帰還のヘルズゲート

生獣屋 芽怠

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第7話 人形となりて

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 空が紅く塗り潰された世界。

 これは夕焼けでは無く、この地獄では当たり前の光景だ。

 私の名はルベス。ここ、地獄世界、ヘルヴェルトで門を守る者。

「暇ですね、今日に限って誰も来ない。このヘルズゲートに」

 それはいい事なのだが。
 本来、来るべき存在とは死者の魂をこの地獄へと誘うために開くのが門だ。
 地獄に来るべき人間が来ない場合は門を開いて迎えに行く。本来はそうだった、アレが起きるまでは。

「暇そうだなルベス」

 突然の声に私はその場所を見た。そこには銀の短い髪に切れ長の目、少し高い鼻、そして透き通る肌が印象的。ドクロのネックレスをし漆黒の羽を背より羽ばたかせた美しい女性が紅い空から舞い降りて来る。

「これはこれは、死神のスミスさん」

 彼女の名はスミス、死神をしている。
 死神の仕事は、簡単に言うと、死んだ魂を地獄に連れて来る事。
 彼女は死神の中で一番の強さを持っている。

「また人間の姿なのか? 元の姿にはならないのか?」

「この格好が気に入っているんです!」

「変なヤツだな、いつもの格好の方がオレはいいと思うぞ?」

「そうですか? こっちもいいと思うんですけど……」

[ルベス、俺様に変われ!]

[ダメ、僕に変わってよ~]

 頭の中から声が聞こえる。ケルベロスは三つの頭がある地獄の番犬。三つそれぞれに人格があり、今の様に頭に響く様に語りかけてくる。その声が私の別人格達。

[お前ばっかりずるいんだよ! 聞いてんのか? ゴラ!]

 この気性が激しい人格は名をゲイズ、喧嘩が大好きで揉め事があるとうれしそうにしている。

[僕も出たいよ~うえ~ん!]

 この人格はスルル。泣き虫の女性。だが、今泣いているが、これは本気泣いてはいない、本気で泣かせてしまうと暴れ回る。

「なんだ? またあの二人が暴れてるのか?」

「ええ、出てきたいそうです。でも私は仕事中ですので二人を出せません」

[テメー覚えてろ!]

[ひどいよ~グス……ルベスのばーか!]

「出さなくて言いのか? スルルと話したいんだが」

 スミスさんはスルルと仲良しさんでしたね、でも、仕事中だったので私はそれを断った。すみません。

「まったく、お前は真面目だな」

「真面目が一番ですよ!」

 頭の中で二人が話始める。同じ人格なので、ちょっとした話も聞こえて来る。

[お腹減ったな~、お昼は何を食べるのかな?]

[そんなの知るか! 腹に入れば何でもいいんだよ!]

[グス……おいしいものがいいよ~]

[だぁあ! うるさい!]

「ちょっとあなた達、頭の中で喧嘩しないで下さい!」

「大変だなお前」

「ふふ、もう慣れましたよ」

 私達は三人で一人です。誰も欠けてはいけない。

 スミスさんとの会話途中だった、辺りを騒がせる邪悪な力が近付いて来るのを感じる。
 なんだこれは? 邪悪な力が近付いて来る。突然、気が付くと目の前にS級の住人がに立っていた。
 いつの間に。

「何ですか、あなたは?」

『ふふふ、ここがヘルズゲートか、俺はここを通過しに来た』







 ――人間界。



 峻くんのマンションはいつ来ても広い。もちろん部屋の中も広い。そんな広い部屋でとんでもない物を見つけてしまった。
 それはベットの下にあった、コレは男の子が好きなものだ。ゆっくりと、これを手に取り、震えながら眺めた。

「これって……エロ本!?」

 嘘、まさか峻くんがこんなの読んでいるなんて! 
 でも、峻くんだって男の子なんだよね。
 ど、どんなの読むんだろう? 峻くんは今トイレに行ってるから大丈夫。私は恐る恐る、ページをめくる。

「わ! わ~……ひゃう! ほえぇ~!」

 内容は紹介できません! 

「……ひ、『人妻の○○○○』に『○○のお姉さん』! ……はわわ」

 本のタイトルを読み上げると、なんだか恥ずかしくなって来た。
 あれ? ちょっと待って、人妻って、嫌、まさか、そんな事無いよね。ママと峻くんの禁断の愛? 馬鹿らしい。
 その時、峻くんがトイレから帰って来た。
 あ、やばい!

