帰還のヘルズゲート

生獣屋 芽怠

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番外編 夏休み

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 蝉の声が木霊する世界。
 熱い太陽、止まらない汗が私の全身を濡らしていた。暑い。
 私、皆川真は家のリビングで扇風機の風に触れていた。でも、熱風を吹かせていて涼しく無い。

「うう、風が生温いよ……」

 家にはちゃんとエアコンがある。しかし壊れているのである。よりによってこんな暑い日に。
 奥のキッチンからママが冷たい麦茶を持って来てくれた。ああ、冷たくて美味しそう。

「あらあらまことさん、はしたない格好ですよ?」

 文字通り、扇風機に齧り付いていた。首が動く度に私も移動する。その様子を呆れ顔でママが見ていた。

「まことさん、それじゃ身体を動かしてるから余計に暑いですよ?」

「うっ、確かに……そう言えば心は?」

「小学校のプールに行ってます。いいですねプール」

 まったくだ、冷たい麦茶を飲みながら心を羨ましく思う。こんな暑い日に入るプールはさぞ気持ち良いだろうな。
 私も入りに行きたい。

「プールか、行きたいな……」

「行きたいですね……」

 そう言っているママだが、こんなに暑いのに、汗一つかいていない。いつもながら我がママは色々と凄い。
 幻想のプールにふけっている時と、玄関からチャイムの音が響いた。誰か来たみたいだ。
 ママはそれを聞くなり、私を見詰めた。

「まことさん、行ってらっしゃい」

「ううっ、ここから動きたくないな」

 しぶしぶ起き上がり、玄関を目指す。ドアを開け放つと見慣れた顔が現れた。

「あ! しゅー、いらっしゃい」

「よ! まこちゃん」

 私が大好きな彼、佐波峻が来た。
 彼をよく見るとやはり汗が光っている。

「いや~暑いよね、上がっても良い?」

「もちろん!」

「助かったよ、家のエアコン壊れててさ」

 え? エアコン壊れるのって今流行ってる? 家も壊れてると伝えると「マジ?」と言いながらがっかりしている。
 面白くない、私よりエアコンに会いに来たと思うと、むかついた。

「で、どうなさいますか? 入られます?」

 嫌味たっぷりに言ってやる。

「上がるよ、だってまこちゃんに用が会って来たからね」

「え!」

 やっぱりしゅーは私に会いに来たんだ。嬉しい。

「用って何?」

「まぁ、上がってから教えるさ」

 彼は何だか嬉しそうだった。小さな子供の無邪気な笑い方だ。
 まぁ、こんな所で立ち話もなんだし、家の中に上げてリビングへと迎える。しゅーを確認したママが満面の笑顔になる。

「まぁ、峻さん! 良く来ましたね!」

 案の定ママはしゅーが来るとテンションが高くなる。
 ちょっと待っててと言ってキッチンへと行き、麦茶を入れ始める。しゅーはソファーに座り、やっはり暑いのか、シャツを手でパタパタしていた。

「夏ってさ、なんでこんなに暑いんだ?」

「夏だからでしょ?」

「……ああ、なるほどな……」

 あの説明で何を納得したんだか。頭の悪い会話だった。
 ま、良いか。取り敢えずなんの用で来たのかをもう一度尋ねてみた。

「フフフ、ねぇまこちゃん、海に行きたくない?」

「海かぁ、涼しそうで良いよね……まさか、連れて行ってくれるの!」

「正解! 実はね、親戚のおじさんがね海の近くに旅館を経営してるんだけど、特別に激安で泊まれるんだ!」

「ほ、本当! ……あれ? もしかして……二人で?」

 二人でと言う単語をトーンを下げて話した。なぜなら、二人の旅行になる。そう考えたら、顔が赤くなってしまった。

「し、しゅー、えっと、その……」

「まこちゃん、行く? 旅館は温泉もあるんだ」

 温泉の言葉に反応したママが瞳をキラキラと輝かせる。

「温泉ですか、良いですね!」

 ママは温泉には目がない。なんでも昔、全国の温泉に入る旅に出た事があると言っていた。
 全部は入れなかったけど、相当な数入ったと自慢していた事がある。

「私も行きたいですね!」

 満面の笑顔でママが答えて来た。
 え、ママも行きたいの? そんな、せっかく二人っきりだと思ったのに。
 そんな事を思っていると、突然誰かの声が飛び出す。

「ずるいぞ、オレも行く!」

 声の持ち主はスミスちゃんだった。頬を赤くして、なぜか二階から降りて来た。

「スミスちゃん! なんで二階から来るの! って言うか何故ここに?」

「そんな事はどうでもいい事です」

 突然に窓が開き、この声と共にルベスさんが侵入して来た。
 私は驚きが隠せない。
 なんで二人共、ここに居るの?

「あらあら、麦茶を持ってこなくちゃ」

 ママは平然と麦茶を入れに行く。
 いや、ビックリしないのママ? 不法侵入者が二人もいるのに。
 そんな中、しゅーは慌てながら言葉を放つ。

「待てよ、俺はまこちゃんと二人で……」

 そう言うとスミスちゃんがしゅーを睨み、指をバキバキならしながら近付いて行く。

「さ~な~み~」

「ヒィイイイ! 分かりました、連れて行きます!」

 しゅー、この意気地無し!
 はぁ、二人っきりはなしか。

「はぁ……」

 溜め息しか出ないよ。そんなこんなで、この後またまた人数が増えて行った。

「峻ちゃん私も!」

 声の正体はしゅーのお姉さんの葉子さんだ。本当にどうしてここに居るの? 葉子さんを見るなりしゅーは驚き顔で固まる。

「姉さん! なんで邪魔するんだよ!」

「まことと峻ちゃんを二人っきりにしたら、何が起きるか分からないじゃない!」

 何か起きるって何が?
 突然だけど、私は想像して見る事にした。
  



『まこちゃん……』

 暗闇の旅館の部屋、隣で寝ていたしゅーは唐突に掛け布団を爆ぜさせ私の布団に近付いて来る。
 そして中に潜り込んできた。
 私は驚き、身体が固まってしまう。
 手を握り、吐息が掛かる距離に顔が近づく。

『し、しゅー、ち、近いよ?』

『いいじゃないか、これからまこちゃんを頂くんだから近くじゃないとね?』
 
 私の浴衣に手を掛けた!

『ま、待ってよ!』

『待たないよ女神様? 君の美しさを堪能させてくれ!』

『あーーれーー!』





 うわあああ! はぁ、はぁ、やばい! やばすぎるよ!

「どうしたのまこちゃん?」

「うわあああ!」

 しゅーは心配そうに私を覗いていた。やばかった、理性が飛びそうになった。

「な、ななな、にゃん(なん)でもない!」

 恥ずかしい。平常心、平常心を保たなきゃ。
 不意にルベスさんがこちらをニヤニヤしながら見ている。嫌らしい笑い、なんだか嫌な感じだ。

「な、何か?」

「いや~、真は凄い事を想像しているなと思いまして!」

 へ? それって、どう言う事? まるで心の声が聞こえているような口振り。

「あ、私の100ある特技の中の一つ、読心術です! 貴女の考えは丸見えです、にゃははははは!」

 私の顔が火を吹く様に熱くなる。

「あうっ! あううっ! ち、違うの! あれは違うの!」

 ルベスさんは「にゃははは~」と、笑うばかり。
 私達の様子にしゅーが心配そうに尋ねて来る。

「どうしたのまこちゃん?」

「あう、あううう……」

 恥ずかしくて何も言えなかった。

「まこちゃん? ……おいルベス、なんの話をしてるんだよ?」

「ああ、実はですね……」

 ヤバい! 知られちゃう!

「あ、ダメーーーー!」

 その時だった。ママがゆっくりとルベスさんへと近付いていく。

「えっと、ルベスさんでしたね、お名前。あらあら、いけませんよ? 人の心を読むなんて」

「読めてしまうのは仕方ありませんよ」

「……そうですか、ちょっとこちらにいらしてもらってもいいですか?」

 そう言ってルベスさんを立たせ、みんなに背を向ける形でママが立つ。その前にルベスさんがママと対峙する。
 あ、あれはまさか!

