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【34】最期の花道
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『匠さん?これは何が起こっているのですか?説明も無しにいきなり俺の肩を掴めなんて…私驚きました!』
「ごめんごめん、説明する時間なくてさ?後でゆっくり説明してあげるから少し待ってね?それよりも奏君!これからどうするかだな?きっとお兄さん達は、火葬場の遺族控え室で奏君を待っているはず。」
"僕が燃やされて骨になるのをですよね?"
「えっ?!まぁ正確に言うとそうなんだけど…はっきりと言えない俺の立場をわかってくれるかい!?」
"岩崎さん優しいですね。僕、不幸な事故でこんなに若くで死んじゃったけど、別に悔やんでなんかいないんだよね!まだまだこれからって時ではあったからみんなには申し訳ないけど…。何も取り柄のなかった僕に、音楽=ギターを出会わせくれた兄ちゃんや弦ちゃん、弾ちゃんには心から感謝しているんだ!だから、その感謝を最期にきちんと自分の言葉で伝えたいんだけどな。"
『もしもだよ?もしも俺が奏君の立場なら、悔しくて悔しくて、たまらないと思うなー。可能なら、事故にあう前に戻ろうとか思うだろうし、戻るの無理ならさ~せめて逆走してきたその車の運転手に、嫌がらせだけでもしてやるけどな!』
"岩崎さん、それは大人げないですよ!事故の相手だってわざとではないだろうし…"
「そう!俺はこの歳になっても大人げない!ってこいつ!奏君、最初は無口かな?と思っていたけど良く喋るじゃないか?」
『ねぇ、二人とも私の存在完璧に忘れてますよね?置いてきぼりで二人で盛り上がって…弥生寂しいんですけど!』
「あ、ごめん忘れてた!こういう時、
いつも一人だったからさー?」
"弥生ちゃんとも遊んではいたけど、あんまり話はしてなかったよね?岩崎さん…初めて会った人だけど話しやすい感じするんですよね?あ、知ってます?僕達のバンドの話?"
「それは光栄だね!バンドの話?少しだけなら聞いたよ。奏君の恥ずかしがりを克服する為に、あの覆面をしたんだったよな?」
"そうなんです。致命的じゃないですか?ミュージシャンが恥ずかしがりやって…。ある日ふと思いました。もう一人の自分がいたら?と。無い頭を使って考え抜いたのが覆面を被ってもう一人のキャラクターを作ればいい!ということだったんです。それで色々探してたんですけど…あの覆面って見た目強そうでしょ?とりあえず一つ注文してあれを被って演奏してみたんですよ、そうしたら、何故か前よりもギターが上手く弾けるようになったんですよね!多分自分じゃない誰かになれたような気がしたんだと思うんですけど。それを見ていた兄ちゃん達も、真似して被るようになりました。最初は小さなライブハウスから始まったんですけど、覆面バンドってその当時はほとんどいなかったんですよね、そしたら口コミでジワジワと噂が広がり気づいた時にはそこそこの人気バンドになっていました。やっと夢だったメジャーデビューも果たし、東京でもライブをするようになった矢先の事故だったんですよね…。"
「寿郎が言ってたなー、あのバンドのギターは凄い!って。あ、寿郎ってのはうちの會舘のスタッフのもう一人の男ね?霊柩車出発する時に号泣してたやつ!まさかこんな大人しそうな奏君が…。って思ってたんだろうねきっと。いつも言ってたよ?あの覆面バンドはギターの音とテクニックが凄いって。俺は聴くなら音楽より落語だから、熱く語られてもよくわからなかったけどね?』
"そうなんですね、嬉しい限りです!もっと沢山聴いて欲しかったなぁ…残念だけど死んでしまったものは仕方のない事です。岩崎さん!そろそろ作戦開始しませんか?"
『そうだな!それじゃ俺は火葬場の職員に作戦の内容を話し、お願いをしてくる!きっと大丈夫だ!奏君は、メンバー向けのメッセージを書いて、ギターの用意をしておいてくれ。それじゃ行ってくるね。』
十分ほどして霊柩車に戻ると、奏君はギターを抱え目を閉じて静かに座っている。
『ただいま~!』
"あ!岩崎さんおかえりなさい。
中の様子はどうでしたか?"
『ばっちりだよ!今のところ奏君以外の火葬の予定は入っていないらしいから、運が良かったって感じだね!』
"そうなんですね!よかった。
僕も最後の最後にラッキーを持ってたんだ!"
