12 / 18
第一部 スプリングシリーズ
第12話 Exh.1 フェーズ間作戦会議②
しおりを挟む
フェーズⅡとフェーズⅢの間も、十分間の休憩時間がある。相変わらず、捕縛されたメンバーは音声通信のみ可能となる。
「フェーズⅡが終了して、現在の暫定順位は二位。ただ、現在一位のスタンプラリー同好会は主力のほとんどが討伐されています。次のフェーズの動き方次第で充分に逆転は可能です」
景が落ち着いた調子で皆に語りかける。
まだ勝ちを諦める段階ではない。当然他のチームも同様に考えているはずで、それらを抑え込んで勝利を掴めるかどうかは皆にかかっているのだと、景は訴えかけるように皆を真っ直ぐに見据えていた。
アイはこれまでは不遜な態度を取っていたものの、天文部では現在唯一討伐されてしまっているため、少し居心地が悪かった。足を組んでソファに深々と座っているが、悪態をつくことはなかった。
「“鍵守”の夜神を討伐したことで、スタンプラリー同好会の陣地の結界は解けました。まずは優先的に天舞の救出を試みましょう。その役目は花凪、珊野に任せます」
“鍵守”は自チームの陣地を守るポジションで、“鍵守”が討伐されると陣地の結界が残り耐久値に関わらず消滅する。つまりは誰でもが入り放題になってしまうので、救出も奪取も容易になってしまうのだ。
「わかりました!」
やっと出番が来たと、夏灯は意気揚々と返事する。美瑚もそれを微笑ましく見守っていた。
「私と立花は生徒会陣地を攻めます。向こうは守りを固めてくるでしょうから、地道に結界を砕くしかありません。天舞を救出した後に三人に合流してもらい、最終的には五人がかりで攻めましょう」
「じゃあ今回は、図書委員会は完全に放っておくんですね?」
景の作戦に図書委員会へのアプローチが一切示されていないことに気付き、雪葵が念のため確認を入れる。
図書委員会はウェルを失いはしたが、これまでずっと守りに徹している。クラウン・スフィアにおけるポイントの獲得条件は、攻めるだけではない。試合終了まで陣地のスフィアを守り切る防衛ポイント、試合終了時のチームの生存者一名ごとに加点される生存ポイントがあるのだ。恐らく図書委員会はその二つをきっちり取り切るつもりなのだと思われた。
「その通りです。我々の戦力も充分ではないうえに、図書委員会は陣地から出てこないでしょう。こちらの陣地から最も遠く、最も堅い相手に攻め入る理由はありません。このまま図書委員会を放っておきたくないのは、どちらかと言えば暫定三位の生徒会でしょうし、彼らに任せましょうか」
「わかりました」
一通り作戦を伝え終えて、景の視線がアイへ向く。アイの方は景と視線を合わせようとしないが、景は冷たく見下ろして、視線を外そうとはしない。そして恐ろしいほど低い声で、しかし努めて冷静に尋ねる。
「虎野、何故作戦を守らなかったのですか?」
「ちゃんと点は取っただろ」
「何故作戦を守らなかったのかと聞いたんです。聞こえませんでしたか?」
反発するようなアイに対して、さらに冷たく返す景。景としては、結果よりも決められたルールに従うことの方が重要だった。
アイに与えられた指示は、ドラゴンの討伐と、雪葵の指示に従うこと。勝手な討伐行動は許されていない。この独断行動を許してしまうと、今後作戦というものが成り立たなくなることは目に見えている。今のうちからその悪癖を矯正しなければと思っていた。
「一応言っておきますと……ドラゴンの影響で通信障害が起きていて、僕と虎野は通信ができる状態ではありませんでした。ですので虎野の方から僕に作戦変更の相談が仮にあったとしても、それが可能ではない状況ではありました。そもそも虎野が僕に通信を試みたかどうかはまた別の問題ですが」
「あ、私からも補足すると、ドラゴンへのダメージ割合が自分より高い相手を先に討伐して自分のドラゴン討伐ポイントとして確定させるのは、現場の判断としては妥当だと思います! 自爆体質を見抜けなかったのは虎野くんの落ち度ですし、それが見抜けていればもうちょっといい結果で終わることもできたはずなので、うーん、より良い選択肢はあったけど、どうしてその行動に出たのかはまあわかる、という感じですね」
雪葵と夏灯が、実質的にアイを庇うような発言をして、アイはどこかこそばゆいような思いをした。
誰も味方してくれないものだと思っていたし、勝手な行動をしたこと、そしてそれが褒められた行動ではないことも自覚はしていたからだ。自覚はしていても、自分の美学のために曲げられなかった。もちろん彼らはアイの美学を尊重したわけではないが、一方的にアイが悪いわけではないと言ってくれたのは素直に嬉しかった。