「まこちゃん、真美さんは一体何を?」

「本気で怒ったママは、説教をする人以外には顔を見せないの……」

 今、こちら側からママの顔が見えない。ああ、あの恐ろしい顔をするんだろうな。私の身体がゾクリと震えるのを感じた。

「ルベスさん、ダメですよ?」

 口調は優しい。

「貴女に言われる筋合いは……ヒィ!」

 なんとあのルベスさんがママを見て悲鳴をあげたのだ! 一体どんな顔をしているの?
 もしかしたら私にも見せた事のない顔かもしれない。

「人の心は読んではダメですよ? いいですか?」

「す、すみませんでした! わ、私が悪かったです!」

 あの地獄の番犬が謝ってる。家のママは最強だと改めてそう思った。
 そんなこんなで私達は夏休み、旅行に行く事になった。この後に何があるやら。
 







 ◆
 
 高い太陽が眩しく思もえた。外の風景は流れる様に過ぎて行く。やっぱりバスは揺れるな。
 あれから数日が経っていた。
 旅館を経営しているおじさんの旅館バスに乗り、目的地まで移動しているところだ。
 おじさんが運転手、俺はおじさんの近くまでよっていく。

「今日はありがとう、おじさん!」

「な~に、かわいい甥の為だ、遠慮するな!」

 おじさんは父の弟になる。仕事が忙しい父に変わって小さい頃よく遊んで貰った。優しくて頼もしい人だ。

「しかし峻もやるじゃないか、あんなにかわいい彼女がいて」

「まぁね!」

「ねぇ、しゅー!」

 まこちゃんが俺を呼んでいる。何かあったか?

「ほれ、行った、行った、女待たせんなよ!」

「へい、へい、分かったよ」

 揺れるバスをゆっくり進み、まこちゃんの隣りへと座る。
 窓側に座るまこちゃん。その後ろの席に真美さんだ。俺の席から右側、通路をはさんだ向こう側に姉の葉子、その隣りがルベスいる。
 そして姉さん達の後ろがスミスと、ついて来たまこちゃんの弟、皆川心が座っている。
 その席同士で勝手に話が盛りあがっている様子だ。

「ねぇしゅー、今から行くところはどんな所?」

「浜辺がすぐ目の前にあって朝起きて窓の外を見ると青い海が目に飛び込んで来るんだ」

 まこちゃんの顔はみるみると赤くなり「楽しみ」と言っていた。その顔がとても可愛い。

「あらあら、それは良さそうですね、私はお料理も気になりますね」

「旨いですよ! 俺が保証します!」

 ここの話はごく普通だ。さて、ちょっと他の席に聞き耳を立ててみるか。
 気になっているのが、姉さんとルベス達だ。ルベスと姉さんはどんな話しをしているのか。

「葉子さん、貴女の名は美しいですね、貴女自身の様に」

 ちょっと待て、ルベスの野郎、姉さんを口説いているぞ。
 この野郎、調子に乗りやがって!
 あふれる怒り、このクソ野郎め!

「そ、そうかしら? ありがとう」

 あれ? 姉さん、顔が赤くなってるぞ?
 待て、騙されるな! ルベスは腹黒いぞ!
 今すぐにでも駆け付けてルベスの野郎を殴ってやりたい。

「貴女と居たら、きっと海を楽しめないでしょうね」

「えっ……そんな……」

「だって、海より貴女ばかり見入ってしまいますから」

 そう言うと姉さんは顔を更に赤くなる。
 くそ、この女たらしめ!

「……ルベスさん」

 ちょっと猫かぶってる姉さんだった。まさか、本気で惚れてしまったとでも言うのか?

「葉子さん、思いっきり遊んで泳ぎましょう無論、二人っきりで」

「は、はい! 喜んで!」

 させるかよ、テメェだけには姉さんを渡さん! 俺は熱く決意した。
 さて、奴等は後で見張るとして、心とスミスは何の話だ? 二人は仲良さそうにしているが。

「ねぇ~スミス~、あのね、ジャンケンしようよ!」

「ジャンケンか? ああ、いいぞ」

 なんだジャンケンって普通にやっているな。二人はジャンケンをし始める。「最初はグー、ジャンケンポン!」と二人同時に叫ぶ。
 結果はなんと心が勝った。
 確かまこちゃんが心はまだジャンケンに勝った事ないと言っていたな。

「ぐぅ、負けか……」

「わーい!」

 心は満面の笑顔で万歳をしている。スミスはジャンケンを出した手を震わせて、悔しがっていた。そうか、死神はジャンケン苦手なのか。

「えっへへ、ボクのかち~!」

 そう言いながらスミスに抱き付いた。動揺しながらスミスが困っている。

「お、おい……」

 だが、赤く染まった顔をする。まんざら嫌ではない様だ。そして、心がある一言を言い放った。

「スミスはいいにおいがする~」

 スミスが顔を更に赤くし、心の頭をなで始めた。
 その目は母が子をあやす様に見える。
 そうか、子供好きだったか。

「しゅー、さっきから何してんの?」

 まこちゃんの声にハッと我に返る。ヤバイな、面白くて聞き入っていた。取り敢えずなんでもないと伝える。

「それよりさ、まこちゃんの水着姿、楽しみだよ!」

 それを聞くなり彼女は顔を赤くし、困った様に振る舞う。

「そ、そんなに期待されても困るよ!」

「あらあら、うふふふ……」

 滑稽な二人のやり取りを楽しそうに眺める真美さんだった。
 水着姿か、まこちゃんの。突然だが、想像してみた。






 まこちゃんはもじもじとしながら顔を赤らめ、こっちを見詰めながらこう言い放つ。

『しゅー、ビキニって大胆だったかな?』

『そ、そんなことないぞ? 似合ってるし綺麗だ』

『ふふっ、ありがとう…………ねぇ、二人きりになりたいな、岩場の影で……水着脱ぐの手伝って?』

 ふおおおおお! たまんない! はぁ、はぁ、つ、ついでだ、ついでだぞ? ま、真美さんのも想像して見る!

 浜辺にシートを広げ真美さんはうつ伏せになっている。
 上の水着を外し、こう言った。

『峻さん、オイル塗って下さらない? 痛くしないで下さいね?』

 ほわああああ! 塗らせて頂きます!
 やっほい!





「しゅーの変態!」

 ビクッと身体が震える。どうやらまた声に出してたみたいだ。

「あらあら、峻さんもやっぱり男の子なんですね?」

 恥ずかしい。
 まぁ、とにかく楽しみだな海。

 数時間後、俺達は旅館へとやって来た。中へ入るとおじさんの奥さん、つまり旅館の女将が出迎えてくれた。
 お女将さんはどう見ても三十代前半の女性だが、実際はすごい年齢らしい。

「ようこそ、ゆっくりして行って下さい」

「あ、おばさんお久し振りです」

「あら、峻、立派に成長したわね」

 おばさんとは5年振りの再会だ。おばさんは髪は黒くて短く、着物が似合う、まさに大和撫子だ。
 早速、部屋まで案内される。部屋は四人部屋二つに、男女別々になる。俺と心と……ルベスだ。

「くそ、何でテメェと同じ部屋なんだろうな!」

「それは私のセリフですよ!」

 絶対に姉さんには近付けさせない。

「お~! うみ~!」

 心は窓から見える風景に心見入っていた。
 あはは、こいつ男なのに可愛いな。
 海が辺りを支配していた。長く眺め続けると、空と海の境界が無くなり、一つに見えて妙な感覚を覚える。
 いい眺めだ。

「はやくうみいこ~!」

 はしゃぐ心をなだめ、海に行く準備を始め部屋を出た。
 心は嬉しそうにまこちゃん達の部屋まで駆けて行く。やっぱりお子様だな。

「まこと~! うみいこ~!」

「あ、心! よ~し、いっぱい遊ぼうね!」

 まこちゃんも上機嫌だ。そんな二人を眺めながら真美さんが部屋の奥から姿を現す。

「あらあら、はしゃいでますね。峻さん、着替える場所は向こうにあるのかしら?」

「ええ、ありますよ」

「峻ちゃ~ん! お酒持って行っていい?」

 そう叫びながら姉さんが出てきた。その手にはビール缶を握り締めていた。まったく、もう酒を飲もうって言うのか? 海に何しに来たんだよ。

「ダメだ、夜まで我慢しろよな」

「峻ちゃんのケチ!」

 姉さんが酒、酒、とぼやいている時だ、ルベスがやって来て合流する。すると、姉さんはパッと持っていた缶ビールを後ろに隠した。

「あ、ルベスさん~」

 ワントーン上げた声、凄い変わり様だな。猫かぶりモードになった姉さんは顔を赤くしてしている。

「ああ、葉子さん……」

 俺は二人の間に割って入り、ルベスを通さない様にした。

「……じゃまですよ峻」

「あ? なんの話しだ?」

 白々しく言ってルベスを睨んでやった。ルベスは俺の考えをすぐに理解し、宣戦布告を放った。

「葉子さんは私が頂く!」

 そう言った途端、姉さんの顔の赤みは更にます。障害があるほど恋は燃え上がると何かで読んだ事があったな。

「渡すもんかよ!」

 この緊迫の状態をまこちゃんとスミスと心は、どうしていいかわからず、呆然としているが、真美さんだけは楽しそうだった。

 青い波が行き交う世界は多くの人で賑わっている。天気は晴天、波は穏やかで、まさに泳ぐには最適の環境だ。
 俺と心と、ルベスは女性陣が着替えて来るのを待っていた。心はテンションが高く「早く行こうよ!」と叫んでいる。

