クラウン・スフィア

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第一部 スプリングシリーズ

第12話 Exh.1 フェーズ間作戦会議②

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 フェーズⅡとフェーズⅢの間も、十分間の休憩時間がある。相変わらず、捕縛されたメンバーは音声通信のみ可能となる。

「フェーズⅡが終了して、現在の暫定順位は二位。ただ、現在一位のスタンプラリー同好会は主力のほとんどが討伐されています。次のフェーズの動き方次第で充分に逆転は可能です」

 けいが落ち着いた調子で皆に語りかける。
 まだ勝ちを諦める段階ではない。当然他のチームも同様に考えているはずで、それらを抑え込んで勝利を掴めるかどうかは皆にかかっているのだと、景は訴えかけるように皆を真っ直ぐに見据えていた。

 アイはこれまでは不遜な態度を取っていたものの、天文部では現在唯一討伐されてしまっているため、少し居心地が悪かった。足を組んでソファに深々と座っているが、悪態をつくことはなかった。

「“鍵守”の夜神やがみを討伐したことで、スタンプラリー同好会の陣地の結界は解けました。まずは優先的に天舞てんまいの救出を試みましょう。その役目は花凪はななぎ珊野さんのに任せます」

 “鍵守”は自チームの陣地を守るポジションで、“鍵守”が討伐されると陣地の結界が残り耐久値に関わらず消滅する。つまりは誰でもが入り放題になってしまうので、救出も奪取も容易になってしまうのだ。

「わかりました!」

 やっと出番が来たと、夏灯なつひは意気揚々と返事する。美瑚みこもそれを微笑ましく見守っていた。

「私と立花たちばなは生徒会陣地を攻めます。向こうは守りを固めてくるでしょうから、地道に結界を砕くしかありません。天舞を救出した後に三人に合流してもらい、最終的には五人がかりで攻めましょう」

「じゃあ今回は、図書委員会は完全に放っておくんですね?」

 景の作戦に図書委員会へのアプローチが一切示されていないことに気付き、雪葵ゆきが念のため確認を入れる。
 図書委員会はウェルを失いはしたが、これまでずっと守りに徹している。クラウン・スフィアにおけるポイントの獲得条件は、攻めるだけではない。試合終了まで陣地のスフィアを守り切る防衛ポイント、試合終了時のチームの生存者一名ごとに加点される生存ポイントがあるのだ。恐らく図書委員会はその二つをきっちり取り切るつもりなのだと思われた。

「その通りです。我々の戦力も充分ではないうえに、図書委員会は陣地から出てこないでしょう。こちらの陣地から最も遠く、最も堅い相手に攻め入る理由はありません。このまま図書委員会を放っておきたくないのは、どちらかと言えば暫定三位の生徒会でしょうし、彼らに任せましょうか」

「わかりました」

 一通り作戦を伝え終えて、景の視線がアイへ向く。アイの方は景と視線を合わせようとしないが、景は冷たく見下ろして、視線を外そうとはしない。そして恐ろしいほど低い声で、しかし努めて冷静に尋ねる。

虎野とらの、何故作戦を守らなかったのですか?」

「ちゃんと点は取っただろ」

「何故作戦を守らなかったのかと聞いたんです。聞こえませんでしたか?」

 反発するようなアイに対して、さらに冷たく返す景。景としては、結果よりも決められたルールに従うことの方が重要だった。
 アイに与えられた指示は、ドラゴンの討伐と、雪葵の指示に従うこと。勝手な討伐行動は許されていない。この独断行動を許してしまうと、今後作戦というものが成り立たなくなることは目に見えている。今のうちからその悪癖を矯正しなければと思っていた。

「一応言っておきますと……ドラゴンの影響で通信障害が起きていて、僕と虎野は通信ができる状態ではありませんでした。ですので虎野の方から僕に作戦変更の相談が仮にあったとしても、それが可能ではない状況ではありました。そもそも虎野が僕に通信を試みたかどうかはまた別の問題ですが」

「あ、私からも補足すると、ドラゴンへのダメージ割合が自分より高い相手を先に討伐して自分のドラゴン討伐ポイントとして確定させるのは、現場の判断としては妥当だと思います! 自爆体質を見抜けなかったのは虎野くんの落ち度ですし、それが見抜けていればもうちょっといい結果で終わることもできたはずなので、うーん、より良い選択肢はあったけど、どうしてその行動に出たのかはまあわかる、という感じですね」

 雪葵と夏灯が、実質的にアイを庇うような発言をして、アイはどこかこそばゆいような思いをした。
 誰も味方してくれないものだと思っていたし、勝手な行動をしたこと、そしてそれが褒められた行動ではないことも自覚はしていたからだ。自覚はしていても、自分の美学のために曲げられなかった。もちろん彼らはアイの美学を尊重したわけではないが、一方的にアイが悪いわけではないと言ってくれたのは素直に嬉しかった。

 景もそれを聞いて、お前たちは虎野の味方をするのかと感情的になるような男ではない。冷静に二人の話を聞いて、改めて当時の状況を回顧する。二人の意見は完全にアイを庇うわけではなく、アイにも悪いところはあるが、トータルで見れば妥当性はあるという判断だ。充分に客観的意見だと思えた。
 それを踏まえて、景はもう一度アイに問う。

「何故、作戦を守らなかったのですか? 虎野、あなたの口から話してください」

 景の口調は先ほどよりも少し穏やかになり、アイも少し警戒を解いたように深く息を吐いた。

「勝手に作戦を変えたのは悪かったよ。何で変えたかは、夏灯が言った通り。通信は使えないってわかってたから、立花への通信は早々に諦めたよ。逆にそこを狙った。琴音ことねリラと真心まごころあいの攻撃で、ウェルが指示を仰ごうと通信を試みてたみてぇだったから、ちょうど狙い時だったんでな。でも自爆体質だって見抜けんのは夏灯くらいだ。オレには無理。だからオレとしては、できる限りの結果は出したつもりだ。討伐されちまったのは悪かったけどよ」

 景はアイの目をじっと見据えて、一つため息を吐いた。

「……まあいいでしょう。今回は様々な要因から、作戦を継続することが困難だったと判断します。ですが、今後は勝手な判断は慎むようにしてください。いいですね?」

「言われなくてもわかってるよ」

 チームプレイを学ばせたら、次は口の利き方を教えないといけないなと思ったが、景は小言はここまでにして、そろそろ転送エリアへ向かうことにした。

「立花、夏灯。その……ありがとな。庇ってくれて」

 景に続いて転送エリアへ向かう二人に、アイが声を掛ける。まさか彼がそんなことを言うとは思っていなかったので、二人は互いに顔を見合わせた。

「別に庇ったつもりはないけど……」

「そうそう。これもある種のチームプレイだよ。チームプレイ、悪くないでしょ?」

 無邪気な笑みを見せる夏灯に、アイも思わず口元を緩めた。信じてみるのも悪くないと、アイは少しずつそう思えてきていた。

「そう、だな」

 アイに見送られて二人も転送エリアへ向かうと、ほどなくして、皆はまたステージへと転送されていった。
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