少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

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目覚め

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*****

「…ユーリ、ユーリ」

目の前に見えたのは、頬を濡らして心配そうに俺を見つめている母さんの姿だった。
母さんは俺が目を覚ました事に驚いて、後ろを振り返って声を上げていた。
後ろにいた人が俺の方に駆け寄り、同じように俺の名前を言った。

そこにいたのは、夜まで帰らないと思っていた父さんだった。

父さん、仕事に行ってたはずなのにもう大丈夫なのか?
他人事のようにそんな事を思っていて、今の状況が全く分かっていなかった。
俺、どのくらい眠っていたんだろうか…時間が分からない。

周りを見渡すと、同じだけど見た事があるものがある。
真っ白なベッドに真っ白なカーテンが風に揺れている。

個室なのか、俺以外には寝ている人は誰もいなかった。
それにこの独特な匂いは、ずっと嗅いでいたら頭がクラクラしてしまう。

病院だ、赤ん坊の頃に行ったきりだからあまり覚えていなかった。
大事な事を忘れている気がして、ゆっくり思い出す。

記憶に残るのは、美しい少年と禍々しい魔騎士の姿だった。
そして、俺の体が感じた気絶するほどの痛みだけ。

そうだ、俺は魔騎士に襲われて怪我をしたんだ。

そこからの記憶は全くない、気絶していたからだ。
でも、俺の体は思ったより酷い状態ではなかった。

こうして生きているとしたら、少年も生きているかもしれない。
じゃないと助けを呼んで生きている事はなかった。

あの少年はいったい何処にいるんだ?安否を確認したい。
命は助かったとしても、怪我をしていたら心配だ。
俺と一緒に運ばれたとしたら、同じ病院にいるかもしれない。

俺より無事ならもう退院しているかもしれない、いるかどうかの確認だけでも…

勢いよく起き上がると脳が揺さぶられてクラクラした。
今すぐ病室を飛び出したい気分だが体が思い通りにいかない。

両親に「安静にしていなさい」と怒られて、大人しく横になる。
まだ目覚めたばかりで本調子には戻っていない。

父さんは騎士様に報告してくると、病室を出て行った。
騎士様?普通この時は医者を呼ぶのではないのか?

魔騎士から助けてくれるのは普通の人では無理だ。
どう考えても話が通じるような相手ではないからだ。
それに魔騎士は聖騎士にしか倒せない、それほどまでに強い存在だ。

今の聖騎士のイヴはまだ子供だし、少年がすぐに助けに呼べるところに偶然いたとは考えられない。
普通の騎士が助けてくれたと思うのが自然の流れだ。
魔騎士を倒す事が出来なくても、俺と少年を抱えて逃げる事ぐらいは出来るはずだ。


俺を助けてくれた人なら当然彼の居場所も分かっている気がする。
なら助けてくれたお礼と一緒に聞いてみようかな。
隠す事ではないと思うから、答えてくれるかもしれない。

助けてくれた人なら、きっと優しい人だと信じている。

「母さん、騎士様が助けてくれたの?」

「そうよ、連絡が来た時は心臓が止まるかと思ったわ…ユーリの家を探していてご近所さんが知らせてくれたのよ」

「…ごめんなさい」

「ユーリが無事ならそれでいいわ」

「母さん、俺の他に…男の子の話は聞いてない?」

「男の子?ユーリだけ倒れていたって聞いたわ」

なんで俺だけ倒れたって言うんだろう、確かにあの時彼もいたのに…
母さんはずっと「大事にならなくて良かったわ」と言っていた。
俺が他の人がいたと言うのは、頭をぶつけたせいだと言う。

俺しかいなかったなんてそんなはずはない、だって彼は確かに居た。
そうじゃないと、俺が助かるわけがない…偶然騎士が見回りに来たなんてそんな事…

母さんは嘘を付いているようにはどうしても見えない。

騎士が家族に嘘を付く理由が思い付かない。
理由があるとしたら、彼が誰なのか明かしたくないって事なのか?
運良く逃げられたのか?魔騎士を目の前にして?

俺が子供だから、たとえ最悪な状況だとしても母さんにはなにか言うと思う。
もやもやとした気持ちが残るが、どうする事も出来ない。

知りたいからと言って、助けてくれた騎士に詰め寄る事もしたくない。

父さんが呼んできた騎士様は、とても強面な見た目をしていた。
すぐに助けてくれた事に対してお礼を言った。
俺を心配する顔や笑った笑顔が優しさを滲ませていた。

騎士様の後ろには医者もいて、俺は丸一日寝ていたと教えてくれた。
ずっと寝ていた感じはしなかったが、そんなに頭の打ち所が悪かったのか。
もう少し目覚めるのが遅かったら危険な状態だったようだ。

そんな状態だったのに、回復スピードが早いと褒められた。
レベル1だけど、自己回復は強いのかな…俺は自分自身ではなく目の前の人を助ける力がほしいんだけどな。

もう一日病院に泊まり、検査をしてから帰っていいと言われた。

「母さん」

「ん?どうしたの?」

「俺、おつかい出来なかった…ごめんなさい」

俺がそう謝ると、母さんは俺の事を思いっきり抱きしめた。
痛くて苦しかったが、全然嫌な感じではなかった。

むしろ、ここまで心配させてしまった…その愛情を感じる。

俺は、母さんの背中に腕を回してもう一度「ごめんなさい」と謝った。

魔騎士の話をしないといけないが、両親にこれ以上心配掛けたくないから両親が面会時間終了で家に帰ってから医者に話した。
でも医者は俺が頭を打った時に見た幻覚だと言って信じてくれなかった。

絵本の中の魔騎士と本物の魔騎士は違うのだと言われてしまった。
本物に出会ったら生きてはいられない、俺は水溜りに足を滑らせて転んだだけだと…

違う、アニメや漫画だけど俺は実物の魔騎士を見た事があるからあれは見間違いじゃない。
でも、そんな事を伝えても証拠はなくて頭の病気だと俺の入院が長引くだけだろう。

俺は口を閉して、目蓋を閉じ…眠る事にした。

医者が魔騎士の事を信じてくれないなら、彼が魔騎士に殺された事実もないのかもしれない。
もし彼が死んでいたら俺の話を少しでも耳を傾けてくれると思う。
でも冗談だと笑っているところを見ると、誰かが死んでいたらそんな顔はしないだろう。

彼が無事なら良かった、それだけが気になっていた。

だとしたらあの魔騎士はどうなったんだ?本当に幻だったのか?

それを確認する事は出来なかった、俺は雨に浸っていた代償でしばらく風邪で入院が長引いたからだ。

名前くらい聞いておけば良かった、頭の怪我…大丈夫かな。

もしまた魔騎士が現れたら、漫画の通りに聖騎士様がなんとかしてくれるだろうから大丈夫だ。

俺はただのモブに戻るだけだ、もしかしたらいつか彼と再び会えるかもしれない。
この国にいる限り、必ず…会えるって信じてる。
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