「待て、待て、まだだ」

「う~、待つの嫌い~!」

 ホッペを膨らませて足をバタバタ動かしていた。男から見ても、この姿を可愛いと思ってしまう。
 俺と心はトランクス型の水着だ。ルベスの野郎はブリーフ型。

「峻、私はこちら側で泳ぐのは初めてですよ」

「へえ、じゃあ向こうでは何処で泳いでいたんだ?」

「血の池です」

 流石は地獄だな、血って、泳いで上がって来たら血まみれ? こ、怖え~って!
 変な話をやり合う中、ようやく女性陣が現れた。

「しゅーごめんね、遅くなっちゃった」

 まこちゃんの水着に視線がいく。白色のワンピースタイプの水着で、胸元のリボンが可愛らしい。清楚な可愛らしさが彼女の心を現しているようでとても似合っている。

「ど、どうかな? シンプルな奴にしたんだけど」

「す、凄くいい! 可愛いよ!」

 まこちゃんは顔を赤くした。

「ありがとう、良かった、しゅーが気に入ってくれて」

 照れながら少しモジモジしている。可愛い!

「皆川、これが海って奴か!」

 そう叫んだのはスミスだ。キョロキョロと珍しげに海を眺めていた。死神が海水浴か。さて、あいつの格好はどんなのだ?

「……なんだそれ?」

 間抜けな声を出してしまった、この格好を見れば誰だってこうなる筈。
 何故ならスミスの水着はスクール水着だったからだ。しかも旧型、胸元には『すみす』と名前が書いてある。
 一体誰がチョイスしたんだ?

「ん? なんだ佐波、これは水着だろ? ルベスがこんなのが良いと言っていたが、何か変か?」

 そうか、ルベスが選んだのか、あいつ、狙ってたな?

「変……」

「あ?」

 スミスが睨んだ。

「全然変ではありません!」

 まぁ、水着には変わりないか、だが、特定の人間にはたまらないだろう。
 俺はこっちの趣味は無い。俺はどちらかと言うとナー……ゴホン、どうでもいい事だったな。

「お待たせ~」

 姉さんが少し遅れて来た。姉さんは赤色のビキニでひもを結ぶタイプの奴。姉さんの姿を見るなりルベスが吠える。

「ああ、葉子さん素敵ですよ!」

 ルベスの言葉に姉さんは顔を赤くして「ありがとうございます」と言う。こんな姉さんは初めて見る。猫かぶりモードは乙女になる事を始めて知る俺だった。

「あらあら、皆さん素敵な水着ですね?」

 真美さんのはどうだ? 上は白いシャツを着ていて水着が見えないが、下は……え? これって、隠すところをギリギリまで縮めたマイクロビキニではないか! 色は黒、だ、大胆だ。

「若い時の水着何ですよ、これしか無かったんです」

 若いって、真美さんを見ても子供二人いる何て到底思えないんだけど?

「じゃあ私はここにいますから、皆さんは楽しんでらっしゃい」

 真美さんはこう言ってパラソルの日陰に入った。
 こうして海水浴が始まった。







 ◇

 しゅーは喜んでくれて嬉しかった。一生懸命に選んだんだから。
 さて、この場所は夕日が綺麗ってさっき聞いた。しゅーとはその時に二人っきりになるんだ。それまでは泳げない心に泳ぎを教えようかな。

「よ~し、心、お姉さんが泳ぎを教えて……」

 そう言い掛けたが、心はスミスちゃんと一緒だった。

「スミス~いっしょにあそぼ!」

「いいぞ、何をするんだ?」

 スミスちゃんは顔が赤く、楽しそうだ。
 心を独り占めなんて、うらやましい!
 わ、私は心のお姉さんだよ? 独り占めは許さない!
 こうして、私はスミスちゃんと心の争奪合戦をする事となる。

「心、海に入る前には準備運動しなきゃダメだよ!」

「は~い」

 心は両手を万歳して返事する。ああ、可愛い~! た、食べちゃいたいくらいだよ! おっと、私ったら興奮しちゃった。話を戻さないと。
 スミスちゃんと一緒に体操をする事になった。

「皆川、オレもしなきゃダメか?」

「うん、泳ぐ前は準備運動、これはお約束なの」

 しぶしぶやるスミスちゃんだった。準備運動が終わり、早速海に入る。心が我先に駆け出して行く。

「わ~い! ……うう~」

 心は嬉しそうに海に入って行ったが、途中でピタリと止まる。心は泳げないので止まってしまったのだ。まったく、せっかちさんなんだから、でもそこも可愛い。

「ほら心、私の手につかまって? 泳ぎを教えてあげるよ」

「うん!」

 まずは顔をつける練習をする。一生懸命頑張る心はもう、たまらなく可愛い。そんな様子をスミスちゃんが羨ましそうに見ていた。
 そして、スミスちゃんが行動する。

「皆川心、このボールで遊ぶぞ!」

「ボール? うん! 遊ぶ~!」

 スミスちゃん目掛けて駆け出して行った。
 ああ! 心が行っちゃう、嫌だ! 心は私が独り占めするの!
 そんな事を考える中、二人は楽しそうに遊んでいた。羨ましい。

「わわわ~、えい!」

「上手いぞ、皆川心!」

「待って! わ、私もまぜて!」

 無理矢理わり入る。そして三人でやり始めた。ボールが私の所へ来る。そのボールをスミスちゃんに投げ付けた。

「おごっ!」

 予想以上に力が入ってしまい、スミスちゃんの顔面に直撃してしまった。あれ? 当たっちゃったよ。

「皆川……」

「あ、ごめんなさ……へぶっ!」

 スミスちゃんが私にやり返す。見事に顔面をボールが叩く。私は身体をプルプルと震えて、怒りをあらわにする。

「痛いよ! ワザとじゃないのに! 大体心を独り占めしようとして、心は私の弟なの!」

「関係あるかそんなの! なら皆川心を賭けて勝負しろ! 勝ったら今日は心を独り占めに出来る ! どうだ!」

「望むところだよ!」

 ぽかんとしている心、何してんだろ? と、心の中はそれでいっぱいだった。
 私達はそんな事にはまったく気付かず、話が進んで行く。

「それで? 勝負の方法は?」

「ボールだ、ボールを投げ付けて当たり地面に落ちれば当てた奴の勝ち、当たっても取ればセーフだ!」

「つまり、一対一のドッチボールって事ね、分かったよ」

 こうしてドッチボール対決が始まった。私達の様子を見ていたママがこっちに近付いて来る。

「あらあら、面白そうな事をしていますね、なら、私が審判をします」

 ママが面白そうなので首を突っ込んで来た。砂浜に木の棒でコートを描き、私達は位置についた。

「皆川、手加減しないからな」

「私だって、負けないんだから!」

 とは言ったものの、スミスちゃんは死神だ、勝てるだろうか? いや、勝たなければならない、心のため、そして何より私の為に。

「行くぞ、皆川ー!」

 私は身構えた。どんな恐ろしい攻撃が襲って来るのか。
 しかし、私の予想は外れた。ボールは妙なカーブをし、私を反れて行った。
 予想外の事に驚くスミスちゃん。それは私も同じだった。でもどうしてそれたの?

 そうか、ボールはビニール製で結構な大きさをしている。あまりにも強すぎる力がボールの軌道を狂わせたんだ。

「これなら勝てるかも」

 私が投げれば真っ直ぐ綺麗に飛んで行く。狙うは足下、上半身はボールを取り易いだろうが、下半身はやはり取りにくい。
 これが、スミスちゃんに勝てる唯一の方法。
 私の一球が放たれた。
 予想通りに綺麗に飛んで行き、スミスちゃんの足に当たる。

「甘い!」

 スミスちゃんはがっちりとボールを掴んだ。私の考えは甘かった様だ、彼女は死神、戦闘に長けている。ボールを掴むなんて事は簡単にやってしまう。

「少し加減して、オリャ!」

 加減されているはずのボールは恐ろしく速い!

