺたを真っ赤にしながら先輩は心さんの頭を撫でて溺愛を表す。

「すいません、まこちゃん弟の事溺愛していて一旦ああなると俺でも説得は無理です。逆に俺の命が危ない」

「わたくしは別に構わんが……佐波、弟に負けているのか。いろいろ大変だな」

「あはは、いつもの事ですからね、それに……まこちゃんが笑っていられるなら俺は命を賭けられる……って何言ってんだ俺」

 皆川先輩は愛されていることが伝わってくる、佐波先輩は良い人だ。
 先輩が弟さんをこれでもかと可愛がっている最中ようやくかなめさん達が到着した。
 一緒に妹さんとお姉さんがいた。

「会長、遅れました」

「遅いぞ後藤! まったく……まぁいい。よく来たな後藤めい」

「聖羅会長、約束覚えていてくれたんですね、ありがとうございます!」

 妹さんは頬を赤く染めて楽しそうにしている、その横でかなめさんの腕にしがみついているお姉さんが目に映る。仲良しだな。

「姉貴、暑苦しい、離れろ」

「駄ぁ目ぇ~! こうして、かなめちゃんを保護していないと嫌らしい女狐がついちゃう! かなめちゃんはまりあだけのものなの~!」

「誰が姉貴のものだ! だから連れてきたくなかったんだ!」

 そんな二人のやり取りをボク以外の人全員ぽかんとして観察していた。

「兄さん意気地無しだね、姉さんは準備OKなのに」

「なんの準備だ!」

「あはは! めいちゃんは分かってる~! かなめちゃん、準備って言ったら、二人っきりで~、ベットに入って、エッ……」

 何かを言いかけたけどかなめさんはそれ以上はヤバイから言うなとお姉さんの口を両手で塞ぐ。
 一体何を言いかけたのだろう、気になる。

「騒がしい奴等だな。静かにしろお前達……えーーでは出発前の有難い話をしてやるか」

 有難い話をしようとしたが出発時間の為それは延期となった、不満げな会長さんを連れてボク達は電車へと乗り目的地を目指す。

「会長さん、どれくらいで着くんですか?」

「二時間は掛かる。それまで窓の外でも見ていろ。行く途中で海が見えて来る、電車の窓から見える海は良い眺めだぞ? 海だけしか窓に映らず、まるで海の上を走っているみたいな感覚になる」

「それは楽しみです!」

 海の上の電車を堪能して目的地の駅に着いた。その駅は木材で作られていて中は無人だった、昔という感じを醸し出していた。

「ふに~! 古い駅だね~、かなめちゃん」

「そうだな。姉貴、腕から離れようか?」

「良いじゃないこれくらい……女狐は油断も隙も無いものよ」

 お姉さんがものすごく怖い顔で、女性陣を睨む。
 ボクも睨まれた。

「よし移動するぞ? ここから歩いて二十分くらいだ。わたくしに着いて来いよ? 分かれ道が多いから迷子になったら大変だぞ!」

 ボク達は歩き出した。

「綺麗な場所です!」

 そこに広がる景色は大きな山や森田んぼや畑が辺りに沢山ある。整備された土の道、初めて来た場所なのに懐かしさを覚えてしまう。理由は分からないけど。

「そうだろうそうだろう。田舎道だが風情がある。ここには都会に無いものがたくさんあるんだ、わたくしの母がここに来た事があってな、一目で気に入り別荘を建てたんだ。毎年、家族でここに来る……去年は事情があって来られなかったが今年はお前達と楽しむとしよう」

 本の一瞬、会長さんが悲しそうに見えた。すぐに元の威厳のある凛々しい顔に戻ったけど何かあったのだろうか。深くは訊けなかった。 
 周りを見渡すと他の人達も風景を楽しんでいた。