『よし!作戦決行だ!行くぞ奏君!!』
"はい!行きましょう!"
霧の中、火葬場の入り口から中へ入ると遺族が待つ為のロビーに響君や他の二人がソファーに腰を下ろし、じっと下を見つめていた。
「あれ?匠君、どこ行ってたのよ?また霧が出てたけど…もしかして例のヤツ?」
翼が近寄ってきて耳打ちする。
『うん。これから奏君の"残夢"が始まるからさ~。翼も楽しみにしといてね?あ、翼?弥生ちゃんと一緒にいて説明してくれる?俺について一緒にきちゃったんだけど、時間なくて説明してないんだ。』
「匠君、了解です。」
館内のスピーカーからギターの音色が、聴こえてきた。三人は聞き慣れたギターの旋律に頭を上げ驚いた顔をして、流れる音色に耳を傾けている。奏君が演奏している曲は、バンドの想い出の曲。悲しくも力強いギターの音色は、まるで三人に対するエールに思えた。ギターの音が止まると、続けて奏君から三人へのメッセージが始まった。
"兄ちゃん、弾ちゃん、弦ちゃん。奏です。三人に僕から最後のお願いを言います。まず兄ちゃんへ…兄ちゃん、真面目なのはいいと思う。ただ、一人で悩んだり考え込んだりする事がけっこうあるから、そこは直したほうがいいと思うよ?せっかく二人の素敵な仲間がいるんだから、相談をして、みんなで解決をして下さい。兄ちゃんの音楽センスと歌声は、間違いなく一番だよもっと自信持ってね。
次に弾ちゃんへ…弾ちゃんは少し酒を控えましょう。健康には充分気をつけてね!弾ちゃんの叩くドラムは力強くてカッコいいです。
最後に弦ちゃんへ…弦ちゃんはもう少し外に出ましょう。引きこもりは良くないよ!弦ちゃんの弾くベースは正確なリズムを刻んでくれて最高なベースです。
…そろそろ僕の時間がなくなりそうだから、
三人へ最後の言葉を送ります。何も取り柄のなかった僕に、音楽という最高の友達を紹介してくてありがとう。だから、三人には音楽を辞めて欲しくないんだよ。これからもずっとずっと音を楽しんで欲しいんだ!僕のぶんまでだよ!…これでサヨナラしなきゃいけない。みんな、愛してるよ!本当にありがとう!"
奏君が話し終わると体を神々しい光が包んでいく。急いで弥生ちゃんの元へと駆け寄ると
俺達も光に包まれて、気がつくともとの車内にいた。
『…匠さん?今のって…』
火葬が終わり奏君の遺骨を抱き締めた響君が、翼と俺と弥生ちゃんのそばに歩いて来た。
"あのー、さっきの出来事はいったいなんだったのでしょうか?奏のギターの音が聴こえてきたかと思うと奏の声までも聴こえてきたような気がするのですが…。"
『さっきの?何かありましたか?』
とぼけた返事を返している弥生ちゃん。女は皆、女優だというが流石の演技力である。
「私も、玄関のところで弥生ちゃんとお話ししてたからわからないけど…何か変わったことでもあったの?」
火葬場のロビーで起きた出来事を嬉しそうに話してくれる響君の様子に俺達三人は
「へぇ…不思議なこともあるものなんだね?俺達は全然気づかなかったけど…」
『きっと悲しみに暮れている三人に、前を向いてもらいたかった奏君が最期に見せくれた幻だったのかもね…。』
火葬後の三人は顔を上げて前を向き、何かを決心したような顔つきで帰っていった。
──葬儀から数日後。
輪廻會舘の事務所内。いつものメンバーがいつもの様にソファーに座り、コーヒーを飲んでいる。本日は葬儀の予定はないはずなのに一台の車が駐車場に入って来るのが見えた。
『あれ?飛込みのお客さんかな?さて、
みんなでお出迎えしましょうか!』
俺達が迎えるより先に事務所のドアが開くと、見覚えのある顔が並んで立っている。
一番初めに声をかけたのは、寿郎だった。
「よぉーこんにちは!今日はどうしたんだ?まさか、また葬儀の依頼か?」
『もぉ、寿郎さん、縁起でもないこと言わないでくださいよ、違いますー!僕達の顔を見ればわかるはずですが…。』
「わかってるよ!忘れるわけないだろ?