「わあ!」

 キャッチした。しかし、私の身体は後ろに引っ張られる用に倒れた。ボールは落としていない。何て力なの、改めて死神が凄い事を知る。

 それからは激しい攻防戦が続いた。どれだけ時間が流れたか……。

「はぁ、はぁ、強い……」

「はぁ、はぁ、やるな皆川……」

 睨み合いが飛び交う中、私達は確信していた。次の攻撃で全てが決まる事を。
 ボールはスミスちゃんが持っている、ヤバイな。

「これで最後だ、皆川ー!」

 ボールが放たれた。

「きゃあ!」

 ボールが私を殴り、倒された。しかし、ボールはまだ空中だ。あれを取れば生き残れる。
 間に合え、私の手!

「わああああ!」

 ボールは私の中にあった。掴んだ、見事に取って生き残ったのだ。
 や、やった! なんて嬉しさだろう。次は私の番だ。

「行くよ……」

 今に投げ様とした時だった。

「もうやめてよ!」

「「え?」」

 私達二人はその声の方を見ると、そこには心が涙目にして見詰めている。
 一体どうしたの心? 何が悲しいの?

「ボク、二人といっしょに遊びたかっただけなんだよ!」

 その声に、ハッと気がつかされた。私達のエゴで心を悲しませてしまい、その為に仲良しだったスミスちゃんと争う事になった。
 私達は急に恥ずかしくなった、何をやってるんだろう。

「……ごめんね心、スミスちゃんもごめんなさい。私、間違ってた」

「いや、オレも間違ってた。三人で仲良く遊べば良かったよな?」

 三人で仲良く、こんな簡単な事に気付かないなんてどうかしていた。本当に恥ずかしい。

「三人で遊ぼう!」

「ああ、三人でだな! 皆川」

 こうして争いは無くなった。私達が再度友情を噛み締めている時、心とママの会話は耳に入ってこなかった。

「ママ~“あれでよかったの”?」

「上出来ですよ、心ちゃん。涙目でああ言えば仲良くなるって、言った通りだったでしょ?」

「うん! ママはすごいね!」

「うふふふ!」

 こんな思惑があったなんて知るよしもなかった。まぁ取りあえず、この後三人で楽しく遊んだ。
 そう言えばしゅーは何処に行ったの?





 


 ◆

「あの野郎……」

 俺はルベスと姉さんを見張っていた。まこちゃんとは後でゆっくりと過ごすとして、今の問題はあの二人だ。
 誰もこない岩場にルベスと姉さんがいた。俺は岩場の影に隠れ、様子を伺っている。

「二人っきりですね、葉子さん」

「そ、そうですね……」

「貴女は罪な人です、貴女がいるだけで私の心を締め付ける、だから、責任を取ってください」

 何が責任を取ってくださいだ! あの女たらしめ、これでも食らえ! 
 俺はそこらに落ちている石をルベスの後頭部目掛け、投げた。

「痛い!」

 見事にヒットした。やった!

「ルベスさん? どうかしましたか?」

「なはは、何でもありませんよ! ……峻め」

 ルベスの奴がこちらを睨んでいた。へ、いい気味だ!

「ルベスさん?」

「あ、あはは、なんでもありませんよ。それより葉子さん、私は貴女の事をもっと知りたいです」

「は、はい、喜んで!」

 姉さん達は何やら話し込んでいる。姉さんの好きな物や、今の仕事、いつも思う事、色々な話。

「……死んだ私達の母さんはとても優しい母でした」

 姉さんが母さんの話を始めた。

「峻ちゃんはまだ小さくて、いつもお母さん、お母さんって泣いていた」

 寂しかったんだ、母さんがいなくなって。あの頃の俺は母さんが死んだと、信じられなかった。時々、今でも信じられない。

「私も辛かった。峻ちゃんと同じようにお母さん子だったから……でも、峻ちゃんは私と違って母さんと居た時間が短い。だから、峻ちゃんには寂しい思いをさせない様に私がお母さんになろうと思ったの」

 姉さん、そんな風に思っていてくれたなんて、ありがとう。

「やはり、あなたは素晴らしい方だ、素敵です」

「そ、そうですか? なんだか照れちゃいます」

「私は始めて見た時から、人間にしては、澄んだ心をしていると思いました」

 姉さんはなんの話をしているのか分からないようだ。そんな姉さんをよそに、ルベスの話が続く。

「興味を持ちました。貴女と言う人の形を成す物、中身、精神、全てに」

「えっと? ちょっと難しい話ですね」

「あ、気にしないで下さい、貴女が素敵だと言う事ですよ」

 赤くなる姉さん。俺はルベスは本気で姉さんを気に入ったんだと直感した。
 今、俺がやっている事はわがままだったんじゃないか? 姉さんが好きな人なら、それを止める権利は俺にはない。

「そうですよ? 愛する者を引き裂くなんてダメです」

「ま、真美さん!」

 シーっと指を立てる真美さん。いつの間に来たんだ?

「峻さん、見守ってあげたらどうです?」

「……そうですね」

 真美さんはニッコリと笑う。そうだな、本気の二人を引き裂くなんて、どうかしてたな俺、見守る、か。
 こうして、ルベスと姉さんは付き合う様になる。人間と番犬、上手くいくのかは本人達次第だ。 
 







 

 赤い色が辺りを変化させて行く。赤と言うよりオレンジ色が合っている様な気もするが。

「夕日が海に沈んで行くみたいだね、しゅー」

「ああ、なんだか変な感じたな」

 海は昼間と違う顔をする。それは空も同じだ。そんな中、俺とまこちゃんは二人っきりで砂浜に座り、沈む夕日を眺めていた。

「……綺麗だ」

「本当だね」

「……が、だよ」

「ん? 今、何か言った?」

「な、なんでもないさ」

 ヤバイな、まともに言えなかった。綺麗なのはまこちゃんが、って。いざ言おうとすると恥ずかしいものだな。
 よし、ここはビシッと綺麗だと言ってキスだ!

「まこちゃん」

「何?」

「き、き……」

「おい佐波、皆川、何やってるんだ!」

 スミスが呼び掛けて来た。くそ~、空気読め! 馬鹿野郎! スミスは何だか楽しそうに走って来る。どうしたんだあいつ? 何かあったのか?

「おい、キモダメシと言う物をやるって言ってたぞ!」

「肝試し? 誰がそんな事を言ったんだ?」

「皆川真美だ!」

 真美さん、ベタなもの好きだな。

「あははっ、ママはイベント事好きだからね……そうだ、着替えた方がいいかな?」

「上にTシャツを着ればいいと思うよ」

 俺達は真美さん達のところに向かった。途中で荷物を置いていた所でまこちゃんとスミスは上にTシャツを着る。
 その格好もいいな。

「しゅー、顔が赤いよ?」

「なっ、あ、あれだ! 夕日でそう見えるだけだ!」

 ふーやばいやばい。考えている事が口だけじゃなく、顔にも出るとは俺って変態なんだな。改めてそう思うとなんだか虚しくなった。
 辺りがやや暗く染まり始める頃、みんなと合流した俺達は旅館の裏山あるお寺にいた。

「ママ、どんな風にやるの?」

 まこちゃんの質問に真美さんが顔を赤らめて答えた。まこちゃんの言った通りこういったイベントが好きなんだな。

「うふふ、ルールは簡単です、まずはクジを引いて二人ペアになります」

 二人ペアか、あれ? 俺達は七人だ、一人あまるぞ? この事を真美さんに伝えると、大丈夫と威勢な声で言い放った。

「うふふふ、私は“脅かす役”になります」

 脅かすって、真美さんが? な、何か嫌な予感がするが、まぁその時の楽しみだな。

「話を続けますね、ペアを作ったら、このお寺の奥に一本道があるって聞いてます。奥にはお地蔵さんがあるそうですから、そこまで行って、帰って来るだけです」

 簡単だな、よし、まこちゃんと一緒になれます様に、祈りを込めてクジを引く事にした。

「……マジかよ」

 クジを引き、ペアが決まった。まず一番手は姉さんと心だ。
 次は、まこちゃんと、ルベスだ。
 くそ~、ルベスにまこちゃんを取られた!
 で、あまっているペアは、あいつとだ。

「よし、佐波、頑張るぞ!」

「あ、ああ……」

 そう、見事、俺とペアに選ばれたのはスミスだ。色んな心配があるが、どうなるやら。

「それでは、私は位置につきますから、私が行った五分後に始めて下さい!」

 真美さんは嬉しそうに奥へと走って行った。一体、どんな風に脅かすつもりだろう? 不安だ。

 そして五分後。

「じゃあ行こうかな、えっと……心くんだっけ?」

「うん、ぼく心だよ!」

 姉さんと心が奥に入って行く。









 ◇

 ちっちゃくて可愛い。これが心くんの第一印象だった。見ていると、昔の峻ちゃんを思い出す。

「心くんは、何年生?」

「ぼくはね、二年生! さんすうだってゆびつかわないんだよ~!」

 あはは、可愛いじゃない!