「あれ? まこちゃん何して……わぁあああああああ!」

 慌てて駆け寄って来る彼の顔は、ゆでだこ見たいに真っ赤。

「こ、これは違うんだ!」

 何が違うんだろう? それにしても、人妻か好きなんだ。……あ、この前ママを見て赤くなってたけど、何だかヤバイくない?

「えっと、あのな、……お、落ちてたんだ!」

「……落ちてた?」

 出た、得意の子供の言い訳。
 峻くん、男らしく言えばいいのに。
 別にこんなのを持っていたからって嫌いにはならないよ。男の子はみんなこんなものだってママが言ってたし。

「はいはい、分かったからもういいよ……その、勝手に読んでごめんなさい」

「いや、謝んないでって!」

 何だか変な空気が流れていた。やっぱり峻くんは大きい胸が好きなのかな? 自分の胸に目が行く。私もそこそこは大きい部類に入るかも?
 嫌、ギリギリかな?
 って、何考えているの私。

 そんな日常は終わりだと告げられた様に突然、地獄の感覚が手を伸ばし、私達を震えさせる。
 地獄の住人の気配!

「出たな……ん? これは……まこちゃんはここ動かないで!」

「うん、分かった」

 彼は扉の向こう側へと駆け出して行った。また強いやつなんだろうな。
 以前、私が馬鹿をしたばかりに峻くんに迷惑を掛けてしまったからもう無断で出ていかないと決めた。

 私はルベスさんから貸して貰った、あの力をまだ使った事がない。

「拒絶の白か」

 そうつぶやいた時だ、ドアをノックする音が聞こえて来る。
 あれ、峻くん何か忘れ物したのかな?
 この時開けるべきではなかった、何も知らない私はドアを開放した。

『お前が番人の女か?』

 目の前に居たのは地獄の住人だ。目はドブの様にどす黒く、身長は1メートルあるかどうか。
 全身はコガネムシのように緑色で鈍い光、形はほぼ人型だった。そして住人はギザギザの歯が生える口を開け呟く。

『うまそうな女だ』

「あ、こ、来ないでよ!」

 峻くんはどこ? どうしちゃったの? 怖い、助けて、助け……違う、馬鹿、私は自分の身は自分で守るんだ、彼に迷惑をかけないようにそう決めたじゃない。
 怖いけど奴を睨み付けてやった、恐怖を飲み込め。

『へぇ~、恐怖と決意の顔をしているね?』

 奴が少しずつ近付く。
 私も少しずつ離れる。
 その度に息が荒くなる。
 恐怖は今の私に震えを与えている、誰かが私を揺さぶるよう身体が動く。

『いい顔だ!』

 奴が一気に距離を縮め、私に襲い掛かった。

「きゃあああ!」

 身構えた。私はどうなるんだろう? 今ここに壁があったらどれだけ嬉しいか。
 そう思ったその時、私の体が光はじめる。白い光だ。

『なんだ?』

 空間を拒絶するかのように、それはそこに出現していた。
 白く光輝く壁が私の前に現れたのだ。

『何、結界だと!』

「……これが、拒絶の白」

 分かった、使い方が分かった。私が身の危険を感じて壁を想像したら出た。つまり、身を守る想像、イメージをすれば盾が出るんだ。
 あはは、これで大丈夫、だと思う。

『へぇ、普通の人間じゃないな~』

「お、大人しく地獄に帰ってよ!」

『ふふ、ねぇ女、腹ぺこで目の前にご馳走があったらどうする?』

「えっと、食べる」

『だろ?』

 するとヤツの目が鈍い光を発する。

「何よ、あんたなんか峻くんが倒しちゃうんだから!」

 そう叫んだらニヤニヤと奴が笑った。

『そうか、あの男が気に入っている様だな? ……そうだ! 食べる前に面白いことを考えた』

 目の光は更に輝く。奴と視線が絡まると、何故か身体に力が入らなくなる。
 落ちる感覚、深く深く闇の中に落ちて行く様な感覚が私の中で広がって行く。
 視界が霞んで何も見えない。闇が包む。
 気を失い、その場に倒れた。

『ふふふ、これからが面白いぞ!』
 
 






 一体どうなっているんだ? すぐ下の階に住人の気配を感じたはずだった。
 しかし、そこに姿はいない。
 まさか、力の気配を奴は消せるのか? そうだとすると厄介だな、たぶん、ヤツはS級。苦戦を強いられるはず。

 神経を集中し、気配を探る。静けさだけが異様に五月蝿かった。集中していると足音が近付いて来る、来たか。
 結晶の碧を発動、いつでも戦う準備を怠らない。
 上の階から足音が降りて来る。

 だが、そこに居たのはまこちゃんだった。

 何故ここに?