冗談のつもりだったんだが…。」
『寿郎さん?顔が真顔だから冗談には全く見えないんですよ?もう少しユーモアの練習が必要ですね!!』
「悪かったな、ユーモアのない男で…」
『そんな寿郎にも、情に厚く涙もろい一面が!あの会場で響君達よりも泣いてたのって絶対寿郎だよね?』
この前とは違い、今日は事務所の中に
笑い声が響き渡っている。
「俺の話はもういいから!
で、今日は突然どうしたんだ?」
『先日の弟の葬儀に対するお礼と、僕達が話しあって決めた事を皆さんにご報告しようと思って、突然ですが伺いました。』
「改まってお礼なんてする必要ないんだよ?俺達は俺達の仕事をきっちりやっただけなんだしさ?本当、若いのに真面目なんだね!それより決めた事って何かな?聞かせてくれないかな?」
『はい!僕達は亡くなった奏の為にも、三人で再出発をする事にしました。音楽は奏との約束通り続けていきます。そして覆面を外して活動を始めようと決意しました。その報告をと思いまして。』
「覆面を外して、三人で再出発か!
いいじゃないか!応援するから頑張れよ!」
『輪廻會舘、全員が君達のファンだ!まぁ、言ってもたったの五人だけどね?遠くから応援してるからビックになっても俺達のこと忘れるんじゃないぜ!?』
『忘れる訳ないじゃないですか。それでは僕達はこれから東京に向かいます。早速ライブハウスでの仕事が決まったんですよ!ほんと、皆さんには色々とお世話になりました!ありがとうございました!』
そう言い残し足早に車に乗り込む三人。
人気者は大変だな?俺もたまには落語じゃなくて、響君たちの音楽でも聴いてみるか。響君達三人の乗った車を見送り、事務所に戻ると寿郎の姿がない。もしかして、また寿郎のヤツ…。
数分後、事務所に戻った寿郎の顔は、何故か全体が濡れていた。多分泣いたことがバレないように顔を洗ったのだろうな。
『みなさ~~ん!泣き虫寿郎君がまた泣いているわよー?顔洗って誤魔化してるつもりだけどバレバレだからね?』
「匠!!この野郎!!!」
『泣き虫寿郎と、掛けまして。
造花と、解きます。』
幸栄さんがすかさず、
「「はい、匠君、その心は?」」
『一生、枯れる(渇れる)事がありません。
お後がよろしい様で…』
「ごめんごめん、説明する時間なくてさ?後でゆっくり説明してあげるから少し待ってね?それよりも奏君!これからどうするかだな?きっとお兄さん達は、火葬場の遺族控え室で奏君を待っているはず。」
"僕が燃やされて骨になるのをですよね?"
「えっ?!まぁ正確に言うとそうなんだけど…はっきりと言えない俺の立場をわかってくれるかい!?」
"岩崎さん優しいですね。僕、不幸な事故でこんなに若くで死んじゃったけど、別に悔やんでなんかいないんだよね!まだまだこれからって時ではあったからみんなには申し訳ないけど…。何も取り柄のなかった僕に、音楽=ギターを出会わせくれた兄ちゃんや弦ちゃん、弾ちゃんには心から感謝しているんだ!だから、その感謝を最期にきちんと自分の言葉で伝えたいんだけどな。"
『もしもだよ?もしも俺が奏君の立場なら、悔しくて悔しくて、たまらないと思うなー。可能なら、事故にあう前に戻ろうとか思うだろうし、戻るの無理ならさ~せめて逆走してきたその車の運転手に、嫌がらせだけでもしてやるけどな!』
"岩崎さん、それは大人げないですよ!事故の相手だってわざとではないだろうし…"
「そう!俺はこの歳になっても大人げない!ってこいつ!奏君、最初は無口かな?と思っていたけど良く喋るじゃないか?」
『ねぇ、二人とも私の存在完璧に忘れてますよね?置いてきぼりで二人で盛り上がって…弥生寂しいんですけど!』
「あ、ごめん忘れてた!こういう時、
いつも一人だったからさー?」
"弥生ちゃんとも遊んではいたけど、あんまり話はしてなかったよね?岩崎さん…初めて会った人だけど話しやすい感じするんですよね?あ、知ってます?僕達のバンドの話?"