「ほら見てご覧、心、おっきな山だね!」

「おお~! おっきい~!」

 皆川先輩と弟さんは手をつないで楽しそうにはしゃいでる。その様子を楽しそうに佐波先輩が眺めていた。

「弟さんに皆川先輩を取られちゃいましたね、佐波先輩」

「そうだな。でも、楽しいならいいさ。えっと君は……柳刃って言ったかな?」

「ボクの名前を覚えてくれたんですか?」

「まこちゃんがいつも、柳刃さんは面白い娘って言ってたからね」

 どうやら先輩はボクの事を悪いとは思ってない様だ、すぐに人を信用してしまうから周りに苦労をかけているのではないかと思っていた。
 よかった、迷惑に思われてなくて。

「くっそ~、姫ちゃんと話したいのに……」

「ふに~? かなめちゃん、今何か言った?」

「姉貴が邪魔だって言ったんだ!」

 みんな仲良しで良かった良かった。
 しばらく歩くと分かれ道に差し掛かった、ボクは一番後ろでみんなの背中に着いて行けば良い。
 そのはずだった。

「あれ?」

 不意にすぐ横の茂みが音を立て何かが動いていた。
 なんでしょう?
 そっと音に近付いて行くと音がピタリと止まった。そして何かが飛び出す。

『にゃ~ん!』

「わぁあ! ニャンコさんです! 可愛いです~!」

 飛び出したのは一匹の猫、全身が真っ白でまるで雪の様。身体が小さく可愛らしい。

「びっくりしました。こんにちはニャンコさん!」

『にゃ~ん?』

 ボクの言った事が分からなくて首を横にかしげる。そのしぐさが何とも可愛らしい。

「可愛いです! チ、チ、チ、おいで~」

 猫を呼んでみるとなんと近付いて来た。
 抱っこしても良いでしょうか?
 震えながらそっと猫を手で包み、持ち上げ胸元に近付ける。猫は暴れる事はなくおとなしかった。
 人なれしてます。
 そうだ、皆さんに見せてあげましょう!

「皆さん! 見てください! 可愛らしいニャンコさ……あれ?」

 ここでようやく気が付いた、皆さんがいなくなっている事に。
 どうやら置いて行かれたらしい。

「あぅ~、み、皆さん? ボク、置いて行かれたんですか?」

『にゃ~ん』

 どうしよう、道が二つに分かれていて皆さんがどっちに行ったか分からない。

「あぅ~、ど、どうしましょう。どうしたらいいんですかね、ニャンコさん!」

『にゃ?』

 気が動転して助けを猫に求めていた。猫は訳が分からないから首をまたまたかしげて不思議そうにボクを見つめてくる。

「取りあえず、どちらかの道を行くしかありません。もし違う道でも戻って来ればいいんですから……ニャンコさんも一緒に来ますか?」

『にゃ~ん!』

 そう鳴くと手から身体を抜けだしボクの頭にジャンプ。猫はボクの頭の上に前足と頭を乗せて後ろの部分が空中にブラリと垂れる形に。器用な乗り方だ。

「そこがいいんですか?」

『にゃ~ん!』

「どうやらそうみたいですね、じゃあ行きましょう!」

 分かれ道の右側を進む事にし、歩き出す。しばらく歩くともうそこは山の中へと続いていて道らしい道が無くなり民家があるとは思えない。

「あれ、間違えちゃったんですかね、道が無くなりました」

『にゃ~ん』

「戻らないと行けませんね、ニャンコさん、戻りまし……あ! 雨です!」

 空が灰色に染まり、冷たい粒が大量に降り注ぐ。さっきまであんなに晴れていましたのに。
 何処かに雨宿りしないと。急ぎ走る。
 すると少し遠くに大きな木があり、葉っぱがいっぱい生い茂っている場所を発見した。あそこなら雨宿りが出来そうだ。

「ニャンコさん、あそこなら雨宿り出来ますよ!」

 しかし到着することはなかった。

「きゃ!」

 ガクンと視界がぶれる。

 雨で濡れた草に足を滑らせ転がったのだ。
 その場所が斜面で勢いよく下方の茂みへと転がって行く。

「あっ、いやっ!」

 ようやく動きが止まった、見上げると道は遥か彼方、随分下まで転がったらしい。
 服が泥だらけ、髪も顔も全部。

「あぅ! 痛っ、うう……ボクはドジです」

 周囲を見回すと草ばかりが見えるだけ。

「結構落ちちゃいました……ああ! 二、ニャンコさん! ニャンコさんは?」

『にゃ~ん』

 斜面の途中に猫が何事もなく座っていた。どうやら転がっている間に脱出していたみたいだ。
 よかった、怪我はしていない様です。
 安堵の感情が全身を駆けて行く。さて、上に登らないと、これ位ならなんとか登れそうだ。
 立ち上がろうとした時、急に左足首がズキンとし痛みが全身に行き渡る。

「痛い! うう……ひねっちゃったみたいです」

 ズキズキと痛みだし、これでは歩けない。
 どうしましょう上に登りたいのに。

「うう、痛っ、歩けないです……登らないと……雨が痛いです」

 無情に降り続ける雨、こんな場所で動けなくなってしまって、これからどうなるんでしょう?
 独りぼっちで、こんなところで死んでしまうのか。

 様々な不の感情がボクを支配していく。

 怖い、独りぼっちで死にたくない。

『にゃ~ん』

 猫がボクに近寄りほっぺたを舐めてくれた。
 そうか、元気を出せって言ってるんだ。

「ありがとうです、ニャンコさん……」

『にゃん!』

 夏休みなのにボクはツイてない。


 
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