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第六章 真相

【五十】追憶(お千代)

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私と風魔小太郎は、水月がある集落の隣にある貧しい集落に生まれた。忍者一族に生まれた小太郎とすぐ近くに住んでいた私は、歳も差程変わらないことから姉弟のように仲良く過ごしていた。幼少期から小太郎の修行について回り、忍者の真似事をしたりもしていたが、小太郎にはいつも危険なことはしないで欲しいと言われていた。

小太郎が本格的に忍者の修行を始めたのは十歳になった頃。歳を重ねる毎に美しく成長した私は、他の集落の者が噂を聞きつけて求婚にくるほどのもので、諍いが起こることも度々あり家族を悩ませていた。その度に小太郎は、私の家へと出向いて子供ではあったが竹刀を振り回し助けてくれていた。

事が起きたのは私が十五歳を迎えた頃、その後の人生を決める決定的な出来事が起こった。求婚を断られた腹いせに、私の家族はある男に惨殺されたのだ。忍びを引き連れてやってきた男は、私以外の家族を殺めた後に呪いの言葉を吐いて去っていった。

”貴方を殺しはしない。貴方の判断の所為で家族が殺されたことを一生悔いながら生きるがよい”

男が去った後、騒ぎを聞きつけた小太郎がやってきた。惨劇を見た小太郎は只只涙を流し、私を抱き締めながら謝り続けていた。
騒動から暫くは、小太郎の家に身を寄せさせてもらった。私の自害を心配した小太郎が有無を言わさず連れ帰り一日中誰かの監視下に置かれた。事件には触れず、毎日修行の中で見つけた日々の出来事などを面白おかしく話してくる小太郎に、最初のうちは鬱陶しく思いそっとしておいてくれと冷たく当たっていた。

そんな日々が数ヶ月続いたある日、いつも訪ねてくる時間に小太郎が私の部屋に来ないことがあった。私は不安に押しつぶされそうになり、小太郎の部屋を訪れた。中には布団に寝かされ治療を受けている小太郎の姿があり、その姿を見た私は心臓を抉られたような衝撃を受けた。どうやら修行中に怪我をしてしまったようだ。

「小太郎!!」

『なんだ、…お千代か?泣きそうな顔をしてそんなにワシに会いたかったのか…?』

張りがない声で、憎まれ口を叩く小太郎を見て涙が止まらなくなった。

「…小太郎までいなく、なったら、わ、私は…」

『人を勝手に殺すでない…!こんな怪我寝たら治る故、心配するな…。』

その時、私は心に決めた。大切な人を失うのはもう二度と御免だ。私自身が強くなるのだと。そして、小太郎の父親に直談判し私はくノ一としての修行をつけてもらう事となった。

それから死に物狂いで修行を続けた私は、”くノ一界にお千代あり”と言われる程の実力を身につけ、名を上げていった。そして小太郎も私に負けじと修行に励み、”泣く子も黙る風魔小太郎”として国中に名を轟かす忍びとなった。

一人前となった私達は、別々の道を歩んでいた。しかし、ある出来事がきっかけでまた出会うこととなる。

それはその当時仕えていた君主の護衛任務についていた時、私は任務に失敗し瀕死の重傷をおって山の中で息絶えようとしていた。意識が朦朧とし、助けも呼べない状態で目を閉じようとした刹那、ある人物が通りかかった。

『大丈夫ですか?しっかりしてください…』

声が聞こえたが返事をすることも出来ずそのまま気を失い、気づいた時には見知らぬ場所の布団に寝かされていた。

「……うぅ、こ、ここは…」

『まだ起き上がらないでください。貴方は三日も眠り続けていたのですよ、漸く出血が止まった所であります。気がついたのであればもう大丈夫でしょうが、まだ暫く安静にしなくてはなりませぬ。』

私を助けてくれたのは、最景上人という高位の僧だった。沢山の修行僧に囲まれた最景殿はどんな人に対しても平等に接し、決して人を貶める様なことはしない裏表のない人格者であり、身元も分からぬ私を懸命に看病し、仏に祈りを捧げてくれた。

最景殿と寺の者の献身的な治療のお陰で半年程で私は歩けるまでになった。その後も順調に回復はしたものの腹に後遺症が残った私は子の産めぬ体となった。女としての機能を無くし落ち込んでいた私に寄り添い、最景殿はいつも”私という人間がどんなに素晴らしく生きているだけで尊い存在なのだ”という事を説いてくれた。

そんなお方に好意を持つのは至極必然であり、私は最景殿と結ばれた。家族を亡くしてからこれまでくノ一として大切な者を護る為に修行をし強さを求めて生きてきた私は、最景殿を手伝い、修行僧の世話をしながら穏やかに生活するようになった。

そんなある日、暁国の殿からある人物を極秘で預かって欲しいという伝令が届いた。殿からのたってのお願いという事で、寺にいた修行僧はほとんどが分院へと移動し、私と寺を維持するのに必要な数名の僧を残してその人物を受け入れた。その時に来られたのが、幸景殿であり幸景殿を連れてきたのが小太郎であった。

小太郎は寺に私がいた事にとても驚いていたが、昔と変わらない笑顔で私との再会を喜んでくれていた。そして、幸景殿が寺で生活するようになり、小太郎は時折様子を見に現れるようになった。
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