「ねぇ、お姉ちゃんの、おなまえは?」

 首を横にかしげて、ホッペを赤くしながら私に質問してくる。か、可愛いわ! 昔、可愛かった峻ちゃんの再来見たい!

「私はね、葉子。葉子って呼んでくれていいよ」

「葉子~えへへ~」

 名前の最後をのばして呼ぶ。それがまた可愛い。前にまことから弟がいると聞いていたが、とにかく可愛いと彼女は言う。その意味をようやく理解した。







 ◇

 その頃、皆川真美は顔に“特殊メイク”を施して待ち構えていた。

「うふふふ~こんな事、学生以来だわ!」







 ◇

 辺りは木が視野を覆い、暗くなって来たので懐中電灯のスイッチを入れる。中々に怖いわね。心くんは大丈夫だろうかと確認した。

「うう~」

 私のシャツを掴み、涙目で震えていた。

「あら、怖いの~?」

 意地悪な言い方をする。すると心くんはパッとシャツを外す。

「こ、こわくないもん!」

 強がっちゃって、本当に可愛い。おしゃべりしながら進んでいたら、目の前にお地蔵さんが見えて来た。暗い森の中にぽつんと一つだけあって、不気味。

「これがお地蔵さんね、さて、戻ろっか」

「うん!」

 私達は向きを変え歩き出したその時だ、茂みの中から、妙な音が聞こえてくる。何?

「うう! うしろからなんかきこえたよ~?」

「そうね、まことのママかしら?」

 二人で後を向いてみようと提案し合い、そして、同時に「一斉の、せっ!」と、叫びながら振り向いた。そこにいたものは……。









 ◇

 心と葉子さん達が行ってしばらく時間が経過していた。きっと心の怖がる姿はラブリー何だろうな、見たかったな。

「どうして心とじゃ無いんだろ、それに、しゅーでもないなんて」

「葉子さん、大丈夫だろうか?」

「大丈夫だよ、ママならそんなに怖くな……」

「「ぎゃあああああああああああああ!」」

 奥から悲鳴が飛び交っていた。するとすぐに走って葉子さん達が帰って来る。葉子さんは心をおんぶしながら。
 あ、羨ましい。

「ど、どうしたんですか!」

「ま、まさか……あんな……ひぃ……うう!」

 葉子さんが取り乱している。一体何を見たの? 心も震えてるし、しゅーもついでに震える。
 ホラー映画好きの私はワクワクしていた。一体この先には何が待ってるの? 楽しみ!

「次は私達ですね!」

「さて、行きましょうか真」

 私とルベスさんは奥へと向かって行く。

「一体何が待ってるのかな!」

「……真は怖く無いのですか?」

「え? 怖いよ~」

 怖そうには見えないと、ルベスさんは思っていた。しばらく歩くとお地蔵さんが見えて来る。
 私達は振り向き、戻り始める。その時、妙な音が聞こえる。

「来た来た!」

「それでは振り向きましょうか」

 私達は一斉に振り向く。そこにいたのは。

「ぎゃあああああああああああああああ!」

 何とルベスさんが悲鳴をあげて逃げて行った。

「あ! 女の子残して行くなんて!」

 ママの顔は特殊メイクしてあり、それで脅かしていた。じーっと見つめるが、私的にはあんまり怖くないな。
 ルベスさんて、地獄の番犬のくせに怖がりなんだな。ちょっと可愛いかもね。

「ママ、私的にはあんまり怖くないよ」

「あらあら、そうですか? 自信ありましたのに……」

「う~ん、あ、ここをこうして、ここをこう! これならさっきより怖くなったよ!」

「あらあら、ありがとう」

 私なりに怖くしてみた。うん、いい感じ、やりおえて、みんなの所へと戻って行った。










 ◆

「……どうなってやがる」

 あのルベスが悲鳴をあげて戻るとは、い、一体どんな恐怖が? しばらくしてまこちゃんが戻って来た。

「まこちゃん、大丈夫?」

「え? あんまり怖くなかったよ、だから私が怖くしといたよ!」

 よ、余計な事を、くそ、こうなったらやるしかない!

「佐波、行くぞ!」

 顔を赤くするスミスは俺の手首を掴む。

「うわ、待て、まだ心の準備が~」

 俺達は奥へ。うう、マジかよ、周り暗いじゃん。何か出そうだ。そんな中、スミスが俺に質問をしてくる。いきなり話かけるなよ、びっくりしたじゃないか。

「この奥に何があるんだ?」

「……ま、真美さんが驚かそうと待ってるんだよ」

 怖い、俺、昔からこういったのは苦手なんだよ。
 よくゲート守れたな俺。今さら自分に感心した。

「お、佐波前に何かあるぞ!」

 その先を見ると、地蔵があった。随分と古そうだ。これだけでもこのシチュエーションなら地蔵がめちゃめちゃ怖く感じる。

「さ、さぁ、戻ろうぜ!」

 俺達は戻り始める。だが、その時、奇怪な音が聞こえる。

「音! 皆川真美か?」

「うう、やっぱ、振り向かなきゃダメか?」

「当たり前だ! 行くぞ!」

 俺達は振り向いた。そして、そこにいたのは……。

「「ぎゃあああああああああああああ!」」

 俺とスミスは悲鳴をあげ、さらに二人とも気絶した。








 ◇

「うふふふ~! 大成功ですね! ……あら? 気絶してますね、まことさんはどんな顔にしたのかしら?」

 そう言いながら自分の手鏡を取り出し、その顔を覗いた。直視すると、真美は手鏡を見たまま気絶していた。
 あまりにも帰りが遅いので、みんなが来たが、真美の顔を見た途端みんな気絶。

「あれ? そんなに怖かった? 私はまだまだだと思うのに」

 どんな顔かは、怖くて伝えられない。申し訳ない。
 まことは真美の顔を元に戻してからみんなを起こして行った。起こされてからみんなはある疑問がぶつかった。

 一体まことはどんな物なら怖いんだ?

 全員の頭にはそれを思うばかりだった。
 
 
 







 ◆

「……悪夢だった」

 真美さんの顔はヤバかった。あんな顔、うう、思い出したくもない。恐ろしい。

「はふ~、でも、露天風呂はやっぱりサイコーだな」

 俺、佐波峻は露天風呂に入り最高の気分に浸っていた。身体の芯から暖まるこの感覚がたまらないな。
 ただ、横にこいつがいなければの話だがな。

「温泉とは気持ちいいですね~」

 横にはルベスの野郎がいやがる。これだけでさっきまでの気分が削がれた。

「おい、こんなに広いのに何で俺の真横に居やがるんだ?」

「ふぅ、分かりませんか? 貴方にお話があるんですよ、真の事で」

「まこちゃんの事だと? 一体何の話だ?」

「真の“門を開く力”の事です」

「……それは、ヤバイ話なのか?」

「そんなにヤバイ訳では無いですが……これからの事で話があります」

 なんだ、嫌な感じがする。嫌な感じだ、まさか、こんな事が二度と起きないように、まこちゃんを……。

「峻、考え過ぎですよ、真には何もしませんよ、……ただ」

「ただなんだよ!」

 何があるんだ、まこちゃんにこれ以上悲しい顔をさせる気じゃないだろうな!
 激しい思いが、俺の中で渦巻いていた。

「まぁ落ち着いて下さい。さて、私に出された地獄の王からの命令をお伝えします。私に出された命令とは、皆川 真を一生監視しろ、との事です」

「一生……監視?」

「そんなに深く考えないで下さい、監視と言っても四六時中って訳ではありません。私がこちら側に居て、力が暴走しそうになったら駆け付け止める。……それだけですよ」

「つまり、まこちゃんを何処かへ連れて行ったりしないって事だよな? ……良かった」

 ホッとしたが、反面心配も出て来た。
 もしかしたら、また力が暴走して、門を開けてしまうんじゃないかと言う……不安。

「真の力は凄く不安定です。彼女は自分で制御出来ない。そこで、私は人間と違い寿命が何倍も長い、真が力を使えば感知する能力もあります。それに、元々私の責任でもあった為に出た命令です」

「だから俺の所に厄介に来たって訳だな」

「ご名答です! ……任せて下さい、彼女の力は必ず私が止めます。必ず」

 ルベスの目は鋭くなっていた。真剣眼差し、本当に心配してくれている事が分かる。

「はい、真剣な話は終わりです! 貴方達は何も考えなくていいですから」

「ルベス……手伝える事があったら言ってくれ、出来る事をする。俺にはこれしか出来ないから」

「ありがとう峻、その気持ち、嬉しいですよ」

 あの日の惨劇を繰り返しては行けない、俺は近くで、まこちゃんの近くで彼女を支える。
 必ずだ! 必ず!