「それは光栄だね!バンドの話?少しだけなら聞いたよ。奏君の恥ずかしがりを克服する為に、あの覆面をしたんだったよな?」
"そうなんです。致命的じゃないですか?ミュージシャンが恥ずかしがりやって…。ある日ふと思いました。もう一人の自分がいたら?と。無い頭を使って考え抜いたのが覆面を被ってもう一人のキャラクターを作ればいい!ということだったんです。それで色々探してたんですけど…あの覆面って見た目強そうでしょ?とりあえず一つ注文してあれを被って演奏してみたんですよ、そうしたら、何故か前よりもギターが上手く弾けるようになったんですよね!多分自分じゃない誰かになれたような気がしたんだと思うんですけど。それを見ていた兄ちゃん達も、真似して被るようになりました。最初は小さなライブハウスから始まったんですけど、覆面バンドってその当時はほとんどいなかったんですよね、そしたら口コミでジワジワと噂が広がり気づいた時にはそこそこの人気バンドになっていました。やっと夢だったメジャーデビューも果たし、東京でもライブをするようになった矢先の事故だったんですよね…。"
「寿郎が言ってたなー、あのバンドのギターは凄い!って。あ、寿郎ってのはうちの會舘のスタッフのもう一人の男ね?霊柩車出発する時に号泣してたやつ!まさかこんな大人しそうな奏君が…。って思ってたんだろうねきっと。いつも言ってたよ?あの覆面バンドはギターの音とテクニックが凄いって。俺は聴くなら音楽より落語だから、熱く語られてもよくわからなかったけどね?』
"そうなんですね、嬉しい限りです!もっと沢山聴いて欲しかったなぁ…残念だけど死んでしまったものは仕方のない事です。岩崎さん!そろそろ作戦開始しませんか?"
『そうだな!それじゃ俺は火葬場の職員に作戦の内容を話し、お願いをしてくる!きっと大丈夫だ!奏君は、メンバー向けのメッセージを書いて、ギターの用意をしておいてくれ。それじゃ行ってくるね。』
十分ほどして霊柩車に戻ると、奏君はギターを抱え目を閉じて静かに座っている。
『ただいま~!』
"あ!岩崎さんおかえりなさい。
中の様子はどうでしたか?"
『ばっちりだよ!今のところ奏君以外の火葬の予定は入っていないらしいから、運が良かったって感じだね!』
"そうなんですね!よかった。
僕も最後の最後にラッキーを持ってたんだ!"
『よし!作戦決行だ!行くぞ奏君!!』
"はい!行きましょう!"
霧の中、火葬場の入り口から中へ入ると遺族が待つ為のロビーに響君や他の二人がソファーに腰を下ろし、じっと下を見つめていた。
「あれ?匠君、どこ行ってたのよ?また霧が出てたけど…もしかして例のヤツ?」
翼が近寄ってきて耳打ちする。
『うん。これから奏君の"残夢"が始まるからさ~。翼も楽しみにしといてね?あ、翼?弥生ちゃんと一緒にいて説明してくれる?俺について一緒にきちゃったんだけど、時間なくて説明してないんだ。』
「匠君、了解です。」
館内のスピーカーからギターの音色が、聴こえてきた。三人は聞き慣れたギターの旋律に頭を上げ驚いた顔をして、流れる音色に耳を傾けている。奏君が演奏している曲は、バンドの想い出の曲。悲しくも力強いギターの音色は、まるで三人に対するエールに思えた。ギターの音が止まると、続けて奏君から三人へのメッセージが始まった。
"兄ちゃん、弾ちゃん、弦ちゃん。奏です。三人に僕から最後のお願いを言います。まず兄ちゃんへ…兄ちゃん、真面目なのはいいと思う。ただ、一人で悩んだり考え込んだりする事がけっこうあるから、そこは直したほうがいいと思うよ?せっかく二人の素敵な仲間がいるんだから、相談をして、みんなで解決をして下さい。兄ちゃんの音楽センスと歌声は、間違いなく一番だよもっと自信持ってね。
次に弾ちゃんへ…弾ちゃんは少し酒を控えましょう。健康には充分気をつけてね!弾ちゃんの叩くドラムは力強くてカッコいいです。
最後に弦ちゃんへ…弦ちゃんはもう少し外に出ましょう。引きこもりは良くないよ!弦ちゃんの弾くベースは正確なリズムを刻んでくれて最高なベースです。
…そろそろ僕の時間がなくなりそうだから、
三人へ最後の言葉を送ります。何も取り柄のなかった僕に、音楽という最高の友達を紹介してくてありがとう。だから、三人には音楽を辞めて欲しくないんだよ。これからもずっとずっと音を楽しんで欲しいんだ!僕のぶんまでだよ!…これでサヨナラしなきゃいけない。みんな、愛してるよ!本当にありがとう!"