「まこちゃん、何かあったの?」

 彼女に駆け寄る。彼女の顔は何だか暗く、元気がない。
 どうしたんだ?

「何があったの? ゆっくり話してくれ」

「……峻くん、私の事……好き?」

「え?」

 驚いた、予想していない事を話し始めたからだ。
 一体どうしたって言うんだ。

「私の事好き?」

「ど、どうしたの?」

「……嫌いなの?」

 彼女の瞳は潤み、頬を赤らめる。

「嫌なわけないよ!」

「本当?」

「ああ、本当だ!」

「本当に本当?」

 本当にどうしたんだ? いつものまこちゃんじゃない。彼女は下へ俯き、もじもじ体を動かしていた。
 普通なら可愛いと思うこの行為、でも何故か違和感を感じる。

「じゃあ、その、あのね」

「うん?」

「好きなら、私のために死んで?」

 え? 意外な彼女の言葉。一瞬、意味が分からなくなり頭が空白になった。
 そして突然、彼女の手は俺の首を締め付ける。

「ぐぅ! ま、まこちゃん? がっ……なんで」

「死んでよ、あははは、好きなら、死んじゃえよ、あははは!」

 華奢な腕からは想像しがたい力が喉に噛付く。何でこんな事をするんだ。
 瞬時、彼女の瞳と目線が重なる。その目は、生気を全く感じない鈍い光になっていた。

「やめ、ゴホ! ……がぁ、くっ、まこ……ちゃん」

 このままじゃ意識が飛ぶ。ごめん、まこちゃん! 俺は彼女の腹を突いた。すると呻き声をあげ、彼女の手は震えながら俺を開放した。

「ごめん、まこちゃん!」

「……うう、峻くんは、私の事嫌いなんだ」

「いい加減にしろ! 分かってるぞ、出て来い、まこちゃんを操っているヤツ!」

「なんだ、バレてたのかぁ~」

 彼女の口から出る言葉は、奴、地獄の住人の意志だ。

「何て卑怯な奴、まこちゃんを操らないと俺とは戦えないのか! 卑怯者め!」

「うふふ、峻く~ん、卑怯って、最高の褒め言葉! あははは!」

「まこちゃんは関係ないんだ! 姿を見せろ!」

「あははは! 峻くん~私と遊ぼうよ!」

 彼女は俺を目掛け、駆け出して来る。
 逃げるしかなかった、逃げながら奴を探す。待っていて、必ず元に戻すから。

「待ってよ、峻くん、愛してるよ~あははは!」

 あの野郎、奴への怒りがあふれ出す。必ず見つけ出して、絶対にギタギタにしてやる! 怒りで奴が憎くなる。

「待って~! 止まらないと嫌いになっちゃうよ~」

 クソ! どこだ? 彼女は上の階から降りて来た。なら、上にいる可能性が高い。

「待ってよ、峻くんは私事好きなんでしょ? 私も好きなの~愛してるの~あははは!」

 クソ! 頭に血が上る。彼女はニコニコしながら追いかけて来る。

「どうしても止まらないなら……私、自殺する」

「な!」

 俺は動きを止め、立ち止まった。いや、止まらされたんだ。まこちゃんがニヤニヤしながら近付いて来る。
 一歩、また一歩。目の前まで来ると、自分の上唇を舌で舐め濡らす。何とも嫌らしい行動、まこちゃんの身体で何していやがる。

「あは、嬉しいよ~、さってと、どうしよっかな~」

 怒りがおさまらない。見つけ出したらただじゃすまないぞ! 手加減無しで倒してやる!