「さて、私は少しの間引っ込んでいますね」

「ん、引っ込む?」

「いや~、私の別の人格達も出てきたいらしくて、スルルが温泉に入りたいと言っています」

 ルベスは多重人格者だ。引っ込むとは別の人格に変わると言う意味だ。

「じゃあ、スルルに変わります」

 スルルとは女性の人格。待てよ、確か人格変わると身体の構造も変わるんだよな?
 女性の人格、ヤバイ! ここは温泉だぞ? 今変わると。

「待て! 変わ……」

 遅かった。ルベスはスルルへと姿を変え、男の身体が女へと変わって行く。

「わ~い、やっと僕も出てこれたよ~」

 俺は瞬時に顔を反らし、彼女を見ない様にした。見てないぞ、断じて見ていない!

「ば、ばか野郎! 早く女湯に行け!」

「ん~? どうしたの峻、なんであっち向いてるの?」

 スルルは少しずれている。身体を男に見られても平然とする奴だった。

「なんで? なんで? 楽しく入ろうよ!」

 スルルは俺の背中に抱き付いて来た。
 な、なんとも言えない柔らかな二つの弾力が背中を押す。声にならない叫びを上げた。こ、こいつ結構デカい。
 じゃない! 俺はこんな変態じゃ……今までの事考えると、変態なのかな俺? って、動揺してる場合か!

「あはは、温泉って気持ちいいね~!」

「や、やめろ! お前早く、まこちゃん達の所へ行け!」

「え! 真達も入ってるの? どこ?」

「あそこだ! あの壁の向こう!」

 そこには大きな木製の壁があり、男湯と女湯を分けていた。スルルは珍しげに壁を見つめている。

「へー、なんで一緒じゃないの?」

「どうでもいいから、早く行け!」

 そう言うとスルルはしぶしぶと向かい始めた。スルルはしゃがみ込み、空高くジャンプし、隣りへと行った。すごい脚力、さすがはケルベロスだ。

「はぁ、はぁ、や、やばかった……」

 安堵を感じるそんな時、誰かの視線を感じる。誰だ一体! 入口にそいつはいた。

「はぁ、なんだ心か、お前も風呂入りに来たんだな」

「男の人と女の人が、はだかでくっついてた。峻~、いまのは浮気か~?」

「違う!」

 あいつもこいつもなんなんだよ本当に!
 










 ◇
 
「う~ん、気持ちいい~!」

 大きな露天風呂はやっぱりサイコーだ。足を伸ばしてくつろげる。
 岩で出来ている浴槽は風情があってさらに気分を良くした。

「まことさん、やっぱり温泉は最高ですね!」

 ママも上機嫌だった。今まで入った中で中々の上位に入るらしい。私には違いがいまいち分かりにくいな。

「皆川、こんなにデカいんだな温泉とは!」

 スミスちゃんは露天風呂の大きさに驚きながら、辺りをキョロキョロしていた。
 初温泉だ、珍しくて、ワクワクしてる。ふふ、なんだかスミスちゃん子供みたい。

「あはは、スミスちゃんは露天風呂初めてだもんね、早く入ったら?」

 スミスちゃんは顔を赤くして入った。入った途端顔の赤みがさらに濃ゆくなる。
 どうやら気に入っているみたいだ。不意に私は葉子さんを見てみる。

「んっふふ~!」

 湯船につかりながら、とっくりに入ったお酒を飲んでいた。まだご飯前なのにもう飲んでる。

「よ、葉子さん……もう飲んでるんですか?」

「んっふふ~、当たり前よ! 露天風呂に入りながら酒を飲む。たまんないわよ!」

 私には分からないな。お酒って、そんなに美味しいの? 前に無理矢理、飲まされたけど、あんまり記憶がないんだよな、美味しさなんか分からなかった。

「そうですね、露天風呂にはお酒ですね!」

「お! まことママは分かってますね! 一緒に飲みましょう!」

「うふふ、ありがとうございます」

 な、何とママと葉子さんが意気投合してしまった。ヤバイ、ママにお酒飲ませちゃダメだ! みんな知らないんだ、ママがお酒を飲むと、誰でも目の前に映る人を折檻する。
 あれは忘れもしない、私が小学校の頃、親族で集まった時だ。みんなでお酒を飲む事になり、飲み始めたママが酔ってその場にいた人全員を折檻した。
 まさに修羅場、悪夢だった。
 飲ませてはダメだ!

「ママ! ダメーー!」

 その時だ。夜空に人影が現れた。その人影は段々と大きくなって来る。いや違う、落ちて来てるんだ。激しく湯の中に人影が落ち、ドボーンと音が鳴り響き、衝撃が走る。

「あ! 私のお酒が!」

 酒が吹っ飛び、外に飛んで行った。やった! ラッキー!

「なんだ! 何かが落ちて来やがったぞ!」

 そうスミスちゃんが叫ぶ。激しい波は治まり、落下点からブクブクと泡が出ている。しばらくして人影が上がって来た。

「ぶはぁ~! ……おえ、お湯飲んじゃったよ~」

 そこに居たのはスルルちゃんだ。久し振りだな。ん? でも、どうして空から振って来たの?

「スルルちゃんじゃない!」

「あ、真だ~! こんばんは! 僕も一緒に入りに来たよ!」

 スルルちゃんを見たスミスちゃんは、嬉しそうに彼女の名前を叫んだ。

「スルル! 久し振りだな!」

「わ~! スミスだ!」

 スルルちゃんとスミスちゃんは無二の親友だそうだ。

「ちょっと! なんなのよあんた!」

 葉子さんは、お酒を台無しにされて怒りをあらわにしていた。どうしよう、喧嘩になりそうな雰囲気、何とかなだめないと。
 スルルちゃんは葉子さんを見て、話出す。

「僕? 僕はね、ルベスの別の人格……」

「わーーーー!」

 私は奇声をあげスルルちゃんの口を塞ぐ。

「んん~……ぷはっ! 何するの真?」

「ルベスさんやスミスちゃんが地獄の番犬や死神だって事は内緒なの! 別人格って言ってもダメ!」

「あ、そっか!」

 葉子さんが怪しげにこっちを睨んでいる。う、怪しまれてるよ。

「今、ルベスさんの事を言ったわね? 貴女何者?」

「えっと、僕は……えっと」

 どうしよう、なんて言えばいいんだろう、そうだ! 考えて出た答えは次の通りだ。

「よ、葉子さん! こちらはスルルちゃん、この娘はルベスさんの……妹!」

「え! 僕は妹なの?」

「わああああ! そうなの! 忘れないの! もう天然さんなんだから!」

 咄嗟のフォローだったけど、大丈夫かな?

「まぁ! ルベスさんの妹だったなんて! そう言えば、ルベスさんに似ているわ!」

 あ、信じてくれた。

「あらあら、今まで居なかったのに」

 ヤバイ、ママは勘がいいから騙せるかな? また咄嗟の嘘が私から放たれる。

「こ、この近くに住んでるんだよね?」

「う、うん! 僕の家はこの近く!」

「あらあら、そうなの?」

「そうなの! あはは!」

 なんとか誤魔化した。ドッと疲れた。温泉って、疲れを癒す場所だよね? どうして疲れてるのかな私。

「あはは~! 温泉って気持ちいいね!」

 一生懸命にフォローしているのに、スルルちゃんは呑気に露天風呂を泳いでいた。はぁ、溜め息が出る。
 あ、よい子はお風呂で泳いじゃダメだぞ!

「楽しいな~……あ! スミス、胸が前より大っきくなったね!」

「ん、そうか?」

「そうだよ、それ!」

 スルルちゃんはスミスちゃんの胸を両手で鷲掴みした。
 え! 何してるの!

「な! バカ! やめないか!」

「いいじゃない~、それ! それそれ~!」

「や、やめろ! ……やめ……あん! んん……や、めろ……いやぁ……ああっ!」

 スミスちゃんが顔を真っ赤にして、女性らしく叫んだ。か、可愛い。じゃない! 止めないと色々とヤバい。

「スルルちゃん! スミスちゃんが嫌がってるよ!」

「あ、調子に乗っちゃった~、ごめんなさい」

「はぁ、はぁ、べ、別に……ん……オレは気にしないぞ……」

 スミスちゃんの目はトロンとしていた。後で聞いた話だが、スルルちゃんは凄く“テクニシャン”だと言った。
 テクニシャンって、何が?