景もそれを聞いて、お前たちは虎野の味方をするのかと感情的になるような男ではない。冷静に二人の話を聞いて、改めて当時の状況を回顧する。二人の意見は完全にアイを庇うわけではなく、アイにも悪いところはあるが、トータルで見れば妥当性はあるという判断だ。充分に客観的意見だと思えた。
それを踏まえて、景はもう一度アイに問う。
「何故、作戦を守らなかったのですか? 虎野、あなたの口から話してください」
景の口調は先ほどよりも少し穏やかになり、アイも少し警戒を解いたように深く息を吐いた。
「勝手に作戦を変えたのは悪かったよ。何で変えたかは、夏灯が言った通り。通信は使えないってわかってたから、立花への通信は早々に諦めたよ。逆にそこを狙った。琴音リラと真心愛の攻撃で、ウェルが指示を仰ごうと通信を試みてたみてぇだったから、ちょうど狙い時だったんでな。でも自爆体質だって見抜けんのは夏灯くらいだ。オレには無理。だからオレとしては、できる限りの結果は出したつもりだ。討伐されちまったのは悪かったけどよ」
景はアイの目をじっと見据えて、一つため息を吐いた。
「……まあいいでしょう。今回は様々な要因から、作戦を継続することが困難だったと判断します。ですが、今後は勝手な判断は慎むようにしてください。いいですね?」
「言われなくてもわかってるよ」
チームプレイを学ばせたら、次は口の利き方を教えないといけないなと思ったが、景は小言はここまでにして、そろそろ転送エリアへ向かうことにした。
「立花、夏灯。その……ありがとな。庇ってくれて」
景に続いて転送エリアへ向かう二人に、アイが声を掛ける。まさか彼がそんなことを言うとは思っていなかったので、二人は互いに顔を見合わせた。
「別に庇ったつもりはないけど……」
「そうそう。これもある種のチームプレイだよ。チームプレイ、悪くないでしょ?」
無邪気な笑みを見せる夏灯に、アイも思わず口元を緩めた。信じてみるのも悪くないと、アイは少しずつそう思えてきていた。
「そう、だな」
アイに見送られて二人も転送エリアへ向かうと、ほどなくして、皆はまたステージへと転送されていった。
「フェーズⅡが終了して、現在の暫定順位は二位。ただ、現在一位のスタンプラリー同好会は主力のほとんどが討伐されています。次のフェーズの動き方次第で充分に逆転は可能です」
景が落ち着いた調子で皆に語りかける。
まだ勝ちを諦める段階ではない。当然他のチームも同様に考えているはずで、それらを抑え込んで勝利を掴めるかどうかは皆にかかっているのだと、景は訴えかけるように皆を真っ直ぐに見据えていた。
アイはこれまでは不遜な態度を取っていたものの、天文部では現在唯一討伐されてしまっているため、少し居心地が悪かった。足を組んでソファに深々と座っているが、悪態をつくことはなかった。
「“鍵守”の夜神を討伐したことで、スタンプラリー同好会の陣地の結界は解けました。まずは優先的に天舞の救出を試みましょう。その役目は花凪、珊野に任せます」
“鍵守”は自チームの陣地を守るポジションで、“鍵守”が討伐されると陣地の結界が残り耐久値に関わらず消滅する。つまりは誰でもが入り放題になってしまうので、救出も奪取も容易になってしまうのだ。
「わかりました!」
やっと出番が来たと、夏灯は意気揚々と返事する。美瑚もそれを微笑ましく見守っていた。
「私と立花は生徒会陣地を攻めます。向こうは守りを固めてくるでしょうから、地道に結界を砕くしかありません。天舞を救出した後に三人に合流してもらい、最終的には五人がかりで攻めましょう」
「じゃあ今回は、図書委員会は完全に放っておくんですね?」
景の作戦に図書委員会へのアプローチが一切示されていないことに気付き、雪葵が念のため確認を入れる。
図書委員会はウェルを失いはしたが、これまでずっと守りに徹している。クラウン・スフィアにおけるポイントの獲得条件は、攻めるだけではない。試合終了まで陣地のスフィアを守り切る防衛ポイント、試合終了時のチームの生存者一名ごとに加点される生存ポイントがあるのだ。恐らく図書委員会はその二つをきっちり取り切るつもりなのだと思われた。
「その通りです。我々の戦力も充分ではないうえに、図書委員会は陣地から出てこないでしょう。こちらの陣地から最も遠く、最も堅い相手に攻め入る理由はありません。このまま図書委員会を放っておきたくないのは、どちらかと言えば暫定三位の生徒会でしょうし、彼らに任せましょうか」
