少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

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イヴ視点2

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外はまだ日が差す時間だというのに天気が悪そうだ、俺の魔力が戻ったら黒い影もいつものように落ち着くだろう。
薬の効果が切れるのが、今までからして夜くらいだろう。
一日中魔力が抑えられるわけではないらしい。

人も雨が降りそうだからか、ほとんどいない。
人がいない方が変な目で見られないからいい。

夜まで外で逃げ切れば、黒い影は諦めるだろう。

水溜りを踏んで、走り続けていたら足を滑らせて転んだ。
すぐに立ち上がろうとしたが、その前に俺の背中が重くなる。

頭を押さえつけられて、身動きが取れなくて暴れる。
剣を向けられている事は、魂が引っ張られる感覚で分かった。

聖騎士とか言われていても、今の俺は情けなく生に縋りついているだけの人間だ。
こんな俺を崇めるなんて、この国の奴らはお伽話に囚われすぎだ。

聖騎士の重荷は小さな体に酷くのしかかっていき、グッと拳を握りしめる。

頭が痛い、押さえつけられた時に頭を怪我したのか?

暴れ続けていたら、急にふと背中の重みが消えた。
自由になり、顔を上げるとそこにいたのは知らない子供だった。

俺に向かって必死に腕を伸ばしている彼は、いったい誰だ?

「早く来て!!」

「………ぅ」

必死な顔をする少年に押されて、その手を取った。
そのまま引っ張られて、黒い影から逃げるように走り出した。

周りからしたら、俺はただ転けて一人で暴れているように見えるだろう。
だけど、この子はまるで黒い影が見えているかのように逃げていた。

この子に触れると、魔力をあまり感じないから俺と同じ存在には感じない。
そもそも聖騎士のような力があったら、この国なら大騒ぎだろう。

彼はいったい何者なんだ、どうしてこんなに惹きつけられるんだ?

真っ黒な瞳に吸い寄せられる、あの黒い剣のように魂が持っていかれそうだった。
でも、黒い剣みたいな不快感がないのはいったい何故だ。

分からない分からない、未知なる人物とこれ以上いたら危険だ。

頭でそう思っていても、俺の心は彼から離れたがらない。

何処に向かっているのか、目の前の場所で分かった。

あそこにあるのは騎士団の寄宿舎だ、あんなところに行ったらすぐに家に連れ戻される。
今のこの黒い影を家に連れて行くのは危険だ。
他の奴には姿は見えなくても、実害がないのかは俺にも分からない。

彼は後ろの奴がどんな奴か知らないから騎士に助けを呼ぼうとしているのだろう。
俺は目についた路地に向かって方向を変えた。

逃げるには失敗だが、一度黒い影の視界から逃れて気配を消せば過ぎ去るかもしれない。
闇雲に逃げ回るより、体力も温存出来るだろう。

地面にしゃがんで、気配を消して身を潜めた。

少年はなにかを喋ろうと口を開いたから慌てて少年の口を手で塞いだ。
すぐ近くにいるんだから、声なんて出したら見つかってしまう。

少年も俺の考えを察してくれたようで、動きを止めた。
黒い影が動く気配がしていて、しばらく近くをウロウロしていた。

やっぱりすぐ近くで見失ったからか、疑っているのか。
路地に入ろうとしている気配がして、目を細めた。

力がまだ元には戻っていないが、全てを抑えられているわけではない。
抑えきれなかった少しの魔力を出して、遠いところに魔力を流した。

すると、黒い影は誘導されるように歩いていき去っていった。
黒い影がバカで良かった、危険が去り…少年の口から手を離した。

まさか、誰かに助けられるとは思わなかった。
俺に護衛はいるが、聖騎士だと言われている俺を本気で助けようとする奴なんていなかった。
俺なら大丈夫だと周りは勝手に決めて、勝手に期待する。

でも、彼は弱い魔力の持ち主なのに俺を助けてくれた。
俺より年下で無視していれば、自分まで危険な目に合わなかったのに…

俺の事を知らないのかもしれない、まだ幼い子供だし…知らなくても不思議ではない。

そうだとしても、俺を助けるなんて…何も考えていないバカな子供なんだろう。

そう思っているのに、何故こんなに気になるのか。

これ以上この子といたら、きっとこの子は死んでしまう。
本人だって分かっている筈なのに、俺に構う。

「病院、病院に行こう!立って!」

「…い、嫌だ…病院は」

「そんな事言ってる場合じゃないって!」

「嫌だ!!」

頭が痛いから頭を怪我している事は何となく気付いていた。
でも、病院になんて行きたくなくて拒絶した。

病院に行ったら絶対に連れ戻されるし、この程度の傷…すぐに治せる。
今、ここから出たらあの黒い影に見つかって周りに被害が出るかもしれない。
それに、病院に拘束されたくない…この程度の傷でも周りは必ず大騒ぎするし、いい事なんて何もない。

少年が怪我したなら一人で行けばいい、俺が黒い影を引きつけていれば行ける筈だ。

少年は「注射は痛くないよ」と子供みたいな事を言っていて、別に注射は怖くない…俺が怖がっているように見えるのか不思議だった。
首を横に振ると、少年はなにか考え事をしていた。

そして、俺の方を見て真剣な顔をしていた。

「ごめんね、ちょっと我慢して」

「えっ……」

俺の方に近付いてきて、額が熱くなっていく。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……

体が熱くなる、心がぐちゃぐちゃになる。

俺の視界に映る風景が全て、霞んで見えた。

俺の視界には、彼しかはっきりと見えなかった。

俺の世界が、変わっていく……触れられたところがムズムズする。

すぐに俺から離れていってしまい、もっと触れていたい気持ちで手を伸ばした。

「終わったよ、もう大丈……」

「………」

「ほ、本当にごめんね!!」

少年は何も悪い事をしていないのに、謝ってきて手を止めた。
これは、悪い事なのか?…何故、悪いんだ?

分からない、誰が悪いと決めたんだ…お互いがいいならいいんじゃないのか?

もし、そう決めた奴がいるなら……俺はそれを許さない。

少年の顔色が悪い、そんなにいけない事?

口を開けたら、大きな音が響いてそちらに目線を向けた。

タルが倒れていて、黒い影が建物から手を伸ばしていた。
こんなに早くバレたのは俺のせいだ、気配を消すのを油断して忘れていた。
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