クラウン・スフィア

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第一部 スプリングシリーズ

第16話 Exh.1 Phase.Ⅲ part.4

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 ここまでかと思った来夜らいやだったが、まだ天は彼を見放していなかった。

[イベント:咲き誇る燦燐花シャンリンファ

 その表示と同時に、赤黒い星形の花びらの花が、来夜の足元に咲き乱れる。
 この花――燦燐花は、各チームの陣地に咲いており、触れると燃料を補給することができる。結界が破られることで陣地内の燦燐花は枯れてしまい、燃料を補給できなくなってしまうが、今回は特別だった。

 クラウン・スフィアでは試合中に一度だけ、ランダムなイベントが発生する。イベントの発生条件によっては発生しないまま試合が終わることもあるが、今回の“咲き誇る燦燐花”は、“鍵守”の捕縛・討伐以外で初めて陣地の結界が破壊されてから一分以内に発生するイベントだった。

(これはこれは……運に頼るのは癪だが、もうひと暴れといこうじゃないか――!)

 当然ながらこのイベントは、燃料を使い果たしてしまった来夜にとっては僥倖だが、図書委員会にとっても燃料を気にせずアビリティが使い放題というメリットがある。特にあいの超高火力の砲撃は燃料の消費も特別大きい。それが消費を気にせず使用できるというのは、来夜にとっても脅威になるはずだった。

 来夜はすぐに、身を翻してもう一太刀を蒼穹そらに浴びせ、今度こそ彼を仕留める。

落窪おちくぼ蒼穹 核損傷 3層 討伐]
香雲かぐも来夜 +2pt(討伐)]

 これで籠城していた図書委員会メンバーの半数を一人で討伐した来夜。残りのメンバーは、委員長のトリロと副委員長のうつり、そして愛の三人だけだ。守りに徹して生存ポイントを確実に取ろうとしていた図書委員会としては、想定外の襲撃となった。

 連携の乱れを突かれて討伐を許したが、ここからはそうはいかない。個人個人の能力も決して低くない。いくら来夜といえども、簡単には攻めきれないはずだとトリロは考えていた。

 しかしトリロの想定外がもう一つ起きてしまう。連携の乱れも討伐された仲間も、すべて自分のせいだと思った愛の精神状態は、きわめて不安定になっていたのだ。

「愛されてるねぇ、愛ちゃん。みんな、君を守ってやられていっちゃったんだよ。羨ましいねぇ。さぁて、次は誰の番かな?」

 わざと愛を挑発する来夜に、愛は怒り狂って砲撃を乱射する。もはや自分でも手が付けられないくらいに感情が暴れ狂っているのだ。

「おっと、危ね。気を付けないと、また君のせいで誰かが討伐されちゃうねぇ」

 来夜の言葉に我を忘れる愛を、トリロも移も宥めることができない。下手に近づけば、自分が彼女の攻撃でやられてしまう。
 そうした混乱状態を生み出した来夜は、愛の砲撃をうまく避けながら、不意を突いてトリロに斬りかかった。

[毛利トリロ 核損傷 2層 討伐]
[香雲来夜 +1pt(討伐)]

 トリロはドラゴンからのダメージもあったため、ボーナスポイントの対象とはならなかったが、残り2層ということもあり、軽く一太刀浴びせるだけで簡単に仕留めることができた。
 チームの精神的支柱である委員長を仕留められたことは大きい。そう思った来夜だったが、次に狙うはずの移の姿が見つからず、気付けば愛の杖の先が来夜に向いていた。

「あの世で後悔しろ――!」

「おお、怖いねぇ」

 恐ろしい形相ですごむ愛に、来夜はおどけてみせる。しかし、超至近距離での全力広範囲砲撃を避けられるはずもなく、来夜は塵も残さぬほど綺麗に消し飛ばされた。

[香雲来夜 核損傷 10層 討伐]
真心まごころ愛 +1pt(討伐)]