「わかりました」
一通り作戦を伝え終えて、景の視線がアイへ向く。アイの方は景と視線を合わせようとしないが、景は冷たく見下ろして、視線を外そうとはしない。そして恐ろしいほど低い声で、しかし努めて冷静に尋ねる。
「虎野、何故作戦を守らなかったのですか?」
「ちゃんと点は取っただろ」
「何故作戦を守らなかったのかと聞いたんです。聞こえませんでしたか?」
反発するようなアイに対して、さらに冷たく返す景。景としては、結果よりも決められたルールに従うことの方が重要だった。
アイに与えられた指示は、ドラゴンの討伐と、雪葵の指示に従うこと。勝手な討伐行動は許されていない。この独断行動を許してしまうと、今後作戦というものが成り立たなくなることは目に見えている。今のうちからその悪癖を矯正しなければと思っていた。
「一応言っておきますと……ドラゴンの影響で通信障害が起きていて、僕と虎野は通信ができる状態ではありませんでした。ですので虎野の方から僕に作戦変更の相談が仮にあったとしても、それが可能ではない状況ではありました。そもそも虎野が僕に通信を試みたかどうかはまた別の問題ですが」
「あ、私からも補足すると、ドラゴンへのダメージ割合が自分より高い相手を先に討伐して自分のドラゴン討伐ポイントとして確定させるのは、現場の判断としては妥当だと思います! 自爆体質を見抜けなかったのは虎野くんの落ち度ですし、それが見抜けていればもうちょっといい結果で終わることもできたはずなので、うーん、より良い選択肢はあったけど、どうしてその行動に出たのかはまあわかる、という感じですね」
雪葵と夏灯が、実質的にアイを庇うような発言をして、アイはどこかこそばゆいような思いをした。
誰も味方してくれないものだと思っていたし、勝手な行動をしたこと、そしてそれが褒められた行動ではないことも自覚はしていたからだ。自覚はしていても、自分の美学のために曲げられなかった。もちろん彼らはアイの美学を尊重したわけではないが、一方的にアイが悪いわけではないと言ってくれたのは素直に嬉しかった。
景もそれを聞いて、お前たちは虎野の味方をするのかと感情的になるような男ではない。冷静に二人の話を聞いて、改めて当時の状況を回顧する。二人の意見は完全にアイを庇うわけではなく、アイにも悪いところはあるが、トータルで見れば妥当性はあるという判断だ。充分に客観的意見だと思えた。
それを踏まえて、景はもう一度アイに問う。
「何故、作戦を守らなかったのですか? 虎野、あなたの口から話してください」
景の口調は先ほどよりも少し穏やかになり、アイも少し警戒を解いたように深く息を吐いた。
「勝手に作戦を変えたのは悪かったよ。何で変えたかは、夏灯が言った通り。通信は使えないってわかってたから、立花への通信は早々に諦めたよ。逆にそこを狙った。琴音リラと真心愛の攻撃で、ウェルが指示を仰ごうと通信を試みてたみてぇだったから、ちょうど狙い時だったんでな。でも自爆体質だって見抜けんのは夏灯くらいだ。オレには無理。だからオレとしては、できる限りの結果は出したつもりだ。討伐されちまったのは悪かったけどよ」
景はアイの目をじっと見据えて、一つため息を吐いた。
「……まあいいでしょう。今回は様々な要因から、作戦を継続することが困難だったと判断します。ですが、今後は勝手な判断は慎むようにしてください。いいですね?」
「言われなくてもわかってるよ」
チームプレイを学ばせたら、次は口の利き方を教えないといけないなと思ったが、景は小言はここまでにして、そろそろ転送エリアへ向かうことにした。
「立花、夏灯。その……ありがとな。庇ってくれて」
景に続いて転送エリアへ向かう二人に、アイが声を掛ける。まさか彼がそんなことを言うとは思っていなかったので、二人は互いに顔を見合わせた。
「別に庇ったつもりはないけど……」
「そうそう。これもある種のチームプレイだよ。チームプレイ、悪くないでしょ?」
無邪気な笑みを見せる夏灯に、アイも思わず口元を緩めた。信じてみるのも悪くないと、アイは少しずつそう思えてきていた。
「そう、だな」
アイに見送られて二人も転送エリアへ向かうと、ほどなくして、皆はまたステージへと転送されていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる