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【29】勝負の行方
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『……何が起こったんだ?』
「あれ、寿郎もきたのね。ここは…?
どこだろう、部屋の中みたいだけど…。」
"ここは、俺が死ぬ一週間前の自分の部屋です。落ち着いて書くにはやはり自宅かなと思いまして。この日は仕事で遅くなる日だったので寛いでもらって構いませんよ。"
俺達は言われたお言葉に甘え、ソファーに座りゆっくりとさせてもらうことにした。翼が居ればコーヒーでも淹れてくれるんだけど、寿郎に頼むわけにもいかない。
真剣に手紙を書いている、聡さんの邪魔をしないように二人で静かにテレビを見て過ごしていると、突然部屋のインターホンが押された。モニターを覗いてみると、何と聡さんの母である渡辺さんの姿が写っている。
「え?どうします?
こんな予定ありました?」
"あ…そういえば、母親が一度訪ねてきてお米を置いて帰ってくれたことがありました…まさか今日がその日だったとは…。"
『でも…チャンスじゃない?俺達ベランダにでも隠れておくからさ、佐藤さんとのこと話しておいたら?こんな友達がいてってことと、えりかさんと結婚しようと思っていること?』
「あ、確かにそれいいかもな!」
"わかりました、ではお二人はすみませんがベランダへお願いします。"
『あら?あんた仕事休みだったの?』
渡辺さんの声が聴こえてきた。
泣きながらの声しか聞いたことがなかったが
こんなにも活発で明るい声の持ち主だったのか。俺達は息を潜め二人の会話に聞き耳をたてることにした。
「あ、うん。少し用事があって早めに帰ってきたんだ、母さんいつもお米ありがとね?」
『なに?ありがとうだなんて…今まで言ったことあったかしら?いつもは勝手に部屋に入ってきて…とかブツブツ言ってるのに。』
「いや、何か今までちゃんとお礼とか言ったことなかったなと思ってさ。ここまで俺が生きてこれたのは全部母さんのお陰なんだなと改めて思ったんだよ。ちゃんと親孝行とかできてなくてごめんな。」
『……ぐすっ、いきなり変なこと言い出すから涙でてきたじゃないの…。産んだ子どもを育てるのは親として当たり前でしょ?子どもは望みもしないのに勝手にこの世に産み落とされたんだから。ま、私の育て方が間違ってなかったってことだけはわかったわ。こちらこそありがとう、聡。』
ヤバい…泣いてしまいそうだ。
隣を見ると、寿郎は空を見上げ必死に涙が流れないように頑張っているように見える。
「いや、実はね俺彼女いるじゃん?その…
えりかとそろそろ結婚しようかと最近そのことばかり考えてたら"親にはちゃんと感謝しないとな"って心境になってたわけよ。マリッジブルーってやつ?!」
『あらっ、そうなのー?いいじゃない!えりかちゃん良い子だと私も思うわよ?何だ、心配して損したわ。いきなり遠くに行ってしまうような言い方してきたから…寿命縮まっちゃうじゃないの。孫をこの手で抱くまでは
私死ねないんだからね!』
「ははっ、ごめんごめん。母さんには
長生きしてもらわないとな!あ、俺最近ね
行き付けの焼鳥屋が出来たんだけど………」
何とか誤魔化して佐藤さんの話を続ける聡さん、三十分ほど経っただろうか。二人の影が玄関へと向かっていった。
"すみません、お待たせしました。母はもう帰りましたので入ってもらって大丈夫です"
「いやー、途中で泣きそうになりましたよ!な、寿郎もだろ?」
『…俺が泣くわけないじゃん。
暇だったから空見てただけだよ?』
「本当、素直じゃないよな?」
"ははっ、でも母に感謝の気持ちも伝えることができたし、佐藤さんにどれだけお世話になっているかというのは伝えたつもりなので、この件は多分大丈夫かと思います。後はえりかに手紙を書いて指輪を送るだけ!もう少しで書き上がるので待ってて下さいね。"
「ま、待たないと俺ら帰れないからいつまでも待ちますよ?あ、寿郎久しぶりにゲームでもやろうぜ!聡さん借りてもいい?」
"あ、どうぞ!お好きなやつ使って下さい!"
こうして対戦格闘ゲームをすること二時間。
通算成績30勝30敗、残り一回で俺達の戦いは終わる…。
「寿郎?これで勝ったほうの勝ちだぞ?」
『…望むところだ。』
"よし、できた!これで完成です。お二人共本当にありがとうございました。もう心残りはありません…、自分の死を受け入れたいと思います……。"
神々しい光に包まれ始めた聡さん。
俺達も前が見えなくなってきた…
「『え、えぇー!!ちょっと待ってー!
まだ勝負がついてないんだけどー!!』」
俺達の叫びも空しく、気がつくと元の駐車場に戻っていた。寿郎と目を合わせ、こっそり微笑みあうと何事もなかったかのように出棺の準備を始める。
『岩崎さん、そういえばこの前…あの子に
"育ててくれてありがとう"って言われたんです。佐藤さんも凄くいい人でお世話になっているという話もしてくれました。何故だろう?今思い出したんですよね…。葬儀が終わり落ち着いたら、私佐藤さんに謝りに行きたいと思います。折角見送りにきてくれたのに息子の恩人を追い返すなんて酷すぎますよね…えりかちゃん?一緒に行ってくれる?』
『…はい、もちろんです。』
火葬場の職員へと棺を渡す為に
手を添えた瞬間
"お二人とも、本当にありがとう。あのゲームは差し上げますので母に言ってみてくださいね!決着の行方が気になります!"
場内へと入っていく三人の姿を最敬礼で見送っていると、翼と幸栄さんが近づいてきた。
『…幸栄?俺もデビューしたぞ…。』
『は?何?どういうこと?寿郎までも幽霊と話したってことー?えぇー!ズルいー!私だけ、のけものじゃないのよー!!』
後日、俺と寿郎は聡さんのゲーム機を譲り
受け格闘ゲームの決着をつけることにした。
その時は俺の勝利で終わったが…會舘には
思わぬダークホースが隠れていた…。
二人の生ぬるい闘い方に文句をいい、"格闘ゲームはこうやるのよ!"と本気でやり始めた幸栄さんに俺達は、一度も勝つことができなかった。
「あれ、寿郎もきたのね。ここは…?
どこだろう、部屋の中みたいだけど…。」
"ここは、俺が死ぬ一週間前の自分の部屋です。落ち着いて書くにはやはり自宅かなと思いまして。この日は仕事で遅くなる日だったので寛いでもらって構いませんよ。"
俺達は言われたお言葉に甘え、ソファーに座りゆっくりとさせてもらうことにした。翼が居ればコーヒーでも淹れてくれるんだけど、寿郎に頼むわけにもいかない。
真剣に手紙を書いている、聡さんの邪魔をしないように二人で静かにテレビを見て過ごしていると、突然部屋のインターホンが押された。モニターを覗いてみると、何と聡さんの母である渡辺さんの姿が写っている。
「え?どうします?
こんな予定ありました?」
"あ…そういえば、母親が一度訪ねてきてお米を置いて帰ってくれたことがありました…まさか今日がその日だったとは…。"
『でも…チャンスじゃない?俺達ベランダにでも隠れておくからさ、佐藤さんとのこと話しておいたら?こんな友達がいてってことと、えりかさんと結婚しようと思っていること?』
「あ、確かにそれいいかもな!」
"わかりました、ではお二人はすみませんがベランダへお願いします。"
『あら?あんた仕事休みだったの?』
渡辺さんの声が聴こえてきた。
泣きながらの声しか聞いたことがなかったが
こんなにも活発で明るい声の持ち主だったのか。俺達は息を潜め二人の会話に聞き耳をたてることにした。
「あ、うん。少し用事があって早めに帰ってきたんだ、母さんいつもお米ありがとね?」
『なに?ありがとうだなんて…今まで言ったことあったかしら?いつもは勝手に部屋に入ってきて…とかブツブツ言ってるのに。』
「いや、何か今までちゃんとお礼とか言ったことなかったなと思ってさ。ここまで俺が生きてこれたのは全部母さんのお陰なんだなと改めて思ったんだよ。ちゃんと親孝行とかできてなくてごめんな。」
『……ぐすっ、いきなり変なこと言い出すから涙でてきたじゃないの…。産んだ子どもを育てるのは親として当たり前でしょ?子どもは望みもしないのに勝手にこの世に産み落とされたんだから。ま、私の育て方が間違ってなかったってことだけはわかったわ。こちらこそありがとう、聡。』
ヤバい…泣いてしまいそうだ。
隣を見ると、寿郎は空を見上げ必死に涙が流れないように頑張っているように見える。
「いや、実はね俺彼女いるじゃん?その…
えりかとそろそろ結婚しようかと最近そのことばかり考えてたら"親にはちゃんと感謝しないとな"って心境になってたわけよ。マリッジブルーってやつ?!」
『あらっ、そうなのー?いいじゃない!えりかちゃん良い子だと私も思うわよ?何だ、心配して損したわ。いきなり遠くに行ってしまうような言い方してきたから…寿命縮まっちゃうじゃないの。孫をこの手で抱くまでは
私死ねないんだからね!』
「ははっ、ごめんごめん。母さんには
長生きしてもらわないとな!あ、俺最近ね
行き付けの焼鳥屋が出来たんだけど………」
何とか誤魔化して佐藤さんの話を続ける聡さん、三十分ほど経っただろうか。二人の影が玄関へと向かっていった。
"すみません、お待たせしました。母はもう帰りましたので入ってもらって大丈夫です"
「いやー、途中で泣きそうになりましたよ!な、寿郎もだろ?」
『…俺が泣くわけないじゃん。
暇だったから空見てただけだよ?』
「本当、素直じゃないよな?」
"ははっ、でも母に感謝の気持ちも伝えることができたし、佐藤さんにどれだけお世話になっているかというのは伝えたつもりなので、この件は多分大丈夫かと思います。後はえりかに手紙を書いて指輪を送るだけ!もう少しで書き上がるので待ってて下さいね。"
「ま、待たないと俺ら帰れないからいつまでも待ちますよ?あ、寿郎久しぶりにゲームでもやろうぜ!聡さん借りてもいい?」
"あ、どうぞ!お好きなやつ使って下さい!"
こうして対戦格闘ゲームをすること二時間。
通算成績30勝30敗、残り一回で俺達の戦いは終わる…。
「寿郎?これで勝ったほうの勝ちだぞ?」
『…望むところだ。』
"よし、できた!これで完成です。お二人共本当にありがとうございました。もう心残りはありません…、自分の死を受け入れたいと思います……。"
神々しい光に包まれ始めた聡さん。
俺達も前が見えなくなってきた…
「『え、えぇー!!ちょっと待ってー!
まだ勝負がついてないんだけどー!!』」
俺達の叫びも空しく、気がつくと元の駐車場に戻っていた。寿郎と目を合わせ、こっそり微笑みあうと何事もなかったかのように出棺の準備を始める。
『岩崎さん、そういえばこの前…あの子に
"育ててくれてありがとう"って言われたんです。佐藤さんも凄くいい人でお世話になっているという話もしてくれました。何故だろう?今思い出したんですよね…。葬儀が終わり落ち着いたら、私佐藤さんに謝りに行きたいと思います。折角見送りにきてくれたのに息子の恩人を追い返すなんて酷すぎますよね…えりかちゃん?一緒に行ってくれる?』
『…はい、もちろんです。』
火葬場の職員へと棺を渡す為に
手を添えた瞬間
"お二人とも、本当にありがとう。あのゲームは差し上げますので母に言ってみてくださいね!決着の行方が気になります!"
場内へと入っていく三人の姿を最敬礼で見送っていると、翼と幸栄さんが近づいてきた。
『…幸栄?俺もデビューしたぞ…。』
『は?何?どういうこと?寿郎までも幽霊と話したってことー?えぇー!ズルいー!私だけ、のけものじゃないのよー!!』
後日、俺と寿郎は聡さんのゲーム機を譲り
受け格闘ゲームの決着をつけることにした。
その時は俺の勝利で終わったが…會舘には
思わぬダークホースが隠れていた…。
二人の生ぬるい闘い方に文句をいい、"格闘ゲームはこうやるのよ!"と本気でやり始めた幸栄さんに俺達は、一度も勝つことができなかった。
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