 来夜が討伐されてからもしばらく砲撃を放ったままだった愛は、やがて膝から崩れ落ち、大きく声を上げて泣いた。
 もはや周囲に敵もいないため、そっとしてやろうと思った移は、彼女の隣に寄り添い、彼女の気が済むまで泣かせてやることにした。


 続けざまに流れてくるシステムログで東側で起きた討伐劇を知り、けいは内心焦っていた。一気に7ポイントもの討伐ポイントを稼いだ生徒会に、暫定順位が抜かれてしまったのだ。

 そんな時、追い打ちをかけるようなシステムログが流れてくる。

天舞てんまい真宙まそら 核損傷 10層 討伐]
[サフィレット・フローリア +2pt(討伐)]

 スタンプラリー同好会のサフィレットが、陣地の方へ逃げた二人を密かに追ってきていたのだ。奪取には成功したものの、討伐は免れなかったらしい。

[天舞真宙:道化師]

 しかしここで、真宙のポジション“道化師”の効果が発動した。討伐された時、自チーム以外の全てのチームのポイントを-1し、自身を討伐したスタンプラリー同好会の全てのメンバーの隠密能力を半減にするというもの。
 だからこそ、道化師と思われる相手を討伐したがらないものだが、サフィレットは“戦乙女”だったため、討伐した際の+2ポイントと道化師討伐のペナルティの-1ポイントで自身はトータルで+1ポイント。さらに他のチームにも-1ポイントの負担を背負わせることができるなら、狙わない手はなかったのだろう。

『部長、どうします? このままだと恐らく……』

 次にサフィレットに狙われるのは、当然夏灯なつひだ。もう祈祷もリーダーアビリティの効果も切れてしまっており、一対一では夏灯に勝ち目はない。
 雪葵ゆきが景に迫ったのは、生徒会の陣地を攻めることを放棄して夏灯の援護に向かうか、夏灯を切り捨ててでも生徒会の陣地を攻めるか。あるいは、雪葵だけが夏灯の援護に向かう手もあるが、それでは手負いの景一人で生徒会を相手にすることになる。どれを選ぶにしても、何かしらの犠牲を払う必要がある選択だった。

 するとそこへ、夏灯から通信が入る。

『私は大丈夫です! 今は陣地にいますので、結界が持つ間は守り切れます。残りの時間も少ないですし、何とか持たせますから!』

 それが強がりでしかないことは、二人にもわかっていた。わかっていたが、景は夏灯の思いを酌んで、彼女の言葉を尊重し、このまま作戦を続行することに決めた。

 そしてようやく、生徒会の陣地の結界が破れた。生徒会の生存者は残り三名。人数差もあり不利な状況ではあるが、相手は既に主力を失った防衛メンバーのみ。このまま押し切れると思っていた。

 景が身を盾にしながら、雪葵の射撃で相手を狙い撃つ作戦だった。
 しかし、生徒会庶務の春野はるの若菜わかなが結界のアビリティを展開し、相手は断固として守り切る作戦に出たのだ。ここまでようやく陣地の結界を削り切ったのに、今度は結界の防御アビリティを繰り出され、景は精神的にも折れそうになる。
 もちろん陣地の結界よりは耐久力が低いが、それでも時間稼ぎには充分だ。このまま時間切れまで粘るつもりなのだろう。

 もうあとわずかで時間切れというところで、夜の闇を照らす一直線の光が東から西へ伸びていった。その光を見て、景はすぐに愛が放った砲撃だと気付いた。先ほども、何度も同じ光を見たからだ。

 雪葵は光の伸びる方角に天文部の陣地があることに気付き、嫌な予感がした。そしてその予感が的中してしまったことは、システムログによって知らされることになる。

[花凪夏灯 核損傷 2層 討伐]
[サフィレット・フローリア 核損傷 5層 討伐]
[真心愛 +2pt(討伐)]

 どうやら陣地の結界もろとも、中にいた夏灯と結界を削っていたサフィレットを討伐したらしい。

 ここでタイムアップ。フェーズⅢが終了し、全メンバーは一度各チームの控室へ転送された。
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