「峻くん~私の裸、見たくない~? うふふふ~」

「やめろ! 彼女の身体を弄ぶな!」

「私ね~こう見えて、結構、胸が大きいの~あははは!」

 それは不意にと言うのだろうか、微かな気配を感じた。奴は屋上か! 俺は真上を睨み付けた。
 待っていろよ、クソ野郎。

「うふふ、気付いたんだね、正解だよ~……で? どうするんだ? もし、俺のところまで来たら」

 口調が変わる、ヤツ自身の言葉か。そう言うと、前回住人と戦った時に割れて、地面に落ちている窓ガラスのカケラを彼女は拾い上げ、まこちゃんの喉元に近付ける。

「やめろ!」

「この喉を貫いて殺してやるよ! あははは、峻くん、助けてよ~」

 仕方ない。彼女を気絶させるしかない。俺は戦闘態勢になる。

「あれ? 峻くん、私と遊ぶの? じゃあ私に勝ったらご褒美に、抱かせてあげるよ~」

 彼女が俺との距離を詰めてくる!

「ちょっと痛いかも知れないけど」

 猛撃する彼女を避け、後ろに回り込む。首に衝撃を与えて、気絶させるはずだった。

「嫌だ! 峻くん、痛くしないで!」

 静止する。分かっている、彼女が言っているわけじゃない事は。でも、俺は止まってしまった。
 彼女が苦しむ姿、悲しむ姿を見たくなくて。

「あははは、嬉しいよ~」

 狂喜する笑いとともに、痛みが走る。ガラスのカケラは、俺の腹から赤い液を出させている。その液がガラスをつたい、まこちゃんの綺麗な手を汚していた。

「が……ぐぅ……痛っ」

「綺麗だね、私ね、この色大好きなの~あははは!」

「ぐぅ、ま、まこちゃん……」

 視界が霞み始める。この感覚は寒さだ、寒さを感じる。死ぬ?
 俺は死ぬのか?
 俺の意識が遠のいていく。








 同時刻、屋上。

『がはははは! 馬鹿な男だ!』

「あなたも馬鹿だと思いますよ?」

『な!』

 そこに立っていたのは赤く長い髪、黒いスーツを着こなしているルベスだった。

「イヤ~参りましたよ、あなたがスミスさんを操るから、だいぶ時間が掛かってしまいました」

『貴様……』

 奴は目を光らせ始める。その目を見たルベスは額を手で押さえ、苦しそうに悶えている。
 その姿が住人にとって滑稽だった、何故なら地獄で恐れられているケルベロスがああやって苦しんでいるのだから。

『お前も、人形にしてやるよ、がはははは! どうだ、苦しいか? ケルベロス!』

「ぐっ、うう……ふ、ふふ、ふふふ! にゃはははは!」

『な!』

 住人は驚きを隠せない、確かに操るために視線を合わせたはず、なのにこいつは操られるどころか、笑っているからだ。

「どうでしたか? 私の演技力は、主演男優賞ものです! にゃはははは!」

[うわ~ルベスの悪い癖だ~また、人をだました時の笑い方だよ]

[こいつ馬鹿にするの好きだからな、でもあいつ顔、見たかよ、間抜けだぜ!]

「うるさいですね、オホン、あなたは私を怒らせました」

『くそが、お前なんか!』

 住人がルベス目掛け突進して来る。怒りをあらわにしながら指の爪を伸ばし、咆哮する。

『がぁあああああああ!』

「そうだ、私の姿見せますよ! あなたも運が悪い」

 身体から激しい炎が噴出す。炎は龍の様に身体を這いずり、纏わっていく。炎のせいで姿は確認できなくなった。ただ、炎がそこで燃え盛っている。

『なんだ? ヤツは自爆したのか?』

 永遠に燃え盛る。
 一向に炎は衰えない。
 その中から、それは姿を現した。

 真紅の毛並み、三つの頭。激しい炎がその身を包み混んでいる番犬。六つの目が開く。

「久し振りだなぁ、この格好は!」

 中央の頭、ルベスから見て右側の顔、ゲイズが喋る。

「う~ん! 空気が……あんまり美味しくないね人間界って」

 左側のスルルが喋る。“三人”は本当に久し振りにこの姿になった。絶対に許さない敵を排除するための姿。
 この姿でいつもやる事がある。それはお決まりと言うもの、それをケルベロスは始める。

「「「ガアアアアアアアアア!!!」」」

 咆哮! 響き渡る声、天を切り裂く様に。その姿、強大な力に奴は驚き声をあげるしかない。

『な、これが、ケルベロス……』

 住人は震える。圧倒的な力の差を知る瞬間、自分の非力さを理解する。

「地獄の炎は、魂までも燃やします」

 三つの口は静かに開き真紅の光を放つ!