「あ! 真のもおっきいね~!」

 嫌な予感、スルルちゃんは私を見詰めいる。
 熱い眼差しで。

「さ~、真~、おとなしくしてね~」

 手の動きが嫌らしくワキワキと動く。ジリジリと私を追い詰めて行く。
 何これ? 私がなんでこんな目に合うのよ! や、やめて~!

「えへへ~、いただきま~す!」

 その時だ。

「あらあら、スルルちゃんって言ったわね、エッチなのはNGですよ?」

 ママはスルルちゃんの頭を鷲掴みにして、脱衣所まで連れて行き、入口の扉を閉めた。

「なになに? ……ピギャーーーー!」

 スルルちゃんの叫びが木霊した。そう、平和が戻ったのである。本当に疲れました。
 
  










 ◆
 
「旨かったな」

 俺達は部屋にそれぞれ戻っていた。風呂も入り、気分は最高。料理も堪能した。やっぱりここの料理は旨い。特に海鮮料理がたまらない。
 イセエビ、マグロの刺身、言い出せばきりがない。真美さんも絶賛だった。不意に心を見ると、コクリコクリと首を動かし、眠そうだった。

「心、眠いんだろ?」

「う……ん……」

 心を布団に入れてやる。あんなにはしゃいでたんだからな、眠くもなるか。

「ん? ルベス、向こうを向いて何してんだ?」

 ルベスは壁の方を向き、じーっと動かないのだ。何だ? 様子が変だな。

「ルベスだと? 違う、俺様は……」

 ルベスはこちらを向いた。顔が違う。それに髪が短い。つまり、別の人格って事か。この怖そうな顔、多分あいつだろう。

「お前、ゲイズか?」

「おうよ! 久し振りだな峻!」

 ルベスの別の人格、ゲイズがそこにいた。

「おー! 久し振り!」

 俺とゲイズは仲がいい。なぜなら気が合うんだ。なぜ気が合うかというと、ある共通点があるからだ。

「おい峻、女達の部屋に忍び込もうぜ!」

「な! でも……まずくないか?」

「何言ってやがる、お前の彼女の、ムフフな寝姿が見れるかも知れね~ぞ!」

「ま、まこちゃんの寝姿! 行こう!」

 そう、この二人はエロいのだ。軽蔑しないで下さい。俺達は健全で純情な男なのだ!

「グフフフ、峻、お前も悪だな」

「テメェだけには言われたくない!」

 そんなこんなで俺達は、心を起こさない様に部屋を出て、女性陣の部屋の前に移動していく。
 部屋まで来たものの、やっぱり緊張するな。隣りのゲイズは、グフフフと、嫌らしい笑いを放ち、静けさを侵食している。

「行くぞ、もう寝た筈だ」

「まこちゃんの、寝姿……」

 俺達は突入した。
 そーっと部屋の襖を開ける。中にはもう一枚の襖があり、最初のを開けても寝ている部屋からこちらは見えない。

「ゆっくり、だぞ」

「分かっている、俺様を誰だと思ってやがる」

 静かだった。耳をすまし、中の音を聞く。何も聞こえない、どうやら寝ている様だ。

「よ、良し、開けるぞ峻」

「ちょっと待て、おかしくないか? 静か過ぎる。こんなに静かなのは絶対おかしい!」

「何だ~? びびっていやがるのか?」

 そう言いながらゲイズは襖に手を掛けた。

「グフフフ、お前の姉ちゃん、良い体してたよな?」

「お前、姉さんを狙ってるのか! そうはさせないぞ!」

 しかし遅かった。ゲイズは襖を開け始めた。だが、その時だ。開かれた襖から、誰かの腕が伸びて来たのだ。
 一瞬だった。その腕は素早くゲイズの頭を掴み、中に引きずり込んでいく。

「なんだ! な……おわ!」

 ゲイズは中に引きずり込まれ、襖は静かに閉ざされた。そして、少し間が開き、中から叫び声が発生。

「ぎゃああああああああああああああ!」

 そう、ゲイズの叫び声だ。な、なんだ? なんとも言えない生ホラー。俺は震えが止まらない。

「ひぃ、か、帰ろうかな……」

 震えながらくるりと後ろを向き、出口を目指した。俺が悪かったんだ、俺があんな事を言ったから。
 そう思いながら逃げようとした時、また、襖が開く音が聞こえる。

「ひぃいい!」

 怖くて後ろを振り向けない。不意に聞き慣れた声が聞こえて来る。

「し、しゅー、なの?」

「この声は、まこちゃん?」

「た、助けて……」

 その声に俺はようやく固まっていた首を動かす。
 そこで見たものは、この世のものじゃなかった。
 映っていたのは地獄絵図。

「しゅー、助けて、……あ、あああ……ごめんなさい、ごめんなさい! 嫌、嫌ああああああ!」

 襖から見えない所へ、まこちゃんは、引きずり込り込まれて姿を消す。一瞬、連れて行く影が見えた。

「まこちゃん!」

 俺は駆け出した。彼女を助ける為に。中へ入り、ようやく影の正体を知る事になる。そこにいた影の正体は。

「ま、真美さん?」

「んふふふ、あらぁ、峻さん? んふふふふ……いらっしゃい~」

 なんだ? 真美さんの様子が変だ。顔が真っ赤で、服がはだけていて、胸が見えそうで見えない。じゃない! とにかく変だ!

「しゅー逃げて! ママは酔っ払ってるの! 酔うと誰でも折檻するの!」

「え? ……ひぃ!」

 周りを見回した。そこにゲイズが恐怖に歪んだ顔で気絶しているし、他にもスミスが、姉さんが、あらわもない姿で気絶していた。
 地獄だ、ここは地獄だ。

「んふふふふふふ、ヒック……峻さん~、私と遊びましょ?」

「待ってください! 待ってくだ……うぎゃああああああああ!」

 恐怖の悲鳴が夜空に木霊した。
  










 ◇
 
 遠くから声が聞こえて来る。知っている筈の声だ。
 この声、間違いなければ彼だ。

「ん……ちゃん……こちゃん……まこちゃん!」

 その声に私の脳が機能をし始めた。ぼーっとしている意識の中、辺りを見回し、もう一度彼を見詰める。

「え? しゅー? どうしてしゅーがいるの?」

「え? 覚えてないの? ……真美さんだよ」

 ママの名前を聞いた途端、全身に恐怖が走り、身体を震えさせる。
 ひぃ! 思い出したくない! って、あれ? ママはどうしたの? しゅーに聞いてみると、「あそこだよ」と指をさした。
 その先を見る。そこにはママが顔を赤くして、寝る時にいつも抱く子犬のぬいぐるみを抱いて気持ち良さそうに眠っている。

「……気持ち良さそうだね」

「だな、でもなんでこんな事に?」

「葉子さんだよ、部屋でビール缶をママにこっそりあげてたんだよ。私よく生きてたな」

「姉さん、飯の時、あんなに飲んだのにまた飲んだんだな」

 食事の時、葉子さんはビールビン五本、焼酎二本、その他いろいろなお酒をガブガブ飲んでいた。
 ルベスさんがいるのにお構い無しだったな。ルベスさんの目が点だったよ。そう言えば今、何時かな? しゅーに問い掛けた。

「えっとね、朝の五時前」

「どうりで辺りがまだ暗い訳だ……って、なんでこんなに早く起こすの?」

「ふふふ、まこちゃんに見せたいものがあるんだ! でも、それは着いてからのお楽しみだ!」

「何それ」

 着いてから? と言うのは、何処かに行くって事?
 しゅーが私に動きやすい格好をする様にと言った。

「一体なんなの?」

「内緒だって!」

「あ、所で、なんで私達の部屋まで来ていたの? 何か用事?」

 あれ? この質問をした途端に、しゅーが顔を赤くしている。あ、まさか、忍び込もうとしてた?

「しゅー、もしかして、忍び込もうと……」

「ち、違うよ! あ、あははははは!」

 この反応は図星だ。まったく、呆れるな。

 さてと、着替えようかな。パジャマのボタンに手をやった時だった。妙な視線を感じる。それはしゅーだった、頬を赤くしてこちらを凝視している。

「しゅー、私、着替えるんだけど?」

「うん、どうぞ! どうしたの? 早くしたら?」

「……私が言いたい事、分からないの?」

「うん」

 空気をめいっぱい吸い込み、叫んだ!