奏君が話し終わると体を神々しい光が包んでいく。急いで弥生ちゃんの元へと駆け寄ると
俺達も光に包まれて、気がつくともとの車内にいた。
『…匠さん?今のって…』
火葬が終わり奏君の遺骨を抱き締めた響君が、翼と俺と弥生ちゃんのそばに歩いて来た。
"あのー、さっきの出来事はいったいなんだったのでしょうか?奏のギターの音が聴こえてきたかと思うと奏の声までも聴こえてきたような気がするのですが…。"
『さっきの?何かありましたか?』
とぼけた返事を返している弥生ちゃん。女は皆、女優だというが流石の演技力である。
「私も、玄関のところで弥生ちゃんとお話ししてたからわからないけど…何か変わったことでもあったの?」
火葬場のロビーで起きた出来事を嬉しそうに話してくれる響君の様子に俺達三人は
「へぇ…不思議なこともあるものなんだね?俺達は全然気づかなかったけど…」
『きっと悲しみに暮れている三人に、前を向いてもらいたかった奏君が最期に見せくれた幻だったのかもね…。』
火葬後の三人は顔を上げて前を向き、何かを決心したような顔つきで帰っていった。
──葬儀から数日後。
輪廻會舘の事務所内。いつものメンバーがいつもの様にソファーに座り、コーヒーを飲んでいる。本日は葬儀の予定はないはずなのに一台の車が駐車場に入って来るのが見えた。
『あれ?飛込みのお客さんかな?さて、
みんなでお出迎えしましょうか!』
俺達が迎えるより先に事務所のドアが開くと、見覚えのある顔が並んで立っている。
一番初めに声をかけたのは、寿郎だった。
「よぉーこんにちは!今日はどうしたんだ?まさか、また葬儀の依頼か?」
『もぉ、寿郎さん、縁起でもないこと言わないでくださいよ、違いますー!僕達の顔を見ればわかるはずですが…。』
「わかってるよ!忘れるわけないだろ?
冗談のつもりだったんだが…。」
『寿郎さん?顔が真顔だから冗談には全く見えないんですよ?もう少しユーモアの練習が必要ですね!!』
「悪かったな、ユーモアのない男で…」
『そんな寿郎にも、情に厚く涙もろい一面が!あの会場で響君達よりも泣いてたのって絶対寿郎だよね?』
この前とは違い、今日は事務所の中に
笑い声が響き渡っている。
「俺の話はもういいから!
で、今日は突然どうしたんだ?」
『先日の弟の葬儀に対するお礼と、僕達が話しあって決めた事を皆さんにご報告しようと思って、突然ですが伺いました。』
「改まってお礼なんてする必要ないんだよ?俺達は俺達の仕事をきっちりやっただけなんだしさ?本当、若いのに真面目なんだね!それより決めた事って何かな?聞かせてくれないかな?」
『はい!僕達は亡くなった奏の為にも、三人で再出発をする事にしました。音楽は奏との約束通り続けていきます。そして覆面を外して活動を始めようと決意しました。その報告をと思いまして。』
「覆面を外して、三人で再出発か!
いいじゃないか!応援するから頑張れよ!」
『輪廻會舘、全員が君達のファンだ!まぁ、言ってもたったの五人だけどね?遠くから応援してるからビックになっても俺達のこと忘れるんじゃないぜ!?』
『忘れる訳ないじゃないですか。それでは僕達はこれから東京に向かいます。早速ライブハウスでの仕事が決まったんですよ!ほんと、皆さんには色々とお世話になりました!ありがとうございました!』
そう言い残し足早に車に乗り込む三人。
人気者は大変だな?俺もたまには落語じゃなくて、響君たちの音楽でも聴いてみるか。響君達三人の乗った車を見送り、事務所に戻ると寿郎の姿がない。もしかして、また寿郎のヤツ…。
数分後、事務所に戻った寿郎の顔は、何故か全体が濡れていた。多分泣いたことがバレないように顔を洗ったのだろうな。
『みなさ~~ん!泣き虫寿郎君がまた泣いているわよー?顔洗って誤魔化してるつもりだけどバレバレだからね?』
「匠!!この野郎!!!」
『泣き虫寿郎と、掛けまして。
造花と、解きます。』
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『一生、枯れる(渇れる)事がありません。
お後がよろしい様で…』
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