『な……』

 これが最後の言葉だった。








「うっ、俺は……一体?」

 静かに目が開き、周りを見回す。俺は一体どうなったんだ?

「やっほ~、元気ですか? 峻」

 突然、俺の視界に影が生えて来る、それは見知った顔、ルベス。

「ルベス? テメェ、何でここにいる?」

 勢いよく起き上がる。すると違和感を感じる、腹が痛くなかったのだ。
 あれ、傷が無い? 俺が不思議そうにしているとルベスがその理由を話す。

「感謝して下さい。私が直しました」

「……何で、今回は手を貸した?」

「今回は私の責任です。奴を逃がしてしまいましたからね」

「そうか……まこちゃん! まこちゃんは?」

 頭を動かし、彼女を求める。ルベスが指を指している、彼女は俺の隣りで眠っていた。安らかな顔で。
 何ともなさそうだ、よかった。安堵が俺を包む。

「大丈夫ですよ、傷はないので安心して下さい。……ところで峻、大変、真面目なお話があります。門がもうじき閉じる事ができます。しかし、地獄の住人は門が開いている最後の日に、こちら側へ出てこようとする者が予想ですが、数多いるようです」

「数多だと?」

「この日があなたにとって最後の日です。これを乗り切れば、あなたは開放されます……長かったですね」

「ルベス、まだその言葉は早い」

「そうですね、でも、気をつけて下さいね、最後の日は奴らはこっちに出る最後のチャンス……何が起きるか分かりません」

「分かっているさ」

「じゃあ帰ります。また来ますね」

 もう来なくていいと叫んだあと、ルベスは風景と交わるような消えて行った。
 もうすぐ閉じるか、何だか実感がわかない。








 長い夢を見ているみたいだった。やっと動き出した脳は、私を目覚めさせる。
 ん? あれ、私、寝ちゃったの?            
 おかしいな、いつの間に寝てたんだろう。
 気が付くと、峻くんは部屋で漫画を読んでいた、私が起きたのに気が付いたみたい。

「おはよう、まこちゃん」

「あ、ごめん、寝てたみたい」

 頭がボーッとする。何かあったっけ? 頭の海をダイブし、記憶を探るが、駄目だ、思い出せない。

「疲れてたんだね、すごく寝てたよ? グー、グー、って」

「え! やだ、いびきかいてたの?」

「引っ掛かった! かいてないよ~」

 バカ! まったく、いびきって聞いて恥ずかしかったんだから。もう……あ、今何時だろう? 私は峻くんに今の時間帯を訊いてみる。

「5時だよ、朝の5時」

「え? えーーーー!」

「今から帰ったら、朝帰りだね!」

 うそ、朝の5時? ヤバイよ、絶対にママにコロサレル。
 頭を抱えて悶えた。その格好を峻くんが訳分からなそうにみている。

「な、何でもないの、気にしないで」

 どうしよう、何て言い訳をすれば。でも、どうせ訳を聞かないだろうけどね。
 私は帰ると峻くんに伝えた。すると峻くんは私の名を呼んで呼び止める。どうしたんだろう?

「あのさ、身体……痛くない?」

「え? 痛くないけど、何で?」

「いや、その、すごい格好で寝てたから」

 すごい格好? どんな格好だろう。まさか、肌をあらわに曝してしまったの? それともまさか、嫌! 考えたくない! どんな格好なのか分かんないよ!

「……どんな格好で寝てたの?」

 恐る恐る問う。

「ナイショ!」

「教えてよ、気になるじゃない!」

「何でもないよ、本当だって」

 いつもの会話。今日の出来事を知らない私だった。
 あの出来事を知っていたら、私はどうなっていたろうか。多分、普通ではいられなかったはずだ。

 何でもない、彼はそう言うばかり、気になりながらも家を目指す。

 この後、ママのたっぷりなお仕置を受けたのは言うまでもない。
 


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