「出て行けーーーー!」

 私の足が火を吹いた。しゅーは外の廊下まで吹っ飛んで行っく。
 まったく、このエロめ! 着替え始め、その中で周りを見回した。
 ママは寝ている。葉子さんは、なぜか押し入れの中で窮屈そうに寝ている。ママの脅威だなきっと。スミスちゃんは……あれ? 居ない?
 スミスちゃんの姿が見えなかった。それにルベスさんも、私は急いで着替えて廊下に出る。

「しゅー! スミスちゃんとルベスさんが居ないよ?」

「ああ、あいつらなら外に居る」

「え、そうなの? 何してんのかな?」

「さぁ? ま、取りあえず外行って見ようぜ!」

 私達は外に出て行く。

 外はまだ色のついていない世界が広がっていた。闇が空を覆う。

「いたいた、まこちゃん、あいつらは浜辺にいるよ」

 そう言われ、視線を浜辺に移動する。そこにはルベスさんとスミスちゃんがいた。
 居た、でも何してんだろ? 私達は二人まで移動する。すると二人はこちらに気付いた様だ。

「おや、二人とも起きたんですか、おはようございます」

「佐波、皆川、おはよう!」

 スミスちゃんはなんだか機嫌が良さそうだ。何かあったのかな? 取りあえず、二人はここで何をしているのかを聞いてみる。

「スミスさんが向こう側に用事があるので門を開ける所でした」

「おいスミス、用って?」

 しゅーの問い掛けに、スミスちゃんは嬉しそうに、予想外の事を口にした。

「あはは、向こう側にいるオレの“子供達”が今日、誕生日を迎えるんだ!」

「へぇ、子供ね……」

 数秒の間。

「「えーーーーーーーー!」」

 私達は声を揃えて叫んだ。
 
「こ、こ、子供って、スミスちゃん子供いたの? と言う事は結婚してたの?」

 スミスちゃんが「結婚?」と、疑問を口にした。あ、そっか、スミスちゃんは死神だった、知らないんだ。まずは説明しないと。

「結婚って……お嫁さんの事だよ!」

「あ~なるほど、そうだ! オレはお嫁さんだ!」

「で、でも、前はお嫁さんを教えた時、私達のお嫁さんになろうとしたよね?」

「ああ、皆川、お嫁さんはもしかして一人だけしかなれないのか?」

 なるほど、スミスちゃんはお嫁さんは何人でもなれると思っていたんだ。

「まぁ基本的にはね、ところで、スミスちゃんは一体誰の……お嫁さん?」

「私が説明しましょう!」

 ルベスさんが説明役を買って出た。

「スミスさんの夫は、地獄王アフトクラトルです」

「「えーーーーーーーー!」」

 地獄王って事は、地獄で一番偉い人って事だよね?

「ス、スミス、お前って、地獄の……女王なのか?」

 しゅーが震えながら質問を放つ。

「女王? オレはそんなものではないぞ!」

「へ? だってさ、王様の嫁さんなんだろ?」

「私が説明しましょう!」

 またまたルベスさんが説明役を買って出た。

「まずは地獄王の事を教えましょう。地獄王とは、簡単に言うと地獄の世界を管理する者、つまり平和を守っている者の事です。地獄王は王族ではないとなれません。スミスさんと王は結ばれざる存在でした」

「それって、結婚出来ないって事だよね?」

「はい、王とスミスさんは愛し合っていましたが、王と婚約出来るのは王族だけです。そんな中での禁断の愛だったんですね」

 スミスちゃんって、まさかそんな過去を抱えて生きていたんだ。

「当時は二人の事で王族達はもめました。子供まで出来てしまったからです。幸い、二人の間に出来た子供は王族の血を引き継いでいる……なので今は地獄王の元にいる訳です。スミスさんが子供達に会える時はあんまりないのです」

 立場の違う二人、だからスミスちゃんはあんなに嬉しそうだったんだ。
 そうだ、心とあんなに楽しそうにしていた。きっと、自分の子供の事を思い出していたんだね。

「今では死神としての仕事をやり続けています。時折、王が内緒で子供達を連れて来るそうです」

 私としゅーはどう言って良いのか分からなくて、悲しげにスミスちゃんに、視線をやる。
 そんな私達の様子スミスちゃんは「どうした? 暗い顔して?」なんて、陽気な声で言って来た。

「え? だって、結ばれない愛……だし、子供にも……あんまり会えないって」

「時々は会えるから別になんともないぞ! 永遠に会えないなら……オレだって辛いが、時々は会えるんだ、悲しむ事ないだろ?」

 スミスちゃんがかっこよく見えた。時々会えるだけでいい、普通はそんな事言えないよ。……あれ?

「あの、“子供達”って言ったけど」

「ああ、双子なんだ! 男と女のな!」

 双子、もう、スミスちゃんは色んな意味で凄かった。

「それでは門を開くので……二人は何処かに行ってて貰えますか? 門の光はあんまり人間が見る物ではありませんから」

「ああ、分かった、まこちゃん行こうか」

 そうか、しゅーは何か見せる物があるって言ってたっけ。私達はここを離れる事にする。

「う、うん、じゃあね、スミスちゃんまたね!」

 私はスミスちゃんに手を振った。それに応えて、スミスちゃんも大きく手を振ってくれた。

「ああ! いつの日かお前達にも会わせてやるよ、オレの子供達に」

 スミスちゃんがハニカム。その笑顔が尊く、美しい。もう、母親の顔になっていた。その笑顔を見ながら、私達はその場を離れる。

「まさか、あんな過去があったとは」

 しゅーはスミスちゃんの過去に驚き、感心している様だった。確かに私もビックリしていた。

「でも、スミスちゃんは子供達の事話す時、幸せそうだったよ」

「そうだな、本人が幸せだと思うならそれでいいのかもな」

「うん……ところで、何処に連れて行く気なの?」

「だから内緒だってば、着いてからのお楽しみ!」

 なんなのだろう? 私の中の好奇心が刺激され、心臓を高鳴らせている。
 しゅーに誘われ、岩に囲まれた砂浜に連れて来れられた。
 周りは岩ばかりで、砂浜の面積があまり無い場所。

「ふあ~……しゅーまだなの?」

 しゅーは携帯の時計を気にしながら、もうすぐだと言うばかりだった。
 暇だったから海を眺める。海は真っ暗で、眺めていると何だか私を吸い込む様に錯覚させられる。その時だった。海に色が付き始める。

「……うわぁ~!」

「綺麗だろ?」

 その光景は水平線から生まれ出て来る光。朝日がゆっくりと自分の存在を知らしめるように上る。
 光が混ざり合い、海に命を授ける様で、神秘的な世界。

「素敵……」

「ここの隠れた名所だよ、おじさんに教えてもらったんだ」

「ありがとう、こんな綺麗な場所に連れて来てくれて」

「お礼なんていいよ、まこちゃんの為だからね!」

 しゅー、ありがとう。朝日に映る彼はいつもと違う様に見えて、いつも以上に、かっこよく見
えた。
 しゅーは砂浜に座り、直ぐ横にハンカチを広げて座る場所を即席で作る、そこへ私も座る。
 首を傾けて彼の肩に頭を置く。今は二人だけの世界。

 不意にしゅーが「旅行はどうだった?」と聞いて来る。だから満面の笑顔で「楽しかったよ!」そう答える。

「よかった」

 彼が満足げに笑う。その笑顔は反則だ。私の心をギュッと締め付けて、彼から目が離れなくする。
 いつの間にか私の顔は赤く染まっていた。

「しゅー」

「うん?」

「えっと、だ……だ……」

 恥ずかしいな、この言葉を口にするのが。でも伝えたい。よし、言うぞ!

「あのね……」

「まこちゃん、大好きだよ」

「あ……」

 私が言いたかった言葉だ。先に言われてしまって、なんだか彼がずるく感じる。

「ず、ずるいよ! 私が、……しゅーに言う筈だったのに!」

 ああ、なんて幸せなのだろうか、この幸せが続く事が私の一番の幸せだ。

 だから、永遠って言葉が好き。

 そんな事を考えていると、不意に視界が真っ暗になる。訳が分からない。
 しばらくして、ようやく分かった。
 しゅーは私の唇を奪っていた。

「な! い、いきなり!」

 顔がみるみる真っ赤になる。不意の口付けが、こんなに動揺させるなんて。

「あはは、ボーッとしているから悪いんだよ」

「もう……バ~カ!」

 いいな、こんな世界が続いて行く事が。

 この世界は先が見えない、だから面白い。

 何故と言われたら、分からない方がワクワクするからだ。

 つらい事もあるだろう。

 楽しい事もあるだろう。

 でも、しゅーとなら色んな壁を乗り越えて行けそうな気がする。

「しゅー、ずっと一緒にいようね」

「うん、ずっとまこちゃんの側にいるよ」

「うん!」

 二人の間に笑顔が咲く。

 さぁ……行こう。

 先の見えない未来へ。
 
 貴方との未来へ……。




 END
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